私たちの生活に欠かせなくなったパソコンやスマートフォン。毎日長時間、これらの画面と向き合わざるをえない職種もたくさんあります。日々のディスプレイ作業が原因で、目だけでなく全身や精神面にまで影響を及ぼすのが「VDT症候群」です。本記事では、少しでも負担を減らすための「仕事環境改善のポイント」なども交えながら、VDT症候群に関する基礎知識をお伝えします。
- 教えてくれるのは…
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- 内野 裕一先生
- ケイシン五反田アイクリニック 副院長
慶應義塾大学 医学部 卒業。東京電力病院 眼科科長やハーバード大学医学部などを経て、2022年慶應義塾大学眼科学教室 特任講師、ケイシン五反田アイクリニック 副院長に。
その症状、VDT症候群かも?
パソコンやスマートフォン、ゲームなどのディスプレイと入力装置(キーボードやマウス、コントローラーなど)で構成される機器をVDT(Visual Display Terminal)といいます。これらを長時間使用することで、目や体、精神面などにさまざまな症状を引き起こすのが、「VDT症候群」です。まずは、あなたにも当てはまる症状がないかチェックしてみましょう。
目の症状
□ 目が疲れる
□ 目が乾く
□ 目が痛い
□ ものがかすんで見える、二重に見える
□ ものが見えにくい
□ まぶしさを感じる
□ 頻繁に涙が出る
□ 充血する
体の症状
□ 頭痛、腰痛
□ 吐き気
□ 首や肩、背中などの凝り、痛み
□ 腕の痛み、手指のしびれ
精神的な症状
□ イライラ感
□ 不安感
□ 抑うつ状態
□ 睡眠障害
□ 食欲不振
複数の症状が慢性化することによって、仕事の能率が下がったり、日々の生活の質を落としたりしてしまうため、一つひとつの症状も決して侮れません。
VDT作業で症状が現れるメカニズム
なぜVDT作業によってさまざまな症状が現れるのでしょうか。人はものを見るとき、「毛様体筋(もうようたいきん)」という筋肉で、レンズの役割を果たす水晶体の厚さを調節して、ピントを合わせています。毛様体筋は、近くを見るときには緊張した状態になります。長時間のVDT作業は、毛様体筋が緊張し続けた状態となるため、目が疲労するのです。
また、作業に集中していると、まばたきの回数が減ったり、上まぶたと下まぶたがきちんと閉じない不完全なまばたきになったりします。それにより、目の表面を覆う涙のバリアが壊れ、目が乾燥した状態になってしまうのです。
VDT症候群とスマホ老眼は、同じ不調?
「スマホ老眼」という言葉を耳にしたことはありますか? スマホ老眼は、ピントの距離が変わらない画面を長時間見続けることで毛様体筋が凝り固まって、上手くピントを合わせられなくなる状態を指します。VDT症候群とは異なるものですが、長時間ディスプレイを見続けることによる弊害であるという点は共通しています。
加えて、VDT作業中は長時間同じ姿勢でいることが多いため、血流が悪くなり、首や肩、腰や背中などが凝ってしまいます。首や肩の筋肉が凝るとさらに血流が悪くなり、目元の血液循環も悪くなるため、目の疲れや肩の凝りは相互に関係しており、悪循環に陥ってしまうこともあります。
そして、目の不快な症状が脳や自律神経にも影響してしまい、その結果として精神的にも悪影響を及ぼします。
作業環境を整えて負担を減らそう
しかし、現代において、パソコンやスマホを使わない生活をするのは難しいもの。そこで気をつけてほしいのが、パソコンを使用するときの「環境」です。適切な環境に整えるだけでも予防・改善効果が見込めます。
ディスプレイは明るくしすぎない
作業時の机上の照度は300ルクス以上(食卓やキッチンなどでの作業に必要とされる程度の明るさ)が目安とされています。また、ディスプレイと書類を交互に見る作業では、両者で明るさが大きく異ならないようにするのが理想です。照明はまぶしさを感じない程度のものにし、ディスプレイと書類・キーボードなどの明暗の差をできる限り感じないよう、画面の輝度やコントラストを調整しましょう。
また、画面に太陽の光が当たるとディスプレイが見えにくくなり負担がかかるため、ブラインドやカーテンを活用するのがおすすめです。そのほか、反射を防止するディスプレイなどを活用するのもよいでしょう。
乾燥に要注意
VDT症候群の症状のひとつとして挙げられるのが、ドライアイ。その名の通り、目の乾きを感じるほか、疲れ、ショボショボ感、ゴロゴロ感、充血などの症状がみられます。
特に、エアコン・パソコン・コンタクトレンズ(3つのコン)は、ドライアイを引き起こす大きな原因に。乾燥への対処法として、加湿器を用いて一定の湿度(40%~70%程度)を保つ、ディスプレイの高さに気を配ることなどが挙げられます。
ディスプレイを目線よりも高い位置に置いてしまうと、上のほうを見る必要があり、通常よりもまぶたを開ける(目を大きく見開く)ことになるため、乾燥しやすくなってしまいます。ディスプレイの上端が目の高さとほぼ同じ、もしくは少し下になる高さを心がけましょう。モニターとの距離は40cm以上を確保するのが理想です。
適切な姿勢が保てる机や椅子を使おう
ディスプレイを見ながら作業をする時の姿勢は、椅子に深く腰かけ、しっかり背もたれを使ったうえで足裏全体が床に接した状態が理想的です。そのため、椅子は座面の高さや背もたれの傾きを調整できるものが望ましいでしょう。また、ディスプレイと目線の高さを調整できるよう、高さの調整ができる机、あるいはディスプレイの高さを調整するためのスタンドなどの活用がおすすめです。
眼鏡やコンタクトレンズは「デスクワーク用」に調整を
近視でメガネやコンタクトレンズを使用している場合、VDT作業に適した度数になっているか確認をしてみましょう。メガネやコンタクトレンズは、遠くがよく見えるように度数を調整して購入するのが一般的ですが、普段の生活のなかでVDT作業をはじめ、近くを見て行う作業が多い場合には、それも考慮したうえで度数を調整する必要があります。
過度に視力矯正をした状態で近くを見る時間が長くなると、目の疲労の原因となります。メガネやコンタクトレンズを購入する際は、どのような生活スタイルか、どんなシーンで使用するのかをきちんと伝え、適切な度数に調整してもらいましょう。
- 意外と知らない!メガネ&コンタクトレンズの正しい扱い方
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日本におけるメガネユーザーは約7,500万人、コンタクトレンズユーザーは1,500万~1,800万人と、多くの人にとって身近なアイテムになりました。私たちの視力をサポートしてくれるメガネやコンタクトレンズですが、適切に使用しないと視力がさらに低下する原因になったり、目の病気やトラブルを引き起こしたりすることも。https://helico.life/monthly/240910eyetrouble-glasses-contactlenses/
本記事では、普段なかなか教わる機会のない選ぶときのポイントや、注意したい扱い方について解説します。
1時間に1回は休憩を
作業に集中していると、つい時間を忘れてしまうこともあります。しかし、目や体のことを考えると1時間作業したら10分ほどの休憩を取るのが理想です。難しい場合には、数分間だけでも窓の外など6m以上離れたところを見る、その場で背伸びなどをして体を軽く動かす、立ち上がるといったことを行うようにしましょう。
作業の合間にできる、目の疲れを取るためのエクササイズや目のツボはこちらの記事で紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 今すぐできる!疲れ目を癒すエクササイズ&ツボ押し
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日常的にパソコンやスマートフォンを使用するなかで、目の疲れを感じたことのある方は多いのではないでしょうか。目の疲れが蓄積すると、頭痛や肩こりなどの全身症状にもつながるため、その日の目の疲れはその日のうちにとってあげることが大切です。https://helico.life/monthly/240910eyetrouble-tsubo/
本記事では、ちょっとしたスキマ時間で実践できる、目のエクササイズやツボ押しをご紹介します。
少しの工夫で毎日の作業を快適に
目だけではなく、全身にさまざまな症状が現れるVDT症候群。VDT作業は私たちの生活とは切っても切り離せないものだからこそ、作業環境を整えることと、適度な休憩を心がけて、少しでも目や体をいたわるよう意識してみてください。