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心と体をもっと元気に!ホルモンが喜ぶ生活習慣

心や体のいろいろな働きを調節してくれているホルモン。食べる、眠る、集中する、幸せを感じる、ストレスに対抗する、体温を一定に保つ、子どもを産み育てるなどにもホルモンの働きが欠かせません。

つまり、私たちが健康でいるためには、ホルモンを分泌・循環しやすい環境を整えておくことが大切です。この記事では、ホルモンの力を引き出すために知っておきたい知識や生活習慣を紹介します。

教えてくれるのは・・・
市原 淳弘先生
東京女子医科大学 内科学講座 教授・基幹分野長

医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。米国Tulane大学医学部留学・講師、慶應義塾大学抗加齢内分泌学講座准教授などを経て、東京女子医科大学内分泌内科学講座/高血圧・内分泌内科の初代教授を務め令和3年より現職。日本高血圧学会専門医、日本内分泌学会専門医。内分泌疾患全般と高血圧診療、特に内分泌性高血圧、周産期の内分泌疾患を得意とし年間7500名もの高血圧患者を診療している。テレビやセミナー、講演会など多方面で活躍。

奇跡的で神秘的! ホルモン分泌のしくみ

健康維持はもちろん、活力や若々しさなどにも影響しているホルモン。現在見つかっているものだけでも100種類以上あり、それぞれのホルモン分泌量は体の状態を一定に保つためにとても巧妙にコントロールされています。

では、ホルモンの分泌・循環が良い状態とはどんな状態なのでしょう。異常が起こるとしたらどんな原因が考えられるでしょうか。まずは、ホルモン分泌の特徴を解説します。

血液によって運ばれ、受容体がキャッチする

ホルモンは、体の中にある内分泌腺から血液中へ放出され、血流に乗って目的の細胞へと運ばれます。なかでも脂溶性の性質を持つホルモンは、血液中の特別なタンパク質に結合して細胞へと運ばれます。タンパク異常が起きると、ホルモンをうまく運べなくなる一因になります。

また、ホルモンは種類ごとに受け取る受容体(レセプター)が決まっています。そのため、血液によって運ばれた先の受容体に遺伝子異常があると、本来の作用が発揮されなくなることがあります。

脳にあるコントロールセンターが正しく司令を出す

ホルモン全体をコントロールしているのが、脳の視床下部と下垂体です。「ホルモンの司令塔」といわれるこの部分がうまく働かないと、ホルモン分泌もうまくいかなくなってしまいます。

ちょうどいい量が分泌されている

ホルモンの量は、多すぎても少なすぎてもいけません。必要なときに、必要な量を分泌できることが重要です。

また、私たちの体には「フィードバック」というメカニズムがあり、各種ホルモンはこのフィードバックにより分泌量が調整されています。フィードバックには、一旦反応が起こるとさらにホルモン分泌を加速させる「ポジティブフィードバック」と、あるホルモンが過剰になると脳に伝わりその分泌を抑制させる「ネガティブフィードバック」があります。

ホルモン同士が協力し合ったり、あるいは相反しあったりと、ホルモン分泌は、じつに複雑なシステムで運営されているのです。

リズムを持って分泌されるホルモンがある

ホルモンは、24時間いつでも一定量を分泌するものばかりではありません。たとえば、「コルチゾール」のように朝高く、夜低いという日内変動するものもあれば、「成長ホルモン」のように睡眠時に増加するもの、「性ホルモン」のように思春期に分泌量が増えて、体を男性らしく・女性らしく変化させるもの、「女性ホルモン」のように月の周期によって変動するものもあります。「甲状腺ホルモン」は夏に低くて冬に高いという季節性のリズムを持っています。さらに気圧や年齢などによっても影響を受けます。

つまり、ホルモンはちょうど良い状態にコントロールされていることが大切であり、ホルモンのほんの少しの作用で「体調がいい・悪い」が起きてくることもあります。また、体の機能のどこかひとつでも狂ってしまうと、ホルモン分泌異常を引き起こすこともあります。さらに、生まれ持った体質が影響する場合もあれば、薬物やアルコールによってホルモンの代謝が変わってくることもあります。

ホルモン分泌のしくみから見ると、私たちが元気で健康でいられるのは「奇跡中の奇跡」といってもいいくらい価値のあることで、生命の神秘そのものといえるでしょう。

自律神経とホルモンは切っても切れない関係

ホルモンと並んで、私たちの健康を維持してくれているのが「自律神経」です。自律神経とは、血圧や体温調節、呼吸など生命維持に欠かせない体の機能を調節してくれている神経系のこと。主に、活動するときに働く交感神経と、体をリラックス状態にする副交感神経の2つがあります。

ホルモンと自律神経は多くの場合、体がスムーズに機能できるように一緒に働いています。具体例をいくつか紹介しましょう。

健康な人では、血糖値は一定の範囲内で保たれていますが、なんらかの理由で血糖値が異常に下がってしまったときには、体は脳から赤信号を発し、神経系と内分泌系(ホルモン)の2つのルートを使って、血糖値を元の範囲に戻そうとします。

1つは、脳の指令を受けて交感神経が副腎随質を刺激して「アドレナリン」を分泌。アドレナリンが肝臓に働きかけて、血糖値の低下を抑えるというルートです(神経系)。もう1つは、副腎皮質から「糖質コルチロイド」というホルモンを分泌し、糖を新たに作り出そうとするルート(内分泌系)。こうして血糖値は一定の値に戻され、異常値にならないように調節されています。

ホルモンと自律神経は、ストレスが過剰にかかったときにも互いに連携しながら対処します。たとえば、試験前や大事な商談の前などに緊張してストレス状態になったとします。そんなとき、決まってお腹を壊したり、逆に便秘になったり、眠れなくなったり、または喉が渇いてカラカラになったりしませんか? ストレスによって自律神経のバランスが乱れると、心や体にさまざまな反応が起きるということはよくあることです。

一方で、脳がストレスを感知すると指令が出され、副腎で「ステロイドホルモン(糖質コルチロイド/コルチゾール)」が分泌されます。このときステロイドホルモンは、ストレスの影響を和らげる働きをします。ストレスに弱い心や体にならないよう対処しているわけです。

このようにホルモンや自律神経は一緒に働いています。なおかつどちらも脳の視床下部というところでコントロールされていますから、どちらか一方がバランスを崩すと、もう一方もバランスを乱してしまいかねません。両者ともにバランスが整っていることが重要なのです。

ホルモンが喜ぶ生活習慣を取り入れよう

このように、私たちの健康に大きく関わるホルモン。原則としてどのホルモンも、意識的に分泌量を増やしたり減らしたりすることはできませんが、日々の生活の工夫で健やかなホルモン分泌をサポートすることは可能です。できることから、さっそく取り入れていきましょう。

1良質な睡眠と朝の過ごし方が肝心

人間の体には、生まれつき備わっている約24時間周期の体内リズム=サーカディアンリズムがあり、睡眠と覚醒のサイクルや、体温・自律神経・免疫系・ホルモン分泌などの調節に関わっています。

たとえば、昼間は交感神経が、夜は副交感神経が優位になる体内リズムが基本となっているため、昼夜が逆転した生活は自律神経の働きを妨げてしまいます。ホルモンについても同じで、多くのホルモンは活躍する時間帯が決まっています。昼間は積極的に活動するためのホルモンが、夜には体を休めるホルモンや細胞をメンテナンスするホルモンが働きます。

毎日を健やかに過ごすためには、ホルモンと自律神経の働きを乱さないこと、つまりサーカディアンリズムを乱さないように規則正しい生活を心がけることが大切です。

寝る前の飲酒やスマホのブルーライトは睡眠の質を下げる大きな要因。また、明るい寝室は眠気をもたらすメラトニンの分泌を妨げてしまうので、照明はしっかり落として眠りにつきましょう。朝は毎朝決まった時間に起きることや、目覚めたらカーテンを開けて陽の光を浴びること、朝ごはんをしっかり食べることを習慣にしましょう。

オンとオフの切り替えにメリハリのある毎日を送ることで、ホルモンも自律神経のリズムも整います。スッキリ目覚めて、朝から活動的になれるでしょう。

2幸せホルモン「セロトニン」の分泌を促す食べ物を摂る

大前提として心身の健康には、さまざまな栄養素をバランスよく摂ることや、規則正しい食生活が重要。それは、健やかなホルモン分泌にもつながります。さらにホルモンにいい食生活を取り入れたいという人は、「セロトニン」という神経伝達物質に注目してみましょう。

幸せホルモンともいわれるセロトニンは、幸福感をもたらしたり心を落ちつかせたりする作用を持ち、ストレスを感じにくくする作用があります。また、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の材料になることから、体内時計の調節にも関わっています。セロトニンがしっかり働くと快眠を得られ、1日のリズムも整います。

逆に、セロトニンが不足すると、ストレスに弱くなるほか、疲労やイライラ、意欲低下、うつ症状、不眠などの症状につながってしまいます。

セロトニンは、原料となる必須アミノ酸の「トリプトファン」を食事から摂ることでも増やせます。トリプトファンの合成にはビタミンB6などの栄養素が必要になるため、トリプトファンとビタミンB6が豊富なバナナや赤身魚、牛や鶏のレバーなどを取り入れるといいでしょう。

●トリプトファンが豊富に含まれる食べ物:バナナ、赤身の魚や肉、ナッツ類、乳製品、大豆製品など
●ビタミンB6が豊富に含まれる食べ物:バナナ、赤身の魚や肉、パプリカ、サツマイモ、にんにく、玄米など

3ちょうどいい体型をキープする

ホルモンは脂肪からもつくられます。たとえば、「アディポネクチン」というホルモンは、脂肪分解酵素を活性化する働きがあり、糖や脂肪の消費をサポートします。

また、女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌には、体脂肪の存在が欠かせません。過激なダイエットや激しいスポーツにより体重が急激に減少したり、体脂肪率が22%以下になったりすると、月経不順、月経異常が起こりやすくなります。また、体脂肪率17%以下になると、体重減少性無月経になることが知られています。特に思春期のやせすぎは、将来の妊娠や出産時に問題を抱えることになりかねないので注意が必要です。

一方で体脂肪を溜め込みすぎると、脂肪抑制ホルモンの「レプチン」が効きにくくなる状態になり食欲が抑えられなくなるともいわれています。

何事も過ぎたるは及ばざるがごとしで、健全なホルモン分泌のためにも適性体重を維持して適度な脂肪の量を保つことが大切です。

食欲ホルモンを味方につけて、食べ過ぎ&ドカ食いをSTOP!
健康のため、食べ過ぎには気をつけているつもりなのに、何かの弾みに食欲が止まらなくなったり、甘いものばかり食べ続けてしまったり。夜遅い時間に食べたい欲求が抑えられなくなった……などの経験はありませんか。

こうした食欲のリズムにも、じつはホルモンが関係しています。本記事では、食欲と関係の深いホルモンの働きに注目しながら、私たちの食欲と食行動、ダイエットなどとの関係について解説します。
https://helico.life/monthly/240708hormone-syokuyoku/

目まぐるしく変わるホルモン! 妊娠・出産時期は異例づくめ

ホルモンは体の内部環境を一定に保つため、外界や体内の変化に応じて分泌されるしくみになっています。分泌量はいつも一定ではなく微調整されているわけですが、それが劇的に変化するのが妊娠・出産・産褥期・授乳期の時期です。

妊娠中は、女性ホルモンが増加するだけでなく、胎盤から甲状腺を刺激するホルモンや副腎を刺激するホルモンが大量に分泌されます。コルチゾールが上昇したり、血圧を上げるアルドステロンというホルモンが8倍に増えたり、ホルモン変動の影響で、司令塔である脳下垂体が腫れるなどの変化が起きています。

妊娠中の体は、母体を守りながらも胎児を育てるのに大忙し。そのため、全身のホルモンが総動員されフル稼働という状態になるのです。

また、出産後には女性ホルモンが急激に減少し、それに伴いさまざまな不調を感じやすくなります。また分娩で胎盤が娩出されると下垂体の腫れは収まり、今度はプロラクチンの分泌が一気に上昇して乳腺に母乳が蓄えられます。そして、赤ちゃんが母乳を吸う刺激が脳に伝わると、オキシトシンが分泌され母乳が出るようになります。このオキシトシンは母親に幸福感を感じさせ、膨らんだ子宮を収縮させ元に戻す役割も担います。

こうした劇的なホルモン変動によって、体調の変化に悩まされたり、産後うつになってしまったりする人もいます。妊娠・出産・産褥期の女性の体は、ピンチの連続ともいえるわけです。

この時期をうまく乗り越えたということは、当たり前のことではなく、奇跡的で特別なことだといえるでしょう。妊娠から産後の授乳期まで本人が無理をしないことや、周囲がいたわってあげることも大切です。

年齢を重ねれば、老化は避けられないもの。ホルモン分泌においても、加齢とともに受容体へのくっつきやすさが低下してホルモンの効き目が悪くなっていきます。いつまでもホルモン分泌をできるだけ良好に保ちたいなら、健康なうちから食事や運動、睡眠などの生活習慣を意識して過ごすことが最良の近道です。

CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:せとうちあんこ
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