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食欲ホルモンを味方につけて、食べ過ぎ&ドカ食いをSTOP!

健康のため、食べ過ぎには気をつけているつもりなのに、何かの弾みに食欲が止まらなくなったり、甘いものばかり食べ続けてしまったり。夜遅い時間に食べたい欲求が抑えられなくなった……などの経験はありませんか。

こうした食欲のリズムにも、じつはホルモンが関係しています。本記事では、食欲と関係の深いホルモンの働きに注目しながら、私たちの食欲と食行動、ダイエットなどとの関係について解説します。

教えてくれるのは・・・
吉川 貴仁先生
大阪公立大学大学院医学研究科 教授

大阪市立大学医学部卒。同大学院医学研究科(内科学専攻)博士課程修了。医学博士。内科専門医。大阪市立大学大学院医学研究科教授を経て2022年より現職。消化管ホルモンが運動後の食欲やエネルギー摂取に果たす役割について研究。最近では、テーマを食欲と脳科学、運動・食欲・食行動などに広げて研究を続けている。

私たちはなぜ食べるの?

「お腹がすいた、何か食べたい」
「たくさん食べて、もうお腹いっぱい!」
こうした食欲のリズムは、日々当たり前のように繰り返されています。

そもそも、人はなぜ食べようとし、なぜ食べるのを止めようとするのでしょうか。

それは、究極には生きていくため。体のエネルギーを増やし過ぎず、減らし過ぎず、ちょうどいいバランスを保つためです。「食欲の調節」には、体の機能と健康を保つという生物学的な意味があります。

空腹感・満腹感などの食欲をコントロールし、食事の量を調節する働きを担っているのが、いわゆる「食欲ホルモン」と呼ばれるホルモンたち。これらは食事の前後に分泌され、脳と相互作用して「食べたい」とか「もう食べなくていい」と思わせるほか、脂肪の蓄積や消費、体重の増減などにおいても重要な役割を果たしているのです。

食欲ホルモンって、どんなものがある?

食欲ホルモンは、「食欲を増進するホルモン」「食欲を抑制するホルモン」の2つに大別されます。簡単にいうと「グレリン」というホルモンだけが食欲を増進させ、「レプチン」をはじめ「GLP-1」や「インスリン」などのホルモンは食欲を抑える働きをします。

また、消化管ホルモンであるPYYやGLP-1、CCKは食物がおなかに入るたびに血中に分泌されてその都度食欲の調節を行いますが、インスリンやレプチンは食事のたびに働くのではなく、体脂肪やエネルギーの蓄積程度に応じて血中に分泌されて、エネルギー摂取(食欲)を調節するという違いがあります。

代表的な食欲ホルモンとそれぞれの働き

●グレリン
空腹時に胃から血中に分泌される。食事の直前に血中濃度が上昇し、食欲増進や脂肪蓄積作用がある。成長ホルモンの分泌を促進し、筋肉量や骨量を増やす可能性も。「空腹ホルモン」と呼ばれる。

●レプチン
脂肪細胞から血中に分泌される。脳の視床下部に作用して食欲を抑えるとともに、エネルギー消費を増進させる。肥満の人ほど効きが悪くなる。

●インスリン
膵臓のβ細胞から血中に分泌される。血糖値が上昇すると分泌され、血糖値を下げる働きをする。脳の視床下部にも作用し、食欲を抑える働きをする。

●PYY(ペプチドYY)、GLP-1およびCCK(コレシストキニン)
食事をすると腸から血中に分泌される。脳の視床下部に作用して、食欲を抑えるとともに消化管で食べ物が進むスピードを遅くして食べる量を減らす作用を持つ。食事をするたびに増減することでその都度の食欲の上下動の調節を行う。

こうしてみると、食欲を抑えるホルモンが多く出てくれたら、食べ過ぎることなく簡単に痩せられるような気がしてきます。しかし、私たちの体は、ホメオスタシス(生体恒常性)によって生理機能が一定に保たれるように守られているため、基本的に自分の意思でホルモンを自由に操ることはできません。

また、極端な食事制限をするとホルモンは影響を受けます。たとえば、減量する(体脂肪が減る)と、満腹を感じさせるレプチンの分泌量は減ります。逆に、食欲を刺激するグレリンの濃度は上昇し、空腹を感じやすくなります。

一方、肥満の状態にある人では脂肪細胞から分泌されるレプチンが増えます。ならば食欲が抑えられるのかと思いきや、高脂肪食を摂り続けているとレプチンが効きにくくなることがわかっています。つまり太って体脂肪が増えるほど、満腹を感じにくい体質になってしまうのです。これを「レプチン抵抗性」といいます。

ほかにも遺伝や病気など、何らかの原因により食欲ホルモンのどれか一つが働かなくなることでも食欲や体重に影響が及びます。ホルモンは協調して働くものであり、バランスが取れていることが何より大切なのです。

食べたい気持ちを刺激する、ストレスや快楽ホルモン

前述のとおり、ホルモンが食欲をコントロールしているメカニズムはあるものの、私たちの「食べよう、いややめておこう」という判断や食行動はそれだけで起きているわけではありません。

特に、健康な人が経験する食べ過ぎやドカ食いは気分や感情に左右されている場合が多くあり、これらを動かす大きな要因にストレスがあります。

ストレスで食欲が落ちたり増えたりするのはなぜ?

一般的に、急性のストレスがかかると食欲は低下し、慢性的なストレスを抱えると過食に走るという違いがあります。

急性のストレスを感じると、体内ではストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」が大量に分泌されて、自律神経では交感神経の働きが活発になります。その結果、呼吸は速くなり、血糖値や血圧が上昇、食欲は落ちるといわれています。

対して、慢性的にストレスがある状態ではコルチゾールの分泌量がずっと高いままになります。この状態は脳の食欲中枢(下垂体や視床下部)に影響を与えて、高脂肪・糖分の多い食事の欲求を高めてしまうとされています。さらに、コルチゾールはイライラや不安を増幅させる傾向にあるので自制心のバランスを崩してしまい、食べ過ぎの要因にもなります。

また、私たちは、糖質を多く含む甘いものやスナック菓子などの油ものを食べると、快楽ホルモンと呼ばれる「ドーパミン」が分泌され、喜びや幸せを感じ、ストレスを緩和させる作用をもたらします。このように食べるとホッとするという気持ちを経験していると、ストレスを食行動で和らげようとするようになるため、「もっと食べたい! また食べたい!」 という欲求を感じてしまうのです。

生理前に食欲が止まらなくなるのはなぜ?

女性には月経周期があり、生理前には月経前症候群(PMS)によりさまざまな不快症状が起こることがあります。食欲の変化(過食、食欲不振など)もPMSの症状の1つです。

PMSの原因には諸説あり、女性ホルモンの変動だけでなく、それに伴い脳内ホルモンや神経伝達物質が異常を引き起こすこと、さらにはストレスの影響など多くの要因から起こると考えられています。生理の前に食欲が止まらなくなるのは、女性ホルモンの直接の作用というよりも、この時期に起こるイライラや不安などの気分や不快感が過食に向かわせると考えられているようです。

食欲との上手なつき合い方

食欲や食行動には、欲求や認知、情動、ストレス、個人的な体験など複合的な要因が絡み合っています。食べ過ぎにならないように食欲とうまくつき合っていくためには、以下のような心がけが大切です。

1食事量の調整はゆっくり行う

日ごろから食べる量や運動量に気を配り、太り過ぎないこと、適正体重を保つことが大事です。ただ、健康のための減量も、美容のためのダイエットも、ゆっくりと身体と脳を慣らしながら食事の調整を続けていきましょう。極端な食事制限で急激に脂肪を落とすと、レプチンの分泌まで減ってしまうなどホルモン全体のバランスが崩れてしまい、リバウンドしやすくもなります。

2規則正しく暮らす/睡眠を見直す

食欲をコントロールするホルモンたちにも1日のリズムがあることがわかっています。このリズムが狂うと過食を誘発することも。たとえば、夜遅い時間の食事はレプチンの濃度を低下させてしまうとされています。太りにくい生活をしたければ、規則正しく食べて、動いて、眠るという生活を心がけ、ホルモン全体の働きをよくしておくことが大切です。

また、睡眠不足の状態ではコルチゾールとグレリンの分泌が増え、逆にレプチンの濃度が低くなることもわかっています。睡眠不足も食欲増進に向かってしまうので要注意です。

3ストレス対策をする

空腹ではないのに刺激の強い食べ物が欲しくなったり、甘いものを食べ続けてしまったりしていたら、ストレスのせいかもしれません。日ごろからストレス対策を取り入れ、慢性的なストレス状態に陥らないようにしましょう。

4定期的に運動する

「運動したらお腹がすく」と思っている人もいるかもしれませんが、実際にはその逆。運動はカロリー消費と同時に、食欲を抑えるホルモンを増やしてくれることがわかっています。また、食事後の運動は満腹感を増強させてくれるそう。

ただし、食欲にはその人の先入観や信念も関係しており、「運動したらお腹がすくはず」という認知が働くと、かえって食べ過ぎてしまうかもしれません。「運動したら食欲は抑えられる」と意識しながら取り組むのも一案でしょう。また、高脂肪食ばかり摂取し続けていると、運動意欲が削がれるという研究報告もありますので、減量に取り組むときには、やはり食事と運動の両面で取り組む必要があります。

意志が強い・弱いは食欲と無関係

吉川先生のある研究では、おいしそうな食べ物の写真を見せられたとき、瞬時で自動的に生じる食欲・食行動に関する脳の神経活動が強い人ほど、日ごろの食欲もうまく抑えられず、「食べないぞ」と意識しても食べることを我慢ができにくいという結果が出ています。

食欲を抑えられないのは自分の意志が弱いから……と感じていた人もいるでしょう。しかし、グレリンやレプチンなどのホルモンの特徴や、ストレスが食欲に与える影響について知れば、客観的に自分の食事を見つめ直すことができるかもしれません。

とはいえ、長年の食習慣をすぐに変えることは難しいもの。食事、運動、睡眠、ストレス…と、食欲を適量以上に増強させてしまう要因を一つひとつ丁寧に見直していくことが、健康的な食生活やダイエットへの一番の近道なのかも知れません。

CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:堀川直子
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