「赤ちゃんはどうやって生まれるの?」「性器のまわりに毛が生えるのはなぜ?」など、子どもから急に、性の質問をされた経験のある人は多いのではないでしょうか。
大人としてしっかり説明したいけれど、伝え方がわからず、つい口ごもってしまうことも。しかし、子どもが関心を示したときこそ性教育のチャンスです! 周りの大人が正しい情報を伝えましょう。
本記事では、子どもの性の質問に答えるときのポイントや、答え方の具体例などを紹介します。
- 教えてくれるのは…
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- 高橋 幸子先生
「サッコ先生」の愛称で親しまれ、全国の小中学校・高等学校にて年間160回もの性教育の講演を行う産婦人科医。埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター助教、埼玉医科大学医学教育センター、埼玉医科大学病院産婦人科助教を兼任。一般社団法人日本思春期学会理事。一般社団法人彩の国思春期研究会代表理事。
子どもが性に興味関心を持つのは自然なこと
子どもが大人に性の質問を投げかけるのは、いつも突然です。あまりに唐突すぎて、「そんなこと知らなくていいよ」とたしなめたり、ごまかしたりしたことのある人もいるのではないでしょうか。
じつは、大人としてその対応はNG。「こういう質問は、大人にしてはいけないんだ」と子どもが認識して、何か問題や心配なことがあったときに相談してもらえなくなることがあります。
正しく知ってほしいからこそ、子どもから性の質問を投げかけられたときには、大人がごまかさずに受け止めることが大切です。そうすることで、子どもは大人を信頼し、安心して話してくれるようになるはずです。
質問に答えるときのポイント
子どもからの性の質問に答えるとき、内容はもちろん、伝え方などの姿勢も重要です。質問に答える際に意識したいポイントをご紹介します。
1しっかり目を見て話を聞く
たとえ忙しくても手を止め、子どもの目を見て真剣に話を聞きましょう。そうすることで、「あなたのことを大切に思っているよ」というメッセージが子どもに伝わります。
2質問の背景を尋ねる
「なぜそれを知りたいと思ったの?」と質問の背景を聞くと、答え方のヒントが見つかることもあります。もしも子どもが誤った認識をしていたら、それを正すこともできるでしょう。
3科学的に正しく伝える
性教育の知識は、過度に恐怖を煽ったり、感情に訴えすぎたりすると正しく伝わらず、かえって性や自分の体に対する嫌悪感を植えつけてしまうこともあります。性教育の専門家の発言や書籍などを参考に、科学的に正しい情報をできるだけ淡々と伝えることを心がけましょう。
4知ったかぶりをしない
わからないことは「わからない」と正直に答えることも大切です。ただし、その後のフォローが重要。「わからないから、調べておくね」と子どもに伝えたうえで、必ずその約束を守りましょう。大人と子どもが一緒に勉強し、理解を深めていけるのも、性教育の良さのひとつといえます。
よくある子どもの性の質問と答え方の例
子どもの性の質問に対し、具体的にどう答えたらよいのでしょうか。よくある質問と答え方の例を見てみましょう。
【質問1】赤ちゃんはどうやって生まれるの?
大人のなかには「赤ちゃんができる方法=セックス」のことを聞かれているのかと慌ててしまう人もいるかもしれませんが、子どもが知りたいのは生物学的な生命誕生のしくみです。子どもが知りたい情報を正しく、わかりやすく伝えるには、子どもの成長に応じて、以下のことを説明するといいでしょう。
赤ちゃんはどうやって生まれるの?の答え方
- 赤ちゃんができるには、少なくとも精子、卵子、子宮が必要
- 精子と卵子が合体して、受精卵という“赤ちゃんのもと”ができる
- 受精卵が子宮に着床すると、赤ちゃんが育つ準備が整う
- 約10か月間、赤ちゃんは子宮のなかで育つ
- 赤ちゃんが生まれるときは、筋肉でできている子宮の収縮に押し出されながら、「腟(ちつ)」という赤ちゃんの通り道から出てくる
親から子に話す場合には、上記に加えて、わが子を妊娠したときの気持ちや状況も話すと、より子どもの心に残りやすくなるでしょう。
【質問2】なぜ女の人の胸はふくらむの?
人間の命が生まれるしくみと同様、生物学的な女性の体の成長について伝えることで、疑問を解消できるでしょう。
なぜ女の人の胸がふくらむの?の答え方
- 乳房には、女性が出産したとき、赤ちゃんに栄養を与える大切な役割がある
- 授乳をするときに備えて、女性は乳腺が発達し、乳房がふくらむ
加えて、胸はプライベートゾーンであり、男女問わず、相手の許可なしに触れてはいけないことも一緒に伝えられるとよいですね。
もし、小・中学生の女子が、自分の胸の大きさにコンプレックスを抱えて質問をしてきた場合には、胸の大小があなたの価値を決めるものではないということや、「胸を大きく(あるいは小さく)見せる下着があるよ」などの悩みに寄り添った情報もあわせて伝えるのがおすすめです。
【質問3】性器のまわりに毛が生えるのはなぜ?
体毛の役割と、毛が生える部分が大事であることを伝えましょう。
性器のまわりに毛が生えるのはなぜ?の答え方
- 体に毛が生えるのは、体を保護するため
- 昔は人間もほかの哺乳類と同じように、体中に毛が生えて皮膚を保護していた
- 衣服を着て体を保護するようになり、進化とともに体毛が少なくなってきた
- 性器周りはデリケートで重要な場所だから、いまでも毛が生える
性器の周りを含め、体毛を残しておくか否かは自分で選ぶことができます。ほかの人が体毛を処理しているからするのではなく、自分が処理したいと思ったらするのがよいでしょう。ただし、自分で脱毛や除毛をする場合は、誤った方法でするとケガや病気になるリスクもあります。必要に応じて、適切な体毛の処理方法を伝えることも、大切な性教育のひとつといえるでしょう。
【質問4】セックスってなに?
子どもから突然この質問をされると、びっくりしてしまいますよね。でも、「子どもはそんなこと知らなくていいの!」などと、否定するのはNGです。
まずは、「なぜそれを知りたいと思ったのか」を、子どもに尋ねてみましょう。その後、質問にどう答えるかは、下記の例を参考に、子どもの年齢や成長によって変えるのがおすすめです。
セックスってなに?年齢を目安にした場合の答え方
5~8歳:まずは「セックスとは、子孫を残すための方法」と伝えるのがよいでしょう。同時に、大切な相手への愛情表現でもあるけれど、赤ちゃんができることなので自分のことを子どもだと思っているうちにするものではないこと、セックスをする相手とお互いに同意がなければしてはいけないこと、同意していないのにプライベートゾーンに触られることがあったら、大人に相談するよう伝えておくことも必要です。
9~12歳:上記に加えて、「セックスをすることにはメリットとデメリットがある」こと、「プライベートゾーンなど大事なところの触れ合いには、妊娠、性感染症なども伴う」こと、そして自分や相手を守る手段(避妊、性感染症予防)を理解できてから触れ合うことが大切であると伝えられるとよいですね。
年齢別のセクシュアリティと性的行動の伝え方は、国際セクシュアリティ教育ガイダンスにも記されています。ぜひ参考にしてください。
【質問5】男の人がスカートを履かないのはなぜ?
一般的には女性がスカートを履くことが多く、男性が履いている姿を見かけることは少ないかもしれません。しかし、民族衣装やイギリス(スコットランド)のバグパイプ奏者のように、男性がスカートを身につけるケースもありますし、ファッションとしてスカートを履く男性もいます。
誰がどんな服を着てもいいことを、子どもにはぜひ伝えておきましょう。
男の人がスカートを履かないのはなぜ?の答え方
- 服装は性別によって決まっているわけではない
- 誰でも(あなたも)自分の好きな服を着ていい
- 服装で判断して、「オカマ」「オネエ」など、誰かを揶揄(やゆ)するような言い方をしてはいけない
最近では、中学や高校の制服もジェンダーレスになり、性別に関係なくスカートもスラックスも選べるようになってきています。服装の選択肢は、今後さらに広がっていくでしょう。
【質問6】「自分を大切にする」ってどういうこと?
性教育ではよく「自分を大切にしましょう」と言われますが、具体的にどういうことなのか、大人でも理解するのは難しいですよね。
サッコ先生は子どもたちに、以下のように伝えているそうです。
「自分を大切にする」ってどういうこと?の答え方
- 「自分の心と体を大切にする」ということ
- 体は清潔にして、健康を保ち、自分の体を傷つけないこと
成長期の子どもは、初経、精通など「5年以内に起こる自分の体の変化を知っておくこと」も重要です。体に生じる変化の大きさに戸惑い、自分の体を嫌いにならないために、成長過程で起こり得る変化をあらかじめ伝えておくと、子どもは安心できるでしょう。
大切なのは「子どもを思う気持ち」
性教育には、妊娠、出産、避妊、性感染症や、自分の体について知ること、自分や他人を尊重すること、人との付き合い方、防犯、ネットリテラシーなど、幅広いテーマが含まれます。
性教育の目的は、「自分や周りの人を大切にし、ポジティブに自分らしく生きるために必要な知識を身につけること」といえるかもしれません。
これは決して特別なことではなく、生活と地続きにあるものです。時間をとって教えることも大事ですが、日常会話のなかで少しずつ伝えていくことも意識しましょう。
子どもたちが18歳を迎え成人になったときに、どんな思考を持ち、どんな行動をとれる大人になっていてほしいのか。誰に(またはどこに)SOSを出せるようになってほしいのか。ゴールを定め、そこから逆算するかたちで、子どもたちの性教育を考えていきましょう。