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身の回りで性被害が起こっていたら、どう行動するのがいい?

公共の場での痴漢や盗撮、性差別的な振る舞いに遭遇したとき、助けたいと思いながらも「何もできなかった」という経験はありませんか。性暴力やハラスメントの予防と阻止のためには、その場に居合わせた第三者による介入が大切だといわれています。

この記事では、行動する第三者「アクティブ・バイスタンダー」の存在や具体的な介入の仕方について紹介します。性暴力・性差別をなくすための活動に取り組む大学生の団体『Safe Campus』のメンバーに話を聞きました。

被害者が泣き寝入りしたり孤立したりしてしまわないように、私たちができることについて考えてみましょう。

Safe Campus

性暴力、性差別をなくすための取り組みをしている慶應義塾大学の学生による有志の団体。三田、矢上、湘南藤沢などキャンパスの垣根を越えて、約20名の慶應生が活動している。
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アクティブ・バイスタンダーとは

「バイスタンダー(bystander)」は、傍観者・見物人・居合わせた人・第三者という意味を持つ言葉。「アクティブ・バイスタンダー(active bystander)」とは、いじめやハラスメント、さまざまな暴力や差別が起きたとき、または起きそうなときに行動する第三者(傍観者)のことを表します。そして、その行動を「第三者介入」ともいいます。

たとえば、学校や職場で起こる性的なからかいや特定の人へのいじり(いじめ)を見過ごせば、加害者は自分の行為が許されると認識し、ハラスメントがエスカレートしていくこともあり得るでしょう。逆に周りが「それは暴力だ」「許してはいけない」という声や雰囲気を出すことができれば、それが抑止力になります。ハラスメントや性暴力を目撃したとき、茶化したり見逃したりしないことは、とても大事なことなのです。

誰かが被害を受けているとき・受けそうなときに、私たち一人ひとりが「アクティブ・バイスタンダー」になることで暴力やハラスメントの発生を防いだり、被害を最小限にとどめたり、また被害者が声を上げやすくなるといった効果があります。

Safe Campus
吉澤昂帆さん

介入といっても、加害者と直接対峙する方法ばかりではありません。場の空気を変えたり、被害者に変わってほかの誰かに助けを求めたりすることも、アクティブ・バイスタンダーの重要な役割です。

こんなとき第三者は何をしたらいい? ~覚えておきたい5つの介入方法~

電車のなかや飲み会の席などで「大丈夫かな?」「あの人、危険な目にあいそう」と心配になる場面に出くわしたことはありませんか。そんなときに第三者がとれる行動や、とってほしい行動について紹介します。

第三者介入の基本となる『5D』という5つの方法で、状況に応じて効果がありそうな方法を選択することができます。

覚えておきたい5つの『D』

1Distract(加害者の注意をそらす)

道を聞くふりをして被害者に話しかける、故意にものを落とす、水をこぼす、話題を変えるなど。

【例】泥酔した被害者にセクハラをしている人を見たとき、小さい子どもが無理やり連れ去られようとしているのを見たときなどに、被害者の知人のふりをして話しかけたり、飲み物をわざとこぼしたりして加害者の気をそらし邪魔をします。加害者が行為を続けにくくする効果があります。

Safe Campus
本田義明さん

アメリカで「ポテトチップス男」の動画が話題になりました。地下鉄のなかで殴り合いをしている二人の間を、第三者である男性がポテトチップスを食べながら通行人としてただ通り過ぎるという映像です。

 
二人に距離を取らせることで両者の気をそらし、場の空気を変えるという事例の一つです。飲み会でハラスメントを目撃したら、被害者と席を替わってあげるなども同様の事例ですね。

2Delegate(第三者に助けを求める)

直接介入することが難しいときに、自分以外の第三者に助けを求める。

【例】周囲の人に助けを求めたり、現場で力を持つ人や専門機関(教師、上司、店長、駅員、警察)に連絡したりします。複数人で対処することで安全性が高まります。

3Document(証拠を残す)

被害が起こった日時や場所、状況などを記録する方法。

【例】性被害やハラスメントの現場を見たら、スマホで写真や動画を撮る、録音する、メモするなどして証拠を残しておきましょう。それを被害者に伝え、被害者が望めば警察や責任者に証拠として提出することができます。被害者があとから被害を訴え出る際にも重要な根拠になります。

Safe Campus
吉澤昂帆さん

証拠だとしてもデータ(個人情報)を被害者の同意なしに勝手に公開するのはNGです。必ず被害者の同意をとることを忘れないようにしましょう。

4Delay(あとで対応する)

その場では行動できなくてもあとから対応する方法。被害者の気持ちを聞いて寄り添う行動のこと。相談先を教える、警察に同行するなどの行動も含まれる。

【例】被害者に「助けを呼びますか?」「何かできることはありますか?」と声をかけます。

Safe Campus
吉澤昂帆さん

セクハラ発言をされた人に、あとから「あの行為はひどいよね」と声をかけるのも介入の一つです。被害を受けた人が「あの行為はハラスメントなのだ」という認識を持てるようになりますし、「ほかにも気づいている人がいる」とわかるだけでも被害者の心理的ダメージを減らすことにつながります。

5Direct(直接介入する)

間に入って止めたり、直接加害者に注意をしたりする行動。ただし、危険を伴う場合があるため自分自身の安全を第一に考え、無理はしないこと。声かけをするときは、遠回しな言い方はせずにはっきりと伝えましょう。端的な言い方をすることで、加害者が自身の言動の問題に気がつくことができ、介入者に対して加害の矢が飛ぶ可能性も減ります。

【例】職場で同性愛者を馬鹿にするような発言をしている人、飲み会の席で女性に性的なからかいをやめない人に対して、「それはセクハラ(もしくはSOGIハラ)ですよ」と伝え、やめるように促します。被害者に「帰ろう」と声をかけて引き離し、その場を離れることも有効です。

第三者介入をするときのポイント

介入する際の注意点についてもまとめておきます。差別やハラスメントは無意識の偏見や認識の欠如によって生じることも多いです。偏見や差別的な言動をしていないか、気づくための知識を、バイスタンダー自身も持っておく必要があります。

ポイント1:被害者の気持ちに寄り添う

悪いのは、他人を傷つけた(傷つけようとした)加害者であり、被害者に落ち度はまったくありません。被害者の気持ちをそのまま受け止めて寄り添うことを第一に考えます。

二次被害(セカンドレイプ)を起こさない

「なぜ抵抗しなかったの?」「あなたにも原因があるんじゃない?」と責めるような言葉や、「気にしないほうがいいよ」といった価値観を押し付けるような言葉は被害者をさらに苦しめ、周りにSOSを出したり訴え出たりしにくくさせてしまうので十分気をつけて。「話してくれてありがとう」「私にできることはない?」と被害者が安心して話しやすい環境をつくってあげてください。

ポイント2:自分自身の安全も守る

第三者介入の第一の目的は、その場の流れに変化を起こすことです。暴力の抑止につながればよく、加害者と対峙して議論をしたり罰したりする必要はありません。また「関わるのは怖いな」と感じたり、他人に声をかけるのを躊躇したりするのは恥ずかしいことではありません。無理のない範囲で、そのときできる方法を選択しましょう。

ポイント3:日頃から5Dのシミュレーションをする

とっさに動けるようになるには、あらかじめ5Dについて知っておき、事前にシミュレーションしておくことが重要です。防災訓練や避難訓練と同じように日頃からの練習が役に立ちます。

見て見ぬ振りをしない ~5Dはこんなケースで使える~

性被害やハラスメントは、何気ない日常に潜んでいます。たとえばこんな場面に居合わせたら「5D」を思い出して、できることはないか考えてみましょう。

  • サークルの打ち上げで酔いつぶれた後輩を先輩が抱きかかえ、無理やり連れ出そうとしている
  • 飲み会の席で、後輩が上司から不快なボディタッチを受けている
  • 同僚が「彼女いるの?」「なんで結婚しないの?」と先輩にしつこく絡まれている
  • ストリートハラスメントを目撃した*1
  • 多目的トイレや個室トイレから子どもの泣き声が聞こえて、あやす様子がない
  • 飲食店でカップルのうちの一人が「お前は馬鹿かよ」「うざいんだよ」と大声で怒鳴られ続けている(デートDVを目撃した)*2
  • 前を歩いていた女性が、見知らぬ人とすれ違いざまに体を触られた

*1:ストリートハラスメント:公共の場で起きる嫌がらせや迷惑行為のこと。卑猥な言葉をかける、しつこくつきまとう、道を塞いで通さないようにする、痴漢・盗撮などの行為
*2:デートDV:カップルの一方が「愛しているなら思いどおりになるべきだ」という考えで、相手の行動をコントロールしようとする態度や行動、カップル間の暴力のこと。束縛する、馬鹿にする、性的な行為を強要することなども含まれる。

Safe Campus
本田義明さん

2020年に慶應義塾大学内で実施した調査で、性的な発言をされた・性的なジョークを言われた経験があると回答した大学2年生以上の女性の割合は、約半数にのぼりました。

 
大学内ではサークルの飲み会など第三者がいる場での性被害も数多く起きています。たとえば、周りを盛り上げようと、卑猥な言葉をかけて被害者が嫌がるのを喜ぶ、性的な体験について根掘り葉掘り聞くなどの行為です。

 
知識がないと無意識に誰かを傷つけてしまうこともある。だからこそ、誰もが性暴力やハラスメント、第三者介入について学ぶ必要があると思います。

コラム/デジポリスの話
痴漢に遭遇……バイスタンダーに役立つアプリ!

電車内で直接声をかけにくい場合には、警視庁の防犯アプリ「デジポリス」(無料)が便利です。スマホの画面に「ちかんされていませんか?」という文字を表示して被害者に見せられる機能がついています。また自分が被害にあった場合には画面に「痴漢です。助けてください」と表示したり、「やめてください」という音声を出したりすることができます。

性暴力のない大学を目指して ~大学生の取り組み~

Safe Campusは、大学内で起こる性暴力を根絶しようと活動する慶應義塾大学生による有志の団体。大学内外においてアクティブ・バイスタンダーの啓蒙活動や、ワークショップイベントなどを開催しています。

性暴力への第三者介入は大切だけれど、自分にできるかな……と不安を感じる人も多いはず。Safe Campusのメンバーにメッセージをいただきました。

Safe Campus
吉澤昂帆さん

これまで私たちはハラスメントや性暴力を許さない・繰り返させないために、大学内での性的同意の授業の実施や、学内の200以上の部活動・サークル代表者へのワークショップ義務化などいくつかの目標を達成してきました。

ワークショップをするうえでは、第三者介入の話の前にまず『性的同意』の話をします。『性的な行為をしたいかどうか、お互いに確認し合うことが重要』と知っていただくためです。

ワークショップの参加者からは『アクティブ・バイスタンダーの枠組みがわかるだけで行動しやすくなった』という声も多くいただきます。私自身も、5Dを学んだあとはさまざまな選択肢から選んで行動できるようになったと実感しています。『自分には関係ない』と思っている人を一人でも減らし、行動できる人を増やすことが私たちの目標。被害者に寄り添えるコミュニティをつくっていきたいですね。

Safe Campus
本田義明さん

以前、就活セクハラが話題になっていましたが、最近ではインターンシップに行った先で、学生が男性4人女性1人といった状況になったときに、女性への性的嫌がらせやからかいが起きやすいといったことも耳にしています。ジェンダー観や力関係を利用して起こる性暴力やハラスメントは周囲に気づかれにくく、被害者が孤立しやすいという問題があります。

性差別・性暴力のない安全なコミュニティはどうしたらつくれるのか。アクティブ・バイスタンダーについて幅広い層が参加できる学びの機会が必要であり、サークルの代表者や職場の管理職など、上に立つ人をいかに巻き込むかも重要な課題。この記事をきっかけにみなさんにも考えていただけたらうれしいです。

性被害・性暴力の相談先リスト

  • 性暴力被害者ワンストップセンター #8891(全国共通番号)
  • 性犯罪全般(警視庁) #8103(24時間365日)
  • Cure Time(内閣府) チャットまたはメールで話を伺う相談窓口 毎日17時~21時
  • DV相談ナビ #8008
  • DV相談プラス 0120-279-889(つなぐ・はやく)(24時間)
  • デートDV110番(エンパワメントかながわ) https://ddv110.org

参考資料

『こんな時、あなたならどうする? やってみよう“第三者介入”』(男女共同参画通信vol.56)

国際機関によるActive bystanderの動画

 
「あなたは何を着ていたか? 」‐ 性的暴力の被害者に対する非難に立ち向かう(国連広報センター)

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:Nimura daisuke
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