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歯が割れる、抜ける!?歯ぎしり・食いしばりの改善策

歯ぎしり・食いしばりは無意識にしているケースが多くあり、自覚がない方もいます。1回の歯ぎしり・食いしばりで口内に悪影響が出ることは基本的にありませんが、それが日々積み重ねられていくと、歯はもちろん、ひいては全身にまでさまざまな影響をもたらす可能性があります。

この記事では、歯ぎしり・食いしばりの症状や、口内と全身への影響を解説するとともに、自宅でできる改善方法や歯科医院での治療方法についても紹介します。

無意識にしているかも? 歯ぎしり・食いしばりとは

歯ぎしり・食いしばりとは、そもそもどのようなものなのでしょうか。

歯ぎしりは、上下の歯が咀嚼(食べ物を食べる)や発音などの必要なタイミング以外で接触している状態を指し、歯科の専門用語では「ブラキシズム」と呼ばれます。歯ぎしりの種類は、大きく3つに分けられます。

グライディング

上下の歯を強く噛んだ状態で横に滑らせ、こすり合わせることを指します。歯をこすり合わせることで表面が徐々にすり減り、歯の凹凸がなくなることも。グライディングは「ギリギリ」といった音がするため、特に就寝時にしている場合、本人は無自覚であっても周囲の人が音に気づいて発覚するケースがあります。

クレンチング(食いしばり)

上下の歯を強い力で噛み合わせることを指し、一般的には「食いしばり」や「噛みしめ」と呼ばれています。グライディングのように歯をこすり合わせないため音は出ず、食いしばりをしていることに自分自身も周囲も気づけないケースが多々あります。医学的には、食いしばりは歯ぎしりの種類の一つと位置づけられています。

タッピング

寒くて震えているときのように、上下の歯をカチカチと小刻みに噛み合わせて小さな音を出します。比較的頻度の少ないタイプの歯ぎしりです。

私たちは日々、食事や会話の際に上下の歯を噛み合わせていますが、それ以外のときは上下の歯の間に隙間があり、噛み合わせている時間は1日のうち長くても20分程度といわれています。しかし歯ぎしり・食いしばりをしている人は、噛み合わせている時間が長いため、そのぶん歯や顎などに負担がかかります。

睡眠時に歯ぎしり・食いしばりをしている場合は、起きているときの5~8倍もの噛む力が歯や顎に加わっているといわれており、口内や全身にさまざまな影響をもたらします。

歯ぎしり・食いしばりが口内や全身にもたらす影響

口内に与える影響と全身に与える影響について解説します。

歯が削れる、短くなる/噛んだときに痛む

歯をこすり合わせることで歯の表面のエナメル質が徐々に削れ、歯が短くなったり、凹凸のない平らな歯になったりすることがあります。また、歯の根っこの周りで、歯にかかる力を吸収する役割を持つ薄い膜(歯根膜)が断裂すると、噛んだときに痛みを感じることも。

被せ物や詰め物が取れる、割れる

強い力が長時間加わることによって、虫歯治療後の被せ物や詰め物が摩耗したり接着力が弱まったりし、最終的に取れる、あるいは割れることがあります。特に奥歯の被せ物や詰め物が数か月単位で何度も取れる、割れるという人は、歯ぎしり・食いしばりが原因の可能性があります。

歯が欠ける、割れる

先述した、被せ物や詰め物が壊れることは、ある意味「自分の歯が守られた」ともいえます。しかし、歯ぎしり・食いしばりの恐ろしいところは、歯自体が欠ける、割れることもある点です。特に、虫歯で神経を取った歯や、加齢によって水分量が減り割れやすくなった歯は要注意。もし歯の根っこから縦に割れてしまったら、歯を抜かざるを得なくなってしまいます。

また、歯周病になっている人は歯を支える骨(歯槽骨:しそうこつ)が溶けて歯がぐらついているため、歯ぎしり・食いしばりによる負荷で歯が抜けるリスクがさらに高まります。

知覚過敏になる

歯に強い力がかかり続けると、徐々に歯と歯肉(歯ぐき)の境目の歯質が、くさびのようにえぐられた状態(くさび状欠損)になっていきます。本来、健康な状態の歯は硬いエナメル質で覆われていますが、歯肉との境目がえぐられていくことで象牙質(ぞうげしつ)と呼ばれる歯の柔らかい部分がむき出しになります。象牙質がむき出しになると、冷たいものを口にしたときや、歯に風や歯ブラシなどが当たったときに痛みを感じるように。

顎の骨がこぶのように盛り上がる

歯ぎしり・食いしばりによって強い力がかかり続けることで、上顎や下顎の、特にU字にカーブしている部分の骨が、こぶのように盛り上がることがあります(外骨症:がいこつしょう)。

骨の盛り上がりによって痛みが生じることはありませんが、力が加わることでこぶが徐々に大きくなるため、食事や会話などに支障が出る場合は骨を削る必要があります。また、入れ歯をする際、こぶと入れ歯がこすれて痛みが生じる可能性もあります。

顎の筋肉や関節が痛む(顎関節症)

歯ぎしり・食いしばりで顎に大きな負担がかかることにより、側頭筋(そくとうきん:こめかみの辺りの筋肉)や咬筋(こうきん:歯を食いしばった際に膨らむ、下顎の外側の筋肉)に痛みが生じることがあります。また、口が大きく開けなくなる、口を開くと顎関節から音がするなどの症状が出ることも。

首こり、肩こり、頭痛

顔や顎の筋肉がつねに緊張している状態が続くと、首や肩のこりにつながります。朝目覚めたときに顎の疲れを感じ、首や肩のこりもある場合、寝ている間に歯ぎしり・食いしばりをしている可能性があるかもしれません。また、側頭筋のこりは、頭痛を引き起こす原因にもなります。起床時に頭痛がする場合は要注意です。

睡眠の質低下

睡眠中に歯ぎしり・食いしばりをしている場合、筋肉が緊張して体に力が入った状態になるため、リラックスして眠ることができず睡眠の質が低下します。

えらが張り、顔が大きく見える

睡眠時、起床時を問わず、歯ぎしり・食いしばりを繰り返すことで咬筋が発達し、えらが張って顔が大きく見えてしまうことも。

毎日コツコツ! 自宅でできる改善方法

無意識にやってしまう歯ぎしり・食いしばり。改善のために日々の生活のなかで気をつけること、自宅でできるセルフケアなどを解説します。

ストレスが溜まっているとき、何かに集中しているときは要注意

歯ぎしり・食いしばりの主な原因はストレスといわれています。そのため、日々の生活のなかでできる限りストレスを発散する方法を見つけるとよいでしょう。筋肉の緊張をほぐす、リラックスするという意味では、湯船にしっかりつかることなども有効です。

また、何かに集中しているときに、歯ぎしり・食いしばりを無意識にしてしまうことが多いため、仕事や趣味などに没頭しているときこそ、意識的に休憩時間を設けるようにしましょう。そのほか、頬づえをつくと歯が噛みあった状態になりやすくなってしまうため、頬づえをつく癖がある方はやめましょう。

ストレッチ&マッサージで筋肉をほぐそう!

肩こりを感じたときにストレッチやマッサージで筋肉をゆるめるのと同様、歯ぎしり・食いしばりでこり固まった側頭筋や咬筋をほぐすことはとても重要です。

歯ぎしり・食いしばりが原因で頭痛や首こり、肩こり、顎の痛みなどが生じている場合、以下のストレッチやマッサージを行うようにし、無理なく毎日の生活に取り入れていきましょう。

ストレッチ1:大きく口を開けて5秒キープ

限界まで口を大きく開けて、顎周りの筋肉を伸ばします。口を開ける際に顎が痛む場合も、無理のない範囲で口を開けてOK。

ストレッチ2:下顎を突き出してアイーンの顔を5秒キープ

同じく口を大きく開けた状態から、下顎を突き出す動きをくり返して翼突筋(よくとつきん)を伸ばしましょう。

マッサージ:側頭筋や咬筋をマッサージ

両手で軽くこぶしを握り、指の第1~第2関節までの平らな部分を側頭筋・咬筋にあてて軽く力を入れ、手をぐるぐると回して側頭筋、咬筋をマッサージしましょう。

歯科医院ではどのような治療が受けられるの?

歯ぎしり・食いしばりは「癖」のようなものであるため、日々の生活で意識的に気をつけることがとても重要ですが、もちろん歯科医院で治療を受けることもできます。歯ぎしり・食いしばりの症状を和らげ、歯を守る治療方法を紹介します。

マウスピース

就寝時にマウスピースをすることで、上下の歯がこすれることを回避したり、歯にかかる負担を分散させたりする効果が期待できます。健康保険を利用すれば、5000円程度で自分の歯の型をとったオリジナルのものがつくれるため、歯科医院で相談してみるとよいでしょう。

歯ぎしり・食いしばりの改善に使用するマウスピースは硬い素材でつくられています。スポーツなどでつける柔らかい素材のものは、歯や詰め物、被せ物を守るためには効果的ですが、歯ぎしり・食いしばりの改善にはつながらないので注意してください。

ボトックス注射

過度に緊張している側頭筋や咬筋に筋弛緩作用のあるボトックス注射を打つことで、噛む力を弱めます。ただし保険の効かない自費診療となるため、金額は製造元や医院よって異なり、1回数万円の費用がかかります。また、その効果が持続するのは数か月のため、症状が続く場合には定期的に注射を打つ必要があります。

 
なかなか自分自身では気づきにくい、歯ぎしり・食いしばり。普段の生活のなかで無意識に上下の歯が噛み合っている時間がないか確かめてみてください。また、口内や全身にさまざまな影響が出る前に、日々のストレッチやマッサージで筋肉をほぐすよう心がけてみてはいかがでしょうか。

教えてくれたのは…
新谷 悟先生
東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック 院長

口腔外科医、歯科医師。東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック院長。1961年、香川県高松市生まれ。岡山大学歯学部へ進学。卒業後、大学院に進み、口腔がんに関する研究に従事し、博士号を修得。その後、愛知県がんセンターや岡山大学などで、口腔がんの手術を中心に広く口腔外科手術の腕を磨き、新しい治療を求めてハーバード大学に留学。帰国後は、愛媛大学医学部助教授、昭和大学歯科病院口腔がんセンターのセンター長を務めるなど口腔外科の分野で活躍。2014年に、東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニックを開院する。親身な診療と的確なインプラント治療が話題を呼び、予約の取りにくい人気クリニックに。2019年、日本の医師の中で0.6%しか選ばれないベストドクターに歯科口腔外科医(歯科医師)として選出される。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:森優
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