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「笑い」の健康効果とは?ヒロシが実践で気づいたこと

かつて「ヒロシです…」の自虐ネタで大ブレイクした、ピン芸人のヒロシさん。しかし、当時はテレビ出演が苦痛で、周囲に同調できない悩みやストレスを抱えていたそうです。その後、個人事務所を設立し、ソロキャンプYouTuberとしても活動の幅を広げています。

今回は、そんなヒロシさんに不安やストレスについてお話をうかがうとともに、「笑い」の健康効果に注目しました。精神科医・産業医の井上智介先生とオンラインで対談し、健康への効果も実証されている「笑い」を取り入れたエクササイズも体験。そこで語られた、ヒロシさんの本音とは?

ヒロシさん

1972年熊本県生まれ。九州産業大学商業学部卒業。2004年ごろに、ピン芸人「ヒロシ」という名前がメディアに広がりブレイク。以降、芸人活動のほか、俳優、ラジオパーソナリティ・執筆活動など幅広い分野で活躍。趣味であるソロキャンプの動画を自身で撮影・編集し配信。YouTube「ヒロシちゃんねる」の登録者は114万人を超える。
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INDEX
仕事には不安がつきもの。心の安定に必要なのは「ひとりの時間」
精神科医が、治療にも取り入れている「笑い」のエクササイズ。心と体への健康効果とは?
準備運動は必要。表情筋をほぐせば笑いやすくなる
「笑えない」は心の危険信号。笑う時間をつくることで心を元気に

仕事には不安がつきもの。心の安定に必要なのは「ひとりの時間」

―いきなりの質問で恐縮ですが、ヒロシさん最近、笑えていますか?

ヒロシ:面白いときは笑います。でも、面白くなかったら笑わないですよ。当たり前のことですが。キャンプをやっていて楽しいと思うことはあるけれど、笑っているかなあ……。あまり「笑い」を意識したことはないですね。

お笑い芸人・YouTuberのヒロシさん

―では、「笑い」とは対極にあるものかもしれませんが、今回の特集テーマでもある「不安」を感じることはありますか?

ヒロシ:仕事では、不安に思うことはたくさんありますね。この先将来が不安とかそういうことではなく、スケジュールどおりに物事が進まなかったり、約束が守られなかったりすると不安やストレスを感じることが多いです。特に、振り回されて自分でコントロールできないような状況では、不安が大きくなりますね。ぼくはわりと何でも予定どおりに進めていきたいタイプなので、仕事で大きくペースを乱されてしまうことがあると、それがストレスの元になるんでしょうね。


―ヒロシさんの場合、そういうネガティブな感情が湧いたとき、普段どうやって解消しているのですか?

ヒロシ:やはりソロキャンプをすることで、ストレスを解消している気がします。もともとぼくは集団行動が苦手で、ストレスの源は結局「人」。つまり人間関係にあると思っているんです。そこから逃れたくて、ソロキャンプにはまっていったともいえますね。

心の安定のために、ひとりになって自然のなかに身を置く時間がぼくには必要で。不安やストレスが完全にゼロになるわけではないけど、だいぶ楽にはなります。場所や環境を変えて、一旦忘れるというのはいいことじゃないかな。

黙々とソロキャンプを楽しむヒロシさんの動画は、幅広い視聴者から支持されている


―ソロキャンプの場合、熊が出てくるんじゃないかとか、ひとりだと何かあったときにどうしようとか、別の不安はありませんか?

ヒロシ:それよりも、ぼくが怖いのは人間なんです。じつを言うと、ぼくは中学時代、いじめを受けていたのに先生が助けてくれなかった経験があって。だからなんというか……。人生の早い段階で「人って怖い」って悟ってしまった。おかしいと思っていても「きっと自分のほうが悪いんだ」と思って、何も言えなかった。

正しく生きていれば幸せになれるなんて幻想だって、世の中の不条理に気づいてしまった部分があるんですよね。大人になっても、何かこう生きづらさをずっと感じていた。それが、自分の好きなことをして生きていいんだと思えるようになったのは、YouTubeに出会ったことが大きかったですね。


―YouTuberとして再ブレイクし、現在は個人事務所の社長でもありますよね。以前よりも不安やストレスは減りましたか?

ヒロシ:そうですね。テレビによく出ていた頃は、ワイプで抜かれたときに、笑ったり面白い顔をしたりすることを強要されるような雰囲気があってストレスを感じていました。お笑い番組も、ひな壇に座るのも苦痛で仕方がなかった。

テレビ出演を減らしてからは気が楽になりました。とはいえ、ぼくは個人事務所の社長でもあるので、受けざるを得ない仕事も当然あります。だから仕事がある限り、不安やストレスはつねにそばにありますよね。

ただ、YouTubeでの動画配信は、録画・編集して配信まで全部一人で完結できます。キャンプの準備から、キャンプをしている最中、帰ってきて編集している時間まで本当に楽しいですね。ひとりで笑いながら編集しているときもありますよ。1つ作品が完成すれば、達成感もあるし。

いまはネットで世界中の人たちと簡単につながることができます。好きなことを仕事にして、それを追求できる時代になってきたことは、すごくよかったですね。自分でストレスを減らしていく環境をつくる、っていう。

精神科医が、治療にも取り入れている「笑い」のエクササイズ。心と体への健康効果とは?

―今回は、「心の健康には 何よりも『笑い』が効果的な治療」と語る、精神科医の井上智介先生をオンラインでお呼びしています。ストレスフルな世の中で、笑いがどう役立つのか。先生にうかがったうえで、笑いを取り入れる効果的な方法をヒロシさんにも体験していただきます。井上先生、よろしくお願いします。

井上先生:よろしくお願いいたします。私は仕事柄、普段から人間関係のストレスについて相談を受けることが非常に多いんです。先ほどからヒロシさんのお話を聞かせていただいていましたが、引き込まれましたね。

産業医・精神科医・健診医として活動する、井上 智介先生。「心の健康には何よりも『笑い』が効果的な治療」と語り、「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーにしたラフドクターとして活動中。メディア出演時は、金髪アフロヘアと赤縁メガネがトレードマーク。

ヒロシ:芸人とひと言で言っても、舞台でネタをやるのが好きな人も、ひな壇でしゃべるのが好きな人も、コメンテーターになるのが好きな人もいます。いろいろなんですよね。ぼくの居場所はテレビではなかった。最初から最後まで自分で完結できるYouTubeと出会って、「これだ」と思ったんです。


―ヒロシさんは、動画編集をしながら笑っていることもあるとおっしゃっていました。きっとそれは心からの「笑い」なんでしょうね。井上先生、まず「笑う」ことにはどのような効果があるのでしょうか?

井上先生:特に大きいのは、「呼吸」との関係。笑うことは、息をたくさん吐くことにつながります。つまり、ゆっくりと大きな呼吸になるんですね。ヨガの呼吸にも通じます。それに伴って、背中やお腹、胸周りの筋肉が刺激され、結果として血流がよくなります。その結果、体に取り込んだ酸素が全身の細胞のすみずみまで行き渡りやすくなる。こうした一連の作用が健康にいいと考えられます。

ヒロシ:たしかに。

井上先生:心の面では、ポジティブで前向きな気持ちになることが証明されています。実際、笑うとすっきりして、幸せな気持ちになりませんか?

ヒロシ:本当に笑える状況であれば、そうだと思うんです。でもね、先生、ぼくの場合キャンプに行くことで十分癒やされます。無理に笑わなくても、心が安らいでいればいいんじゃないかって思うんですけど、どうなんでしょう。それでも、意識して「笑ってみる」というのがいいんでしょうか?


井上先生:「ジェームズランゲ説」という有名な説では、「笑うから楽しくなる」ということが実証されています。つまり、身体的な変化が先にあって、そのあとで感情が湧いてくるというのは十分あり得ることがわかっているんですね。また、口角を上げて笑うと、ストレスホルモンの数値が下がるといった研究報告もありますよ。

ヒロシ:取材などで写真を撮る際に「笑ってくれ」と言われるのが、ぼくにはかなりのストレスなんです。ぼくは、笑いを強要されればされるほど「もう無理だ」と抵抗したくなってしまう。自分を騙しているようで、どうも居心地が悪くなるんです。ややこしい性格ですよね。

井上先生:いえ、無理強いはしないほうがいいですよね。人それぞれ合ったやり方というのはもちろんあるわけで、ヒロシさんは自分なりの不安解消法を見つけられています。それはとてもいいことだと思いますよ。

準備運動は必要。表情筋をほぐせば笑いやすくなる

―精神科医である井上先生は、うつ病などの患者さんの治療に、エクササイズとして「笑い」を取り入れていらっしゃいますね。どのように実践されているのか、疑問を感じているヒロシさんも一度体験してみませんか。先生、お願いします!

井上先生:はい。今回ご紹介するのは、うつ病など気持ちが沈みがちな患者さんにおすすめしているエクササイズです。笑うにも準備運動が大切。ストレッチのようなものですね。最初に、母音の「あ・い・う・え・お」を1文字3秒ぐらいかけてゆっくり発音していきます。はい、ご一緒に。「あー、いー、うー、えー、おー」。これを1セットとして3セット行います。

笑うための準備運動。まずは口周りの筋肉をほぐしていく

次に目の周りをストレッチします。5秒間目をつぶって、目を開く、この動作を3セット。はい、目をつぶって「1、2、3、4、5」。最後に、「いー」の口をして、目を三日月のように細めたまま5秒数えます。これも3セット続けましょう。

次に、目の周りのストレッチ。ここまで終えると、だいぶ顔の表情筋がほぐれる

―ありがとうございます。ここまでがストレッチですね。顔が温まってきました。

井上先生:顔が温まってきたのは、表情筋がほぐれてきた証拠です。次は自由に笑ってみましょう。ただ、いきなり「笑って」と言われても難しいですよね。

ヒロシ:かなり難しいと思います。

井上先生:何か好きなもの見て笑ってもいいですし、思い出し笑いでもいいんです。患者さんのなかには、スマホを片手に持ちながらやると、誰かに話しているようなシチュエーションになるのでやりやすいという方もいらっしゃいます。30秒間ぐらい、できれば声を出して笑ってみてください。「あははは」と、はいどうぞ。

ヒロシ:先生、正直言っていいですか。「これやんなきゃいけないの?」と一瞬、身構えてしまいました。いますごく「不安」になっています。これで患者さんは本当によくなるのですか?

「こういうことですか?」と実践してみるヒロシさん。スマホを持つしぐさまでしてみたものの、「やっぱり無理ですよ……」と大声で笑うには至らず

井上先生:もちろんこの実践だけで完治するわけではありませんが、効果は出ています。なぜあえて笑うかというと、うつ病など心の病気で治療中の患者さんは、基本的に笑う時間が「ゼロ」なんです。言い換えれば「笑えない」のです。

ヒロシ:え、笑いがゼロなんですか?

井上先生:そうなんです。笑えないからこそ、意識的に笑うことが大切ですが、いきなり笑おうと思ってもなかなか難しい。準備運動は、笑う土台をつくるためにやっているんですね。

ヒロシ:ゼロというのはかなりきついですよね……。

井上先生:顔の筋肉を使わないと、どんどん無表情になっていくので、自分で顔の筋肉を動かすことが非常に大事になってきます。重症のうつ病の患者さんのなかには「何を食べても味がしない」という方もいます。いろいろな感覚がなくなってしまうんですね。

ヒロシ:ぼくも悩みが多いから、どちらかというと笑わないほうだと思いますが、ご飯を食べれば美味しいし、面白いときは面白いと感じられます。女性と過ごすのも楽しいし。楽しいと思える何かがあるうちは、健康だということですね。

井上先生:そうですね。うつ病は、憂うつな気分や、食欲・睡眠欲・性欲などさまざまな意欲の低下が続いてしまう病気です。1日、2日だけなら、そうした状態が続くことは誰にでもあり得ます。でも、それが2週間も続けば、病気という診断がつきます。

「笑えない」は心の危険信号。笑う時間をつくることで心を元気に

ヒロシ:ぼくも一度芸人としてブレイクして、そのあと精神的におかしくなって、もう何もやる気が起きなくなったことがありました。それでテレビに出ないと決めたんですけど。そのとき、ぼくも先生のような精神科の医師に診てもらったことがあって、主治医に「趣味を見つけなさい」といわれたんです。たまたまキャンプに出会って、精神的に随分落ち着きました。

ソロキャンプをしながら、自然と笑みがこぼれることもあるという

井上先生:好きなことは大事ですね。

ヒロシ:やっぱり好きなことをやると、笑う機会も増えますよね。あのとき無理をして突っ走らずに、一旦休めてよかったと思っています。あのまま続けていたら、燃え尽きてしまってた可能性もあったかも。人から見たらたいしたことじゃないかもしれないけど、当事者にとって自分の心の状態は重大なこと。つらすぎてどうしようもなくなったら、自分で判断しないで、専門家に早めに頼ることも大切ですよね。

井上先生:答えが出ないことに悩んでいたり、八方塞がりになったりしている方も多いので、助けになれたらうれしいです。

ヒロシ:無理やり笑うなんて自分には効果がないと思っていたけど、感情を失うほどの状況なら、つくり笑いでも「笑う」ことが大事なんだということはよくわかります。たくさんの患者さんを診てきている先生だからこそのアドバイスなんだなと、思いました。

ぼくらだって、落ち込んでいるときには「あーいーうー」と口を動かすだけでもいいかもしれない。笑っていたら楽しくなるというのは確か。そりゃあ、自然に笑えるような環境に身を置けたら、そのほうがいいと思いますけど、エクササイズの一つとして試してみる価値はあるなと思いました。

井上先生:めちゃくちゃうれしいことを言っていただきました。ありがとうございます。小さなきっかけとして、ぼくは「笑い」のエクササイズを大事にしています。その意味をわかっていただいたことがうれしいですね。

CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部 写真:佐藤 翔
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