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誰もが感じる「心の不安」。正しく理解し、対処しよう

心がそわそわ、ざわざわする状態を、私たちは「不安を感じる」と表現します。理由は人それぞれですが、不安な状態が長く続くと、どんどん心がしんどくなってしまうことも。

では、なぜ人は不安になるのでしょう? 不安とはそもそもなんなのでしょうか? そして、不安にとらわれてしまうとどうなるのでしょう? 本記事では、不安の正体をひもとくとともに、不安をやわらげる方法について解説します。

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INDEX
「不安」ってどんな状態を指すの?
不安になりやすいときってどんなとき?
不安は厄介。取り除こうとすればするほど強くなる
不安の裏にある「願望」や「目的」に気づこう
不安にとらわれないために。すべきことや対処法は?

「不安」ってどんな状態を指すの?

「失敗したらどうしよう」「うまくいかなかったらどうしよう」。こんな気持ちは、誰もが一度は経験したことがあるでしょう。

不安は、「対象のない恐怖」と表現されたりもしますが、一般的には「大切なものが脅かされているような」、または「危険にさらされているような」恐れの感情のことをいいます。時系列で考えると、「これから何か悪いことが起こるんじゃないか……」という、未来志向の考え方ともいえるでしょう。つまり、まだ起きていないことに心がとらわれている状態です。

また、「不安」は危険信号のアラームのような機能を持っています。本来人間は、ストレスに直面すると、自分を守ろうとして防御反応が働きます。危険を察知して、対応(逃げるか闘うか)の準備をするためです。不安はストレス反応のうち、感情面の変化として現れるものであり、自分を守るために必要な機能でもあるのです。

不安になりやすいときってどんなとき?

新しい職場で、うまくやっていけるだろうか……。
PTAの役員決めがある。ゆううつだな……。
仕事で失敗した。クビになったらどうしよう……。
噂話を聞かれてしまった。同僚に嫌われてしまったかも……。
バスに酔いそう、遠足に行きたくないな……。

このように、不安を感じる場面は、将来への不安、人間関係の不安、経済的な不安や特定の場所や物に対する不安など、さまざまです。将来への不安の中には、年齢を重ねていくことや病気になることなど、健康面への不安も含まれます。

わかりやすい例を挙げてみると、新型コロナウイルス感染症が世界にまん延した当初は、社会全体がパニックに陥りました。しかし、コロナウイルスの正体や対処法がわかってくると、世の中は徐々に落ち着きを取り戻していきました。「未知なものが存在する状況」というのは、誰もが不安を感じやすくなるもの。特に、情報が溢れ、人々の不安がインターネットを通じて拡散されやすいデジタル社会は、より個人の不安を煽りやすいともいえます。

もうひとつ、不安の大きな要因となるのが、環境の変化です。春は入学や入社、人事異動、引っ越しなど環境が大きく変わる節目。新しい生活はワクワクするものですが、一方で環境に慣れるまではストレスを感じやすく、不安も大きくなりがちです。ストレスを受けている状態が続くと、体への障害にも。

具体的には、不安で眠れなかったり、過呼吸を引き起こしてしまったり、ほかにも血圧の上昇、肩こり、頭痛、めまいなどが挙げられます。こういった体への症状が現れた場合は、医療機関の受診も検討してください。

不安は厄介。取り除こうとすればするほど強くなる

不安を感じるのは誰にでも起こる自然なことであり、決して特別なことではありません。しかし、つねに心が不安にとらわれている……という状況になってしまったときは、危険信号。嫌な気持ちをずっと引きずって大きなストレスになったり、それによってやりたかったことができなくなったりしてしまうかもしれないからです。

たとえば、初対面の人と会って話すとき。ドキドキする、言葉が出づらい、赤面する、顔がこわばるなど、緊張や不安が体の症状に現れる場合があります。これらは、「人からどう見られているか」という不安に対する、正常な体の反応です。

一方で不安には、「意識すればするほどかえって増幅し、身体症状も強くなる」という性質も。取り除こうとすればするほど止められなくなって、「あがり症」など、本人の意志ではどうにもならない症状が出てしまいます。

また、不安が態度や行動に現れる場合もあります。イライラして誰かに怒りをぶつけてしまう、不潔恐怖症から何度も手を洗うなどの行為を繰り返す、人に会いたくなくて会社を無断欠勤してしまうなどです。結果として、人間関係を壊してしまったり、自分を取り巻く環境を壊してしまったりと、日常生活に支障をきたすようになります。

このように、ときとして不安という「危険信号のアラーム」は、鳴らなくてもいい場面で鳴りすぎたり、鳴り止まなくなったりといったことが起こるのです。日常生活に支障が出ている場合には、「不安症」という病気の可能性もあるため、治療が必要になることも。

※「不安症」については『「不安症」の特徴や症状は?心の状態をセルフチェック』で詳しく解説していますので、ぜひそちらの記事もあわせてご覧ください。

不安には、誰でも感じる一般的な不安と、病的な不安がある。こうした不安の仕組みをまずは知っておくことが、不安解消への第一歩になります。

不安の裏にある「願望」や「目的」に気づこう

不安を感じたときに軽くやり過ごせる人もいれば、大事なときに不安にとらわれてどうしようもなくなってしまう人もいます。その差はどこにあるのでしょう。

不安の裏側には、必ず本来の「願望」があるものです。たとえば、人前でスピーチをするとき不安を感じているとします。その裏には、「良い評価をうけたい」という願望や「自分の考えをわかってもらう」という目的が隠れているはず。だからこそ「うまくいかないかも」「思うようにできないかも」といった不安も生まれるのです。何事にも完璧主義という方は、特にこのような考えに陥りやすいかもしれません。

不安の裏にある願望や目的に気づいて、「そのために具体的に何ができるか」に意識を向けることができると、不安にとらわれずに過ごしていくことができます。不安を感じやすい人は、未来に対する漠然とした不安を抱き続けるのではなく、「いま自分ができることは何か」を考えることをぜひ試してみてください。

不安にとらわれないために。すべきことや対処法は?

不安を感じることは、防衛本能がはたらいているがゆえの自然な反応。「不安はあって当たり前」ということを理解し、不安を感じている自分を認めてあげてください。そのうえで、不安があっても大丈夫な状態にしておくために、「自分の心を支える柱」を増やしておくことがとても大切です。職場や家庭、趣味、友人関係など、心の拠り所となるような居場所=柱を複数持っておけば、強い不安を感じたときにもほかのことで支えられ、気を紛らわすこともできます。

また、アスリートは試合の前に、決まったルーティンを行うことがあります。それは「いま」に集中することで、不安に注意を向けないようにしてコンディションを整えているのです。今回は、不安を感じたときの対処法をいくつかご紹介します。気軽に取り入れられるものばかりなので、自分に効果がある方法をいくつか持っておくと安心ですよ。

  • 腹式呼吸をする…心臓がドキドキし、汗が出てきたという緊張状態のときに、交感神経を沈めて、体のストレス反応を落ち着かせる効果があります。
  • ヨガ、散歩、ストレッチ運動…体を動かすことや景色を楽しむことに、意識を向けるようにしましょう。
  • 音楽を聴く、アロマを焚いて過ごす、ゆっくり湯船に浸かる、ご飯を味わって食べる…頭で考え込むことを手放して、リラックス。好きなことを心から楽しみましょう。
  • スマホから離れる時間をつくる…常にスマホを触っていると、インターネットやSNSの影響で情報過多の状態になってしまいます。ときにはスマホから離れて、「デジタルデトックス」をしましょう。
  • マインドフルネスや瞑想…いまこの瞬間に集中する精神状態を意識的に作る手法です。マインドフルネスについての詳しいやり方は、『子どもと一緒にできる「マインドフルネス」実践法』もぜひ参考にしてください。
  • 親しい人、信頼できる人に相談する…一人でできることは限られています。普段から職場や地域コミュニティーなどで人とつながり、協力し合いながら目的や願望を達成していくように心がけていくと、不安が軽くなるでしょう。自分では気づかないあなたの「良い面」や「強み」を教えてくれるかもしれません。

 
人生に不安はつきもの。だからこそ、上手につき合っていく方法を自分なりに見つけることが、不安によるストレスを軽減する近道になります。もちろん、それでも強い不安が残る場合や、本文中で例に挙げたような体への症状が出た場合は、医療機関の受診も検討してください。「不安を一人で抱え込まない」「つらいときには助けを求める」ということも大切です。

教えてくれたのは…
勝 久寿先生
人形町メンタルクリニック院長
精神保健指定医、精神科専門医、臨床精神神経薬理学専門医、日本医師会認定産業医、日本精神科産業医協会・認定会員

1992年に旭川医科大学を卒業後、北海道大学医学部附属病院麻酔蘇生科、東京慈恵会医科大学精神医学講座を経て2004年より現職。企業の産業医としても活動。現在は行政官庁の精神科嘱託医として職場のストレス対策などについての研修やメンタルヘルス相談に尽力している。著書に『「いつもの不安」を解消するためのお守りノート 』『とらわれ「適応障害」から自由になる本』など。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:姫田 真武
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