ショクチューデビルのささやき
統計的にカウントされていなくても、軽微な食中毒は日常的に起こっていると考えられています。
「食あたり」と言い換えれば、誰もが経験のある症状では?
キノコやフグの毒は有名ですが、実際の食中毒の大半は、私たちが普段から食べている食品に付着した細菌やウイルスなどの食中毒病原体によって引き起こされる、より身近なものです。
夏には細菌性の食中毒が比較的多く発生する傾向がありますが、食中毒全体で見ると実は大きな季節変動はなく、冬にはウイルス性の食中毒が多くなるなど、食中毒は季節を問わず1年中発生しています。
腐敗と食中毒の関係は、必ずしもイコールではありません。むしろ食品の鮮度がよいほど起こりやすい食中毒もあり、見た目やにおいだけではリスクを判断できません。
フグ毒による食中毒は、釣ったフグを自分で調理した場合に多く発生しています。フグの有毒部位は種類によって異なり、また毒の量には個体差もあるため、自己判断は危険です。
食中毒対策において加熱はとても大切ですが、電子レンジでの加熱にことさら殺菌効果が認められているということはありません。むしろ加熱ムラが生じやすいので要注意。
梅干しには抗菌作用が認められますが、効果が及ぶのは梅干しのごく限られた周囲のみ。お弁当全体を守る役割は期待できません。ワサビやカラシも同様に、過信は禁物です。
煮込んだことに安心して常温に放置した2日目のカレーやシチューでは、熱に強い「ウェルシュ菌」による食中毒がしばしば起こります。残りは素早く冷蔵・冷凍がマストです。
カキなどの二枚貝の体内には「ノロウイルス」が含まれていることがあり、生食用でもそのリスクを完全にゼロにはできないため、食べる個数を問わず、あたるときはあたります。特に子どもや高齢者は、十分に加熱されたものを食べるのが安心です。
腸内細菌叢の発達が不十分な1歳未満児に「はちみつ」を与えることで起こる重篤な食中毒に「乳幼児ボツリヌス症」があります。また、子どもに生肉は絶対NG。食中毒予防の観点からは、生卵やレアステーキも10歳頃からが安心です。
鮮度とは無関係に、肉類の生食は高リスクです。
しかし、とり刺しのような生肉料理や、本来提供が禁止されている生の牛レバーなどが出されることもあり、「お店だから安心」とは限りません。肉の生食による食中毒は毎年発生しています。
【監修】浦上 弘 先生
新潟薬科大学応用生命科学部食品安全学研究室
教授、日本HACCPトレーニングセンター理事長
食中毒予防に関するエキスパート。監修書に『HACCP完全解説―国際的に通用する正しいHACCPとは』(鶏卵肉情報センター)など。
ヘルス・グラフィックマガジンvol.40
「食中毒」より転載(2021年6月15日発行)