眠っているときに呼吸が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」。発見の主な手がかりは「いびき」ですが、それ以外にも疲労感や倦怠感などさまざまな症状があり、放置してしまうと高血圧や心筋梗塞、脳梗塞等のリスクを上げる原因にもなる病気です。本記事では、睡眠時無呼吸症候群によって起こり得る危険や治療について解説します。
睡眠時のいびきを指摘されたことのある方や、日中に強い眠気を感じる方は、まずはこの記事を読んで、睡眠時無呼吸症候群について知っていきましょう。
- 教えてくれるのは…
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- 中村 真樹先生
- 青山・表参道 睡眠ストレスクリニック 院長
日本睡眠学会総合専門医。東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科修了後、東北大学病院精神科で助教、外来医長を務める。その後、睡眠総合ケアクリニック代々木院長、東京医科大学睡眠学講座客員講師、独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センター客員協力研究員を兼任後、2017年に「青山・表参道 睡眠ストレスクリニック」を開院。2014年に全米ナルコレプシーネットワーク最優秀研究者賞を受賞するなど、臨床と研究、両面の実績がある。著書にビジネスパーソン向けの書籍『仕事が冴える眠活法』(三笠書房)がある。
睡眠時に10秒以上呼吸が止まることも。なぜ無呼吸になるの?
睡眠時無呼吸症候群は、その名の通り睡眠時に呼吸が止まってしまう病気です。
10秒以上完全に呼吸が止まる「無呼吸」状態、あるいは呼吸が止まったり弱まったりして血液中の酸素量が10秒以上低下する「低呼吸」状態が、合わせて1時間に5回以上起こることに加え、日中に強い眠気や倦怠感・疲労感を感じる場合に診断されます。また、自覚症状がなくても、無呼吸・低呼吸状態が1時間に15回以上起こる場合も、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠1時間あたりの「無呼吸」と「低呼吸」の合計回数をAHI(無呼吸低呼吸指数)と呼び、5回から15回が「軽症」、15回から30回が「中等症」、30回以上が「重症」とされています。
睡眠時に無呼吸状態になってしまうわけ
睡眠時は喉や舌の筋肉の緊張が緩むため、誰でも舌の付け根が喉の奥に落ち込みやすく、空気の通り道が狭くなります。通常であれば、それにより呼吸が止まるほどにはなりません。しかし、舌が下顎に比べて大きかったり喉が生まれつき狭かったりすると、舌の付け根が喉の空気の通り道を完全にふさいでしまい、無呼吸状態となってしまいます。睡眠時無呼吸症候群で最も多いのが、この「閉塞型」と呼ばれるタイプです。
喉がふさがる理由として最も多い原因が、「肥満」です。喉の周りや舌に脂肪がつくことで、空気の通り道が狭くなってしまうのです。そのほか、小顔(特に下あごが小さい場合)や扁桃腺肥大、加齢による筋力低下などが原因となることもあります。また、閉経後の女性は女性ホルモンの減少によって睡眠時無呼吸症候群が増加するということもわかっています。
「閉塞型」以外には、呼吸を調整している脳の呼吸中枢が働かなくなることで起こる「中枢性睡眠時無呼吸症候群(中枢型)」のほか、閉塞型と中枢型が混在する「混合型」もあります。
日本の成人で、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者は、900万人以上と推定されています。
「いびきがうるさい」だけじゃない! 交通事故のリスクは7倍に
睡眠時無呼吸症候群はほとんどの場合、いびきを伴います。もしかすると、単に「いびきがうるさいだけの病気」と考えている方もいるかもしれません。しかし、実際には睡眠時無呼吸症候群は、眠っているときに息ができないために低酸素状態になり、心臓や血管・脳に負担がかかります。これにより、高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳梗塞といった病気のリスクが上がってしまうのです。
また、呼吸が止まる息苦しさによって眠りが浅くなったり、頻繁に目が覚めたりすることで、眠りの質が悪くなります。すると、体がストレスを受け慢性的な炎症状態が続き、糖尿病や高脂血症といった生活習慣病のリスクにもつながります。
そのほか、睡眠時無呼吸症候群の方は、眠りの質の悪化により睡眠不足と同じように注意力が低下し、居眠り運転等により交通事故を起こすリスクが約7倍にもなるということもわかっています。睡眠時無呼吸症候群は、決して「いびきがうるさいだけ」の病気ではなく、自身の命に関わることもある病気であり、さらに周囲の人を巻き込むような事故を起こす可能性があるということを、改めて認識してください。
また、認知症患者は睡眠時無呼吸症候群を合併している方が多いという報告も。睡眠時無呼吸症候群が未治療だと認知症が悪化することがあります。さらに、高齢者で睡眠時無呼吸症候群を治療しないでいると認知症を発症するリスクが約2倍高まるとされており、認知症と睡眠時無呼吸症候群には強い関連性があると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群を疑うポイント
睡眠時無呼吸症候群は、「他人にいびきを指摘される」「夜中に息苦しくなり目が覚める」といった自覚症状が代表的ですが、このほかにも以下の自覚症状が現れることがあります。
- 日中に眠気や疲労を感じる
- 日中の集中力が低下する
- 朝起きたときに「ぐっすり寝た」という感覚がない
- 起床時に口が乾いている
- 寝相が悪い
- 寝つきが早い
- 寝汗をよくかく
- 夜中に何度も目が覚める
- 夜間頻尿
- 短気になる、うつ状態になるなど性格が変化する
- 胸やけ感がある
こうした症状がある場合には、睡眠専門の医療機関(睡眠クリニックや睡眠外来)で診察を受けましょう。もし、睡眠専門の医療機関がなければ、耳鼻咽喉科や呼吸器内科・循環器内科に相談するのも良いでしょう。一般的には、問診後に自宅で簡易なスクリーニング検査を行うことになります。
睡眠時無呼吸症候群はどうやって治療するの?
では、睡眠時無呼吸症候群の治療は主にどのようなことが行われるのでしょうか。
肥満が原因の場合には減量を!
睡眠時無呼吸症候群の原因が肥満であれば、減量は必須です。ある研究では、肥満体型の人は体重が10%増加すると無呼吸・低呼吸の回数が32%増加、反対に体重が10%減少すると無呼吸・低呼吸の回数が26%減少すると報告されています。
CPAP(シーパップ)で無呼吸状態を防止
減量は睡眠時無呼吸症候群を根本的に治すために必要ですが、短期間で急激にできるものではありません。また、扁桃腺肥大や骨格的な特徴などが原因の場合、減量は睡眠時無呼吸症候群の改善にはつながりません。
そこで、症状(=無呼吸状態)を防止するために行うのがCPAPです。これは、睡眠時に装着した機械が無呼吸状態を検知した際に鼻から気道へ空気を送り込み舌を持ち上げることで、空気の通り道を広げて無呼吸を防止する治療法です。
ただしこの治療は、喉をふさいでしまうことを根本的に解決するわけではなく、あくまで対症療法となるため、肥満が原因の方は並行して減量をしていくことが大切です。
CPAPは睡眠時無呼吸症候群の確定診断になれば健康保険の適用となりますが、CPAPの管理と治療効果を確認するため、月に1回(正しく機器を扱うことができていて、治療の経過もいい場合には最長で3か月に1回)の通院が必要です。
ときには扁桃腺の摘出や顎を広げる外科手術を行うことも
扁桃腺肥大、下あごの骨が小さいなど、肥満以外が原因となる場合の根本的な治療として、外科手術が行われることもあります。しかし、たとえば扁桃腺の摘出などは、手術自体の負担や摘出によるリスクなども伴うため、きちんとした検討が必要となります。また、重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群にもかかわらず、CPAPが使えない場合は、舌下神経電気刺激装置による治療を行うこともあります。
マウスピースで空気の通り道を広く保つ
軽度〜中度の睡眠時無呼吸症候群の場合は、マウスピースで治療を行うこともあります。下あごを上あごよりも前に少し出すようにすることで、下顎と一緒に舌を持ち上げて空気の通り道を広く保つ方法です。CPAPや外科手術と比較すると負担は少なく、また旅先にも持ち運びがしやすいという利点がありますが、重症の場合には効果が不十分な場合もあります。
交通事故など、命に関わるリスクもある睡眠時無呼吸症候群。周囲にいびきをかいている人がいたら、ぜひ教えてあげてください。そして、いびきを指摘された方やそのほかの自覚症状がある方は医療機関の受診を検討しましょう。