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男性にもある「更年期」 心身の不調とどう向き合う?

「最近、元気が出ない」「不安やイライラを感じる」「性欲がなくなった」など、ありがちな中高年男性のお悩み。もしかしたらそれは、男性更年期障害による不調かもしれません。うつ病を疑うような症状にも、男性更年期障害が隠れていることがあるので注意が必要です。

女性の更年期と比べると、男性の更年期の心身の変化はまだまだ知られていないことがたくさんあります。この記事では、男性の体内のメカニズムや、注意が必要な生活習慣、治療法などを詳しく解説します。

教えてくれるのは…
植月 俊介先生
マオメディカルクリニック 院長

近畿大学医学部を卒業後、宗像水光会総合病院で初期研修を受け、精神科医として阪南病院、南大阪医療センター、いちメンタルクリニックにて勤務。2014年に静波こころの診療所を開設。2019年にJR京浜東北線「大森駅」北口から直結のビル内にマオメディカルクリニックを開院。精神保健指定医、日本精神神経学会 精神科専門医。

男性の更年期はいつごろから?

男性更年期障害とは、男性ホルモン「テストステロン」の低下により、心身にさまざまな症状が引き起こされる病気のことです。正式名称は「LOH症候群(Late-onset hypogonadism)」で、加齢やストレスによって性腺(精巣)の機能が落ちてくる症候群として定義されています。

女性の更年期は、閉経前後の5年間と定義されていますが、男性の更年期はいつからいつまでと時期を明確に示すことはできません。

40代以降で不調を感じ始める人が多いですが、30代でも症状が出る人はいます。ホルモンが低下する時期や程度には個人差があるため、なかには60代、70代になってから症状を訴える人もいます。

女性の更年期との違いは?

これまで、「更年期障害といえば女性に起こるもの」というイメージが一般的でした。しかし、最近では男性更年期障害について広く知られるようになり、じつは悩んでいる男性が多いこともわかってきました。

とはいえ、女性の更年期障害と比べるとまだまだ認知度は低く、また女性の閉経のようなわかりやすい目安もないため、見過ごされてしまったり、ほかの疾患と間違われてしまったりすることも少なくありません。

女性の更年期障害は、閉経の前後にホルモンバランスが乱れることで起こります。そのため、症状が出るのは閉経前後の5年ほどで、ホルモンバランスが安定してくると症状が落ち着くことがほとんどです。むしろ更年期障害になる前よりも元気になる人もいるでしょう。

一方で、男性の更年期障害は、いつまでという期間はなく、長期にわたって症状とつき合い続けなければなりません。症状を抑えるには、ホルモンバランスを整える治療や生活習慣の改善が必要になるのです。

男性更年期障害の発症メカニズム

男性ホルモンであるテストステロンは、脳からの指令によって約95%は精巣で、残り約5%が副腎でつくられています。指令を出しているのは、脳の中枢部分にある視床下部・下垂体です。そこから刺激ホルモンが出ることで、精巣と副腎からテストステロンが分泌されるメカニズムになっています。

テストステロンには「骨や筋肉を増強する」「性機能を正常に保つ」「認知機能を高める」といった働きがあります。

テストステロンの量は、成長に伴い10代前半から急激に増加し、20代をピークに少しずつ減少していきます。テストステロンが減少する主な原因は加齢ですが、ストレスも大きく関わっていることがわかっています。

環境の変化や、職場・家庭でのストレスによって、40代以降でテストステロンが急激に減少するケースも少なくありません。視床下部・下垂体はストレスに非常に弱く、過剰なストレスがかかると、テストステロンの分泌を促す刺激ホルモンが出にくくなるからです。

体・心・性機能に出るさまざまな症状

男性更年期の不調は、大きく分けて3つの症状があります。

体の症状

  • 筋力低下
  • 倦怠感、疲れやすい
  • 多汗、ほてり
  • 骨がもろくなる(骨量や骨密度の低下)
  • 肥満
  • 頻尿
  • めまい
  • 頭痛
  • 手足の冷え
  • 体毛が増える など

精神症状

  • イライラする
  • 気分が落ち込む
  • 無気力になる
  • 記憶力、集中力の低下
  • 不眠 など

性機能症状

  • 勃起障害(ED)
  • 性欲の低下
  • 朝の勃起の回数が減る など

このようにテストステロンの減少は心身にさまざまな影響を及ぼします。また、最近では男性更年期障害になると、糖尿病や肥満症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病のリスクが高まることもわかってきました。

うつ病と間違われやすいので注意を

男性も更年期になると、気分が落ち込んだり、無気力状態になったりと、うつ病と似たような症状が出ることがあります。うつ病の治療をしていたのになかなか症状が改善せず、更年期障害のホルモン療法を行ったところ、精神的な不調が改善するケースも見られます。

また、うつ病の治療で使われる抗うつ薬には、性腺機能不全や勃起障害、射精不全などの副作用が出ることがあり、それによって更年期障害の症状が悪化してしまうこともあるのです。

医師の間では、「男性のうつ病を見たら、更年期障害を疑え」と言われているほど、2つの疾患は似ているものなので、症状だけで自分で判断するのは難しいでしょう。少しでも不調があれば、まずは専門の医療機関を受診することが大切です。

診断のための質問表で症状をチェック!

医療機関で更年期障害が疑われる場合は、まず問診や身体測定を行い、テストステロンの減少による症状かそうでないかをチェックします。

男性更年期障害を診断する基準となるのが、「AMSスコア」と呼ばれる質問票です。AMSは国際基準の質問票で、心理的因子、身体的因子、性機能因子を含めた計17項目のチェック項目を基にスコアを付け、症状の程度を評価します。

<結果の見方>
26点以下:正常
27~36点:軽度
37~49点:中等度
50点以上:重度
※ 中等度以上の方は受診をおすすめします。

AMSスコアで症状の評価をするとともに、血液検査で血中のテストステロン値を測定します。テストステロン値が8.5pg/ml未満の場合には、男性更年期障害の可能性があります。テストステロン値は、起床時をピークに午後には低下していくため、午前中の検査を推奨しています。

ホルモン補充療法で症状を改善

男性更年期障害の治療では、テストステロンを直接補充するホルモン補充療法のほかに、カウンセリングやストレス緩和のための生活改善指導など、個人の症状に合わせてさまざまな方法があります。

ホルモン補充療法は、2~3週間に1回のテストステロン(男性ホルモン)製剤の注射が主になります。また、3か月に1回の投与で同じだけの効果がある長期持続型の注射薬や、塗り薬もあります。

ホルモン療法の効果には個人差がありますが、注射薬を投与してから1週間ほどで血中のテストステロン濃度が上がり、その後は2~3週間かけて緩やかに減少していきます。注射を打った直後から心身に変化が表れるなど、効果を実感できる人もいます。

即効性の高い治療法ですが、皮膚色調変化や肝機能障害、精巣萎縮、精子減少、脱毛、多血症などの副作用が出る可能性もあるため、専門の医師の診断のもとで治療を進めましょう。

ホルモン補充療法の治療期間は?

治療期間は人によってバラつきはあるものの、およそ半年~1年ほど。テストステロン値が落ち着いてきたら、それまで2週間に1回だった注射薬投与を、3週間に1回、1か月に1回と、徐々に間隔を空けていきます。

その後は、症状がつらい時期にだけ注射を打ち、短期間で症状を安定させる方法をとることも可能です。タイミングをみながら、注射薬から塗り薬へと切り替えていくなど、少しずつ治療の負担を軽くしていくこともできます。

症状が軽度な場合は、漢方薬の選択肢もあります。漢方薬の「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は、疲れやすい、だるいといった症状を改善させる効果が期待できます。また、男性更年期障害であっても、精神的な症状が強い場合は、抗うつ薬などを使った薬物療法を行うことがあります。

更年期障害になりやすい男性の特徴

男性更年期障害になりやすい人には、いくつかの特徴があります。

  • 食生活が乱れている
  • 睡眠時間が短い
  • 運動をしていない
  • ストレスをため込んでいる

日常生活のなかでこれらを改善することが、更年期障害の治療や予防につながります。食事は、糖質を抑えながら、たんぱく質や食物繊維をしっかり摂るなど、バランスのよいメニューを心がけましょう。ニンニクやたまねぎに含まれるアミノ酸、肉類に含まれる亜鉛やたんぱく質にはテストステロンの分泌を増やす働きがあります。

じつはコレステロールもホルモンをつくるのに大切な成分です。その他に必要な栄養素は、鉄やビタミンDなどが挙げられます。間食には、高たんぱく質・低糖質である豆類をおすすめします。

また、体に一時的にストレス(運動負荷など)をかけることで、ドーパミンが放出され、それに伴いテストステロンが分泌されるため、ランニングのような有酸素運動に、筋トレなどの無酸素運動を組み合わせるのがおすすめです。

ランニング等の有酸素運動は30分くらいがちょうどよく、その前後に筋トレをしっかりやってみましょう。長距離、長い時間のランニングは逆にテストステロンの低下を招くことがあります。自身の疲労度をしっかりモニタリングすることも重要です。あわせて、スクワットなど下半身を中心とした筋トレも意識的に行いましょう。

運動のあとはリラックスして体を緩ませることも大切。テストステロンは睡眠中の副交感神経が優位なときに分泌量が増えるので、睡眠時間もしっかり確保してください。

テストステロンの減少にはストレスが大きく関わっているので、普段、仕事ばかりしていて運動習慣や趣味がない人は要注意。ストレス発散の方法をたくさん持っていることが、男性更年期障害の予防につながります。

心身の異変に気づいたら、気軽に医師に相談を

男性の場合は、「性欲が落ちてきた」「EDかもしれない」など、性機能の低下によって更年期障害に気づけることがあります。ご自身で性機能に異変を感じたときには、気軽に泌尿器科を受診してください。最近では男性更年期外来を開設している病院やクリニックも増えているので、専門の医師に相談しましょう。

また、更年期障害の症状だとは思わずに不調を抱えているケースもありますので、周りの人たちが気づいてあげることも大切です。特に、「気分が落ち込む」「イライラする」といった精神的な不調は、本人よりも周りの人たちのほうが変化に気づきやすいもの。家族や大切な人の健康を守るためにも、更年期障害の知識を身につけておき、精神的な不調がみられれば、まずは心療内科での相談を勧めてみてください。

パートナーと何でも話せる関係性を築いておくことが大事

パートナーとは、普段からフランクに話せるような関係を築いておくことが大切です。性機能や精神的な不調などはデリケートな話題ですが、お互いにざっくばらんに話し合えば、より信頼感が深まるはず。日常的なコミュニケーションがあれば、ちょっとした変調にも気づき、「大丈夫?」と声をかけてあげることもできます。

男性更年期障害は、早い段階で症状に気づき、早く治療をスタートさせることが症状の改善につながります。気がかりなことがあれば受診の検討を。もしパートナーの様子がおかしいなと感じたら、「ちょっと病院に行ってみない?」と声をかけてみてください。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:フクイヒロシ 図版:新藤麻実(linen inc.)
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