子どもの成長はあっという間。「生理」のことを、いつ、どう伝えたらいいか、迷うことはありませんか。「生理用品のことはどこまで教える?」「男の子にも伝えるべき?」など、親にとって悩ましいことは多々あります。
そこで今回は、性教育の専門家であり産婦人科医の高橋幸子先生に、子どもに伝えたい生理の知識や、伝え方のコツを教えていただきました。体のしくみについて知ることは、自分や周りの人を大切にして生きるために必要なこと。いつでも話せるように、準備をしておきましょう。
- 教えてくれるのは…
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- 高橋 幸子先生
「サッコ先生」の愛称で親しまれ、全国の小中学校・高等学校にて年間160回もの性教育の講演を行う産婦人科医。埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター助教、埼玉医科大学医学教育センター、埼玉医科大学病院産婦人科助教を兼任。一般社団法人日本思春期学会理事。一般社団法人彩の国思春期研究会代表理事。
初経や生理のこと、いつまでに話したらいい?
女の子の初経年齢はだいたい10歳から14歳。身長が急に伸びたり、胸がふくらんできたりしたら、そろそろ初経を迎えるタイミングです。ただこれには個人差があり、早い子、遅い子といろいろです。
体の成長が早く、クラスでいちばん早く初経を迎えた女の子は、生理の予備知識がないとびっくりしてしまいます。遅くとも小学校3、4年生になったら、生理のしくみと生理用品の使い方について教えておきましょう。
初経がくるころに起こるからだの変化(第二次性徴)
□ 胸がふくらんでくる(ブラジャーが必要になる)
□ わきや陰部に毛が生えてくる
□ 身長が急に伸びる/体重が増える
□ おりものが出始める
教えるのに早すぎることはない?
生理(医学的には月経という)について教えるのに、早すぎるといけないということはありません。国際的な包括的性教育の手引書である「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5歳からセクシャリティ教育を始めます。
男女の内性器と外性器の違いや、それらが時間が経つにつれてどう変化するのか、赤ちゃんが育つ子宮の場所、生理や射精が起こるしくみなどについて、性別に限らず、幼少期から少しずつ伝えていけるといいですね。
生理について何を話せばいい? 注意点はある?
初経を迎えた子には、「初経を迎えたということは成長している証。喜んでいいんだよ」と、ポジティブな声がけをしたいですね。大人が生理の話題を避けようとしたり、「女になっちゃったね」などのネガティブな言葉を使ったりすると、生理は「恥ずかしいもの」「人に言えないもの」というイメージが根づいてしまいかねないからです。
子どもに生理のことを伝える3ステップ
子どもに生理のことをどのように伝えればいいのかわからない方は、次の3つのステップで教えるのがおすすめです。
STEP1:女性の体のしくみを説明する
伝え方の例)「赤ちゃんを持つか持たないかは、その人の人生によって違ってくるけど、女性の体には、赤ちゃんを迎えるためのしくみがあるんだよ。女の子が成長すると、その準備が始まるよ。」
STEP2:生理が始まった=赤ちゃんができる可能性があることを伝える
伝え方の例)「女性の体には卵巣や子宮があって、初経を迎えると、これから毎月、卵巣から卵子が飛び出すようになるんだよ。これを排卵っていうよ。子宮では、赤ちゃんのもとになる受精卵を迎えられるように子宮内膜が厚くなるの。妊娠しなければ、子宮の内膜は血液と一緒に腟から出てくる。それが生理だよ。」
STEP3:生理について相談していいことを伝える
伝え方の例)「生理のときにお腹が痛くなる人もいるけど、我慢する必要はないよ。困ったら相談してね、一緒に病院へ行ってみようね。」
初経がこないと悩む子には、どんな声をかければいいの?
初経が早い子もいれば遅い子もいて、子どもにとってそれが大きな悩みになることもあります。そのようなときは、以下のような声がけをしましょう。
「友だちより遅くても、気にしすぎなくていいんだよ」
「遅くても14歳くらいには始まるから、慌てなくて大丈夫」
「15歳までに生理が1回もなかったら一緒に婦人科に行こうね」
初経が早すぎる・遅すぎる場合の対応は?
10歳6か月よりも前に初経がきた場合には「思春期早発症」の可能性があります。初経が早すぎると、その後の身長の伸びが止まってしまうことがあり、第二次性徴を止める治療を行うことも。早めにかかりつけの小児科医に相談してみることをおすすめします。
また、15歳までに初経がない場合には何らかの原因があると考えられるため、産婦人科を受診してください。
伝えるタイミングは日常のなかに
男の子、女の子に限らず、日常生活のなかで生理のことを伝える機会は意外にたくさんあるものです。
お風呂をきっかけに
母親と一緒に入浴する習慣があるなら、生理の出血があるときにしくみを伝えたり、「今日は生理だから一緒にお風呂に入れないんだ。それはね」と理由を説明したりしてもいいでしょう。
体調がすぐれないとき
母親が生理痛で体調がすぐれないときなどを見計らって、生理のことを教えるのも一案。「生理でお腹が痛いから、お手伝いをしてくれるとうれしいな」とか、「ママは生理でお腹が痛いから、夕飯はパパがつくるね」といった具合に。夫婦の会話とともに自然な形で伝えられるといいですね。
トイレに子どもがついてくる
小さいころは、子どもがトイレについてくることも。ナプキンを交換するのを子どもが見ていたら、なぜナプキンを替えるのかを伝えてもいいでしょう。
家族旅行の計画を立てるとき
海やプールの計画を立てるときに「ママの生理の日とぶつかっちゃうね」という話から、きっかけが生まれることもありますね。
生理用品を子どもに買ってきてもらう
「ママは今日生理の日でナプキンが必要だから買ってきてくれる?」と子どもにお願いしてみてもいいでしょう。店頭で生理用品を見たり触ったりすることで、生理を身近に感じられるはずです。
生理のこと、男の子にどう伝える? 学校では教えてくれないの?
学習指導要領では、小学校4年生の体育、中学校1年生の保健体育の授業で月経や射精について扱うことになっています。しかし、実際に教える時期は学校によってまちまちだったり、男女別に行われていたりします。また、中学校でも月経と妊娠の関係は教えても、「性交」は扱わないことになっています。
生理があることは教えられても、経血が出てくる場所や生理と生殖との結びつきについては学べない状況にあるのです。まして男の子は、女性の生理のしくみや生殖との結びつきについて、正しい情報を得る機会がないのが実情です。
※キスや性交渉などの性的な行為をするときに、お互いの意思や気持ちを確認すること
ナプキン以外の生理用品についても教えよう
子どもが初経を迎えたら、あらためて生理のしくみや生理用品について教えましょう。ナプキンの種類や使い方・捨て方などの基本的なTIPS(コツやアドバイス)はもちろんですが、意外と忘れがちなのが「衛生」に関すること。
繰り返し使える吸水ショーツは、地球環境に優しい点でもよい選択肢になると思います。機を見てタンポンのつけ方も教えておくといいでしょう。母親がタンポンを使わない家庭では、知る機会がないまま大人になってしまうことがあります。タンポンに馴染みがない方は、子どもに教えながら一緒に使ってみましょう。
月経カップは少し上級者向きなので、タンポンなどのほかの生理用品に慣れてからでもいいかもしれません。
子どもが生理で悩まないために知ってほしいこと
生理のしくみを理解していても、生理痛やPMS(月経前症候群)にうまく対応できず悩んでしまう子もいます。子どもが生理で悩まないために、親御さんに知ってほしいことがあります。
気軽に産婦人科を受診していい
産婦人科は、女性特有の病気や悩みを気軽に相談できる場所です。
お子さんの生理の様子も注意してみてあげましょう。初経が始まったばかりのころは、経血量が多く、周期が安定しないこともあります。ただし、日中に夜用ナプキンが必要なくらい経血量が多い場合には、貧血になりやすかったり、血液の凝固系の機能に病気が隠れていたりする場合もあります。
お子さんの様子をみて「生理でしんどそうだな、異常がありそう」と思われたら、産婦人科を受診することを検討しましょう。
かかりつけの産婦人科医院があると安心
初経を迎えたら、一度受診をしておくと、その後に何かトラブルが起きたときにも安心です。部活の大会や修学旅行に生理がぶつからないように、生理をずらしたいという相談もOKです。小6から高1までの女の子は、子宮頸がん予防のためのHPVワクチン(公費助成で無料)を受けるのもいいですね。
10代のうちに受診を経験しておけば、将来、緊急避妊が必要になったときにも、躊躇せずに産婦人科に駆け込めます。緊急避妊薬は、性交後72時間以内に服用するお薬。時間との勝負なんです。
サッコ先生おすすめの「性教育の本」4冊
「絵本や書籍を使って子どもに生殖や生理のことを伝えたい」という方にぴったりの本を4冊紹介します。
『あかちゃんはどうやってできるの?』岩波書店
(コーリー・シルヴァーバーグ文、フィオナ・スミス絵、たち あすか訳)
「赤ちゃんはどうやってできるの?」の質問に困ったらこの本の出番。性別や肌の色を特定しない配慮がされた、インクルーシブな性教育の絵本。人が生まれるしくみについて楽しく、科学的に学べます。
『性の絵本 みんながもってるたからものってなーんだ?』KADOKAWA
(たきれい著、高橋幸子監修)
子どもに伝えたい「性のこと」がつまった絵本。性別による体の違いから赤ちゃんができるまで、さらに性犯罪から身を守るコツを1冊で。3歳から読み聞かせが可能。
『サッコ先生と! からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』リトル・モア
(高橋幸子著)
小学生のうちに伝えたい体・心・性のことを、国際基準に照らし、科学の視点からわかりやすく教えてくれる本。楽しくポジティブに「性のこと」が学べます。
『自分を生きるための〈性〉のこと-性と生殖に関する健康と権利(SRHR)編』少年写真新聞社
(今井伸著、高橋幸子著)
「性と生殖に関する健康と権利」のお話を思春期の子ども向けに解説。月経、射精、性行動や妊娠についてなど、自分の人生を生きるために必要な知識が身につきます。