健康診断は、多くの方がかかりやすく、放置すると命に関わる病気の兆候がないかを確かめています。しかし、健康診断を受けるだけで満足している、あるいは結果を見ても自分の体がどんな状態か、どのようなことに気をつけたらよいかわからないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、健康診断で行う主な検査項目と目的、それぞれの数値の見方、日々の生活で気をつけるべき点などについて解説します。
健康診断は結果をどう活かすかが最も重要
健康診断は体が健康な状態かどうかを確認するために、客観的な数値(検査値など)を測定します。
多くの病気は「早期発見が重要」といわれますが、無症状のまま病状が進行しているケースも多いため、健康診断で定期的に検査を行い、病気が進行する前にその兆候をとらえ、対応することがとても重要です。
特に、労働安全衛生法で定められた健康診断や、自治体が実施する特定健康診査で実施する検査項目は、多くの方がかかりやすい病気に関連するものや、異常を放置してしまうと重大な病気につながるもので構成されています。
健康診断でわかる病気のほとんどは、生活改善や薬の服用で治療が可能です。健康診断は、「受けること」はもちろんですが、重要なのは「健康診断の結果を踏まえてどうするのか」であって、各検査の結果や数値についてきちんと把握し、必要であれば改善策をとることが大切なのです。
数値でみる基本的な検査項目とその意味
とはいえ、見慣れない用語で記された検査結果は、何を意味しているのか理解が難しく、結局どうすればよいのかわからないことも多いはず。まずは代表的な項目が示すもの、どういった病気につながる可能性があるのかをチェックしてみましょう。生活習慣で改善できる可能性があるものは、「改善のポイント」も合わせてお伝えします。
BMI
身長と体重を用いて算出されるBMI(体格指数)は、肥満(やせ)の度合を表す指標です。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出します。
- 低体重(やせ):18.5未満
- 普通体重:18.5以上25未満
- 肥満:25以上
この数値が22のときが最も病気になりにくい状態といわれています。
25以上では、動脈硬化のリスクを高める「脂質異常症」や「糖尿病」、脳卒中や心臓病のリスクを高める「高血圧」などを引き起こす可能性が2倍以上になってしまうとされています。また、過体重による負担で膝などの関節を痛めたり、女性の場合は月経異常を引き起こしたりすることも。
改善のポイント
肥満と判定された場合には、食事の見直し(栄養バランスがとれた状態で摂取カロリーを抑える)、身体活動量を増やす必要があります。いきなり極端な食事制限や運動を実施しても継続が難しいため、日常生活に自然に組み込める範囲で、腹八分目を心がける、間食を減らす、日ごろから階段を使う、これまでよりも10分ほど多めに歩いてみる、などを習慣化していきましょう。
反対にBMIが低すぎる場合、あるいは意識的な減量をしていないにもかかわらず、半年で2kg以上体重が減少している場合などは、摂食障害や甲状腺の病気、がんなどの可能性も考えられるため、きちんと原因を探ることが重要です。
血圧
血圧は心臓から押し出された血液が、血管に流れ込む際にかかる圧力です。心臓から送られる血液が多くなる、あるいは動脈硬化によって血管が硬く細くなることで、血液が流れにくくなるような場合に血圧が上がります。
- 高血圧:収縮期(最高)血圧140mmHg(ミリメートル・エイチ・ジー)以上、または拡張期(最低)血圧90mmHg以上
- 低血圧:最高血圧90mmHg未満または最低血圧60mmHg未満
高血圧のほとんどは「本態性(ほんたいせい)高血圧」といって遺伝や生活習慣によるもので、放置すると動脈硬化が進行し、脳梗塞や心筋梗塞、腎障害になる危険性が高まります。血圧はストレス(緊張)によって上がることもあるため、診察室で計測する血圧は少々高く出ることも。家庭で測定する場合は、最高血圧135mmHg以上または最低血圧85mmHg以上で高血圧の疑いがあるといえます。
改善のポイント
塩分の摂りすぎは高血圧の原因のひとつです。1日あたりの摂取量を男性は7.5g、女性は6.5g未満に抑え、塩分排出効果のあるカリウムを多く含む食材を摂るように心がけましょう。また、運動不足も高血圧につながるので、散歩などの軽い有酸素運動を1日30分以上行い、長時間座りっぱなしにならないのが理想です。
一方、低血圧は、体質的な要素が大きく、立ちくらみやめまいなどが起こります。対策としては、適度な運動をして血液の循環をよくしましょう。特に散歩や水中ウオーキングなどは下半身が鍛えられ、血流もよくなります。寝た状態から起き上がる際に、動作をゆっくり行うことなども心がけましょう。
高血圧・低血圧いずれも、別の病気が原因となって起こるケースも一部あり、その場合には原因となる病気を突き止め、治療することが必要です。
血球検査
血液中の赤血球、白血球の数や占める割合を調べることで、貧血、あるいは感染症や白血病の疑いがないかを調べるのが、血球検査です。
<赤血球>
- 赤血球(RBC)基準範囲:
男性435~555×104/μL(マイクロリットル)
女性386~492×104/μL - ヘモグロビン(血色素・Hb)基準範囲:
男性13.0g/dL(デシリットル)以上
女性12.0g/dL - ヘマトクリット(Ht)基準範囲:
男性40~50%
女性34~45%
※医療機関などによって基準範囲が異なる場合もあります
赤血球に含まれるヘモグロビンは全身に酸素を届ける役割を担っており、ヘモグロビンが減少し、細胞や体の組織が酸素不足になった状態が「貧血」です。ヘモグロビン量が基準値よりも低い場合には、消化管の潰瘍や、がんなどからの出血のほか、子宮筋腫などによって血液が失われている可能性も考えられます。反対にヘモグロビン量が多い場合には多血症といわれ、進行すると頭痛やめまい、耳鳴りなどが起こったり、血管内に血の塊(血栓)ができたりします。
「ヘマトクリット」は、血液全体に占める赤血球の割合を示すもので、貧血の有無や重症度を判断するために用いられます。
改善のポイント
体内の鉄不足によってヘモグロビンがつくれなくなる鉄欠乏性貧血の場合には、サプリメントも活用しながら鉄分やタンパク質、ビタミンCを、血液がつくられる骨髄に、未熟で大きな赤血球が現れる巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)の場合には、ビタミンB12や葉酸を補給することが大切です。
<白血球>
- 白血球(WBC)基準範囲:3.1~8.4×103/μL
※医療機関などによって基準範囲が異なる場合もあります
細菌やウイルスなどの外敵から体を守る白血球。外敵が体内に侵入すると、体が白血球を増やして応戦します。これがいわゆる「炎症」です。
一時的に白血球数が増加することは問題ありませんが、基準範囲より高い状態が続く場合には細菌やウイルスの感染症、関節リウマチなどの膠原病(こうげんびょう)、白血病、がんなどの可能性があります。反対に低い場合には、再生不良性貧血、ウイルス感染症、薬剤アレルギーなどが考えられます。なお、喫煙者は有害物質が体内に入るため、継続的に軽度高値となります。
白血球数が少ないと免疫が低下してしまうため、日常生活ではこまめな手洗いによる感染症予防や、食中毒などのリスクが高まる生ものを避けるなどの工夫が大切です。
<血小板>
- 血小板(PLT)基準範囲:14.5~32.9×104/μL
※医療機関などによって基準範囲が異なる場合もあります
血小板には傷口を血液で固める役割があります。血小板数が少ない場合にはウイルス感染症や肝硬変、再生不良性貧血、多発性骨髄腫などが考えられます。症状として挙げられるのが、鼻血や歯ぐきからの出血の止まりにくさです。ほかに脳内出血などが起こりやすくなるリスクもあります。転倒や打撲に注意するほか、歯ブラシを柔らかいものにするなど、日常生活でできるだけ出血をしないような工夫が必要です。
一方、血小板数が多い場合には、鉄欠乏性貧血や慢性骨髄性白血病などが疑われます。
肝機能検査
肝臓は栄養素の分解・合成や、有害な物質の無毒化、脂質の吸収を助ける胆汁の合成など、とても重要な役割を担っています。肝臓に異常が生じると、「AST(GOT)」「ALT(GPT)」「γ-GT(γ-GTP)」をはじめとした肝臓の細胞内にある「酵素」が血液中に流れ出てしまうため、血液中の酵素量や肝臓が合成する物質の量を測定することで、肝臓に異常が起きていないかを確かめることができます。
<AST/ALT>
- AST(GOT)基準範囲:30 U/L(ユニット・パー・リットル)以下
- ALT(GPT)基準範囲:30 U/L以下
※検査施設により単位がIU/Lと表記されている場合もあります
ASTは肝臓のほかに心筋や骨格筋、赤血球中などにも多く含まれている肝細胞です。一方、ALTは主に肝臓のなかにのみ存在しています。ASTとALTの数値が上昇している場合は、肝臓内に余分な脂質(主に中性脂肪)が蓄積する非アルコール性脂肪肝やウイルス性の肝炎、アルコールの過剰摂取が原因となるアルコール性肝炎やアルコール性脂肪肝や薬剤による肝障害などが疑われます。ASTの値だけが高くなっている場合には、筋肉の病気や心筋梗塞等が疑われます。
慢性肝炎が続くと、肝硬変といわれる肝細胞が壊死した状態となって肝機能が低下していき、最終的に肝臓がんを引き起こすことも考えられます。
<γ-GT>
- γ-GT(γ-GTP)基準範囲:50 U/L以下
たんぱく質を分解する酵素で、肝臓や胆道(胆汁の通り道)に異常がないかを確認するために用いられるのがγ-GTの数値です。数値が高い場合にはアルコール性の肝障害や慢性肝炎などが疑われます。アルコールを飲まない方でも、肥満(脂肪肝)によって数値が上昇することがあります。
改善のポイント
いずれも数値が高く出た場合には、まずは肝炎ウイルスが原因でないことを確かめましょう。そして脂肪肝の原因は脂肪の摂りすぎでなく、糖質の摂りすぎが原因のため、糖質の摂取量に注意を払います。食事に気をつけて肥満を改善したり、飲酒量を減らしたりすることが重要です。普段から飲酒量が多い場合には、1日にビールならば500ml、日本酒ならば1合以下を心がけましょう。
血中脂質検査
脂肪分や糖質の摂りすぎ、あるいは体内で脂質を効率よく代謝できていない場合に、血液中の脂質量が異常な値を示します(脂質異常症)。そうした状態になっていないかを調べるのが血中脂質検査です。
<悪玉コレステロール(LDL)>
- LDL(悪玉)コレステロール基準範囲:60~119mg/dL
過剰に増加すると血液をドロドロにし、動脈硬化を進行させます。動脈硬化は放置すると心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こす可能性があるため、改善が必要です。ネフローゼ症候群など、ほかの病気が隠れている場合もあります。
改善のポイント
コレステロールのほとんど(8割程度)は肝臓でつくられるため、体質的な要素も大きく、180mg/dL以上では生活習慣の改善のみでは限界があり、薬剤治療が必要になります。食事を改善する場合には、動物性のレバー・脂や卵などコレステロールの多い食品は量を控え、魚や大豆、野菜・きのこ・海藻類などを積極的に摂るようにしましょう。
<善玉コレステロール(HDL)>
- HDL(善玉)コレステロール基準範囲:40mg/dL以上
血液に乗って全身を巡りながら、余分なコレステロールを回収してくれるのが善玉コレステロールです。動脈硬化を予防する働きがあるため、この値が低いと動脈硬化を進行させてしまいます。
改善のポイント
糖質の摂取を控えるほか、善玉コレステロールは運動によって増やせることがわかっています。最低でも1週間で120分間の運動をするよう心がけましょう。禁煙も非常に重要です。
<中性脂肪>
- 中性脂肪(TG)基準範囲:30~149mg/dL
中性脂肪が血液中に増えると血液がドロドロになり動脈硬化が進行します。脂肪は体を動かすために重要なエネルギー源ですが、増えすぎると内臓脂肪として体内に蓄積されていきます。
改善のポイント
食事では、特に糖質を摂取しすぎないよう心がけましょう。また、肝臓では中性脂肪よりもアルコールの分解が優先されるため、過剰なアルコール摂取によって中性脂肪の分解が追いつかなくなることも。節酒や禁酒も重要です。
糖代謝検査
採血で主に空腹時(10時間以上食事を摂っていない状態)の血液中にあるブドウ糖の量や、過去1~2か月程度の血糖値を確かめ、糖尿病の危険性があるかどうかを判断します。
- 空腹時血糖(FPG)基準範囲:99mg/dL以下
- HbA1c基準範囲:5.5%以下
空腹時血糖が高い場合には、糖尿病のほか膵臓や肝臓の病気が考えられます。肥満や喫煙、妊娠なども血糖が高くなる要因です。
「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」はヘモグロビン全体のうち、糖と結びついたヘモグロビンの割合を示しており、血糖値が高いとヘモグロビンに結びつくブドウ糖の量が多くなるため、HbA1cが高くなります。主に糖尿病のコントロールがきちんとできているかを判断するのに用いられます。
改善のポイント
血糖値が高い状態(高血糖)が続くと糖尿病につながるため、肥満の改善や食事量・糖質の制限、身体活動量を増やすことが重要です。大体3~6か月ほど生活改善をしたうえで再検査を行うのが望ましいといえます。
腎機能検査
腎臓は血液中の老廃物をろ過する働きがあります。腎臓に何らかの異常が起き、ろ過機能が低下すると、老廃物の一種であるクレアチニンを尿中にうまく排泄できなくなり、血液中にクレアチニンが多くみられるようになります。
- クレアチニン(Cr)基準範囲:男性1.00mg/dL以下、女性0.70mg/dL以下
- eGFR(イージーエフアール)基準範囲:60.0mL/分/1.73m2以上
eGFRはクレアチニンの値を性別や年齢で補正した、クレアチニンよりもさらに精度の高い指標です。1分間にどれくらいの量の血液がろ過できているかを測るもので、eGFR値が低いと、腎機能が低下していると考えられます。
慢性的に腎臓の機能が低下すると腎不全という状態になり、血液のろ過機能が働かなくなるため、体外で血液をろ過する「人工透析」が必須となります。そのほか、慢性的な腎機能の低下は血圧の上昇を招き、動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクにもつながります。タンパク質や塩分の摂りすぎ、大量の飲酒、喫煙といった生活習慣は腎臓の機能を低下させる原因となるため、注意しましょう。
自分の診断結果を見返してみよう
自分が受けている検査や自分の体の状態に対する理解は深まりましたか? 健診を受けたタイミングをスタート地点だと思って、その結果をどう受け止めどのように活かすのか、せっかくの機会に改めて考えてみるのはいかがでしょうか。
- 教えてくれたのは・・・
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- 和田 高士先生
医学博士。1981年、東京慈恵会医科大学卒業、85年同大学大学院修了。同大学第4内科講師、同大学附属病院総合診療室診療医長、東京慈恵会医科大学健康医学センター長、日本人間ドック学会副理事長、日本生活習慣病予防協会副理事長などを経て、2023年より現職。東京慈恵会医科大学 客員教授。日本健康・医療情報研究所所長。