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なぜ思春期は夜ふかしになる?専門家と考える「睡眠の悩み」

夜遅くまでスマホで友だちとやり取りをしたり、ゲームをしたり……青春の1ページと理解はしつつも、成長期ゆえに早く寝てほしいと、保護者としてはモヤモヤしがちな思春期の子どもたちの睡眠事情。

自分のことを思い返してみると、たしかにこの頃の夜ふかしは楽しかった経験が。けれども、翌朝起きられなかったり、睡眠不足で授業中寝てしまっていたり(!)なんて思い出も浮かんできて、わが子のことが心配になってしまう人もいるのではないでしょうか。

思春期の子どもの睡眠を、保護者や周囲の大人はどうサポートしていくのがよいのでしょうか。子どもたちの心理や睡眠について研究している、山本隆一郎先生に教えていただきました。

教えてくれるのは…
山本 隆一郎先生
江戸川大学 社会学部 人間心理学科教授/心理相談センター センター長/睡眠研究所 併任教員

1982年、東京都生まれ、早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程終了後、上越教育大学大学院学校教育研究科臨床・健康教育学系准教授などを経て、2016年に江戸川大学に着任、2022年より現職。日本睡眠環境学会理事、日本睡眠学会評議員。教育・研究のかたわら、公認心理師として大学附属心理相談センターや心療内科での心理相談などを行っている。近著に『対人援助職に知ってほしい睡眠の基礎知識』(岩崎学術出版社)がある。
 
[監修者] 山本 隆一郎先生:https://www.edogawa-u.ac.jp/colleges/d_psychology/teachers/index14.html
睡眠研究所:https://www.edogawa-u.ac.jp/facility/sleep/

思春期に最適な睡眠時間とは

思春期の子どもたちにとって、睡眠は心と体の健やかな発達のためにとても重要です。十分な睡眠時間を確保できると、心身を休めることができて脳や体の成長につながります。

反対に睡眠時間が不足すると、気分が落ち込みやすくなる、不安な感情に巻き込まれやすくなる、やる気が低下する、成績が下がる、太りやすくなる、幸福感やQOL(生活の質)が低下するといった状態になりやすいことが報告されています。

まずは8時間睡眠を目指そう

では、どれくらいの睡眠時間をとれていれば、十分といえるのでしょうか。アメリカの国立睡眠財団によると、6~13歳では1日あたり9~11時間、14~17歳では8~10時間の睡眠をとることが推奨されています。

しかし、世界のなかでも日本は、大人も子どもも平均的な睡眠時間が短い国といわれています。

思春期にあたる小学校高学年~高校生の子どもたちは、学校や部活、塾、習い事などに忙しく、推奨されている睡眠時間の上限まで確保するのはハードルが高いこともあるでしょう。そんなときはまず、推奨時間の下限である8時間、または9時間の睡眠を目指してみましょう。

「8時間寝なきゃダメ」ではなく、「とりあえずやってみよう」「寝られるように工夫してみよう」くらいの軽い気持ちで大丈夫です。

思春期には夜型化する!? 夜ふかしになる理由

保護者の方のなかには、「最近うちの子、なんだか夜ふかしになった気がする…」と感じている方もいるかもしれません。

じつは思春期に入ると、体内時計のリズムが夜型にシフトすることが、多くの研究で指摘されています。第二次性徴が始まる思春期のころになると、眠気を誘うホルモン「メラトニン」が分泌されるタイミングが遅くなることが影響しているのだとか。

そうした体の生理機能の変化や友人関係の在り方、そして、学童期よりも保護者から「早く寝なさい!」と言われる機会が減ることなども関係して、体内時計が夜型にズレていってしまうのです。

朝、何度起こしても起きてこないのは、「わが子だけの問題」ではないので安心してください。思春期になると自然に夜ふかしが始まります。ちなみに、第2次性徴期が始まってから20歳ころまで睡眠覚醒リズムは数時間ほど後ろにズレるとされています。その後はだんだんと睡眠覚醒リズムが整います。

体内時計がズレると夜型になる理由

体内時計とは、時間に応じて体の中にある生理機能の高まりや落ち着きをつくり出すものです。中核となる体内時計は、脳の視床下部の視交叉上核という部分にあるとされ、ここから生み出される信号がさまざまな器官の体内時計に働き、生理機能の24時間リズムをつくっています。

体内時計のおかげで、心身の機能は日中に活発になり、夜間には落ち着くことで私たちは環境に適応しています。同じ時間にお腹が空いたり、夜に眠気がやってくるのは、この体内時計によるものです。

体内時計のつくるリズムは、正確には24時間より少し長いことが知られています。この体内時計本来のリズムに体が従うと、社会時間からだんだんとズレていってしまいます。しかし、私たちの体の機能は、社会時間とズレずに済んでいます。体内時計が明暗周期(光)に合わせて時計を調整しているからです。光情報を取り入れて、周期を調整することを「体内時計のリセット」といいます。

リセットといっても、ボタンを押して機械を再起動させ、またイチからスタートするといったものではありません。本来の時刻からちょっと遅れていた時計の針を進めて、時刻合わせをするようなイメージです。体内時計をリセットせずに長い期間過ごしていると、社会時間とのズレ幅が徐々に大きくなり、夜型にシフトしていってしまいます。

ポイントは起きる時間 乱れた睡眠リズムの整え方

社会時間と体内時計が大きくズレて夜型になると、朝から活動が始まる、社会の生活リズムに合わせるのが難しくなります。眠気が来るのは夜遅くなのに、朝早くに起きなければならない状態になり、体内時計のズレによる睡眠不足に悩む思春期のお子さんは、決して珍しくありません。そんなときには以下のポイントに注目して、乱れた睡眠のリズムを整えていきましょう。

乱れた睡眠のリズムを整える3つのポイント

(1)朝に太陽の光を浴びる
(2)休日も平日と同じ時刻に起きる
(3)長時間の昼寝をしない

それぞれ詳しく説明します。

1太陽の光が体内時計のズレを戻す

光は、体内時計に影響を与える外界情報のなかで、もっとも大事なものといわれています。朝起きたらカーテンを開けて自然な光を取り入れるといいでしょう。曇りや雨の日でも太陽の光は十分届いているので、毎日続けるのがおすすめです。太陽の直視は目に負担がかかるため避けましょう。

前日の就寝時間が遅かったとしても、朝にしっかりと太陽の光を浴びると、ズレていた体内時計の針が早くなり、社会時間と体内時計が合います。すると、夜も早めに眠気がきて、睡眠時間が確保しやすくなって翌朝の起床も楽になり、体内時計のズレもリセットできる……という好循環をキープすることができます。

反対に、夜の光は体内時計を後退させて、社会時間とのズレを大きくしてしまうとされています。現代は夜でも室内が明るく、体内時計のズレが大きくなりやすい環境にあります。「布団に入ったのに寝つけない」という悩みの多くは、こうした夜の光が影響していることもあるでしょう。

お子さんがなかなか寝つけない、もしくはつい夜ふかししてしまうのが気になっている方は、夜には光刺激を避けるため、間接照明などを取り入れて、なるべく部屋の明かりを落としてして過ごしてみてはいかがでしょうか。スマホの利用時間も制限し、睡眠を促すホルモン(メラトニン)が分泌され始める就寝の2時間前からはできるだけ使わないようにしましょう。

2休日も平日と同じ時刻に起きて、体内時計のズレを防ぐ

平日に十分な睡眠時間が確保できずに、休日はつい寝だめをしてしまう……というお子さんもいるかもしれません。その気持ちはとてもよくわかりますが、これも体内時計のズレを生じさせ、睡眠のリズムが乱れる一因です。

平日と休日の起床時間が違うと、体内時計をリセットするタイミングが変わり、社会時間との間にズレが生じます。そのまま週末を過ごし、週明けにまた平日のリズムに戻そうとすると無理がかかり、眠気やだるさにつながります。

そもそも週末に寝だめをしてしまうのは、平日の睡眠時間が不足していると考えられます。とはいえ、「睡眠不足解消のため、今日から毎日数時間、早く寝ましょう」というのは現実的ではありません。ここは発想をガラッと変えて、休日に長く寝てしまう時間=不足している睡眠時間と捉え、足りない分を分散して補いましょう。

たとえば、Aさんは平日いつも朝7時に起きていますが、土日はどちらも9時にならないと起きることができないとします。その場合、Aさんは土日にいつもより長く寝てしまう時間の合計=4時間分、日々の睡眠時間が不足していると考えられます。

ならば、不足の4時間(240分)を1週間に分散させて、毎日ちょっとずつ早く寝れば土日に寝だめをせずにすむということになります。240分を7日で割ると、1日あたりの不足時間は約30分です。Aさんと同じような睡眠パターンの人は、毎日30分早く寝ることを目指しましょう。

まずは試してみてください。続けていくうち、徐々に睡眠のリズムが整うとともに睡眠不足が改善され、週明けのだるさも軽くなっていくはずです。

3長い昼寝は夜の入眠の妨げになる

15分程度短時間の昼寝は、「パワーナップ」とも呼ばれ、眠気を飛ばし、認知機能の回復につながります。しかし、思春期の子どもの場合、30分を超えるような長い昼寝は深い睡眠に入ってしまうので、かえって逆効果。夜にとるべき睡眠時間を奪ってしまうことになり、眠気が来なくなってしまうこともあります。

そもそも「15分程度の短時間なら」といっても、15分だけウトウトするというのは案外難しいものです。基本的には思春期であっても昼寝が必要なほど日中に眠気がある場合は、夜間の睡眠不足である可能性が高いといえます。睡眠不足は昼寝で補うのではなく、夜の就寝時間を早めることを意識し、昼寝は特別な対応と考えておきましょう。

生活習慣を見直しても気になることは医師に相談してみよう

思春期は、心身が成長する時期であるとともに体内時計が変化する時期でもあるため、睡眠のリズムが乱れるのはよくあることです。また、かけがえのない青春時代、時間を忘れて好きなことに没頭したり、友人とたわいもない話をしたりする楽しさから、つい夜ふかしをしてしまう気持ちもわかります。

とはいえ、そのせいで日常生活に支障が出るのは避けたいもの。お子さんの睡眠のリズムが乱れているなと感じたら、まずはわかりやすい生活習慣上の原因を見つけて改善するとともに、不足した分の睡眠は寝だめや昼寝ではなく、なるべく夜の睡眠で補うことを意識しましょう。

なお、この時期の睡眠時間は多少長くても、許容範囲内であれば心配はいりません。ただし、睡眠時間が長くなる分、起きている時間が短くなるため、やりたいことができずにストレスがたまってしまうケースも見受けられます。また、非常に長い睡眠時間を毎日必要とする場合、その背景に何らかの睡眠障害や疾患が隠れている可能性もあります。

子どもの睡眠チェック

  • 睡眠時間をしっかり確保していても、日中明らかな眠気がある
  • 12時間以上の睡眠時間が「毎日」必要
  • 週に3日以上眠れない、または起きられない日があり、それが2週間以上続いている

上記に当てはまる場合は、医師に相談することをおすすめします。まずは、かかりつけのクリニックに相談して、より専門的な機関を受診したいと考える場合には、日本睡眠学会の認定医療機関を受診してみるとよいでしょう。

焦らず慌てず、でも早めに体内時計のズレを調整し、健やかな睡眠を目指しましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラストマンガ:原あいみ
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