「親が元気なうちに必要な情報を集めておく」。これが、ある日突然訪れる「介護」と上手に付き合うための、有効な手段のひとつです。今回は介護が必要になった人に対してどんな支援が用意されているのかを解説。あなたを助ける仕組みがあることを、まずは知っておきましょう。
介護が必要な人を支える制度、知っていますか?
親に介護が必要となったとき、「支えていけるのか」「今の生活や仕事はどうなるのか」と悩む人は少なくないと思います。労力や時間、お金がかかることなので、心配になるのは当然でしょう。
そうした心配ごとを少しでも減らすために、日本には介護が必要となった人に対するさまざまな支援制度が用意されています。そうした制度をしっかりと活用すれば、介護の負担を軽くできるのです。
一方で、その制度の全体像はかなり複雑。介護の実情に合わせて幅広い支援の形が用意されているうえに、公平性を保ちながら運用するためのルールや条件が数多く定められているためです。そこで今回は、制度のポイントを大まかに理解できるように、どんな制度があって、どうすればそれを利用できるのかといった点を中心に、わかりやすくご紹介します。
そもそも「介護保険」とは? どんな人が利用できるの?
介護を支える制度として、まず思い浮かぶのは「介護保険」。40歳になると誰もが被保険者となり、介護保険料を支払うことで「介護が必要になったときにサービスを受けられる」ものであることはご存じの方も多いでしょう。
ただし、実際にサービスを受けるためには条件があります。まずは、どのような人が該当するのかを確認しておきましょう。
「年齢」が規定に達している
65歳以上で介護が必要となった人、または、40歳以上65歳未満で厚生労働省が定める「16種類の特定疾病」※のために介護が必要となった人が対象です。
※「16種類の特定疾病」とは、重いがんや関節リウマチ、初老期における認知症、骨折をともなう骨粗鬆症(こつそしょうしょう)など、3~6カ月以上継続して介護や支援が必要となるものを指します。厚生労働省のページに詳細が説明されています(特定疾病の選定基準の考え方|厚生労働省)。
「要介護認定」を受けている
市区町村が行う「要介護認定」という訪問調査を受ける必要があります。その際、介護が必要な度合いを示す「要介護度」が判定され、どの程度の介護サービスが受けられるのかが決まります。要介護度の判定についてはこのあと詳しく解説します。
所得に応じた「自己負担割合分」を支払う
本人の所得に応じて決まる自己負担分を支払うことで介護保険のサービスを受けることができます。
「要介護度」って誰がどう決めるの?
介護が必要な度合いを示す「要介護度」は、「要支援1・2」と「要介護1~5」の7段階に分けられており、本人への聞き取り調査やかかりつけ医の意見書などをもとに、市区町村が決定します(「非該当」と判断される場合もあります)。それぞれの状態の目安は下図にまとめた通り。介護にどのくらいの支援や介助が必要かという点や、本人の身体の状態によって分類されています。
『親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(太田差惠子著・翔泳社より抜粋 P55)
この要介護度によって介護保険で受けられるサービスの内容や、支援される金額の上限(利用限度額。要介護5が一番高い)が変わります。その後の介護に与える影響が大きいため、判断は慎重に行われますが、聞き取り調査の際にはあらかじめ困っている内容をメモして用意しておいたり、家族が同伴して実情を正確に伝えるためのフォローをしたりといったことが必要でしょう。なお、判定の結果、要介護度が明らかに実情に即していないと考えられる場合のために、不服申し立ての制度も用意されています。
要介護度が決まったら。具体的な計画を立てるには?
要介護度が決まったら、「ケアプラン(サービス計画書)」を作成して具体的な内容を決めていきます。介護保険のサービスは、下記のような点を踏まえて慎重に決められます。
- 要介護か要支援か
- 親本人の状態や希望はどうか
- 家族の状況はどうか
- どんな介護事業サービスを利用するか
ケアプランは自分で作ってもかまいませんが、専門的な知識や経験、調整力などが必要なので、実際には「要介護1~5」の人は「ケアマネジャー(介護支援専門員)」に、「要支援1・2」の人は地域包括支援センターにプラン作成を依頼することが一般的です。
介護保険で提供されるサービスの内容は多岐に渡りますが、大きく分けて、以下の4つがあります。
- 自宅での日常生活で困っていることを援助してもらう「訪問」
- デイサービスセンターなどで機能訓練を受ける「通い」
- 短期間、施設などで生活しながらサービスを受ける「宿泊」
- 高齢者施設への「入居」
その他、福祉用具の購入やレンタル、住宅改修などにかかる費用に対する支援も用意されています。
サービスを利用する際に自己負担は必要?
介護保険のサービスを利用する際には「所得に応じた自己負担割合分を支払う必要があります」と先述しました。では、実際にはどれくらいの金額をサポートしてもらえて、どれくらいが自己負担になるのでしょうか。
まず、介護保険では受けられるサービスの利用限度額が、要介護度ごとに月額5万320円~36万2,170円の間で定められています。そのうちの1割~3割を自己負担することになります。ただし、サービス利用料が限度額を超えた分は全額自己負担となります。
※介護報酬の1単位を10円として計算しています(実際の1単位あたりの単価は地域やサービスによって異なります)。
※2022年3月現在。最新情報は地域包括支援センターや市区町村の役所のホームページなどで確認してください。
ここでシミュレーションをしてみましょう。「要介護1」、「自己負担割合が1割」の人が、1カ月に20万円のサービスを利用した場合は、いくら支払うことになるでしょうか。
《利用限度額》16万7,650円→このうち自己負担額は「1万6,765円」
《利用限度額を超えた分》20万円−16万7,650円 =「3万2,350円」は自己負担
支払額は利用限度額の1割と、利用限度額を耐えた分を加えた額(1万6,765円+3万2,350円)になるので、正解は「4万9,115円」です。
自己負担の割合は親本人の所得額によって決まります。多くの人は1割負担ですが、公的年金以外にも所得があるなどの場合は、2割もしくは3割負担になります。
要介護認定されないとサービスは利用できない?
要介護度の判定で「非該当」になった場合でも、市区町村が実施する「地域支援事業(総合事業)」が利用できます。サービス内容は自治体によって異なりますが、「訪問」や「通い」などのサービスに加えて、食事の宅配や安否確認、さらには紙おむつの給付などを用意しているところが多いです。
その他、地域によっては、ボランティア団体やNPO法人がサービスを実施しているところも。地域独自のサービスに関しては、地域包括支援センターや各自治体のWebページ、社会福祉協議会などで情報収集をしましょう。
今回は、介護保険の利用の仕方など支援制度の概要をご紹介しました。ややこしい面もありますが、理解が難しい場合は、地域包括支援センターで質問してみれば丁寧に教えてくれるでしょう。次回は、今回ご紹介した介護保険のサービスについて、自宅で介護する場合と施設に入居する場合、それぞれのサービス内容について解説します。
〈参考サイト〉
厚生労働省 介護事業所・生活関連情報検索「介護保険の解説」ページ
介護保険の全体像をまとめたサイトです。制度の概要が説明されていることに加えて、制度の詳細を調べたい場合の目次的な役割も果たしています。
合わせて読みたい
『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(第二版)
翔泳社・刊/太田差惠子・著/1,540円
本連載の監修者・太田差惠子さんの著作である同書は、親の入院・介護に直面したときに必要な知識を「短期的戦略→中期的戦略→長期的戦略」と、時系列に沿ってわかりやすく紹介した一冊。制度の仕組みや手続き、サービスや施設の費用、専門職とのやりとり、仕事や子育てと介護の両立など、本当に知りたい情報が詰め込まれています。
- 教えてくれたのは・・・
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- 太田 差惠子さん
- 介護・暮らしジャーナリスト
京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会認定)の資格も持ち、「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年に遠距離介護の情報交換の場、NPO法人パオッコを立ち上げ、2005年法人化。現理事長。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)、『親の介護で自滅しない選択』(日本ビジネス人文庫)、『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)、『知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA、安藤なつ・共著)など多数。