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親が元気な「いま」だから。介護のきざしの見つけ方

いつか向き合うことになるかもしれない「親の介護」。そのときが来たらどうすればいいのか、誰しもモヤモヤとした不安に襲われるもの。そこで本連載では、親が元気ないまのうちに知っておきたい介護の知識を、気になるテーマごとにご紹介します。

親はクライアント、介護はマネジメント!?

“100組の親子がいれば100組のやり方がある”といわれる「介護」。どんな人でも、はじめは「何をすればいいの?」「誰に頼ればいいの?」、そもそも「自分にできるの?」と不安になってしまうもの。しかし、事前に情報を集めてあらかじめ対策を練っておけば、親にとっても自分にとっても最適な対処法を見つけられるはずです。

今回お話を伺った介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは、「困ったとき、何か問題が起きたときは、"介護はマネジメント"という視点で、親をクライアント(お客様)に見立てて取り組むとうまくいくことがある」といいます。いろいろな感情が絡み合う親子の関係をひととき横に置くことで客観的な視点が生まれ、何をするべきかがはっきりするというわけです。

その意味で、今回のテーマである「まだまだ元気な親の介護のきざしの見つけ方」は、クライアントと仕事を始める前の情報収集に近いと思います。では、どうすれば親の異変をキャッチすることができるでしょうか。そして、気がついたら誰にどう相談すればいいのでしょうか。

日々の「対話」で情報収集していますか?

「介護はある日突然やってくる」といった言葉を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。しかし、実際のところ“老い”は日々少しずつ訪れています。ですから、日頃からしっかり情報収集をしておけば、いざというときに焦らず対処することができます。

では、どうすれば「親の変化のきざし」を見つけ出すことができるのでしょうか。まず、意識したいポイントが「対話」です。対話のなかには、親の変化を現すさまざまなヒントが隠されています。また対話であれば、たとえ親が遠方にいたとしても電話やメールなどでその機会を持つことができます。

ただし、挨拶を交わすだけでは元気かどうかを確認できたとしても、変化のきざしまでは確認できません。

変化のきざしを見つけるためには、親の普段の様子を把握しておく必要があります。“普段どおり”を知っていてこそ「いつもと違う」が察知できるのです。しかし、親のことは、わかっているようで意外とわかっていないもの。まずは、下記のチェックリストを試してみましょう。

出典:「遠距離介護行動の3つの柱 対話・情報・お金」より作成(NPO法人パオッコ)

いかがですか? 簡単そうに見えますが、「1つもわからない……」という人もいるかもしれません。親にどんな持病があって、どんな薬を服用しているのかがわからないと、体調の変化にも気づけないでしょう。どんな友人がいて、どんな趣味があるかを知らなければ、「最近、閉じこもりがちになってきた」といった、大きな変化を察知することもできません。また、旅行好きの親が旅行に行かなくなったとすれば、コロナ禍で旅行が難しいのは当然ありますが、もしかしたら体のどこかが弱っている可能性も……。

チェックできる項目が少なかった人は、いまよりもコミュニケーションを増やしてみませんか? そして、気がかりなことがあったら、まずは「大丈夫?」と声かけをしてみましょう。

対話にプラスして、親の様子にも要注意!

親子の関係といっても、いや、親子だからこそいいにくいこともありますし、子どもに心配をかけたくないからと、あえて何もいわない親も少なくありません。しかし、運動機能や認知機能の低下に不安を感じていたり、病気を患ったりしている可能性もあります。対話では見つからないきざしも、本人や周囲の様子から見えてくるものもあります。もし親と同居しているなら、あるいはときどきでも顔を見にいけるようであれば、以下のような点にも注意してみましょう。

もしこれらの項目について思い当たることがあれば、かかりつけ医や後述の地域包括支援センターに相談できるよう、メモを取っておきましょう。

①・②が思い当たる→「運動器の機能の衰え」があるかもしれません

家の中で転んだりつまずいたりすることが増えている場合、家の壁やふすまに勢いよく手をついてしまい傷や穴ができているケースが考えられます。また、トイレや浴室などの水回りから異臭がする場合、運動機能の衰えによって、掃除ができなくなっていたり、入浴や排泄といった日常生活の動作に不具合が出ていたりすることが考えられます。

③・④が思い当たる→「意欲の減退」は運動機能の衰えだけでなく「病気」が理由かもしれません

運動器に問題を抱えると、日常的な掃除や片づけが難しくなったり、面倒に感じたりするようになります。ゴミがたまっている、冷蔵庫内がグチャグチャになっている場合は、その理由を注意深く観察しましょう。実は、単に運動機能が衰えているだけでなく、大きな病気を抱えているケースも考えられます。

なお、ゴミがたまっている場合は、「回収場所が思った以上に遠くて困っている」ことが原因かもしれません。こうしたケースに対処するために、高齢者は家の前に出しておくだけでゴミを清掃回収してくれる自治体もあります。ホームページなどで確認してみてください。

⑤が思い当たる→「病気や口腔機能の低下」があるかもしれません

急な体重の減少は、病気が原因である以外にも、老いによる食欲の減退の可能性や、噛む力・飲み込む力などの口腔機能の低下も考えられます。

⑥・⑦・⑧が思い当たる→「認知機能の低下」があるかもしれません

同じ質問を何度も繰り返す、財布や通帳を盗まれたと人を疑う、このようなケースが増えた場合には注意が必要です。また認知機能の低下は、親の買い物や車の運転の様子に現れることも。「大量に買い込んだパンがカビだらけだった」「車庫の壁が傷だらけになっていた」といったようなケースから、変化のきざしを見つけられることもあります。

介護のきざしが見えたときの合言葉…「地域包括支援センターに相談!」

では、親に介護のきざしが見られた場合、誰に相談すればいいのでしょうか。いまの親の状況で介護を検討すべきなのか、その場合にはどんな方法があるのか、介護保険の給付は受けられるのか、高齢者施設にお世話になることはできるのかなど、気になることはいくつもあるでしょう。

病気が疑われる場合は、まずは医療機関の受診が先ですが、そうでない場合には「地域包括支援センター」に相談するのがいいでしょう(地域によっては名称が異なる場合がありますが、だいたい中学校区に1カ所程度の割合で設置されています。住所地ごとで担当の地域包括支援センターが決まっています)。

それぞれの自治体から委託される形で運営されている「地域包括支援センター」は、介護や医療、保健、福祉などの側面から、65歳以上の「高齢者を支える総合相談窓口」ともいえる場所。介護について無料で相談に乗ってくれますし、親の状態によっては介護保険の申請や、地域で行っている介護予防関連事業の利用についてのアドバイスもしてくれます。何かおかしいと感じたら「まずは地域包括支援センターに相談」と覚えておくといいでしょう。

なお、地域包括支援センターの所在地や連絡先は、役所に問い合わせるか自治体のホームページなどで調べることができます。

介護の未来をシミュレーション!

親がサポートを必要とするようになった場合、どんな介護の形があるのか、また、どんな支援を受けることができるのかも気になるポイント。その点については下図でご紹介します。

このような流れを知っておくことでおおよそのイメージがつかめるはず。それぞれの詳細は今後の連載で解説していきますので、まずは全体像をざっくりとつかんでおきましょう。

※この図は簡略的に説明するためのものであり、実際には医師の診断や、ケアマネジャーのような専門家との相談が必要となります。

今回は、親の変化の見つけ方と、何かあった時の相談先を紹介しました。次回は介護が始まったときに受けられる介護保険についてなど、あなたを助ける「支援の仕組み」について解説します。

合わせて読みたい

『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(第二版)

『親が倒れた! 親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(第二版)
翔泳社・刊/太田差惠子・著/1,540円

本連載の監修者・太田差惠子さんの著作である同書は、親の入院・介護に直面したときに必要な知識を「短期的戦略→中期的戦略→長期的戦略」と、時系列に沿ってわかりやすく紹介した一冊。制度の仕組みや手続き、サービスや施設の費用、専門職とのやりとり、仕事や子育てと介護の両立など、本当に知りたい情報が詰め込まれています。

教えてくれたのは・・・
太田 差惠子さん
介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会認定)の資格も持ち、「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年に遠距離介護の情報交換の場、NPO法人パオッコを立ち上げ、2005年法人化。現理事長。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと』(翔泳社)、『親の介護で自滅しない選択』(日本ビジネス人文庫)、『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)、『知っトク介護 弱った親と自分を守るお金とおトクなサービス超入門』(KADOKAWA、安藤なつ・共著)など多数。

https://www.ota-saeko.com/

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:栗原 慶太(mokume)
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