「痩せすぎは太りすぎよりも怖い」——そんな言葉を耳にしたことはありませんか?実際に、太りすぎより痩せすぎの方が病気のリスクは高いといわれ、免疫力低下や骨量の減少、生理不順などさまざまな不調が起こりやすくなるとされています。
この記事では、痩せすぎによる危険性や対策法、BMIによるセルフチェックなどについて、専門家のアドバイスと合わせて解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 宮尾 益理子先生
アットホーム表参道クリニック副院長・医学博士。日本老年医学会、日本糖尿病学会、日本内分泌学会の専門医・指導医。日本内科学会、日本骨粗鬆症学会認定医。東京大学医学部付属病院や他高齢者専門の基幹病院での経験を経て、アットホーム表参道クリニックの副院長に就任。「高齢者総合医療」の専門家として検診や人間ドックを推奨し、「予防医学」の重要性を啓蒙しています。
[監修者]宮尾 益理子先生:https://www.o-athome.jp/about/doctor/
アットホーム表参道クリニックHP:https://www.o-athome.jp/
太りすぎも痩せすぎも怖い
「太りすぎ」と「痩せすぎ」には、ともに健康に影響があります。しかし、痩せすぎによる深刻な健康リスクについては、まだ十分に認識されていないのが現状です。
厚生労働省が公開している日本人の食事摂取基準(2020年版)からも、BMI(体重と身長から肥満度を表す数値)の低さと死亡率が相関関係にあることがわかります。高齢になるほどBMIの低さやフレイル(加齢により心身が衰えた状態)に対して危機感を持つことが重要です。
痩せすぎの状態には、主に以下のようなリスクが存在しています。
- 免疫力の低下
- 筋肉量の減少
- 骨量の低下
- 認知機能の低下
- 生理不順や妊娠への影響
これらのリスクは日常生活に支障をきたすだけでなく、将来的な健康にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。痩せすぎの状態が大きな病気につながる場合もあるため、医療機関では痩せすぎの危険性について、注意喚起がなされています。
痩せすぎの状態がもたらす主なリスク
痩せすぎにはいくつものリスクが存在します。ここでは、痩せすぎの状態が危険である理由を3つご紹介します。
筋肉量の低下
痩せすぎの中でも注意しておきたいのが、筋肉量の低下(サルコペニア)です。主に高齢者に見られる状態で、骨量や活動量の減少による骨折や転倒リスク、誤嚥の危険性も高まることが知られています。筋肉量の減少に伴い、活動量が低下し外出する機会が減ると、認知機能の低下も起こりやすくなります。筋肉量の維持は高齢者の健康を守るうえで、重要な要素です。
若者にも広がる筋肉量の低下
近年は、デスクワーク等による活動量の減少で、若い世代においても筋肉量の低下による痩せ(サルコペニア)の傾向が見られるとされています。
また、女性の体においては、体重や体脂肪が少なすぎる場合、「まだ妊娠できる体ではない」と脳が判断し、生理や妊娠に影響を与えることも明らかになっています。痩せすぎの問題は、特定の年齢層に限らず幅広い世代に関わる重要な健康課題であり、その危険性を正しく理解しておくことが重要です。
胃下垂になりやすい
痩せている状態の方は、腹部の筋肉量が少ないため、胃を支えにくく位置が下がりやすいとされています。胃下垂は病気ではないものの、少量で満腹になるため食事量を増やしにくい、消化不良で栄養を吸収しにくいといった症状を引き起こす原因のひとつです。
胃下垂は姿勢とも密接に関係しており、猫背や前かがみなどの姿勢は腹筋を圧迫して胃下垂を悪化させてしまいます。胃下垂や胃腸の弱りが気になる方は、正しい姿勢で生活することも心がけましょう。
糖尿病のリスクが上がる
痩せすぎの状態は、男性・女性ともに糖尿病になるリスクを向上させるとされています。
順天堂大学が2021年に発表した内容によると、日本人の痩せ型の若年女性は、標準体重者に比べ耐糖能異常(血糖値が正常の値よりも高い状態)を抱えている割合が高いというデータがあります。
高血糖値が長期に続くと全身の血管や神経に障害がでます。極端な高血糖で出現する「喉の渇き」「尿量の増加」「急な体重減少」などの自覚症状がなくても、これらの合併症は進行する場合があります。定期的に職場や、自治体の健診をうけることが大切です。症状がないときから、かかりつけ医を見つけることも予防の観点では役立ちます。
自分は痩せすぎ?身長・体重からBMIを計算しよう!
自分が痩せすぎていないかどうかは、BMI(Body Mass Index)や適正体重と比較することで判断できます。BMIは身長と体重で自身の肥満度を計算できます。
日本肥満学会は、BMI18.5以下を低体重(痩せすぎ)としています。
では、実際に自分の身長・体重から、BMIと適正体重を計算してみましょう。
BMIと適正体重の計算
- BMI = 体重kg ÷ (身長(m))×(身長(m))
例)1m60cmで体重50kgの方なら … 50÷ (1.6×1.6) ≒ 19.53
BMI19.5は低体重よりの普通体重範囲です。 - 適正体重 = (身長(m))×(身長(m))×22
例)1m60cmの方なら … 1.6×1.6×22=56.3
56.3㎏が適正体重になります。
「もっと痩せないと」と思っていても、上記のように計算してみると、実際は適正の範囲であることに気づく場合があります。健康を守るうえでは、見た目や不確かな情報に惑わされず、自身の適正な体重を把握しておくことが重要です。
痩せすぎを改善するために取り組みたい3つのこと
痩せすぎの状態は健康を損なうリスクがあるため、適切に体重を増やしBMI値を改善させる必要があります。まずは、以下の3つのポイントを押さえて、体重を平均に近づけていく方法を確認していきましょう。
1自分の現状を把握する
はじめに、BMIや適正体重を計算し、自分が痩せすぎの状態にあるかどうかを把握することが重要です。
自分では「痩せていない」と感じていなくても、数値化し平均と比較すると見えてくることがあります。国内では、特に若い女性の間で、BMIが平均を下回っているにもかかわらず体重を落とそうと食事を制限するケースが増え、問題になっています。
自身が痩せすぎていると感じていたり、体重が増やせないなどの悩みや不安、危険性を感じたりしたら病院への受診を検討してみてください。
2正しい栄養バランスの食事を摂る
瘦せすぎを改善するためには、正しい栄養バランスの食生活を送ることが重要です。ただし、栄養バランスを意識するあまり、摂取カロリーが減少して痩せにつながってしまうことも避けなければなりません。
旬の美味しいものや食材を積極的に選び、カロリーが不足しないような食生活を心がけましょう。また、なるべく孤食(ひとりでの食事)ではなく家族や友人と、楽しく食事を摂る時間も意識してみてください。
忙しさを理由に朝や夜などの食事を抜いてしまうと、1日に必要な食事量を確保しにくいため、食事は抜かないようにすることも必要です。
胃腸の不調などで十分な食事量を食べられない、食べているのに体重が増えない、痩せているという方には、漢方薬や胃腸薬などでの機能改善が有効なこともあります。思わぬ病気が隠れていることもあるかもしれません。かかりつけの医師に相談してみるのもよいでしょう。
3乱れた生活習慣を改善する
仕事や家事などに追われて、朝食はコーヒーのみ、夕食は22時を過ぎてから。このような生活習慣を送っていると、健康な体重や体型になることは難しく、正しい食生活を送る難易度も上がります。
朝早めに起きて朝食を取ること、夜は入浴してなるべく早めに就寝するなど、規則正しい生活習慣が送れてこそ、健康な状態も近づいてきます。
30年後も健康な体でいるために
痩せすぎの問題は、自分自身で気づくことが難しく、特に若い世代では症状が表れにくい傾向があります。「最近疲れやすい」「急に体重が減少した」「生理が止まってしまった」など、一見関係がなさそうな体の変化でも、痩せすぎと大きくかかわるケースが存在します。
些細なことでも気になることがあれば、信頼できる医師やクリニックに相談することをおすすめします。
適切な食事を摂って健康的な体重・体型を維持することが、30年後も楽しい生活を送ることにつながります。ストレスを溜めないよう時には趣味や推し活などにいそしんで、長く楽しい生活を送ってください。