更年期に入ると、「体重が増えやすくなった」「以前と同じ生活なのに太ってしまう」と感じる方も少なくありません。これは女性ホルモンの急激な減少や基礎代謝の低下が重なって起こる現象です。一方で、更年期に痩せてしまうというケースも見られます。
本記事では、更年期の体重変化に関する基礎知識から、更年期に意識したい食事や運動の工夫まで、専門医の解説を交えてわかりやすくご紹介します。
- 教えてくれるのは…
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- 上原萌美先生
- よしかた産婦人科・綱島女性クリニック
よしかた産婦人科・綱島女性クリニック勤務。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医、日本がん治療認定医機構認定がん治療認定医。横浜市立大学附属病院産婦人科に入局後、神奈川県内の病院で研鑽を積み、婦人科疾患の診療や女性のライフステージに応じた健康支援に従事。
よしかた産婦人科HP:https://www.yoshikata.or.jp/
よしかた産婦人科分院綱島女性クリニックHP:https://tsunashima-cl.com/
そもそも更年期はどんな状態で、どの期間を指すの?
更年期とは、女性が平均50歳で迎える閉経をはさんだ10年間の時期を指します。閉経前後は女性ホルモンの分泌量が急激に減少するため、心と体の不調(更年期症状)が現れやすくなります。
更年期症状には、ほてり、のぼせ、発汗、倦怠感、肩こり、めまい、抑うつ、いらいら、不眠などがあります。これらの症状には個人差があります。多くの場合、更年期症状は月経周期が不規則になる頃から現れ、数年で自然に改善します。
更年期の体重増加、主な2つの原因とは?
更年期による体重増加の主な理由は、女性ホルモンの分泌量減少や基礎代謝の低下です。それぞれの理由について詳しく解説します。
女性ホルモン分泌量の低下
女性ホルモンには、脂肪を分解したり食欲を抑えたりする働きがあり、まさに「健康のお守り」のような役割を果たしています。しかし更年期を迎えると女性ホルモンが減少し、こうした働きがなくなって太りやすくなります。
女性ホルモンには内臓脂肪の増加を抑える働きもあり、更年期以降は、内臓脂肪が増えやすくなります。
基礎代謝の低下
基礎代謝とは、呼吸や心臓の拍動、体温維持などの生命維持に必要なエネルギーで、寝ているときも消費されています。
年齢と共に筋肉量が減少し、それに伴って基礎代謝も低下していきます。そのため、「若い頃は暴飲暴食をして運動不足でも太らなかった」という方でも、同じ生活を続けていると、年齢とともに太りやすくなってしまいます。また、更年期に入ると運動量が減るかたも多く、体の消費エネルギーの低下につながります。
更年期に痩せてしまう人はいる?
更年期は太りやすい人が多い一方で、痩せてしまう人もいます。原因としては、自律神経の乱れによる胃腸の不調や消化吸収機能の低下、食欲不振などが挙げられます。
体重減少が続く場合は、消化管疾患やうつ病、甲状腺機能亢進症、糖尿病などの病気が隠れている可能性もあるため、気になる症状があれば医療機関を受診することをおすすめします。
- 痩せすぎは想像以上に危ない?病気のリスクが上がる原因と対処法
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「痩せすぎは太りすぎよりも怖い」——そんな言葉を耳にしたことはありませんか?実際に、太りすぎより痩せすぎの方が病気のリスクは高いといわれ、免疫力低下や骨量の減少、生理不順などさまざまな不調が起こりやすくなるとされています。https://helico.life/monthly/250910fat-and-thin-thinrisk/
この記事では、痩せすぎによる危険性や対策法、BMIによるセルフチェックなどについて、専門家のアドバイスと合わせて解説します。
更年期を健やかに過ごすための3つのポイント
更年期を健康的に過ごすためには、内臓脂肪を減らし、筋肉量の維持・増加を意識することが大切です。ここでは、運動や食事に関する基本的なアドバイスに加え、日常生活に取り入れやすい実践的な方法についてもご紹介します。
適度な運動
更年期を迎えても体型を維持しやすい人には、よく体を動かしているという共通点があります。
まずは「いつもより10分多く体を動かすこと」から始めましょう。10分多く体を動かすだけで、生活習慣病発症リスクや死亡リスクが約3%低下します。
さらに余裕があれば、より具体的な運動を取り入れると理想的です。
たとえば、
・1日60分(1日8,000歩)以上歩く
・週に60分以上の運動で息が弾み汗をかく程度に体を動かす
といった運動が推奨されています。
歩く
歩いたり、掃除や洗濯をするなど、こまめに体を動かすことは、太りすぎや生活習慣病の予防につながります。一方で座って過ごす時間が長いほど寿命が縮むことが分かっています。1日60分以上を目安に、歩いたり家事をしたりして体を動かしましょう。60分をまとめて行う必要はなく、10分などの短い時間をあわせても効果があります。
運動する
定期的に運動をしましょう。週に60分以上運動している人は、生活習慣病発症リスクや死亡リスクが10%低いと報告されています。運動は、更年期の心や体の不調の改善、骨密度の維持、がん予防にもつながります。有酸素運動と筋力トレーニングの両方を行うと最も効果的ですが、まずは何か1つ楽しめそうなものを見つけ、始めてみるのはいかがでしょうか。
有酸素運動は、ウォーキング、ジョギング、水泳、ダンスなど何でもOKです。息が弾み、汗ばむくらいの動きが目安です。筋力トレーニングは、ダンベルや筋トレマシンを使うだけでなく、スクワットなどの器具を使わずにできるものもおすすめです。週に2~3回行うと効果的です。
栄養バランスのよい食事
更年期を健康的に過ごすには、まず食事の基本を整えることが大切です。主食・主菜・副菜をそろえた食事を1日2回以上摂ることで、理想的な栄養バランスに近づけることができます。食事を考える際には、厚生労働省と農林水産省が提供する「食事バランスガイド」を参考にすると分かりやすいでしょう。
具体的な工夫としては、「和食」を意識するのがおすすめです。和食は主食・主菜・副菜がそろった献立になりやすく、野菜や魚、大豆製品、きのこ、海藻などの健康的な食材が取り入れられることが多いです。特に野菜は、1日あたりの目標摂取量350gに対し、平均摂取量は250g程度にとどまっているといわれています。毎日の食事に1品、野菜を含む料理を加えることで必要量に近づけることができます。
さらに、筋肉を維持するためにはたんぱく質の摂取が欠かせません。肉・魚・大豆製品・卵などをバランスよく取り入れることが大切です。赤身肉は良質なたんぱく源ですが、飽和脂肪酸の摂りすぎは動脈硬化につながるリスクがあるため注意が必要です。大豆製品は植物性たんぱく質や大豆イソフラボン、カルシウムが豊富で、更年期の食事に取り入れたい食品です。
食事はよく噛んでゆっくり食べましょう。お菓子やジュースは控えめにしましょう。
更年期の不調は婦人科に相談を
更年期は心と体の不調がおこりやすい時期です。症状は個人差が大きく、ほとんど不調を感じない方もいれば、日常生活に支障をきたすほど症状が重い方もいます。少しでもつらいと感じたら、婦人科を受診しましょう。
治療法には、ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬などがあり、治療によって症状が改善し日常生活を快適に過ごせるようになったと感じるかたもいます。症状がなかなか改善しない場合は、「女性ヘルスケア専門医」のような女性の健康問題に詳しい医師に相談するのもひとつの方法です。
更年期の不調は、閉経前後の数年を過ぎると落ち着くことが多いと言われています。だからこそ、その後の人生を前向きに楽しむためにも、早めにケアを始めることを心がけましょう。
体重変化や生活習慣に気を配り、健やかな更年期を
更年期は女性ホルモンの減少や基礎代謝の低下などにより、体重が増え、内臓脂肪が増えやすくなる時期です。内臓脂肪の増加は動脈硬化の原因になります。一方で痩せすぎは骨粗鬆症やフレイルの原因になります。どちらも健康寿命の短縮につながりますので、健康的な体型を維持することが大切です。
対策としては、無理なく続けられる運動を日常に取り入れることや、栄養バランスのよい食事を意識することが効果的です。また、更年期の心や体の不調がつらいと感じたときは我慢せず婦人科を受診し、適切なケアを受けることで、更年期を健やかに過ごせるでしょう。