脇の下や陰部など限られた場所にあり、ワキガ臭の原因になりうる汗を分泌する「アポクリン汗腺」。この記事では、アポクリン汗腺の役割や分布場所、ワキガ治療として行われるアポクリン汗腺の除去方法について解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 山田 雅道先生
- みやび形成外科院長
埼玉医科大学医学部卒。昭和大学医学部 形成外科大学院で医学博士号取得。昭和大学病院形成外科ほか多数の病院で臨床経験を積み、2005年にみやび形成外科を開院。医療法人社団みやび形成外科理事長。日本形成外科学会認定専門医、昭和大学医学部客員教授。美容外科分野で多数の論文を発表している。
[監修者]山田 雅道先生:https://www.miyabi-keisei.com/clinic/
みやび形成外科:https://www.miyabi-keisei.com
アポクリン汗腺とは?なんのためにある?
ニオイの原因としてよく名前が挙がる「アポクリン汗腺」。じつは汗を分泌する汗腺には、「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類があり、ワキガ独特のニオイは「アポクリン汗腺」から出る汗が原因となっています。
アポクリン汗腺は、かつては異性を惹きつけるためのフェロモンの役割をしていたともいわれていますが、現代社会ではむしろ強すぎるニオイの原因、かつ社会生活に支障をきたすものとして、必要がないという考えもあります。
アポクリン汗腺とエクリン汗腺の役割や分布場所は?
汗が多くて困る症状のなかでも「腋臭症(ワキガ)」はアポクリン汗腺の発達によるもので、「多汗症」は主にエクリン汗腺の発達によるものと考えられます。2つの汗腺のそれぞれの役割や特徴について解説します。
アポクリン汗腺
体の限られた場所に分布する汗腺で、皮膚の深いところにあるのが特徴です。分布場所は脇の下に多く、ほかに外陰部、耳の中、乳首などに分布しています。ワキガ体質の人は、アポクリン汗腺が大きく、その数も多く、汗の分泌量も多い傾向があります。
アポクリン汗腺から分泌される汗には、タンパク質・脂質・糖質・アンモニア・鉄分などの成分が含まれており、少し濁った色で粘り気があります。アポクリン汗腺は性ホルモンの影響を受けて活発になるため、もともとは異性を惹きつけるフェロモンのような役割をしていたといわれています。
エクリン汗腺
皮膚の浅いところにあるのが特徴で、分布場所はほぼ全身の汗腺です。分泌量は個人差があるものの、1時間あたり2~3リットルになることもあります。エクリン汗腺から分泌される汗の成分は99%が水分で、残りは塩分がほとんどです。粘度は低くサラッとしており、無色・無臭です。主に体温調節のための汗腺として役割を果たします。
アポクリン汗腺はワキガの原因となる
アポクリン汗腺にしてもエクリン汗腺にしても、分泌直後の汗は臭いません。皮膚表面に存在する常在菌と汗や皮脂が混ざり合い、汗に含まれる成分が分解されるときにニオイが発生します。ただし発生するニオイは汗の成分によって異なります。
アポクリン汗腺が多く集まる脇の下は、アポクリン汗腺に含まれる脂肪酸が細菌によって分解され、「3メチル2へキセノイン酸」になることで「ワキガ」になるといわれています。アポクリン汗腺から出る汗の量が多い場合には、ニオイの原因になる物質も多く含まれているため、症状は強く現れやすいと考えられます。
エクリン汗腺は多汗症の原因となる
多汗症は、体温調節に必要な量を超えてエクリン汗腺からの発汗が起こり、日常生活に支障をきたす疾患です。「全身性多汗症」と「局所性多汗症」に分けられ、多くは顔汗、脇汗、手汗など体の一部で汗が多く出る局所性多汗症です。いずれも、原因がわからない原発性と、他の疾患に合併して起きる続発性があります。近年は保険適用の塗り薬なども登場して、治療の選択肢が増えています。
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アポクリン汗腺がない人はいる?多い人の特徴は?
アポクリン汗腺がない人はいない
アポクリン汗腺はどんな人にも存在していて、ない人はいません。生まれつきアポクリン汗腺の数は決まっており、分泌量や活動性は遺伝子の影響を強く受けます。つまり親がワキガだった場合には、子どももワキガになる確率が高くなるのです。
アポクリン汗腺が多い人の特徴は?
アポクリン汗腺が多い人の特徴には、以下のようなものが挙げられます。
□ 耳垢が湿っている
□ 衣類の脇の部分に黄ばんだシミができやすい
□ 両親の両方、またはどちらかがワキガである
□ 脇汗の分泌量が多い
□ 思春期頃から脇に特有のニオイがある
□ 体毛が濃い
ワキガ治療の方法と費用
ワキガの治療法には大きく分けて、
① 多汗症治療がメインの塗り薬(抗コリン外用剤)による治療
② ボトックス注射(ボツリヌス療法)による治療
③ 外科手術による治療
④ マイクロ波(ミラドライ)による治療
の4つの選択肢があり、保険適用になる治療とそうでない治療があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
1塗り薬(抗コリン外用剤)による治療法と費用※保険適用
多量の脇汗に悩まされている場合には、原発性腋窩多汗症の保険適用外用薬として、塗り薬(エクロックゲル5%)とワイプ製剤(ラピフォートワイプ)があります。エクリン汗腺を刺激して発汗を促すアセチルコリンという物質の作用を阻害することで、汗の分泌を抑えます。
抗コリン薬はあくまで多汗症の治療薬になりますが、使い続けることで汗の量の改善が期待でき、ワキガのニオイの改善にも寄与することが報告されています。ラピフォートワイプは9歳から、エクロックゲルは12歳から使用可能で、皮膚科などで処方してもらえます。保険適用で、平均費用は3割負担で約2,000〜3,000円/月程度です。
2ボトックス注射(ボツリヌス療法)による治療法と費用※保険適用
脇の下にあるアポクリン汗腺にボツリヌストキシンを注射して、発汗を抑える治療です。外用薬よりも強力に発汗量を抑制する効果があり、細菌の繁殖も抑えられるためニオイも軽減されます。治療時間は5~10分程度で、腫れや出血はほとんどありません。注射をして1週間程で汗の量が減少し、効果は約4〜9か月間持続します。保険適用で片脇約1万円程度です。
3外科手術:剪除法(せんじょほう)による治療法と費用※保険適用
外科手術は、ニオイの根本原因となっているアポクリン汗腺そのものを除去するため、ワキガ臭に対して高い治療効果が得られます。体毛も一緒に取り除かれるので脇毛がなくなります。一方で、皮膚へのダメージはそれなりに大きいため、傷跡が残り、術後の生活にも影響が出る可能性があります。
剪除法は、腋毛の生えている部分の皮膚をシワに沿って切開して皮膚をめくり、ワキガの根本原因であるアポクリン汗腺をハサミで一つ一つ切除(除去)する手術です。治療時間は両脇あわせて90〜120分程度で、アポクリン汗腺をしっかり取り除くことでニオイに対して治療効果が期待できます。
術後はガーゼを脇に挟んで圧迫し固定し、1〜2週間程度で抜糸します。10日から2週間程度のダウンタイムが必要で、この間は腫れや内出血が出たり、腕を上げるような姿勢は取れなくなったりと、仕事や生活に影響が出る場合があります。メスを使うため術後には傷跡が残ります。費用は保険適用・両脇で4〜5万円程度です。
3外科手術:皮下組織削除法による治療法と費用※保険適用外
カミソリの刃がついた特殊な器具を2cmほどの小さな切開から挿入し、ワキガの原因となるアポクリン汗腺と腋毛を皮膚の裏側からまとめて削り取る(除去する)方法です。術後は脇にガーゼなどを挟んで圧迫し、少なくとも3日程度は腕を動かさないようにします。2週間程度のダウンタイムが必要で痛みや腫れ、内出血が出ることがあります。
術後は傷跡が残りますが、3か月から1年ほどで目立たなくなります。治療時間は60〜90分で、ガーゼ交換や抜糸のため通院が必要です。費用は保険適用外で30〜40万円程度です。
4マイクロ波(ミラドライ)による治療法と費用※保険適用外
汗腺に反応するマイクロ波を皮膚の上から照射し、その熱によってエクリン汗腺とアポクリン汗腺を熱破壊する治療法です。エクリン汗腺とアポクリン汗腺を同時に治療できる唯一の方法といわれています。汗腺機能をほぼなくしてしまうので、手術と同様の効果が得られ、汗の量もニオイも減らす点で優れています。ただし、残った汗腺があると発汗量は少し戻るとされています。
皮膚を切らないので傷跡が残ることもなく、術後のダウンタイムも比較的短くて済みます。熱破壊した汗腺は再生しないため再発が少ないこともメリットです。施術後1週間程度は痛みがあり、腕を上げにくくなることがあります。治療時間は、効果の高い方法で2度打ちする場合には120分程度かかります。保険適用外の自由診療となるため、費用は30万円〜40万円程度と高額です。
ワキガ治療の保険適用について
抗コリン外用薬(塗り薬)は原発性腋窩多汗症を合併している場合に、ボトックス注射と剪除法は重度の原発性局所多汗症の診断基準を満たす場合に保険適用となります。
ワキガ治療のデメリットは?傷跡は残る?
アポクリン汗腺の除去(外科手術)のデメリットは、皮膚を切開するため傷跡が残ったり、皮膚へのダメージにより脇がひきつれたりするなどのリスクを伴うほか、ダウンタイムの長さなどが挙げられます。また、「代償性発汗」といって、脇の汗が止まると一時的に顔や背中などのほかの場所で汗が増えることがあります。ただし、代償性発汗は時間とともに改善していきます。
手術やミラドライを選ぶ前に知っておきたいこと
外科手術やミラドライでも、アポクリン汗腺を100%取り除くことは難しく、再発の可能性はゼロではありません。ミラドライは追加で治療が可能ですが、手術は皮膚組織へのダメージが大きく、再手術は難しいという点にも注意が必要です。ワキガ治療では、まず外用薬やボトックスから試し、それでも効果がない場合に手術やミラドライを検討するといいでしょう。
ミラドライや手術を受ける際には、効果だけでなくリスクや所要時間などについても事前にしっかり説明してくれる医療機関・クリニックを選ぶようにしましょう。
ワキガ治療のメリットは?
アポクリン汗腺の除去(外科手術)のメリットは、一度受ければ長期にわたってワキガ治療や脇汗の悩みから解放されることが挙げられます。衣服の黄ばみなどを気にせず、着たい服を選べるようになります。保険適用の治療法は費用が抑えられる点が魅力です。
アポクリン汗腺やワキガ治療に関するよくある質問
ワキガのニオイはアポクリン汗腺を除去しないと抑えられない?
ワキガはその程度にもよりますが、食生活や飲酒・喫煙などの生活習慣や、精神性発汗に関連するストレスなどが影響することがあります。アポクリン汗腺を除去する手術を検討する前に、まずは高カロリー、高脂肪食、過度の飲酒や喫煙は避ける、ストレスを溜めないなどの生活改善を心がけましょう。
また、こまめに汗を拭き取る、脇毛を処理する、脇用の制汗剤や殺菌剤を使用することでも、脇のニオイの発生を抑えられます。
手術しなくてもワキガのニオイを対策する方法はある?
ワキガを対策するためには、制汗剤や殺菌剤を使用したセルフケアのほかに、発汗を抑えるため脇に塗る外用薬やボトックス注射などの治療法があります。皮膚科や形成外科を受診するとよいでしょう。
ワキガの除去手術や治療は何歳から受けられる?
手術・マイクロ波(ミラドライ)ともに何歳からという決まりはありませんが、12歳以下の子供にはワキガ治療を行わないことが多いようです。なぜならアポクリン汗腺は思春期(成長期)に発達してくるという特徴があるためです。あまり早い時期にアポクリン汗腺を除去しても、成長してから再び症状が現れることがあるため、可能であれば成人してからの治療や外科手術が推奨されます。
アポクリン汗腺を一度除去したあとに、ワキガが再発することはある?
手術やミラドライでは、医師の技量によるところも大きいです。またアポクリン汗腺をひとつ残らず完全に除去することは難しいため、再発する可能性はゼロではありません。そうしたリスクとワキガの悩みの度合いなども考慮しながら、治療法を選ぶことが大切です。
ワキガになるのは遺伝が原因?
ワキガは高い確率で遺伝するとされており、脇の下にあるアポクリン汗腺の数や量が関係します。ただニオイの強さは、食生活や生活習慣、ホルモンの変動、脇の皮膚上の細菌のバランスによっても左右されます。汗が出たらこまめに拭き取り清潔に保つことや、バランスの取れた食生活を送ることで多少の改善は可能です。