40歳はいわば体の変わり目。がんを含む生活習慣病のリスクが高まる年代であり、早い人では視力や聴力、歯などにも加齢の影響が出始めます。健康を守るうえでは、これまでの健診に加えて特定の病気を発見するための検診をしっかりと受けておきたいもの。この記事では、40歳以降の体チェックに欠かせない健診&検診について、受けておきたいメニューや受け方・生かし方のポイントを紹介します。
- 教えてくれるのは…
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- 松本 知沙先生
- 東京医科大学病院 健診予防医学センター
医学博士、疫学修士専門領域は内科、循環器内科、予防医学、循環器疫学。人間ドック健診専門医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本高血圧学会認定専門医・指導医、米国心臓病協会フェロー、American Heart Association Fellow (FAHA)。病気の早期発見や予防を目標に、受診者ひとりひとりに寄り添った人間ドックの案内を目指す。
[監修者]松本 知沙先生:https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/kenshin/about/staff/matsumoto.html
東京医科大学病院 健診予防医学センター:https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/kenshin/
40代でかかりやすい病気とは? 健診・検診が大切な理由
40代から起きてくる体の変化にはどのようなものがあるでしょう。まず、生活習慣病の予防や早期治療につなげるために、職場や地域で「特定健診(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導」が始まるのが40歳という年齢です(対象は40歳から75歳未満/毎年実施)。
中年太りという言葉があるように、内臓脂肪型肥満に、高血圧や脂質異常症といった病気が複数重なると、動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞といった命に関わる病気へと発展していくため注意が必要です。
死亡率で見ると、10代から30代までは自殺による死亡者が多いのに対し、40代からは「がん(悪性新生物)」が1位になり、心疾患、脳血管疾患、肝疾患などが上位に上がってきます。年齢とともにさまざまながんの罹患率が上がっていくことから、がんが身近な病気として迫ってきます。女性では、子宮頸がんや乳がんの罹患率が40代で急増します。
また体の機能では、個人差はあるものの骨や関節、視力・聴力の衰えや歯周病などが気になり始めるころ。国が推奨するものでは、市区町村が実施する「歯周病健診」が40歳からスタートします(40歳から70歳までの5〜10年おき。今後20歳、30歳も健診対象として追加される方針)。
現代は高齢化により、認知症や心不全といった病気も増えています。「認知症はまだ先のこと」と思うかもしれませんが、いまの生活習慣が70代から80代で起こる病気に影響すると思えば、将来起こり得る疾患を考慮しながら、自身の健康をしっかり管理するという視点を持っておくことが大切です。
そのためにも、定期健診に対策型検診(がん検診)などを組み合わせて病気の早期発見に努めましょう。
40代で特に気をつけたいがんは?
年代や性別によってがんの罹患数は変化していきます。男性では胃、大腸、肝臓など消化器系のがん、肺がん、女性では乳がんを筆頭に、子宮頸がんと卵巣がんに特に注意が必要です。
【年齢階級別に見た死因順位】
35〜39歳 1位:自殺 2位:がん 3位:心疾患 4位:不慮の事故 5位:脳血管疾患
40〜44歳 1位:がん 2位:自殺 3位:心疾患 4位:脳血管疾患 5位:肝疾患
45〜50歳 1位:がん 2位:自殺 3位:心疾患 4位:脳血管疾患 5位:肝疾患
出典:令和5年(2023年)人口動態統計より年齢5歳階級・死因順位別
40代で死亡率1位のがん。推奨される5つのがん検診
2人に1人ががんにかかる時代。がんに備えるために、私たちができることが「がん検診」です。がんは症状がないうちに発見し治療することが大切ですが、がん検診といっても色々な種類があります。
国が推奨しているがん検診は、「胃がん検診」「肺がん検診」「乳がん」「大腸がん」「子宮がん」の計5つ。市区町村の住民検診などで補助が受けられるため、通常よりも安い費用で受けられます。職場でのがん検診は、保険者や事業者が福利厚生の一環として任意で実施しています。
がん検診は本来、自覚症状のない健康な人を対象に行われるもので、5つのがん検診は、検診によってがんの死亡率を低下させることが科学的に証明されています。正しい時期に、定期的に受けることで効果があることも知っておきましょう。
自分の弱点・受けるべき検診を知る
病気のかかりやすさには、食事や運動などの生活習慣、家族歴(本人や近親者の病歴)、年齢、性差など、さまざまな要素が影響します。病気の発生などと関連があるとされる個々の要因を「リスク因子」と言います。
たとえば、「骨粗しょう症」という病気は「痩せ(BMIが19未満)」「女性」「早期閉経」「家族歴(両親のどちらかが足の付け根を骨折したことがある)」などがリスク因子となり、乳がんでは「初経年齢が早い」「出産経験がない」「家族歴」などがリスク因子となります。
こうした、年代ごとになりやすい病気やリスク因子を知っておくと、受けるべき検査や検診頻度を増やすかどうかの判断材料になります。また、身内にがんにかかった人がいる場合には、その臓器に関して日ごろから気を配る、必要に応じて検診やオプション検査を追加するなどの対策をとるといいでしょう。
健診・検診は完璧ではないことを理解しよう
がん検診の最大のメリットは、早期のがんを発見できること。一般的に早く見つけられれば治療も軽く済むため、体への負担も治療の期間も少なくて済みます。一方で、どんなに優れた検査でも100%の精度で病気が見つかるわけではありません。たとえば、がんは臓器や種類、進行度によって見つけにくいことがあれば、なかには進行が早く、発見されたときには治るのが難しいがんもあるのが現状です。「毎年検診を受けているから問題ない」「異常なしだから安心」とは言い切れないのです。
検診で見つかる所見には、命に影響しないものやすぐにはがんに発展しないケースもあります。また、がん検診で「がんの疑い」と診断されても、精密検査の結果「がんではなかった」と判定される場合があり、これを「偽陽性」といいます。そうしたケースでは結果的に見れば不必要な検査が行われたことになり、受診者には大きな不安やストレスなどの心理的な負担もかかることになります。
ただ、精密検査を受けることでがんが見つかる場合もあり、こうした不利益はある程度は避けようがないのが現状です。さらに、検診時に痛みが伴うなどのデメリットもないわけではありません。検診にもメリットとデメリットがあることを理解したうえで、検診を利用することが大切です。
また、がん検診には国が推奨する5大がん検診以外にも、CTやMRI、血液や尿などでがんのリスクがわかるというものなどさまざまな検査があります。なかには科学的な検証が済んでいない検診もあることを理解しておきましょう。
なお、すでに体調が思わしくない、なんだかしんどい、普段と違うなど自覚症状がある場合には、検診を待たず速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
健診・検診は結果の振り返りと改善が重要
定期健診や人間ドックの報告書には、検査項目とその判定、基準値、検査値、所見などが記録されています。このうち「基準値(※)」とは、健康な人の集団の検査値をもとに統計学的に算出した数値のことを言います。結果を受け取ったら、検査項目の数値が「基準値内(※)」にあるかどうかをチェックしましょう。結果は経年変化に目を向けるきっかけにもなりますので、毎年保存しておくことが大切です。
※基準値:健康な状態の目安になる値ですが、検査項目や検査機関によって数値が異なることがあります。また、メタボと関連する血圧や血糖、コレステロールなどは臨床判断値が用いられています
- この数値ってどんな意味?健診結果の見方を解説
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健康診断は、多くの方がかかりやすく、放置すると命に関わる病気の兆候がないかを確かめています。しかし、健康診断を受けるだけで満足している、あるいは結果を見ても自分の体がどんな状態か、どのようなことに気をつけたらよいかわからないという方もいるのではないでしょうか。
本記事では、健康診断で行う主な検査項目と目的、それぞれの数値の見方、日々の生活で気をつけるべき点などについて解説します。
「要再検査」「要精密検査」「要受診」「要治療」などの判定があったら、どうしたらいい?
慌てることはありませんが、要再検査などと書かれていたら「何か異常があるかもしれない」と考える必要があります。「症状がないから大丈夫」と自己判断で済まさずに、かかりつけ医などの医療機関を受診してください。せっかく受けた検査を生かしましょう。
自分に必要なオプション検査の選び方
オプション検査は、定期健診や人間ドックに任意で追加できる検査のこと。毎年受ける定期健診+がん検診または人間ドック(女性はレディースドックなど)という組み合わせをベースに、年齢や自分の弱点(持病や家族歴、生活習慣など)、予算などを考慮してオプション検査を選ぶといいでしょう。最近では眼科のアイドック、歯科ドックなど、将来の病気のリスクに備えるための検診メニューも登場しています。
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毎年受診する定期健康診断や人間ドックの際、迷うことも多いのが、オプション(追加)検査。「定期健康診断でいろいろ調べるのだから、オプション検査は不要では?」と思う方、あるいは「念のためつけたいけれど、何を選んだらいいのか分からない……」という方など、さまざまだと思います。
この記事では、成人以降の男女において、どのような観点でオプション検査を検討すればよいのか、年代や生活習慣を踏まえながら解説していきます。
ここからは、40代から選択肢に入れたい検診をご紹介します。
経腟エコー*女性向け
子宮筋腫、卵巣嚢腫など、子宮や卵巣の小さな異常を発見できる検査。レディースドックや子宮がんドックに含まれている場合もあります。産婦人科にかかりつけ医があり普段から検査を受けている場合には、特に追加の必要はないでしょう。
子宮頸がん検診(子宮頸部細胞診、ハイリスクHPV検査)*女性向け
子宮頸がん検診は、「子宮頸部細胞診」と、子宮頸がんと関係のあるウイルスに感染しているかどうかを調べる検査である「HPV検査単独法」があります。国による子宮頸かん検診では、従来は20歳以上を対象にした2年に1回の子宮頸部細胞診が行われていましたが、2024年4月から、実施体制が整った自治体でのみHPV検査が実施可能になりました。HPV検査の対象は30歳以上の女性で、5年に1回となっています(罹患リスクが高い場合は1年後に受診が必要)。
マンモグラフィ+乳房超音波検査(乳がんの検査)*女性向け
厚生労働省が推奨する乳がん検診では問診+マンモグラフィを2年に1度となっているものを、個人のリスクに応じて1年に1回マンモグラフィ+乳房超音波検査を受けるという考え方もあります。日本人に多い高濃度乳房(デンスブレスト)の方はマンモグラフィに写りにくいことから、乳房超音波検査をプラスするという考え方です。家族に乳がんにかかった人がいるなどリスクが気になる人は検討してもいい検査です。
性感染症検査(STD検査)
レディースドックや人間ドックを受けたときにオプションで受けるのも一案です。クラミジア、淋病、トリコモナス、梅毒、HIV、カンジダなどの感染有無を調べる検査。おりものに気になる症状がある人やパートナーが変わった人などにも。
骨密度測定(骨粗しょう症検診)
閉経を迎えると骨量が急激に減少するため、早いうちから骨の状態を知っておくことが重要です。多くの自治体で、40歳から70歳の女性を対象に5歳刻みで骨密度の節目検診を実施しているほか、健康診断のオプション検査として選べる場合があります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠時に呼吸停止または低呼吸になる病気で、高血圧、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞などのリスクになるほか、睡眠不足によるストレスによりさまざまな生活習慣病やメタボにも関連します。40代・50代に多く、日中の眠気の強さや、寝ているときに大きないびきをかく人は要注意。
※すでになんらかの異常や症状がある場合には、通常の保険診療で検査・治療を受けられます。
眼科ドック
視力検査や眼圧検査、眼底検査、視野検査など、眼球全体の検査を行うことで目の病気の早期発見に役立ちます。年齢とともに発症率が高まる緑内障や白内障、網膜疾患などの眼疾患が気になる人に。
歯科ドック
虫歯・歯周病の有無や噛み合わせの検査、唾液、口臭、歯の色、歯茎、舌や口腔粘膜の検査など、口腔内の健康を総合的にチェックして、口の状態や病気のリスクを判定します。今後のメンテナンスや治療計画などがより立てやすくなります。
健診&検診は未来への健康投資!
どんな検診を選ぶかは個々によって違うので、迷ったらかかりつけ医などに相談してみましょう。検診は自分を守るための自己投資。将来の健康のために投資をするという視点で向き合ってみてください。