子どもの視力は年齢とともに発達し、8歳ごろまでには大人と同じくらい見えるようになります。しかし、先天的な要因から見え方などに異変が生じる場合も。
本記事では、子どもの視力発達に関する基礎知識や、親が気をつけるべき兆候、そのほか子どもがかかりやすい目の病気などを解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 中山 百合先生
- 砧ゆり眼科医院 院長
信州大学医学部を卒業後、横浜市立大学医学部附属病院や神奈川県立こども医療センター、国立成育医療研究センターで眼科医として勤務。2014年に砧ゆり眼科医院を開院。患者さんひとりひとりの「見える」を守るため、日々診療にあたっている。
視力の発達は、6歳から8歳までに完了する
生まれたばかりの赤ちゃんは、明るさが認識できる程度でほとんど目は見えていません。子どもの視力は、生後1か月ごろから急速に発達し始め、1歳で0.2、2歳で0.5、3歳で0.6と徐々に上がっていきます。
個人差はあるものの、5歳ごろには視力が1.0に達する子どもが8割ほどを占めます。その後、6歳から8歳ごろまでに視力の発達は完了し、大人とほぼ同じ見え方となります。
3歳までが重要! 気をつけたい「弱視」と「斜視」
子どもの目に関して、特に気をつけたいのが弱視(じゃくし)と斜視(しゃし)です。いずれも視力や見え方に影響を及ぼす疾患ですが、2~3歳ごろまでに早期発見をして治療を行うことで改善する可能性が十分にあります。
視力の発達が阻害されることで起こる「弱視」
弱視は、眼鏡などで視力矯正を行っても十分な視力が得られない状態を指します。人は、目で見た映像を脳に伝達し、脳がその情報を処理することで物を見ることができます。最初は目が見えていない子どもも、人の顔や景色などさまざまなものを目にすることで、徐々に脳と視力が発達していきます。
視力の発達で重要なのが、「ピントの合った像の情報を脳に伝達すること」です。たとえば、乳幼児期に眼帯などで目を覆ってしまうと、片目でしか物を見られず、ピントの合った像の情報を脳に送ることはできません。それにより見る力が養われず弱視になります。弱視の原因は遺伝だと思っている方もいますが、遺伝との因果関係はわかっていません。
赤ちゃんのころから弱視の症状が出ている場合は、目で動くものを追わないなどのサインがあり、比較的発見しやすいですが、2~3歳ごろになると周囲の観察だけでは見つからないことが多くあります。その時期の弱視は、自治体で実施されている3歳児健診で見つかるケースがほとんどのため、必ず健診を受けましょう。
片目の視線がずれる「斜視」
斜視は、片方の黒目が別の方向を向いて視線がずれている状態を指します。子どもの約2%に見られ、小児眼科では代表的な病気です。
両目の焦点が合わないため、遠近感がつかみにくくなり、物を立体的に見る力が弱くなります。また、両目ではうまく物を見られないため、片方の目だけでものを見てしまい、使われていない目の視力が発達しない「斜視弱視」と呼ばれるパターンもあります。目線がどちらにずれているかによって、外斜視、内斜視の2つに分かれます。
目の位置が正常なときと、ずれているときがある間欠性外斜視(かんけつせいがいしゃし)もあり、疲れているときや眠いときに斜視が出やすくなります。普段から目の位置がずれている、あるいはときどき目がずれると感じた場合にはぜひ眼科を受診し、治療の必要性について相談してみてください。子どもの目をより専門的に診られる「小児眼科」を受診するのもよいでしょう。
注意したい子どもの目に関する病気・けが
視力や見え方に大きくかかわる弱視・斜視のほかに、子どもがなりやすい目の病気とけがを紹介します。
アレルギー性結膜炎
アレルギー反応によって、角膜(黒目)や結膜(白目やまぶたの裏)に炎症が起こります。花粉やハウスダスト、ダニ、カビなどが原因です。
花粉症などのアレルギー症状は、悪化してから治療を始めると改善するまでに時間がかかり、使用する薬剤も多くならざるを得ません。目のかゆみや違和感が出る前から点眼薬などを使えば、軽い症状で抑えることができるため、子どものアレルギー症状が出るタイミングを把握し、症状が出る2週間ほど前に眼科を受診するのがベストです。
ものもらい
ものもらいは、まぶたが腫れる病気です。細菌感染によってまぶたの一部が赤く腫れて、軽い痛みやかゆみが起こったり、涙の成分を分泌するマイボーム腺が脂で詰まったりすることで起こります。子どもは汚れた手で目をこすったり、顔を洗う習慣がなかったりするため比較的起こりやすいといえます。ものもらいの予防には、顔を清潔にする(顔をきちんと洗う)ように親が教えてあげるとよいでしょう。
目のけが
私たちは通常危険を感じた際、目を守るための本能で目を閉じます。また、まつ毛が異物の侵入を防ぐなど、さまざまな仕組みによって目は守られています。しかし、子どもは経験による危険の予測がまだできず、突然のことを回避する身体能力も足りていないため、目をけがする場面が多くあります。
子どもがするけがのうち、目のけがが占める割合は以下の通りです。
- 幼児 :12%
- 小学生:9%
- 中学生:7%
- 高校生:5%
特に乳幼児は、家のなかでのけががほとんどです。家電のコード類やコンセントの先端、家具の角、文房具、ドアノブなどが目に当たって負傷してしまいます。子どもの成長に合わせて視線がどう変わり、どんな物が危険になるのかを想像して、家のなかに危険ポイントがないか定期的に総点検をすることが重要です。
子どもの目に影響のある生活習慣
子どもの視力と生活習慣にはどのような関係があるのでしょうか。一般的に子どもの目に悪いといわれる3つの項目について、医師の視点から解説します。
1テレビを至近距離で見ると、目が悪くなる?
どちらかといえばNO:テレビからの距離よりも「視聴時間」に気を付けて!
視力の低下(近視)に関係するのは、テレビを見る「時間」です。画面に好きなものが映ると、夢中になって近づいてしまうのは子どもならば仕方のないこと。テレビを至近距離で長時間見るのは問題ですが、短時間であれば気にすることはありません。
一方で、激しい光の点滅を断続的に見ることで、光刺激による体調不良を起こす場合があります。好きなものを近くで見たいという子どもの気持ちを理解したうえで、安全のために見る距離や時間について声がけをしましょう。
2タブレットやスマートフォンで映像を見せるのは、目によくない?
YES:見せる場合は1回につき10分程度を目安に!
タブレットやスマホは、6歳ごろまでは極力見せないようにしましょう。テレビは一定の距離をとって見ることができる一方、タブレットやスマホは手に持って見ることが多く、目との距離が近くなりがちだからです。
両目を使って立体的に物を見る機能(両眼視機能)が発達しきっていない子どもにおいては、近視を誘発するだけでなく、小さな画面で動き回るものを見ることで目が寄ってしまい、斜視も誘発します。見せる場合には、1回につき10分程度にとどめましょう。
3暗い部屋で読書をすると、視力が落ちる?
YES:暗いことで目と本の距離が近くなり視力低下の原因に!
暗い場所は文字が見にくいため、目を本に近づけてしまい、近視を招く原因になります。読書をする際は、近づかなくても文字が見える明るさにしてください。また、勉強中に姿勢が悪くなり、目と文字の距離が近くなることも近視の原因となります。集中していると姿勢が悪くなりやすいため、気づいたら声をかけましょう。
見逃さないで!子どもの目の不調サイン
子どもは目に違和感があっても言葉にできなかったり、見えていないことが理解できていなかったりするため、周囲の大人が子どもの目の異変に気づけない場合も。しかし、子どもの様子をよく観察すると、目の不調のサインを見つけることができます。ここでは、見逃せない子どものサインを紹介します。
赤ちゃんのうちに現れる目の不調サイン
- 暗いところで目が白く光る、写真に写った目が白く光っている(目の腫瘍などの可能性があるため)
- 周囲の人をしっかりと見ない、目が合わない(斜視などの可能性があるため)
- 動くものを目で追わない(弱視などの可能性があるため)
- 黒目が細かく揺れる、位置がずれている(眼振などの可能性があるため)
赤ちゃんの写真を撮った際に、目の色や目線に異変を感じた場合、その写真は消さずに保存しておき、眼科受診の際に医師に相談してみてください。
その他の子どもに現れる目の不調サイン
- ものを見るときに、片方もしくは両方の目を細める
- まばたきが多い
- 頻繁に目をこする
- 本やゲームに顔を近づける
こうしたサインが見られた場合には、ぜひ眼科を受診してみてください。何事もなかった場合には安心材料になりますし、何かあった場合にも早い段階で医療介入できる可能性が高まります。
正しく理解して、子どもの目を守る
年齢とともに少しずつ発達する子どもの目。発達の過程をどのように過ごすかはとても重要です。発達の流れや仕組み、子どもの気持ちも理解したうえで、目を守るためにどのような声がけをするとよいか、これを機にぜひ一度考えてみるのはいかがでしょうか。