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若々しさを保つ秘訣!老化とホルモンの関係性とは

成長や生殖、エネルギー代謝、気分や行動など、体の重要な機能調節に関わるホルモン。人生100年時代を生きる私たちにとって、ホルモンが老化にどう関わっているのかは気になるところです。

本記事では、老化と関係の深いホルモンの種類や、ホルモンバランスを整えて若々しく健康に過ごすための秘訣を紹介します。

教えてくれるのは・・・
米井 嘉一先生
同志社大学生命医科学部 教授

1982年 慶応義塾大学医学部卒、大学院医学研究科 内科学専攻博士課程修了。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座である同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。老化度判定ドック(アンチエイジングドック)における老化マーカーの開発と治療ガイドラインの作成に従事。2008年同志社大学生命医科学部教授に就任するとともにアンチエイジングリサーチセンター教授も兼任。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。

自分の弱点を知ることが老化予防のスタート

老化は避けられないものだとしても、できるだけ老化のスピードを遅らせて、「年齢なりに美しくありたい」「いい歳のとり方をしたい」と考える人は多いでしょう。そもそも、「老化」とはどういう現象なのでしょうか。

老化と一言でいっても、進み方には個人差があります。シワや白髪などの見た目の変化もあれば、体力の衰えや記憶力の低下、性機能の衰えなど、悩みも十人十色です。一般的には40歳に入る頃から、見た目や体の機能低下を感じる人が多いようです。

抗加齢医学では、老化は「正常な範囲内の老化」と「病的な老化」の2つに分けて考えられています。「正常な範囲内の老化」とは生理的老化ともいえ、歳をとれば自然に進行していく身体機能の低下のこと。一方、「病的な老化」は、遺伝や悪い生活習慣などによって、病的に機能が低下した状態になることをいいます。エイジング(老化)とは、このように体にさまざまな変化が起こることであり、個人差がとても大きいものです。

老化のスピードを遅らせるには、体のどこに「病的な老化」が起きているのか、自分の弱点を理解したうえで生活習慣の見直しや、必要なら治療を行うことが重要です。

大切なのは5つの機能のバランス

では、自分の老化はどれくらい進んでいるのか。弱点を知る方法はいくつかあります。

例えば、抗加齢医学では、問診や検査などを行い、5つの機能の老化度を機能年齢(筋年齢、血管年齢、神経年齢、ホルモン年齢、骨年齢)として出します。同じ年代の標準的な検査結果と比較して、機能年齢を算出し、老化や若さの目安とするのです。

それに加えて、5つの老化の危険因子(免疫ストレス、酸化ストレス、心身ストレス、生活習慣、糖化ストレス)についても問診や血液検査などから調べます。

抗加齢医学における老化度・老化の危険因子を表すレーダーチャート。五角形に凹みがあればそこが弱点とみなされる

1つでも機能が衰えたり、弱点があったりすると、それが病気の原因になったり、ほかの要素にも悪影響を及ぼしたりして老化が加速しかねません。弱点は早いうちに改善し、老化や病気の芽を摘んでおきましょう。

また、簡単なチェック方法として、毎年受けている健康診断の結果を見ることも有効です。各検査数値やアドバイス、体型・体重・骨量の変化などから、弱点となっているところ、機能が低下しているところはどこなのかを把握しておくといいでしょう。

他にも持病(基礎疾患)等があるならそれは弱点と捉え、かかりつけ医の指示のもと、治療や予防を続けることが大切です。「老化度判定ドッグ」を受けたい場合には、一部の医療機関(日本抗加齢医学会の認定施設)で自費で受けることもできます。

老化と関係が深い3つのホルモン

ここからは、機能年齢の一つでもある「ホルモン年齢」から、老化を考えていきましょう。

体のいたるところで分泌されているホルモンは、オーケストラの楽器のようにそれぞれが協調して働いており、どれも大切なもの。しかし、健康な人でも、加齢とともに多くのホルモンの分泌が低下していきます。

疲れやすくなったり、太りやすくなったり、物覚えが悪くなったりするなどの老化現象には、ホルモンの低下も影響しているのです。

100種類以上あるホルモンのなかでも、老化に大きな影響を与えるといわれているのが、「成長ホルモン」「DHEA」「メラトニン」の3つのホルモンです。

1.成長ホルモン
筋肉や骨の成長、傷の修復や美肌などに欠かせないホルモン。眠っているとき、強度の高い運動をしたときに分泌量が増加。思春期後期に最も多く分泌され、30歳前後からは減少していきます。成長ホルモンが不足すると、骨や筋肉が衰える、太りやすくなる、抵抗力が弱くなって風邪や肺炎をこじらせる、傷が治りにくくなる、肌のうるおいが失われるなどの影響があります。

2.DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)
糖尿病や動脈硬化をはじめとする生活習慣病の低減や、筋力の維持、ストレス緩和、卵巣機能の向上など、多彩な作用が期待されるホルモン。軽い負荷がかかる運動で分泌量が増加。男性ホルモンのテストステロンや女性ホルモンのエストロゲンなど、50種類以上のホルモンをつくる材料になることから、「ホルモンの母」とも呼ばれています。20歳前後までは体内に豊富に存在していますが、年齢とともに減少していきます。

3.メラトニン
睡眠の質向上や、酸化・糖化予防効果が期待されるホルモン。日中は分泌が停止し、睡眠中に最も増えて眠りを誘い、体のリズムを整える働きをします。加齢とともに減少し、それにより歳をとると体内時計の調節力が弱まるため睡眠時間が短くなり、眠りも浅くなると考えらえています。一方で、メラトニン分泌は生活リズムに左右されるため、不規則な生活をしていれば10〜20代でも分泌量が低くなります。

ホルモンバランスを整えて、若々しさを保つ秘訣

ホルモンの働きには、老化の要因をできるだけ排除・予防してくれるものもあれば、骨や筋肉の成長や新しい細胞の生まれ変わり(新陳代謝)を促してくれるものなどもあります。ホルモンバランスを整え、成長ホルモン、DHEA、メラトニンなどの分泌がうまくいくように、できることや大事なことを学びましょう。

規則正しい生活を送り、運動不足や偏食、過度な飲酒などを避けることは大前提ですが、特に重要なポイントを紹介します。

1「睡眠」は最良の老化予防法

生活リズムを整え、成長ホルモンを分泌し全身の細胞を修復したり、骨や筋肉を作る時間にもなっている睡眠。十分な睡眠をとることで、日中働いた脳や体を休め、ストレス解消にもつながります。また近年、睡眠の質の低下が、糖化ストレスが強い疾患(糖尿病や脂質異常症)と深く関わることもわかってきました。毎日、質の良い睡眠をとることは若々しい体づくりの基本中の基本といえます。

質の良い睡眠をとるために取り入れたい習慣

  • 部屋を暗くして眠る
  • 寝る前にスマホ・PCは見ない
  • 深酒はしない
  • 午後6時以降のカフェイン摂取は避ける
  • 夕食に、メラトニンの前駆体となるトリプトファンの含まれている食べ物をとる(白菜やキャベツなどの葉物野菜、ケールの青汁、バナナなど)

ストレスが過剰にかかると睡眠のリズムが狂ったり、睡眠中の成長ホルモンが止まったりしてしまうので、日頃のストレス解消も重要です。

2運動でホルモンの材料「DHEA」濃度を高める

50種類以上のホルモンの材料となるDHEAは、長寿や若々しさの維持に深く関わっていると考えられています。増やす方法は明らかになっていませんが、筋肉量が多い人や身体活動量の多い人のほうが、血中DHEA濃度が高い傾向にあります。

これまでの研究では、40歳以上のそれまで運動習慣がなかった女性に、フィットネスクラブで週3回の運動を実践してもらったところ、血中のDHEA濃度が15~20%アップすることが明らかになりました。性別や年齢に限らず運動を継続し、筋肉量を落とさないように維持していくことが大切です。

3老化を進ませるも防ぐも、朝の過ごし方次第

成長ホルモンやメラトニンの分泌には、生活リズムの調整が欠かせません。私たちの体に備わっている時計遺伝子は、朝にメラトニンの分泌を止めてからがスタート。メラトニンは、目覚めてから10〜12時間が経過したころから、アミノ酸を材料に分泌量が上がっていきます。そして睡眠中に活発になり、朝には分解されるというサイクルを持っています。このリズムを妨げないことが大切です。

生活リズムを整える朝の習慣

  • 目覚めたら太陽の光を浴びてメラトニン分泌を止める
  • 朝食を食べて血糖値を適度に上げる
  • 朝食でタンパク質を摂り、血中のアミノ酸濃度をあげる

良好なホルモン分泌のためにも「朝の過ごし方が大切」と覚えておきましょう。

4PFCバランス=2:2:6を目安にタンパク質をしっかりとろう

栄養面では、炭水化物の過剰摂取に注意しましょう。成長ホルモンは一生にわたって代謝調節に関与しますが、糖尿病などの高血糖状態では、成長ホルモンが出にくくなるとされています。血糖値スパイクといって、急激な血糖値の上昇は血管を傷つけ、血栓もできやすくなり老化の大きな原因となります。

タンパク質は体を構成しホルモンの材料にもなるので、不足しないように摂りましょう。1日に必要なタンパク質は、18~49歳は摂取エネルギーの13~20%、50~64歳は14~20%、65歳以上は15~20%が理想とされています(日本人の食事摂取基準より)。

食事全体の栄養バランスは、「PFCバランス=2:2:6」を目安にするといいでしょう。P(protein)はタンパク質、F(fat)は脂質、C(carbohydrate)は炭水化物。主食の穀物はパンよりお米、または全粒粉穀物食品を選ぶと、タンパク質や食物繊維をより多く摂れます。

食事はホルモン分泌を促すきっかけの1つにもなるため、空腹を感じてから食べるようにし、よく噛んでいただきましょう。よく噛むことで唾液の分泌が高まり、パロチンという成長ホルモンの分泌が促され、脳神経の活性化にもプラスです。

健康行動の積み重ねが老化予防につながる

最後に、米井先生からこのようなアドバイスをいただきました。

「長寿社会になり、自分のことは自分で面倒をみる時代になりました。歳をとるとともにできないことが増えていくかもしれませんが、ホルモンの働きを理解して健康にいい行動を積み重ねれば、見た目も体も若々しくいられるはずです。何もしないのがいちばんよくありません。やらないより何かする、というちょっとした健康行動を若い頃から積み重ねていくことが大事です」(米井先生)

健康と若々しさを保つにはやる気や動機づけも必要、諦めないことが大切です。自分なりの楽しみややりがいを見つけながら、ホルモンと仲良く、調子のいい毎日を積み重ねていきましょう。

CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:YUKI YAMAGISHI 図版:新藤麻実(linen inc.)
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