ストレスを感じた時、皆さんはどのような「反応」をしていますか? イライラしたり、過食や飲酒などの行動に走ったり、体調を崩してしまったり……。「ストレス社会」とされる現代において、ストレスによって現れるさまざまな反応に対して意識的に対処する、「ストレスコーピング」というテクニックが注目されています。本記事では、ストレスが心身に与える影響やストレスコーピングの基礎知識、具体的な実践方法についてご紹介。ストレスコーピングを実践し、ストレスと上手につき合える自分になりませんか?
ストレスを受けると心身にどんな影響があるの?
そもそもストレスとは、「外側からの刺激や圧力によって、心身に歪みが生じた状態」のこと。この歪みの原因となっている刺激そのものを「ストレッサー」と呼び、さらにストレスによって起こる反応を「ストレス反応」と呼びます。ストレッサーには、天候や騒音などの物理的ストレッサーもあれば、人間関係などの心理的ストレッサー、ほかにも公害物質や薬物などの化学的ストレッサーがあり、現代ではさまざまなストレッサーが生じやすい状況にあるといえます。
このストレッサーによって起こるストレス反応は大きく3種類。ひとつは、「気分が落ち込む」「不安が続く」など、心に大きな影響を与える心理的反応。2つ目は、動悸や不眠など体に不調が現れる、身体的反応。そして3つ目は、過食や飲酒などの行動に影響する、行動反応です。どのようなストレス反応が出るかは、ストレッサーの強さや個人の特性によって差があります。
問題は、ストレス反応をよくわからないまま放置してしまうこと。「どういうわけか食欲がない」「最近よく眠れない」「このところやる気が起こらない」など、ストレス反応をストレス反応と認知せず放置しておくことでQOL(生活の質)が著しく低下し、疾病リスクも高まってしまいます。
まずは、ストレス反応をネガティブなものとせず、「生態防御のために必要な、自然な反応が起こっている」と理解することです。ストレス反応が出ているときに「ああ、自分を守るための反応が出ているな」と認めてあげることが大切で、これがストレスコーピングの第一歩になります。
ストレスコーピングって? そのメリットは?
「コーピング」とは「対処する」という意味で、「ストレスコーピング」とは「ストレスへ意識的に対処する」ということ。先述のとおり、まずは「ストレスがかかっているな」「ストレス反応が出ているな」と、自分の状態を認知することからスタートします。さらにその原因を細かく分析して、改善できる要素がないかを探り、そこからアプローチして問題解決していくのがストレスコーピングです。
ストレスコーピングを行うことで、何がストレッサーなのかを明確にし、ストレス反応を把握できるようになります。これだけでストレス反応が和らぐことも多いですし、問題や「ストレスを感じている自分」を客観的に見つめることができるのです。
つまり、ストレス反応に飲み込まれて無闇にイライラを抱えたり、心が不安のままやり過ごしたりするのではなく、ストレスと上手につき合える人になれる、というのがストレスコーピングを行うメリットです。
ストレスコーピングの具体的な実践方法は?
ストレスコーピングの具体的な実践方法は、「どこにフォーカスをあててストレスを対処するか」によって、大きく3種類に分類されます。ひとつずつそのやり方を解説していきます。
1ストレス発散型コーピング
いわゆる気分転換やストレス解消法と呼ばれるもので、3つのなかでも一番気軽に取り入れやすいストレスコーピング。ストレスそのものに向き合うというよりは、ストレスを体の外に追い出す方法です。突然の残業・予定の中止や変更・長引く在宅ワークなどがストレッサーである場合は、ストレス発散型のコーピングでストレス反応が和らぐかもしれません。
具体例
- おいしいものを食べる
- 運動をする
- カラオケに行く
- 友人とおしゃべりする
2情動焦点型コーピング
これは少し練習が必要ですが、「ストレッサーそのものを変えようとせず、ストレスを感じた自分の受け止め方を変える」という手法。ストレスを受けて落ち込む前に、自分の見方や理解・認知を見つめ直し、できそうであれば気持ちを前向きに変換してみるというコーピングです。
具体例
- 上司に無理難題を押しつけられた → 経験値がアップしたと考える。これを達成したら自分に自信がつくと考える
- SNSで悪意のあるコメントをつけられた → 「世の中にはそういう反応をする人がいる」と、学びになったと考える。SNSのルールを学ぶ機会を得たと理解する
- 電車に乗り遅れた → 慌てたのに転んだり怪我をしたりしなくてよかったと捉える。時間の使い方を見直すサインだと捉える
3問題焦点型コーピング
これは最も具体的にストレッサーにアプローチする手法。自分の行動や周囲の協力を得ることで、ストレッサーそのものに働きかけて、根本的な問題解決に取り組む方法です。
具体例
- 上司に無理難題を押しつけられた → 上司や同僚にアドバイスを求めたり、改善を要求したりする
- SNSで悪意のあるコメントをつけられた → 相手と直接話す機会を設けたり、謝罪を求めたりする
- 電車に乗り遅れた → 約束の日時を変更してもらう。タクシーなど別の手段で間に合うように調整する
どのコーピング方法が最適かは、ストレッサーやストレス反応によって変わってきます。いずれの方法を実践するにしても、まずはストレッサーとストレス反応を認識することが大事であることは変わりありません。ストレスコーピングの良い点は、ストレス反応ではなくストレッサーの方にアプローチすることで、ストレス反応を和らげる点にあります。
例えばストレスによって、過食や不眠などの行動症状や、頭痛や下痢といった身体症状が出ている場合、薬を飲んだり休暇を取得したりすることでストレス反応を和らげることもできますが、ストレッサーそのものが変化するわけではありません。
ご紹介した方法のなかでも「2.情動視点型コーピング」「3.問題焦点型コーピング」の手法を取れば、ストレッサーそのものを認知し、根本的な問題解決に取り組めるので、ストレッサーもストレス反応のどちらも和らぐ可能性が高い、というのが利点です。
日常的にできる、おすすめのストレスコーピング方法は?
これまで「ストレスコーピング」という言葉を聞いたことがなかった人も多いと思いますが、できるようになるには実践と慣れが必要です。おすすめの方法は2つ。
ひとつはストレスを感じたときに、ストレッサーやストレス反応を紙に書き出すこと。「無性にイライラするな、食べすぎているな」など、まずは反応を紙に書き出し、その反応が起こっている原因を認知する習慣をつけることです。問題をアウトプットし、整理することによって、3つのコーピング手法のうちどれを使って問題解決に取り組むべきか、自分で解決方法を導きやすくなります。
もうひとつは、「コーピングリスト」を持っておくこと。自分が普段の生活でリラックスできることや、聴くと元気になれる曲、読むとポジティブになれる言葉などをリスト化しておくと良いでしょう。リストのなかには「ランニングをする」「ケーキを食べる」といったストレス発散型だけでなく、見たり口にしたりするだけで「2.情動視点型コーピング」につながるような前向きな言葉や、お気に入りの本などを入れておくのもおすすめです。
もちろんストレス反応が強く出ている場合や、自分だけで問題解決できない場合は、家族や友人だけでなく、専門家に相談するのもひとつの手です。生活するうえで、ストレスは完全には避けられないもの。だからこそ無理して抱え込まず、うまく対処する方法を自分なりに身につけておくことが、ストレスと上手につき合っていく近道になるかもしれません。
- 教えてくれたのは・・・
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- 山下 圭一先生
- けいクリニック 院長
11年にわたり、精神科一般診療から子どもの心の診療、大人の発達障害まで、さまざまな分野の診療を経験。その経験を活かして、2020年、大阪市内にけいクリニックを開院。「困っている患者が安心して過ごせる毎日を送れるようになってほしい」という願いで、一人ひとりに寄り添った診療を行っている。児童精神科医を描いた医療漫画「リエゾン ーこどものこころ診療所ー」監修協力(講談社モーニングで連載中)。