普段は仲がいい夫婦でも、コミュニケーションにずれが生じて、ギクシャクしてしまうこともあるはず。夫婦の関係性が良好でないと、子どもは不安を感じます。さらに夫婦ゲンカに発展して、思わず子どもにまで強くあたってしまうなんてことも……。そうなる前に、夫婦の「ボタンのかけ違い」をなくせたらいいですよね。本連載では、女性、仕事、家庭生活におけるメンタルケアの支援に取り組む大美賀直子さんに、「親と子どもがやさしくいられるには?」をテーマに寄稿していただきます。第3回は、夫婦のコミュニケーションを円滑にするための会話のコツと持つべき意識を教えてくださいました。
- 教えてくれるのは・・・
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- 大美賀 直子さん
- メンタルケア・コンサルタント
「こころと人生と人間関係」のベストバランスを提案する、メンタルケア・コンサルタント。公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラーの資格を持ち、作家やセミナー講師として活動。All Aboutの「ストレス」ガイドも行う。自身も子育てを経験し、女性、仕事、家庭生活における心理学とメンタルケア、自己成長の支援を得意領域とする。
夫婦の「ボタンの掛け違い」は、なぜ起こる?
「いつもやさしい気持ちで相手に接していたい」これはすべての夫婦の願いではないでしょうか。とはいえ、話を聞いてほしいのに、相手が思うように応えてくれない。会話を始めると不愉快な気持ちが残ってしまう……。
このように、「ボタンの掛け違い」が生じている夫婦は、少なくないかもしれません。それを「些細なこと」とそのままにしていると、だんだんと夫婦の気持ちのずれが大きくなり、互いのやさしさは失われていく一方です。
夫婦の気持ちのずれの多くは、コミュニケーションのすれ違いから生じます。今回のコラムでは、「レポートトーク」と「ラポールトーク」という2つの話し方の違いから夫婦の「ボタンの掛け違い」を理解し、2人の気持ちを近づけていく方法を考えてみたいと思います。
「レポートトーク」と「ラポールトーク」とは?
まず、「レポートトーク」と「ラポールトーク」の概要を説明しましょう。事実を報告するような端的に伝える話し方は「レポートトーク」。一方で、共感を求めて親近感を生み出す話し方は「ラポールトーク」と呼ばれています。
言語学者のデボラ・タネンによると、男性はパブリックシーンでわかりやすく伝える「レポートトーク」を好み、女性はプライベートシーンでの絆を深める「ラポールトーク」を好むそうです。しかし、実際には個人差も大きく、男女共にときと場合によって使い分けているものです。
夫婦双方がこの2つの話し方を上手に活用できるようになると、会話は弾み、互いの気持ちは近づいていきます。しかし、どちらか一方だけの話し方だけにこだわっていると、コミュニケーションがかみ合わなくなり、夫婦の「ボタンの掛け違い」が生じてしまいます。
「ラポールトーク」を求められたら、パートナーの気持ちを受け止めて共感する
自分は「ラポールトーク」を楽しみたいと思っているのに、相手から「レポートトーク」ばかりで返された場合、どんな気持ちになるでしょうか? ある夫婦の会話の例から考えてみましょう。
妻:最近、PTAの仕事が増えちゃって…。ホント嫌になるわ。
夫:原因は何?
妻:そもそもやることが多すぎるのよ。
夫:それなら、不要なことはないか作業を見直して整理しないと。
妻:それはそうなんだけど……。
日常の愚痴や疲れについて話を始めたのに、この夫のように「レポートトーク」ばかりを返されたら、妻はどう思うでしょう? 「なるほど」「たしかにそうだよね」と思いながらも、心のどこかに寂しさが募ってしまうのではないでしょうか。
こういうときには、夫は「忙しくて大変だね」などと「ラポールトーク」で共感的な言葉を返しながら、まずはじっくり話を聞いてあげると良いでしょう。すると、妻はパートナーのやさしさを感じながら、自分が抱えるストレスについてゆっくり振り返ることができ、心の疲れがぐんと楽になるものです。
「レポートトーク」を求められたら、話題のテーマを楽しみ会話を深めていく
逆に、「レポートトーク」での会話を楽しみたいと思っているのに、「ラポールトーク」ばかりを投げかけられた場合、どんな気持ちになるでしょう?
たとえば、最近のニュースについて話しているときに、いきなりパートナーから「かたい話ばかりされてもつまらないなぁ」「またニュースの話題? 私はそういう話、嫌い」などと、感情論で返されたら?
「レポートトーク」で事実に即した会話を楽しみたいのに、気がつけば相手の「ラポールトーク」に引きずられてしまい、「家庭では議論が深まらず、つまらないな……」という気持ちになってしまうのではないでしょうか。
「わたしはこう考えるんだけど、あなたはどう思う?」「そのニュースに最新情報があるのよ」というように、事実に即した「レポートトーク」で盛り上がることができると、夫婦でウィットに富んだ会話を楽しめると思います。
気の置けない間柄だからこそ、気持ちに寄り添う会話を
「ラポールトーク」と「レポートトーク」のいずれも、会話の流れを読みながら進めていくことで、会話を通じてお互いの気持ちに寄り添うことができます。とくに意識しておきたいのは次の3点です。
- 「レポートトーク」と「ラポールトーク」、2つの話し方に優劣はない。どちらも柔軟に活用する
- 相手の話が一区切りつくまでは、相手の話し方に添っていく。話し方を急に変えて、話の腰を折らない
- 自分が2つの話し方のどちらかに偏っていないか、つねに振り返る
夫婦は気の置けない間柄です。だからこそ、2人でいるときには相手の気持ちを思いやりながら、会話を楽しんでいく。そんな気づかいをすることが、夫婦ならではの「やさしさ」なのではないでしょうか。
コミュニケーションを通じて夫婦の「ボタンの掛け違い」を修正し、やさしい気持ちを育んでいくためにも、「レポートトーク」と「ラポールトーク」の違いを理解して、2つの話し方を柔軟に活用することから始めてみませんか?