体重は増えていないのに健康診断で気になる数値が出たり、鏡を見るとお腹まわりだけが気になるようになったと感じたりする場合は、「隠れ肥満」と呼ばれる状態かもしれません。
今回は、消化器外科医として豊富な臨床経験を持ち、認知症やサルコペニア医療にも取り組む川本徹先生に、隠れ肥満の見分け方やリスク、そして予防のための生活習慣について詳しくお話を伺いました。
- 教えてくれるのは…
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- 川本 徹先生
- みなと芝クリニック 名誉院長
筑波大学卒業後、米国でがん研究にも従事。消化器外科を専門に幅広い臨床経験を積み、2010年みなと芝クリニックを開院。現在は名誉院長として地域医療に貢献しつつ、認知症・サルコペニアに対する再生医療にも取り組む。患者に寄り添い「森を診て、木を診る」丁寧な診療を大切にしている。
みなと芝クリニックHP:https://minatoshiba-cl.com/
隠れ肥満とは?
「隠れ肥満」とは、標準体重でも体脂肪が多い状態を指します。このような場合、生活習慣病のリスクが高まるため注意が必要です。
隠れ肥満とは「見た目は肥満ではないのに、体脂肪率が多い状態」のこと
隠れ肥満は、痩せ型体型が多い日本人にとって見過ごされやすい傾向があります。外見では判断が難しいため、皮下脂肪や内臓脂肪が蓄積されていることに気づかず、生活習慣の改善が後回しになってしまうケースも少なくありません。
CTスキャンやエコー検査などで可視化すると、見た目からは想像できないほど多くの内臓脂肪が蓄積していることが判明する場合もあります。健康診断などで指摘をされていなくても、運動不足や偏った食生活が続いている人は、隠れ肥満のリスクが高まります。日々の生活習慣を見直すことが、将来の健康を守る第一歩です。
あなたは大丈夫?隠れ肥満のチェックポイント
隠れ肥満かどうかは、BMIや腹囲、体脂肪率の数値から確かめることができます。サルコペニア肥満の場合は筋肉量も含め、総合的に診断を行って症状の度合いを決定します。
隠れ肥満の診断基準
健康状態を評価するうえで重要な指標に、BMI、腹囲、体脂肪率があります。これらはいずれも、肥満や生活習慣病のリスクを把握するために活用されます。
BMIは、身長と体重から算出され、25以上で肥満と判定されます。ただし、筋肉と脂肪を区別できないため、体型だけでは判断できない「隠れ肥満」も存在します。
腹囲は、内臓脂肪の蓄積を評価するための指標です。男性85cm以上、女性90cm以上で、メタボリックシンドロームの疑いがあるとされます。
体脂肪率は、体に占める脂肪の割合を示し、男性20%以上、女性30%以上で肥満の可能性があります。見た目が細くても脂肪が多い場合は「隠れ肥満」に該当するため、注意が必要です。
これら3つの数値を総合的に確認することで、正確な健康状態を把握することができます。
自宅でできるセルフチェックと受診の目安
医療機関で隠れ肥満の検査を受けるかどうかお悩みの場合に、簡単にできるセルフチェック方法があります。受診の判断材料として、ぜひ参考にしてみてください。
- 両手の人差し指と親指でふくらはぎを囲めるか(指輪っかテスト):ふくらはぎの一番太い部分を囲み、どの程度の隙間があるかでサルコペニアの程度を想定できます。
- 歩行速度の変化:周囲と比べて歩くのが遅くなったと感じたら、下半身の筋力低下の可能性があります。
- 立ち上がりづらい:手を使わないと立てない場合、筋力の衰えが考えられます。
- お尻のたるみ:筋肉の減少で、お尻が痩せて垂れてくることがあります。
- 健康診断での数値の変化:コレステロール値や血糖値が急に上がった場合、筋肉減少による代謝低下の可能性があります。
- 腹囲の変化:去年と比較して自分の腹囲が大きくなっているかどうかを確認します。
隠れ肥満は見た目が細いこともありますが、昨年に比べてお腹まわりが太くなった、ズボンがきつくなったなど、腹囲の変化が内臓脂肪の増加を示す場合もあります。
隠れ肥満によるリスクとは?
隠れ肥満の状態は、糖尿病、高血圧や動脈硬化といった生活習慣病のリスクが高まります。隠れ肥満によって引き起こされる病気や症状について、詳しくご紹介します。
糖尿病や高血圧の発症リスクが上がる
隠れ肥満は、内臓脂肪の増加と代謝の悪化によって、脂質異常症(高コレステロール)、糖尿病や高血圧を引き起こす原因になります。進行すると、動脈硬化を招き、最終的には心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気のリスクが高まります。
こうした血管系の疾患は、中高年以降の男性に多い病気と思われがちですが、実際には30代や40代の女性も発症する可能性があります。
認知症のリスクが上がる
隠れ肥満の状態にある人は、認知症のリスクが高まることが分かっています。筋肉量の低下と内臓脂肪の増加は、脳の健康にも影響を及ぼす可能性があるのです。
また、隠れ肥満が認知症のリスクを高める一方で、認知症になると筋肉が減少しやすくなるという相互関係も報告されています。認知症は、発症の15〜20年前から脳に変化が起きるとされており、30〜40代のうちから筋力を維持することが、将来の認知症予防につながるとされています。
隠れ肥満の予防方法
隠れ肥満を防ぐためには、日頃の生活習慣、特に食事と運動に気を配ることが重要です。
タンパク質を十分に摂取する
筋肉を維持するには、筋肉の維持・成長に欠かせないタンパク質を十分に摂取するのがポイントです。
成人では、1日50~65g程度のタンパク質摂取が推奨されていますが、筋力を保つためには1日90g程度の摂取が効果的とされています。
魚(サバ、鮭など)や肉類など良質なタンパク質源を摂取するように心がけましょう。食材だけで十分に摂取するのが難しい場合は、必要に応じてプロテインなどのサプリメントを取り入れるのもひとつの方法です。
- 肥満対策は食事が重要|管理栄養士が栄養素の目安や食事法を解説
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「ダイエットを始めても長続きしない」「食事量を減らしても効果が出ない」と悩みを抱えている方は少なくありません。https://helico.life/monthly/250910fat-and-thin-nutrients/
そのような場合、自己流の食事制限に頼ってしまっていることが多く、結果として栄養バランスが崩れ、体調を崩してしまうケースが見受けられます。無理な方法では継続が難しく、かえってリバウンドを招いてしまうこともあります。
そこで今回は、管理栄養士として多くの食事指導を行ってきた岡田明子先生に、ダイエットの第一歩となる「食事の記録と見直し」、そして無理なく続けられる「食習慣の工夫」についてお話を伺いました。
体脂肪を減らしながら筋肉を保つことを意識した食事をする
脂肪をため込まないためには、糖質や脂質の摂りすぎに注意が必要です。目安として、糖質:タンパク質・脂質:食物繊維を「1:1:2」のバランスで摂取すると、代謝が高まり、脂肪が燃えやすい体をつくる助けになります。例えば、白米を控えめにして、肉や魚、野菜をしっかり摂るような食事が理想的です。
筋力トレーニングをする
隠れ肥満の予防・改善には、筋力トレーニングによる筋肉の維持もポイントです。
おすすめのトレーニングは、手軽に始められるスクワット。特別な器具がなくても、自宅で自分の体重を使って行えるため、運動習慣がない人にもおすすめです。
最初は無理をせず、テーブルや椅子につかまりながら行うと安全です。スクワットは歩く力を養うだけでなく、骨盤まわりの筋肉も効率よく鍛えられるため、将来の転倒や寝たきり予防だけではなく、たるんだお尻のヒップアップにもつながります。日常生活に取り入れやすい運動から、無理なく筋力を取り戻していきましょう。
隠れ肥満かもしれないと思ったら……
まずは、自分の食事や生活習慣を1週間ほど記録してみましょう。食事内容や行動を「可視化」することで、偏りや改善点に気づきやすくなり、自然と意識が高まります。また、バランスのよい食事と適度な運動も、隠れ肥満の改善には欠かせません。
ただし、「食べすぎ」や「運動不足」といった自己診断は、かえって状態を悪化させてしまう原因になることもあります。
「なんとなく不調を感じる」「誰に相談していいか分からない」と迷うときは、隠れ肥満や生活習慣病に詳しい医療機関など、信頼できる専門家へ相談しましょう。
隠れ肥満は“気づき”から防げる
隠れ肥満は、その名の通り「見えにくいからこそ怖い」健康リスクです。一見太っていないように見えても、体の内側では内臓脂肪が蓄積し、生活習慣病の原因となっている可能性があります。
しかし、早期に気づき、食事と運動の両面から対策を始めることで、脂肪肝や認知症、心血管疾患といった将来的な病気のリスクを下げられます。BMIや体脂肪率をチェックし、自分の体の状態を知ることから始めてみましょう。