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肥満は病気になりやすい?太りすぎが引き起こす生活習慣病と対処法

肥満は、お腹が出ているなど体形の問題だけではなく、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を発症したり、さらに放置しておくと命を脅かす重大な病気につながったりする可能性があります。

この記事では、太りすぎが引き起こす生活習慣病とセルフチェック方法、予防につながる行動について解説します。専門家のアドバイスも交えて紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

教えてくれるのは…
大倉 毅先生

鳥取大学医学部附属病院内分泌代謝内科科長・診療准教授。専門領域は糖尿病。内分泌、代謝。2000年に鳥取大学医学部を卒業後、東京女子医科大学糖尿病センターやシンシナティ大学小児病院での経験を経て、現在に至る。日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本肥満学会の専門医・指導医。鳥取大学医学部で教鞭も取っている。
 
[監修者]大倉 毅先生:https://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/departments/medical/endocrine/doctor-introduction.html
鳥取大学医学部附属病院HP:https://www2.hosp.med.tottori-u.ac.jp/

肥満は大病につながる第一歩

肥満を「単に太っているだけ」と捉える方も少なくありませんが、じつは、複数の病気を併発するリスクを抱えています。近年では、肥満は大きな病の入り口とされており、高血圧や高血糖、脂質異常症などの血液異常を引き起こすことで、脳や心臓、腎臓などの臓器に深刻なダメージを与える可能性があるという考え方が広まっています。

該当する症状に思い当たる方は、肥満状態を放っておかず減量に取り組むことで、さまざまな病気リスクを予防することが可能です。

大倉先生

日本は近年、コンビニや外食、自動車産業の普及と比例するように肥満の割合が上がってきました。
 
仕事や環境的な要因で肥満になりやすいからといって、「仕方がない」では片づけられません。肥満は糖尿病や認知症、脳卒中などの病気になるリスクが上がることを理解しましょう。

肥満・肥満症・メタボリックシンドロームの違いとは

肥満・肥満症・メタボリックシンドロームの違い

一概に肥満といっても、その状態や症状には分類があります。

日本肥満学会が定めているのは、肥満、肥満症、メタボリックシンドロームの3種類です。

  • 肥満 … BMI25以上
  • 肥満症 … BMI25以上+健康障害(合併症)11項目のうち1つ以上当てはまる、もしくは、腹囲が男性85cm以上/女性90cm以上
  • メタボリックシンドローム … 腹囲が男性85cm以上/女性90cm以上+血圧、血糖、血清脂質基準値以上3項目のうち2つ以上当てはまる

肥満の状態に加えて、健康障害(合併症)項目が1つでも該当していると肥満治療の対象です。該当する項目がなかったとしても、腹囲が基準値を超えている場合、内臓脂肪型肥満と診断され、肥満治療の対象となります。

また、BMIが25以上ではなかったとしても、腹囲が基準値を超えていたり、血圧や空腹時血糖、中性脂肪のうち2つが基準値を超えていたりすると、メタボリックシンドロームと診断されます。

いずれも内臓脂肪の蓄積が多いという診断であり、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすリスクが高いため、早期に内臓脂肪を減らす対策が必要です。

大倉先生

肥満症やメタボリックシンドロームは内臓脂肪が深く関わっているとされます。内臓脂肪の蓄積は、より一層病気のリスクが高いため注意が必要です。
 
BMIが25以上の方は、現時点で肥満症と診断されなくても、将来的に健康リスクが高まる可能性があります。

男性のほうが肥満が多い?

令和4年国民健康・栄養調査結果の概要によると、肥満者の割合は女性21.0%に対して男性は31.7%と、男性の方が肥満者が多いことがわかります。

男性に肥満者が多い理由として考えられているのが、食生活や働き方などによる環境的要因です。

男性が料理や自炊をする割合は女性に比べて少なく、食事を外食やコンビニ、スーパーに頼りがちな人が多い傾向にあります。また、夜勤や交代勤務は生活リズムを乱し、肥満リスクを高める要因です。

これらの勤務形態は男性比率が多い製造業や運輸業だけでなく、医療や介護など女性に多い職種でも広くみられます。食生活の乱れや睡眠が不規則になることで、肥満者の割合が増えていると考えられています。

また、女性は皮下に脂肪がつきやすいのに対し、男性は内臓周辺に脂肪がつきやすいことも注意すべき点です。BMIや腹囲を定期的に測り、肥満状態を定期的に把握することが重要です。

肥満が引き起こす、3つの主な生活習慣病

肥満状態は生活習慣病を引き起こすきっかけになります。特に気をつけたい、糖尿病・高血圧・脂質異常症について解説します。

糖尿病

特に内臓脂肪型の肥満は糖尿病のリスクが上がるとされています。肥満になる人は食事から摂取する糖質量が多く、消費しきれなかった糖が血中を流れ、2型糖尿病のリスクが上がります。

上がってしまった血糖値は、膵臓が分泌するインスリンと呼ばれるホルモンで下げられるのが、通常のメカニズムです。しかし、内臓脂肪がインスリンの働きを弱めてしまうと、血糖値が下がりにくくなります。内臓脂肪の蓄積には特に注意が必要です。

大倉先生

腸間膜という腸を支える膜の部分に脂肪がたまりやすく、これが内臓脂肪と呼ばれます。これがインスリンの働きを悪くしてしまうことで、血中に糖が残りやすい状態をつくります。
 
インスリンの働きを助けて動脈硬化のリスクを下げるアディポネクチンの分泌量が、肥満やメタボリックシンドロームになると低下することも、糖尿病と関連しています。何よりも内臓脂肪をつけないように気をつけましょう。

高血圧

肥満は高血圧を引き起こす要因とされていますが、血圧が高くなる要因にもインスリンが関係しています。インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込むだけでなく、塩分を体に溜め込み、血圧を上げる作用もあります。肥満によりインスリンの働きが悪くなることで、塩分の再吸収が進み、血圧が高くなってしまうのです。

また、肥満によって体の表面積が大きくなることも原因のひとつです。体が大きくなると、全身の末端まで血液を送り込む負担が大きく、血圧が上がる要因と考えられています。

高血圧は血管を硬くもろくさせ、脳卒中や心筋梗塞のリスクを上げるので、注意が必要です。

大倉先生

高血圧は薬を飲む必要があるほど高い数値になっても、症状に出ないことが厄介です。自覚症状がまったくないまま進行し、気づいたら倒れていたというケースも多いため、くれぐれも注意してください。
 
心臓病や脳出血から命を奪われる人もいれば、脳卒中から寝たきりになるケースもあります。

脂質異常症

肥満状態の方は、中性脂肪の上昇や悪玉コレステロールの上昇、善玉コレステロールの低下による脂質異常症にも注意しましょう。

食事から摂取して余ったエネルギーは脂肪細胞に溜め込まれ、中性脂肪の上昇や悪玉コレステロールの上昇、善玉コレステロールの低下を引き起こします。脂質異常症もまた、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞のリスクを上げます。

バランスの良い食事と適度な運動で、脂質異常症にならないための予防をしておきましょう。

大倉先生

脂肪細胞は中性脂肪を溜め込み、細胞の直径は最大で5倍近い大きさまで膨れ上がります。そのため、太ると体が大きくなるのです。アジア人は欧米人に比べて皮下に脂肪を溜めにくく、内臓脂肪がつきやすいため、食べすぎには注意してください。

身長・体重から自分のBMIを計算してみよう

自分が太っているかどうかは、BMI(Body Mass Index)という指標で判断できます。

肥満度合いを判断する指標は他にもありますが、BMIは身長と体重のみで計算がしやすく、医学論文や日本の医療現場でも採用されています。

まずは、自分のBMIを計算してみましょう。

BMI = 体重kg ÷ (身長(m))×(身長(m))
例)1m60cmで体重55kgの方なら … 55÷ (1.6×1.6) ≒ 21.45 
※BM21.45は普通体重範囲です。

日本では、BMI18.5から25の範囲を普通体重と定めていますが、WHO(世界保健機構)基準では異なります。日本肥満学会とWHOそれぞれを比較すると、以下の通りです。

日本人を対象とした研究では、BMI25以上から高血圧や高コレステロール血症のリスクが上がると判明しているため、BMI25を判断基準として定めています。

WHO(世界保健機構)基準と日本肥満学会が定める基準値の違い

身長や体重は毎年健康診断などで計測し、BMI25を越えないように定期的にチェックしましょう。

※アジア糖尿病学会の機関紙にて「アジア人のBMI23以上は2型糖尿病の前段階調査を開始するのが適切」という発表がありました。BMIは25以下ではなく、より厳しいラインを設けるべきという見解もあります。

大倉先生

肥満の度合いを測る数値として「体脂肪率」があります。家庭で簡単に測定でき、日本で基準が設けられているので重視している方も多いですが、当てにできない側面もあります。
 
家庭用の体組成計では全身を調べて体脂肪率を測っていない場合が多く、体脂肪率から内臓脂肪の量は判断できません。体脂肪率もチェックすることは重要ですが、BMIも必ず確認しておきましょう。

リンゴ型の内臓脂肪型肥満と、洋ナシ型の皮下脂肪型肥満

肥満は、脂肪のつき方によって「リンゴ型」の肥満と「洋ナシ型」の肥満があります。

内臓まわりに脂肪が溜まるタイプは、男性に多いとされるリンゴ型と呼ばれる内臓脂肪型肥満。
下腹部や腰回りに脂肪がつくタイプは、女性に多いとされる洋ナシ型と呼ばれる皮下脂肪型肥満です。

BMIは肥満の指標として重要であるものの、BMIをクリアしていれば問題がないというわけではありません。BMIの判定が普通体重であっても、腹囲が基準を超えている場合は、メタボリックシンドロームに該当します。

男性は腹囲85cm、女性は腹囲90cmを超えないように気をつけましょう。

リンゴ型の内臓脂肪型肥満と、洋ナシ型の皮下脂肪型肥満

肥満を予防するために気をつけるべき3つのこと

ここでは、肥満を予防するために気をつけるべき3つのことを紹介します。

1糖質と脂質に配慮した食事を摂る

肥満にならないための食生活を送るには、糖質と脂質の量を適切に摂取することが重要です。特に脂質は1gあたり9kcalと、タンパク質や炭水化物に比べて摂取カロリーが増える傾向にあるため、摂りすぎないように注意しましょう。

腹八分を心がけることやゆっくりとよく噛むこと、食物繊維を十分に摂ることなどは、健康のための基本的な食事方法とされています。これらの習慣も少しずつ取り入れてみましょう。

大倉先生

健康的な食生活を送ろうとして、じつは糖質や脂質を摂りすぎてしまうことがあります。
 
例えば、乳酸菌飲料や野菜ジュース。甘みは糖質であるため、飲みすぎには注意が必要です。めんつゆや調味酢などの調味料も、果糖ブドウ糖液糖が多く含まれているため、使う量を意識してみてください。果糖ブドウ糖液糖というのは、身近な例では、アイスコーヒーに入れるガムシロップなどに多く含まれています。
 
脂質でもっとも気をつけないといけないのは、「見える油」と「見えない油」。バターやサラダ油のような「見える油」を減らそうと努力する事も重要ですが、それは普段摂取している油の2割ほど。残りの8割は「見えない油」で、意識せず摂取している豚バラなどの肉や加工食品、パン、スナック菓子などに含まれています。
 
健康面に気をつけてサラダを食べるときも、マヨネーズやドレッシングに含まれている油の量を知ることで対策できます。

見えない油(豚バラなどの肉や加工食品、パン、スナック菓子)の摂りすぎに注意
肥満対策は食事が重要|管理栄養士が栄養素の目安や食事法を解説
「ダイエットを始めても長続きしない」「食事量を減らしても効果が出ない」と悩みを抱えている方は少なくありません。

そのような場合、自己流の食事制限に頼ってしまっていることが多く、結果として栄養バランスが崩れ、体調を崩してしまうケースが見受けられます。無理な方法では継続が難しく、かえってリバウンドを招いてしまうこともあります。

そこで今回は、管理栄養士として多くの食事指導を行ってきた岡田明子先生に、ダイエットの第一歩となる「食事の記録と見直し」、そして無理なく続けられる「食習慣の工夫」についてお話を伺いました。
https://helico.life/monthly/250910fat-and-thin-nutrients/

2適度な運動をする

適度な運動は、肥満を防ぐうえで有効です。運動をすると糖が必要になり、血中のブドウ糖が消費されるため、高血糖を予防するためにも重要です。

脂肪を減らすために運動したい方は、短時間の筋トレよりも、30分以上の有酸素運動が効果的です。

大倉先生

急に激しい運動をすると心臓に負担をかける心配があるため、心電図に問題がないか調べてから運動に取り組んでください。
 
また、フルマラソン1回でようやく2,500Kcal消費となることから、運動で消費できるカロリーはそこまで多くないことも知っておきましょう。「運動をしていればすこし食べすぎても大丈夫」と、運動の効果を過信しないことも大切です。

3お酒やタバコなどの嗜好品を避ける

過度な飲酒や喫煙は、肥満の原因となるだけでなく、健康に悪影響をもたらすものであることを認識しておきましょう。

アルコールは1gあたり約7kcalあり、糖質ゼロのものを選んだとしても意外と多くのカロリーが含まれています。過度な摂取は肝臓に負担をかけ、脂肪として蓄積します。

またタバコも、がんや脳卒中などありとあらゆる病気リスクを高めてしまうため、肥満だけでなく、病気の予防という観点からも、喫煙は控えることが望ましいでしょう。

大倉先生

適度なアルコールはまだ許容範囲ですが、タバコは百害あって一利なしです。なるべく禁煙に努めてください。

肥満を克服して健康的な生活を

肥満は体形だけの問題ではなく、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病や、大きな病気への第一歩となります。

太っていても、血圧が高くなっても、初期の段階では自覚症状がほとんど現れないことが多いとされています。しかし、放置しておくと心臓病や脳卒中となるリスクが高まります。

ご家族や大切な方が肥満を放置していたら、心配であることやリスクがあることを伝えてください。場合によっては病院を受診し、肥満からつながる病気の予防を実践しましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:福田玲子
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