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睡眠不足がもたらす、体と心の不調や疾患リスクとは?

もう寝ようと思っているのにスマホを見ながら深夜までゴロゴロ、睡眠時間を削って仕事や勉強を頑張ってしまう……など、現代人、特に日本人は睡眠を犠牲にしがちです。

大人が健康的に過ごすには、1日6時間以上の睡眠をとることが望ましいとされています。睡眠が不足すると、自覚がないまま体調不良に陥ったり、感情が不安定になったり、病気のリスクも高まることがわかっています。この記事では、慢性的な寝不足がもたらすさまざまなリスクや、寝不足を解消する方法を解説します。

教えてくれるのは…
眞野 まみこ先生
愛知医科大学病院 睡眠科・睡眠医療センター

医学博士。専門は内科、睡眠時無呼吸症候群。代表的な論文に「日本人におけるレム睡眠行動障害の性差」などがある。日本睡眠学会認定総合専門医・指導医、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医。
 
愛知医科大学病院:https://www.aichi-med-u.ac.jp/hospital/

慢性的な寝不足ってどういう状態?

睡眠にはサイクルがあり、一晩にノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返すことで、脳や体の疲れをとり、記憶を整理し、傷ついた細胞を修復するという大事な働きをしています。心身の健康を支える重要なしくみであり、睡眠の質だけでなく、量やリズムも大切です。

眠っている間に体や脳はどうなっている?睡眠の役割とは
朝までぐっすり眠れた日は、体が軽いと感じたり仕事がはかどったり。逆に、睡眠時間を十分にとれなかった日は、頭がボーッとしてだるかったり……。私たちは、眠ることの大切さを日々実感しています。

では実際に、睡眠中の体や脳内ではどんなことが起きているのでしょう。本記事では、睡眠の役割や、睡眠がもたらす心身へのうれしい効果について解説。その日の疲れを癒し、活力を得るために取り入れたい入眠準備についても紹介します。
https://helico.life/monthly/250304-sleep-roles-importance/

まずは、慢性的な寝不足になっていないか、チェックしてみましょう。

□ 1日6時間以上睡眠が取れていない日が多い(大人の場合)
□ 日中に眠気を感じやすい

この2つが当てはまる人は慢性的な寝不足の可能性があると考えていいでしょう。
加えて、以下のような自覚がある場合も要注意です。

□ 休日はいつも昼まで寝ている
□ 週末はたっぷり寝たのに、月曜からだるい

平日と休日の就寝・起床リズムのズレのことを「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」といいます。平日と休日の睡眠時間を比べて中央値が2時間以上ずれている場合には、そもそも平日に十分な睡眠がとれていないと考えられます。体内リズムが乱れ、眠りたい時間に眠れなくなっている可能性があります。

ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)とは

必要な睡眠時間の目安とは?

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が推奨する睡眠時間の目安は、以下の通りです。

「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が推奨する睡眠時間の目安

  • 未就学児:1~2歳児は11~14時間、3~5歳児は10~13時間
  • 子ども :小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間
  • 成人  :6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保する(個人差があるため)
  • 高齢者 :床上時間が8時間以上にならないよう必要な睡眠時間を確保する

しかし、実態は、日本人の約4割は睡眠時間が1日6時間未満と、多くの人が睡眠不足傾向にあります。最も睡眠時間が短い世代は、40歳以上60歳未満です。社会的な役割が多い働き盛り世代ほど、十分な睡眠時間を確保できていないようです。

作業効率が大幅ダウン、想像以上に大きい寝不足の影響

寝不足が続くことで、集中力や判断力、注意力が低下することは多くの人が経験しているはず。やる気が出ない、時間がかかる、ミスが増えるほか、車の運転や機械の操作などは、一瞬の判断ミスや操作ミスが大きな事故につながることもあります。

1日6時間睡眠を続けた人のパフォーマンスは急激に落ちていき、2週間後には2日徹夜した場合と同じくらいまで脳の反応速度(パフォーマンス)が低下したという実験結果があります。しかも、被験者の多くは、睡眠が不足しているという自覚がほとんどなかったそうです。

寝不足の影響による作業効率の大幅ダウン

Van Dongen HPA et al.:Sleep 2003;2:117-126

日中の眠気と、睡眠時間による単純な作業におけるミスの回数を調べた実験では、睡眠不足によるミスは睡眠不足に比例して増加していきます。また、睡眠不足の初期は「眠気」を自覚しにくいという結果が出ました。

こうしたデータからも、眠気を感じてから休んでもミスを減らすことは難しいと考えられるでしょう。慢性的な寝不足は自覚しにくいからこそ、「自分は大丈夫」という過信は禁物。自分の感覚に任せるのではなく、意識して睡眠の改善に取り組む必要があるのです。

こんなにある! 寝不足が招く病気のリスク

寝不足や睡眠の乱れは、以下に挙げるさまざまな病気の発症リスクを高める可能性があります。日々の睡眠時間を削る行為は、健康寿命を削るようなものかもしれません。

体の不調や病気

  • 免疫力の低下
  • 肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心臓病、脳卒中などの生活習慣病
  • 認知力や判断力の低下
  • アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積し、神経細胞が破壊されることが発症の一因と考えられています。このアミロイドβは、ノンレム睡眠時に脳内から排出されるという特性があります。そのため、ノンレム睡眠が十分に確保できていないと、アミロイドβが排出されずに蓄積していき、認知症の発症リスクが高まる可能性があります。

寝不足が招く体の不調(免疫力の低下・肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心臓病、脳卒中などの生活習慣病・認知力や判断力の低下・アルツハイマー型認知症)

心の不調や病気

  • 不安や混乱、抑うつなどネガティブな感情
  • うつ病

寝不足が続くと、不安や混乱、抑うつ傾向が高まるなど、メンタルへの悪影響もあるとされています。うつと不眠の関係を調べた調査では、7~8時間の睡眠をとっている人が最もうつ状態である割合が少なく、それより短くても長くてもうつ状態が高まることが明らかになりました。そのほか、睡眠時間が不足するとうつ病のリスクが高まるという調査結果や、人間の脳は一晩眠らないだけで1~2歳老けるという研究結果もあります。

また、寝不足が続くと体内のホルモンバランスが崩れて、食欲が増大します。無性に食べてしまうのは、夜更かしが原因かもしれません。

寝不足が招く心の不調(不安や混乱、抑うつなどネガティブな感情・うつ病)
食欲ホルモンを味方につけて、食べ過ぎ&ドカ食いをSTOP!
健康のため、食べ過ぎには気をつけているつもりなのに、何かの弾みに食欲が止まらなくなったり、甘いものばかり食べ続けてしまったり。夜遅い時間に食べたい欲求が抑えられなくなった……などの経験はありませんか。

こうした食欲のリズムにも、じつはホルモンが関係しています。本記事では、食欲と関係の深いホルモンの働きに注目しながら、私たちの食欲と食行動、ダイエットなどとの関係について解説します。
https://helico.life/monthly/240708hormone-syokuyoku/

夜ぐっすり、朝スッキリ。寝不足解消・調整術

「なかなか寝られない」習慣を変えていくには、睡眠のしくみを理解して、夜に眠くなるように調節していきましょう。

夜は眠くなり、朝はだいたい同じ時間に目覚める、といった「サーカディアンリズム」が存在しています。このリズムは「睡眠欲求」と「覚醒力」のバランスによってつくられます。睡眠の観点から見ると、人間の1日には睡眠状態と覚醒状態の2つしかありません。この2つはシーソーのようなバランスをとっていて、睡眠欲求が上回れば眠り、覚醒力が高いと眠れない状態になります。

また、ヒトが眠ることができる時間には限りがあります。長く寝ようとしても、自然に目が覚めてしまうという経験はありませんか。つまり、その人なりに十分眠れていれば、睡眠欲求は消えて覚醒するしくみになっているのです。睡眠欲求と覚醒力には、それぞれ以下のような特徴があります。

睡眠欲求とは

目覚めている時間が長いほど強まる(睡眠圧が高まる)。また、眠りを誘うホルモン「メラトニン」が分泌されると強まる。

覚醒力とは

朝方に交感神経が活性化、覚醒作用のあるホルモンが分泌され、深部体温(脳温)が上昇することで強まる。日中に強く、就寝の数時間前にも強くなり、その後メラトニンの分泌で急降下する。

 
加えて近年、オレキシンという神経ペプチドが覚醒の維持に重要な役割を果たし、その働きが鈍る(低下する)と睡眠状態に切り替わることもわかってきました。

睡眠と覚醒の切り替えのカギとなるのは、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」。朝日を浴びると、約14~16時間後にメラトニンが分泌され自然と眠くなるので、朝に太陽の光を浴びるところから1日を始めるのがポイントです。朝ごはんを窓際で食べる、屋外でラジオ体操をするなど15〜30分程度、朝日を浴びるとよいでしょう。

逆に、夜に蛍光灯などの強い光を浴びるとメラトニン分泌の妨げになるので、室内の明るさを抑えた環境を意識的につくるようにします。さらに、毎日の起床時間を一定に保ち、長時間の昼寝や、寝る前のうたた寝をしない方が、夜に睡眠圧がしっかりと高まってぐっすりと深く眠れます。寝不足が続いたときこそ、リズムを意識的につくることが大切です。

自分の睡眠を可視化する「睡眠日誌」をつけてみよう

自分の眠りの問題点はなかなか意識しにくいもの。それを可視化するためにおすすめなのが、睡眠時間やその日の出来事を日記のように書き留める「睡眠日誌」です。不眠症治療などでも用いられることがあり、ネットで検索すればPDF版が入手できるほか、睡眠日誌のアプリもあります。

睡眠日誌で自分の睡眠を可視化しよう

睡眠日誌をつけるメリット

よく眠れた日や、熟睡できなかった日、その日にあった出来事などを後で見直すことで、生活上の問題点や対処法が見えてきます。日によって起床時間が大きくズレている場合には、睡眠習慣を見直すきっかけにもなります。

睡眠日誌のつけ方

睡眠日誌には、以下の項目を書き出します。

  • ベッドにいた時間
  • 実際に眠れた時間
  • よく眠れた日、眠れなかった日の体調や、日中の眠気
  • その日の出来事

朝の目覚めがよく、日中眠気で困ることもなく、調子がいいと感じられた日の睡眠時間が、その人の適正睡眠時間になります。2週間~1か月程度は続けて、自分の睡眠の傾向をつかんでいきましょう。

睡眠不足を甘く見ないで!

睡眠は働く環境やライフステージの影響を受けやすく、知らずしらずのうちに慢性的な寝不足に陥っていることが少なくありません。また、睡眠時間は、短すぎても長すぎても不調や健康上のリスクが高まります。「いまはなんとかやれているから大丈夫」と油断せずに、睡眠を見直して健康への悪影響を減らしていきましょう。

CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:園内せな 図版:新藤麻実(linen inc.)
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