「頭がモヤモヤして思考力が落ちている気がする」「なんだか目がさえてしまって眠れない」といった経験はありませんか? 近年よく使われる「脳疲労」という言葉は医学的な正式名称ではありませんが、脳が休むための仕組みがうまく働かず、活動状態が続いてしまうことで生じる不調の総称として広まりつつあります。
特に近年は、長時間のパソコン作業やスマートフォンの利用で、脳疲労を顕著に感じやすくなっているともいわれています。本記事では、脳疲労と呼ばれる状態の背景や症状、日常でできる対策について解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 菅原 道仁先生
- 菅原脳神経外科クリニック 院長
杏林大学医学部卒業後、クモ膜下出血や脳梗塞などの緊急脳疾患を専門として、国立国際医療研究センターに勤務。その後、脳神経外科専門の八王子市・北原国際病院を経て、2015年6月に菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、2019年10月に菅原クリニック 東京脳ドック(港区赤坂)を開院。その診療経験をもとに「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、心や生き方までをサポートする医療を行う。著書に『働きすぎで休むのが下手な人のための休息する技術』(アスコム)など。
[監修者]菅原 道仁先生:https://sugawaraclinic.jp/staff/
菅原脳神経外科クリニック:https://sugawaraclinic.jp/
脳疲労ってどんな状態?
脳には活動を高める働きと休息へ切り替える働きがあり、本来はこれらが自動的に調整されています。しかし、現代の生活ではつねに情報に触れ続けることで、脳がオフに切り替わる機会が少なくなっています。このように脳が処理状態のまま休みにくくなり、不調が積み重なった状態を一般的に「脳疲労」と呼びます。
背景には、「自律神経の疲れ」「心理的なストレス」「身体的な疲れ」の3つが相互に働いていることが多く、それぞれが脳の負担につながります。
- 自律神経の疲れ:交感神経と副交感神経のバランスの乱れにより生じる。
- 心理的なストレス:精神的ストレスや不安によって心がすり減ることで生じる。
- 身体的な疲れ:姿勢の乱れなどで筋肉への負担が蓄積することで生じる。
特に身体的な疲れは、脳とは直接関係ないと感じるかもしれません。しかし、身体的な疲れを感じているのは脳なので、結果的に脳に影響を及ぼすのです。
これらが重なると脳の調整が追いつかず、集中力や判断力の低下などにつながっていきます。脳疲労は単に「頭が疲れている状態」を指すだけでなく、「休息がうまくとれない悪循環に陥っている状態」ともいえるのです。
脳疲労をもたらす原因とは
現代人の生活環境は、脳疲労が生じて当然ともいえます。かつては肉体労働が中心でしたが、近年は体を動かして働くことが減りました。また、情報技術などの発達により、頭脳労働が生活の中心になっています。
パソコンやスマートフォンを絶えず使用することで、脳はつねに情報を処理し続けることになります。マルチタスクやながら作業は注意を分散させ、脳に余計な切り替え作業を強います。また、仕事の効率化や、コミュニケーションツールの普及で即時の返信が求められるなど、気持ちが休まらない場面も増えています。こうした状況が積み重なることで、脳が休む時間が不足しやすくなります。
脳疲労は誰にでも起こりうる状態ですが、現代の生活習慣によってより強く感じやすくなっているといえます。まずは、自分が脳にかけている負荷に気づき、意識的にデジタル機器から距離を取る時間をつくることが大切です。
脳疲労によって起こりがちな症状
脳が休めない状態が続くと、集中力、判断力、記憶力が低下しやすくなります。慢性的なストレスによりコルチゾールというホルモンの分泌が続くと、学習効率や免疫機能に影響が生じることも知られています。
また、脳疲労によって自律神経の乱れが起こることで、以下のような症状が現れる可能性があります。
- 寝つきが悪くなる
- 睡眠の途中で目が覚める
- 頭がぼーっとする
- 体がだるくなる(体の疲れがとれない)
- 怒りっぽくなる
- やる気が起きなくなる(外出などが面倒になる)
- 頭痛やめまいが生じる
さらに、脳の機能が低下すると判断力も鈍るため、日常における仕事などのパフォーマンスにも影響を及ぼします。また、スマートフォンの長時間利用により注意力や記憶の低下が見られるケースを「スマホ認知症」と呼ぶこともあります。医学的な正式名称ではありませんが、過度な情報処理による影響として説明されています。
このように、脳疲労は頭部にのみとどまるものではなく、心身全体へ影響を与えることがあるのです。先述の自覚症状が現れる前に、脳疲労が体へ悪影響を及ぼしていることに気づき、脳疲労から回復する、あるいは予防することが重要です。
日々の生活のなかで脳疲労を回復させよう!
睡眠で脳にたまった老廃物を排出
脳疲労の回復・予防において、最も重要なのが「質の高い睡眠」です。脳は、膨大な情報の処理に伴って、老廃物も蓄積されていきます。私たちの脳には、この老廃物を排出する機能が備わっており、特に深い睡眠(ノンレム睡眠)時に活発に働きます。つまり、時間的に十分かつ質の良い睡眠をとることが、脳の機能を回復するための鍵となるのです。
就寝前のスマートフォン操作は覚醒を促し、睡眠の質を下げることがあります。就寝時には手元にスマートフォンを置かないといった工夫も有効です。
そのほかにも実践したい脳疲労回復習慣
朝食をしっかり摂ろう
朝食は脳が活動するためのエネルギー源になります。朝食を抜くと血糖値が不安定になり、注意力の低下につながることがあります。理想は、炭水化物(ご飯やパンなど)にタンパク質(卵や納豆、ヨーグルトなど)、ビタミン・ミネラル(野菜や果物、海藻など)を組み合わせた朝食です。しかし、朝は何かと忙しく、そこまでバランスを考えるのは難しいかもしれません。そのような場合には、まずはハードルを下げて、「朝食を食べる」ことから始めてみましょう。食べ物をよく噛むことも、脳機能の回復を助けてくれます。
運動で「脳の体力」をつけよう
定期的な運動は脳の機能を維持・向上させることがわかっています。激しい運動でなくても、散歩や階段の利用など日常的な活動で十分です。運動は休息とは真逆と考えられがちですが、適度に体を動かすことは脳への刺激や心身のリフレッシュにつながり、結果的に脳疲労の回復を促します。ゆったりと散歩をしたり、駅で少しだけ階段を使ったりするだけでも、立派な運動です。まずは、自分の生活のなかでできることから始めてみてください。
自然に触れて、脳をリフレッシュさせよう
自然と触れ合うことも、脳疲労の回復にとってとても重要です。自然のなかで景色を眺めたり、森林浴をしたりすると、唾液中のストレスホルモン(コルチゾール)濃度が低下するという研究結果もあります。自然のなかを歩くなど運動と組み合わせることで、さらなる脳疲労の回復が期待できます。
小休憩を上手に取り入れよう
日頃、デスクワークをしている人に気をつけてほしいのが、長時間の座りっぱなし。これにより死亡リスクが増加するということもわかっています。一方で、仕事の合間に数分~10分程度の休憩を挟むと、疲労感が軽減することも近年の研究から明らかになってきました。立ち上がって適度に休憩を挟み、脳と体をリフレッシュさせてあげましょう。このほか、音楽を聴くなど五感を積極的に使ったり、人と交流したりすることでも脳は活性化します。
自分に優しくなろう
失敗などをした際、自分を責めすぎてしまうと、ストレスが溜まったりモチベーションが下がったりします。反省することは大切ですがほどほどにして、「自分を許す」ことを意識しましょう。自分に優しくできるようになると、「次はこうやってみよう」という改善意欲が出て、モチベーションの向上が期待できます。
脳が疲労を溜め込みにくくなる習慣を身につけよう
私たちは、日々のデスクワークやスマートフォンの使用で、自分が思っている以上に脳を酷使しています。大切なのは、休息と活動のバランス。まずは、「日々脳を酷使している」という自覚を持ち、適切に脳を休ませる行動を生活に取り入れてみましょう。
それらの積み重ね・習慣化によって、脳を効率的に休ませることができ、疲労が溜まりにくくなります。休息がうまくとれない悪循環に陥る前に、睡眠や五感の刺激、自然との触れ合いなどを通して、脳を適切に休ませるように意識してみましょう。