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皮膚ガスってなに?においの特徴と原因、改善方法とは?

皮膚ガスとは、私たちの皮膚から自然に放出される揮発性の化学物質のこと。現時点で800種類以上の皮膚ガスが確認されており、どんな人からも皮膚ガスが発生しています。皮膚ガスのなかには、無臭のものから加齢臭や中年男性臭(ミドル脂臭)などの気になる体臭の原因になるものも。

本記事では、「皮膚ガス」が発生する原因や特徴、具体的な対策・予防方法などをわかりやすくご紹介します。正しい知識を持って、日常のケアに活かすことで、においの悩みは軽減できます。加齢臭が気になり始めた方も、予防したい若い世代も、ぜひチェックしてみてください。

教えてくれるのは…
関根 嘉香先生
東海大学理学部化学科 教授

東京都出身。慶應義塾大学理工学部、同大学院理工学研究科修了。日立化成社勤務を経て、2000年より現職。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師、神奈川県立保健福祉大学講座担当講師を兼務。専門は「環境と健康の化学」、皮膚ガス研究の第一人者。一般社団法人室内環境学会・元理事長。主な著書に「皮膚ガスのはなし‐体臭は心と体のメッセージ」(朝倉書店)、「Human Insecurity in Asia」(United Nations University Press)などがある。

[監修者]関根 嘉香先生:https://www.u-tokai.ac.jp/facultyguide/faculty/2612/
東海大学 HP:https://www.u-tokai.ac.jp/

皮膚ガスの発生経路は3つ。主な原因とは?

800種類以上ある皮膚ガスですが、その発生経路は大きく3つのパターンに分類できます。

1皮膚表面反応由来の皮膚ガス

私たちの生活に身近なのは、「皮膚表面反応由来」の皮膚ガスです。主に皮膚の表面にいる常在菌が、汗や皮脂を分解することでにおいを発生させていて、加齢臭やミドル脂臭、足の裏のにおいなどの原因となっています。常在菌をゼロにすることはできませんが、皮膚表面を清潔に保つことでにおいを抑えられるでしょう。

2皮膚腺由来の皮膚ガス

血液中の化学物質が、汗腺や脂腺などの「皮膚腺」を通じて発生するのが「皮膚腺由来」の皮膚ガスです。常在菌は介在しません。

汗や皮脂が分泌される際に発生する皮膚ガスで、酸っぱい汗のにおい(酢酸)の原因になります。汗や皮脂を拭き取ることで、においを抑えることができます。

3血液由来の皮膚ガス

血液中の化学物質が、皮膚表面から揮発して発生するのが「血液由来」の皮膚ガスです。

腸内環境の乱れや食生活が原因の疲労臭や、ダイエット臭と呼ばれるものもありますが、アルコールやタバコ、にんにくなど食べ物が原因で発生するものも。これらは皮膚表面から放出されているため、洗ったり、拭いたりするだけでは取れません。

不快なにおいを発生させる皮膚ガスの種類

不快なにおいを発生させる皮膚ガスの種類

皮膚ガスには、においがするものと無臭のものがあります。ここでは、体臭につながる不快なにおいがする皮膚ガスの種類と原因成分を紹介します。

体臭となる皮膚ガス①「イソ吉草(きっそう)酸」

長時間はいた靴下、汗を拭いて放置したタオルなど鼻をつくような腐敗臭(納豆のようなにおい)が特徴的な、イソ吉草酸。足臭や汗臭と呼ばれています。皮膚表面の常在菌が、汗や皮脂を分解する際ににおいを発生させるため、年齢に関係なく出てしまう皮膚ガスです。

体臭となる皮膚ガス②「2-ノネナール」

枯れ葉や古本などのにおいと表現されているのが、2-ノネナールという皮膚ガスです。加齢臭の原因で、主に首から背中にある皮脂が、紫外線などを浴びたことにより酸化してにおいを発生させています。男性では35歳以降、女性では40歳以降に増える傾向があります。

体臭となる皮膚ガス③「ジアセチル」

使い古した油や、チーズ、バターのようにもったりとした発酵臭がするのは、ジアセチルという皮膚ガスが原因で、ミドル脂臭とも呼ばれています。後頭部(頭の後ろや耳の後ろ)から耳にかけて発生しやすく、汗と常在菌の反応でにおいが発生します。皮脂分泌量が増える中年男性に多いと言われていますが、中年女性でも放出されている皮膚ガスです。

体臭となる皮膚ガス④「酢酸(さくさん)」

皮膚腺由来の皮膚ガスである酢酸は、ツーンとお酢のようなにおいがします。「酸っぱい汗」のにおいと聞くと、想像しやすいでしょう。汗そのものににおいはほとんどないと考えられていますが、発汗する際に酢酸の皮膚ガスが発生することもあります。どの年齢、性別でも出てしまう皮膚ガスです。

体臭となる皮膚ガス⑤「アセトン」

一般的には感じにくい皮膚ガスですが、甘酸っぱく除光液のようなにおいがするのが、アセトン。ダイエット臭とも呼ばれています。体脂肪を燃焼した際に発生するアセトン(脂質の代謝生成物)が、呼気および皮膚から放出されることが要因と考えられています。年齢や性別に関係なく、糖質制限ダイエット中の方、血中の糖質をエネルギーに利用できず脂質代謝が多くなる糖尿病患者さんに発生しやすい皮膚ガスです。

体臭となる皮膚ガス⑥「アセトアルデヒド」

「お酒くさい!」と指摘されてしまうにおいは、アセトアルデヒドが原因です。血液由来の皮膚ガスで、血液中のアルコールがアセトアルデヒドに分解され、翌日以降も皮膚ガスとして放出されることがあります。年齢、性別関係なくアルコールを飲む方に発生しやすい皮膚ガスです。

体臭となる皮膚ガス⑦「アンモニア」

ツーンと刺激的なにおいを発生させるアンモニアの皮膚ガス。これは「疲労臭」と呼ばれ、精神的なストレスや肉体疲労によって血液中のアンモニア濃度が高まることが要因と考えられています。年齢、性別に関係なくここ数年で増加傾向にある皮膚ガスです。

体臭となる皮膚ガス⑧「ジアリルジスルフィド」

朝方に「にんにくのようなにおい」がするのは、ジアリルジスルフィドが原因と考えられています。これは寝不足臭とも呼ばれ、十分な睡眠や休息が取れていない人から出てくる皮膚ガスです。年齢、性別に関係なく発生します。

年代・性別ごとの皮膚ガスの特徴

皮膚ガスの特徴は、年代や性別によって異なります。

10代~20代の皮膚ガスの特徴

主に10代~20代前半の女性に多いのが、血液由来のラクトンという皮膚ガスです。桃のような甘い香りが特徴で、男性はほとんどありません。

また「腋臭症(ワキガ)」のにおいも、この年代から発生し始めることが多いです。「腋臭症(ワキガ)」は、脇の下に多くあるアポクリン汗腺から出てくる少し粘り気のある汗が、常在菌に分解され発生する皮膚ガスが原因です。アポクリン汗腺は、性ホルモンとの関わりも深く思春期に発達するため、この年代は脇のにおいを強く感じることがあります。

30代~40代の皮膚ガスの特徴

働き盛りの30代~40代は、腸内環境や食生活が乱れやすくなることから血液由来の皮膚ガスの影響を受けやすくなります。タバコやお酒をたしなむ人はとくに、この頃から体臭の変化を感じやすくなるでしょう。

男性だけでなく、女性でもミドル脂臭が発生しやすいのがこの年代。ミドル脂臭は、頭頂部から首の後ろのあたりにかけて、使い古した油のようなにおいがするのが特徴です。

50代以降の皮膚ガスの特徴

50代以降は、ホルモンの分泌量や体調に変化が現れやすい年代です。男性は汗や皮脂が酸化して枯れ草のようなにおいが発生する「加齢臭」、女性は更年期障害のひとつであるホットフラッシュから汗をかく機会が増え「汗のにおい」を気にする方が多いのも特徴と言えるでしょう。

また日常のストレスで血液中のアンモニアがうまく分解できず、男女共に「疲労臭」が出てしまう人も。さまざまなにおいが気になる年代でもあるので、自身の皮膚ガスの特徴を理解し、対策していくことが大切です。

自分のにおい(体臭)を確認する方法

自分自身から発生している皮膚ガスのにおいはなかなか気づきにくいもの。ここでは、簡単にできる自分の体臭を確認する方法をご紹介します。

自分の体臭を確認する方法

① 1日着ていたTシャツやインナー(下着)を密閉袋に入れる
② 数時間放置する
③ ベランダや屋外で深呼吸をした後に、袋の中のにおいを確認する

毎日接する自分の体臭は、どうしても慣れてしまいます。袋の中を確認する前に外気で深呼吸し、鼻をリセットすることがポイントです。

皮膚ガスのにおいの改善方法と対策

体臭の改善方法や、不快なにおいを放つ皮膚ガスの対策法を紹介します。

皮膚ガスのにおいの改善方法と対策

皮膚を清潔に保つ

生きている以上、常在菌や汗をゼロにすることはできません。これらが悪臭の原因にならないよう、日頃から皮膚を清潔に保つ対策を心がけましょう。

たとえば夏場など汗をかきやすい時期は、朝と夜の2回シャワーを浴びるだけでも皮膚ガスの発生を抑え、においを抑制できます。また外出先での汗が気になる際は、濡れたボディシートで汗を拭き取るのも対策になります。これは、汗を抑え体温を下げる効果も期待できます。

抗酸化作用のある食べ物を摂取する

皮膚ガスの中でも加齢臭の対策として有効なのが、日頃から抗酸化作用のある食べ物を食べることです。例としては、アントシアニンを多く含むカシス、ポリフェノール類やクエン酸を含む梅が挙げられます。ある研究では、カシスを1週間毎日6グラム食べることで、加齢臭の原因となる「2-ノネナール」が半数ほど減少し、においが改善されたと報告されています。

加齢臭対策になる食べ物の例

・カシス
1日に6グラム(パウダー等での代用も可)を摂取する
・梅
1日に完熟梅のジュース(360ml)と梅ゼリー(120g)を摂取する

ストレスを軽減する

疲労臭など血液由来の皮膚ガスのにおいを抑えるためには、規則正しい生活をすることが一番の対策になります。身体的・精神的なストレスで肝臓の機能が低下すると、血液中のアンモニア濃度が上昇してしまうのです。食事、睡眠、運動、休息と、自分のライフスタイルに合った方法で対策し、心身ともに健康な状態にしておきましょう。

入浴や運動で汗腺の機能を高める

久しぶりに汗をかくと、ベタベタとしてキツいにおいになっていた経験はありませんか? 日頃から汗をかいている人は、水分量が多いサラサラとした汗が出てきますが、汗腺機能が低下している人は、ミネラル分が多いベタベタとした汗をかきやすいといわれています。このベタベタとした汗には常在菌のエサとなる成分が多く含まれており、においが発生しやすくなることも。日頃からできる汗腺機能を高める対策としては、入浴や運動でサラサラな汗をかける習慣を身につけておきましょう。

「皮膚ガス」に関するよくある質問

においがしやすい時間帯は?

生活リズムによって変わってくるため、一概にこの時間と決めつけることは難しいとされています。

加齢臭の場合、表面の皮脂が酸化して皮膚ガスを発生させてしまうので、朝と夜の2回シャワーを浴びておくことも予防になります。この際、ゴシゴシと皮脂を削るように体を洗ってしまうと逆効果なので、優しく表面の汚れを泡の力で落とすように体を洗うことが大切です。

女性が気をつけたい皮膚ガスや体臭は?

女性は更年期障害によりホットフラッシュが起こることがあります。加齢によるホルモンバランスの乱れから、自律神経に影響し、涼しいのに汗が止まらない、汗が噴き出る症状です。そこから「汗臭」が気になる女性もいるでしょう。

しかし皮膚ガスや体臭を気にしすぎないことも大切です。日頃から規則正しい生活を心がけ、適度にストレスを発散する。体臭も更年期も対策できるので、過度な不安を避けることも大切です。

皮膚ガスは病気のサインになることがありますか?

現状、皮膚ガスによるにおいで病気を患っているかどうかを判断することはできません。しかし近い将来、皮膚ガスを計測することで病気の発見や予防ができるようになるかもしれません。いつか皮膚ガスを測定して、病気の発見や感情のサインを見つけられる日も来るでしょう。血液検査のように採血する必要がないので、幅広い年代の方にも活用いただけるようになるはずです。

CREDIT
取材・文:つるたちかこ 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:森優
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