長期間咳が続き、苦しい思いをしたことがある方は多いのではないでしょうか。咳は誰もが経験したことのある身近な症状のひとつですが、悪化すると睡眠不足や体力の消耗を招き、QOL(生活の質)を下げてしまうことがあります。本記事では、咳が止まらないときに自宅でできるセルフケアや、咳を楽にする姿勢、呼吸法などについて解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 長濱 久美先生
- メディケアクリニック石神井公園 院長
日本内科学会 認定内科医・日本呼吸器学会 専門医。岡山大学医学科卒業後、日本赤十字社医療センターや順天堂大学での診療を経て、クリニックでの訪問診療も経験。2014年にメディケアクリニック石神井公園を開院し、専門の呼吸器疾患のみならず地域のホームドクターとして患者に寄り添った診療を行っている。
[監修者]:http://medicareclinic.net/staff
メディケアクリニック石神井公園:http://medicareclinic.net/
咳は体の防御反応! 咳が出るしくみとは
私たちの体には、ウイルスや細菌をはじめとする外敵から身を守る機能が備わっています。咳もその防御機能のひとつで、空気が通る「気道」に侵入したウイルスや細菌、ホコリ、痰や鼻水などの異物を体外に出すために起こります。
気道にある粘膜が異物を感知すると、「咳中枢(せきちゅうすう)」といわれる脳の部位に信号が伝わり、咳中枢が呼吸を司る筋肉(呼吸筋)に、咳をして異物を体外に出すよう指示を出します。咳は瞬間的にさまざまな筋肉に力が入るため、繰り返すと体力の消耗を招きます。
特に夜は、以下のような要因から咳がひどくなるケースが多くなります。
- 副交感神経が優位になり、筋肉が緩んで気道が狭くなる
- 夜から朝方にかけて寒暖差が大きくなる
- 睡眠時の口呼吸で喉が乾燥する
こうしたことから、咳によって睡眠が阻害されて体力が低下し、咳の原因となっている病気が治りにくくなってしまうこともあります。
咳のつらさを和らげる「姿勢」
体力の消耗を抑えるためにも、少しでも呼吸を楽にする姿勢を覚えておきましょう。
半座位
咳は、夜(就寝時)に横になると、ひどくなることがあります。咳が出て眠れないというときには、「半座位(はんざい)」を試してみてください。横隔膜が下がり、呼吸面積が広がるので、息がしやすくなります。
また、横向きに寝ると咳が和らぐとされています。クッションや抱き枕を使って、苦しくない向き・姿勢を探ってみてください。楽な姿勢が見つかったら、手足の力を抜いてリラックスするようにしましょう。
起座位
座っていて咳が苦しいときは、「起座位(きざい)」がおすすめです。心臓の位置が高くなると、心臓に戻る血液も肺に循環する血液も少なくなって、うっ血が軽減されて、呼吸が楽になります。
テーブルがない場合には、両手もしくは両肘を膝の上に、両足はしっかりと床につけて安定させてください。このとき、少し前かがみの姿勢のほうが楽になる方もいれば、背もたれにもたれたほうが楽という方もいます。自分の呼吸が楽になる姿勢を探してみてください。
立ち姿勢
座れるものがない場合、安定して手をつける胸の高さほどの台があれば、腕を乗せて肘をつき、体を安定させましょう。台がないときには、壁に背中をもたれさせて頭を下げ、両手を膝の上に乗せてみてください。
もしくは、壁のほうに向かい、壁に両手を重ねて両腕を安定させ、手の甲や腕に額を乗せて壁に寄りかかりましょう。このとき、手をつく位置が高すぎると逆に息苦しくなる場合があるので、自分の楽な姿勢を探してください。
咳のつらさを和らげる「呼吸」「ツボ押し」「ストレッチ」
口すぼめ呼吸
別名タバコ病ともいわれる「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」の場合には、口すぼめ呼吸が有効です。口すぼめ呼吸は、鼻から息を吸い、ろうそくの火を消すように口をすぼめた状態で長くゆっくりと息を吐く呼吸法です。COPDの方は、吐き出せない空気が肺にたまって息苦しさが生じます。口すぼめ呼吸をすることで、しっかりと空気を吐き出すことができるようになるため、息苦しさを感じたら意識して口すぼめ呼吸を行ってみてください。
ツボ押し
咳に効果的といわれているツボもいくつかあります。咳を和らげるツボについては、2025年1月15日(水)公開の記事「咳止めに有効なツボ5選!咳のつらさを和らげたいときの対処法」で詳しくご紹介します。
呼吸筋ストレッチ
呼吸筋ストレッチは、息苦しさを感じるときに効果的といわれるストレッチです。呼吸筋ストレッチのやり方は、2025年1月22日(水)公開の記事「20代から衰える!?ストレッチで「呼吸筋」を鍛えよう!」で詳しくご紹介します。
咳を悪化させないための6つのポイント
咳が苦しい場合のセルフケアも大切ですが、症状を悪化させないことも意識したいところ。悪化を防ぐために、生活するうえで気をつけたいポイントについてご紹介します。
1手洗い・うがい
咳の原因として多く、そして一般的なのは風邪などの感染症です。まずは基本中の基本である、手洗いうがいをきちんとすることが、風邪を予防して咳が出ないようにすることにつながります。
2マスクの着用
マスクを着けると自分の呼気で湿度が保たれ、乾いた空気を避けられるため、喉を保湿し、咳を和らげることができます。日中だけでなく、就寝時にマスクをするのもひとつの方法ですので、空気が乾燥していると感じたときなどに試してみてください。
3湿度・温度調整
マスクと同様に、部屋の湿度を管理することも有効です。空気が乾燥していると気道の粘膜も乾燥して、刺激に敏感になり、咳が出やすくなります。部屋の湿度は40~50%くらいに保つのが望ましいとされています。
ただし、加湿器の内部でカビが発生していると、アレルギー性の咳を引き起こすことがあるので、加湿器を使用する場合にはメンテナンスをするようにしてください。また、温度差によって誘発される咳もあるので、できる限り温度差が少なくなるような部屋の温度調整を心がけましょう。
4部屋の掃除・寝具の洗濯
ハウスダストなどでアレルギー性の咳が生じます。そのため、日ごろから部屋をこまめに掃除するように意識してください。特に、犬や猫などのペットを飼っている場合、毛によって咳がひどくなることがあるので注意しましょう。アレルギー気味の方は、カーペットはホコリや毛が取りきれなくなってしまうので、フローリングにするのが望ましいといえます。寝具もこまめに洗濯をし、ホコリなどがたまらないようにして清潔を保つのがベストです。
5柔軟剤などの香りものを控える
気道が過敏になると、柔軟剤や香水、整髪料など、香りの刺激でアレルギー性の咳が出てしまうことがあります。柔軟剤を規定量よりも多く入れていたり、香水を多用したりしている場合、少し控えてみると症状が和らぐこともあるので試してみてください。
6禁煙を心がける
喫煙は喉や肺にダメージを与えます。咳を引き起こす病気のひとつであるCOPDは「タバコ病」ともいわれ、患者のうち90%以上が喫煙者といわれています。COPDではない場合も、タバコの煙などが喉への刺激となり、咳を引き起こす原因となるので、本来は禁煙が望ましいですが、特に喉の調子が悪いときや咳が出るときには控えてください。
咳が苦しいときには無理せず、医療機関の受診を
ここまで、咳を和らげる方法や悪化を防ぐポイントをご紹介してきました。しかし、2~3週間ほど咳が止まらない場合には、医療機関の受診を検討してみてください。また、2~3週間経っていなくとも、咳によって生活に支障が出ている(眠れない、体力を消耗してしんどい)、息苦しさがあるといった場合は、すぐに医療機関を受診してもよいでしょう。呼吸器内科があれば呼吸器内科に、近所にない場合はまずは内科で診察を受けてください。
なお市販の咳止めは、「咳によって眠れない」「重要なシーンで咳を抑えたい」といった場合には適宜服用してもよいですが、咳自体は体の防御反応であり異物を外に出そうとする働きのため、むやみに使うことは避けるのが望ましいです。
咳のつらさを和らげる方法を覚えておきましょう!
咳による体力消耗は、積み重なると大きなストレスになります。すべてを同時に行う必要はありませんが、ぜひそれぞれ試したうえで自分の生活に取り入れやすいものや、効果を実感できたものを覚えておき、咳で苦しいときに実践してみてください。