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備えあれば憂いなし!海外旅行の前に知りたい健康情報

新型コロナウイルス感染症の流行で、一時は海外への渡航が制限されていましたが、徐々に海外旅行に行く方の数が戻りつつあります。海外旅行は異なる文化に触れる機会でもあり、刺激的でとてもワクワクするものです。だからこそ想定しておきたいのが「体調を崩したときのこと」。せっかくの海外旅行を満喫するためには、万が一に備えることも大切です。この記事では、海外旅行前に知っておきたい情報や制度、いざというときのための対処法を紹介します。

教えてくれるのは・・・
氏家 無限先生
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際感染症センター トラベルクリニック医長

昭和大学 医学科卒業。長崎大学 熱帯医学修士。昭和大学 医学博士。日本感染症学会専門医・指導医。熱帯・渡航医学、予防接種の領域を専門とする。

まずは海外旅行における健康リスクを知るところから

どんなところを観光しよう、話題のあれを食べたいな、お土産に何を買おう……。海外に旅立つ前、ワクワクしながらガイドブックやインターネットで情報を集めるのはとても楽しい時間です。

一方で、海外に行く際にきちんと理解しておきたいのは、海外旅行自体が体調不良や感染症、ケガなどの健康に関するリスクを伴うものだということ。

生活リズムや食事内容、衛生面の変化はもちろん、普段体験しないアクティビティや、接触することのない人と関わる機会、交通ルール・ハンドル操作の違いがあるなかでの運転などもリスクにつながります。

かといって、これらを気にするあまりやりたいことを制限しすぎては、せっかくの海外旅行を満喫できません。そこで大切になるのが下記の3つのこと。

  • 海外旅行にはどんなリスクがあるかを知る
  • 予防できることはきちんと予防する
  • 万が一に備えて対応方法を知っておく

これらを踏まえて、どこまでのリスクを許容し、どこからは自衛のためにやめておくかを判断するようにしましょう。

海外で健康問題が起こるとなぜ困る?

海外で体調が悪くなってしまったとき最初に困るのは、やはり薬の調達や医療機関の受診です。旅先で市販薬を探そうと思うと言語面でのハードルがあり、自分自身の症状に合う薬が探せないといった問題が生じやすいもの。海外旅行の際は日本から市販薬を持っていくのが望ましいです。海外への薬の持ち込みについては、厚労省のサイトで詳しく確認することができるので、参考にしてみてください。

【厚生労働省】海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて

また、医療機関の受診が必要な場合、「そもそもどこに病院があるかわからない」「現地の言葉で症状をきちんと伝えられない」といった問題が生じやすいです。加えて、日本は国民皆保険制度があるため、比較的安価で医療機関を受診できますが、海外では高額な支払いが発生することもあるため、注意が必要です。

ただし、海外で診療を受けた場合でも、一部医療費の払い戻しを受けられる「海外療養費制度」という制度があります。医療機関の受診が必要な場合には、無理をせずきちんと診てもらいましょう。医療機関の探し方や海外療養費制度については、記事の後半で詳しく紹介します。

予防接種が必須な場合も! 渡航先の情報は事前に調べよう

旅行の前に必ずチェックしておきたいのが、渡航先の情報です。どのように情報を調べたらいいのかわからない……という方は、ぜひ下記のサイトをチェックしてください。海外旅行の出発までに準備したいこと、滞在中のトラブル対策のほか、国ごとに注意したい病気、海外における感染症の最新流行状況などを確認することができます。

予防接種が必要な場合は早めに事前確認を

予防接種をすることによって防げる病気も多々あります。詳しく知りたい方は、上記に挙げたサイト「FORTH」内の「海外渡航のためのワクチン(予防接種)」を参照してみてください。

また、感染症が流行している国へ入国する際に、「予防接種証明書」が必要になることがあります。予防接種の種類によっては、間隔をあけて数回接種しなければいけないものもあるため、遅くとも出発1か月以上前から計画的に準備をするとよいでしょう。なお、出発まで1か月を切っている場合でも、部分的な予防措置があるかもしれないので、気がかりなことがあれば医師に相談してください。

渡航に際する予防接種や接種証明書の発行は、「トラベルクリニック」で対応してもらえます。日本渡航学会に所属する医師が診療している医療機関を探せる「国内トラベルクリニックリスト」も活用してみてください。

トラベルクリニックは基本的に自費診療となります。自宅からの距離や診療時間、用意されているワクチンの種類、サービス内容(マラリア予防内服、高山病予防薬の処方など)、診療やワクチン接種にかかる金額を比較したうえで受診しやすいところを探してみるとよいでしょう。

なお、受けたいワクチンが置かれている医療機関は、「FORTH」内の「予防接種実施機関」からも調べることが可能です。

特に気をつけたい病気や旅行先での注意点とは

海外は日本と衛生環境が異なるため、口にする食べ物や飲み物にもしっかり意識を向けたいところ。特に下記の点を注意しましょう。

  • 食事の前やトイレの後には手を洗うようにする
    (手洗いが難しい場合は、アルコールベースの手指消毒剤で代用)
  • 生水や未殺菌の乳製品を口にしないよう注意する
    (ボトル入りの水や炭酸水を選び、氷を避ける)
  • 食べる物にも注意する
    (火が通った調理済みの食品、皮をむくことができる果物を選び、衛生管理が不十分な食品を避ける)

飲食に伴う感染症を完全に予防することは難しいので、A型肝炎、腸チフスなどに対しては、ワクチンの事前接種を検討しましょう。

動物や蚊からの感染症にも注意

地域によっては、日本では蔓延していない感染症が流行していることがあります。蚊を介して感染する「マラリア」「デング熱」「黄熱」「日本脳炎」、動物(犬・コウモリなど)を介して感染する「狂犬病」にも注意が必要です。

上記のような感染症予防のためには、虫よけの使用や長袖・長ズボンの着用などで蚊の対策を行い、むやみに現地の動物に近づいたり、手を出したりしないように注意してください。

黄熱や日本脳炎、狂犬病は予防のためのワクチンが利用可能です。重症化することのあるマラリアには渡航者用のワクチンはありませんが、治療の薬を用いた予防方法があります。流行地域に行く場合には事前にトラベルクリニックで相談しておくことをおすすめします。

「もしものとき」への備えと知っておきたい制度

海外で気をつけたいことは多岐に渡りますが、健康リスクを気にするあまり、行動を制限しすぎて旅行を楽しめないのは本末転倒です。口にするものやアクティビティなど、それらのリスクを知ったうえでどこまでを許容するかは人それぞれ。ただし、「もしものとき」の知識は持っておくに越したことはありません。

海外で医療機関を受診する場合

海外で健康トラブルに見舞われたとき、まず困るのが医療機関探しです。やむをえず医療機関を受診する必要が生じた場合、以下の方法で探すことができます。

  • 外務省の「世界の医療事情」で受診可能な医療機関を調べる
  • 渡航先の国にある日本大使館、総領事館に問い合わせる(※大使館・総領事館の連絡先は上記「世界の医療事情」で確認可能)
  • 海外旅行保険の問い合わせ窓口を通して探してもらう(※加入している保険による)
  • 宿泊先に相談する

また、海外の医療制度は日本の制度とは異なるため、高額な治療費を請求されるケースがあります。そんなときには「海外療養費制度」を活用しましょう。

この制度は、海外渡航中に急なけがや病気により、医療機関で診療を受けた際、普段日本で加入している保険組合に申請を行うと一部医療費の払い戻しが受けられる制度です。ただし、支給対象は「日本で保険診療として認められている医療行為」に対してのみとなるため注意してください。

申請する際は、領収書や、どのような診療を行ったかを医師が記載した書類などが必要となります。提出方法や書類のフォーマットは保険組合によって異なるため、自分が加入している組合へ確認してください。

なお、持病があり、旅行中に体調を崩すことが心配な方は、もしもの場合に備えて自分自身の病態や服用している処方薬について英語(あるいは渡航先の言語)で説明した文書を準備しておくと安心です。

まずはかかりつけ医に相談してみてください。かかりつけの医療機関で英語の文書が用意できない場合には、日本語の文書を希望の言語に翻訳してくれるサービス機関も活用しましょう。

帰国後に体調に異変が生じた場合

海外で感染症にかかったことに気づかず帰国し、国内で発症をするケースもあります。こうしたケースでは知らぬ間に周囲の人に感染し、それがどんどん広まっていくことで国内全体にまで影響を及ぼす可能性も。海外での健康問題は、決して自分個人だけの問題ではないということは忘れないようにしましょう。

感染症には、マラリアなど短期間に重症化するものや、麻しんなど周囲に広がりやすいものもあります。帰国から1か月以内に発熱をはじめとする体調不良になった場合は、医療機関を受診しましょう。

海外渡航後の体調不良に関して相談ができる「帰国後診療医療機関リスト」も活用してください。ただし、かかりつけ医からの紹介が必要な医療機関も多いため、緊急以外の場合には、まずはかかりつけ医や近隣の医療機関で相談を。その際、海外に行ったという情報は必ず伝えるようにしましょう。

予期できないトラブルに備えて海外旅行保険も検討を

どれだけ自分自身が注意をしていても、慣れない環境での生活で体調を崩したり、事件や事故に巻き込まれたりしてしまう可能性はゼロではありません。予期できないトラブルに備えて海外旅行保険の加入も検討しましょう。クレジットカードに海外旅行時の保険がついている場合もあるため、補償される内容を含めて、事前に確認してみてください。

旅行の準備をするとき、忘れずにしておきたい「健康」についての準備。もしものときに備えておくことで、もっと海外旅行を楽しめるよう、ぜひ渡航先の情報を調べてみてください。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:小林ラン
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