2024年元日、能登半島地震が発生し、旅行や帰省中の多くの方たちが被災しました。旅の途中、移動のさなかなど、いつどこで地震に遭遇するかは予測できません。また、集中豪雨や台風などの自然災害に旅先で遭遇する可能性もあります。楽しい旅をするために、私たちはどう備えておいたら良いのでしょうか? 「災害は怖いけど、防災はオモロイ!」を合言葉に防災活動を続ける、国際災害レスキューナースの辻直美さんに伺いました。
- 教えてくれるのは・・・
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- 辻 直美さん
- 国際災害レスキューナース
国境なき医師団の活動で上海に赴任し、医療支援を実施。帰国後、看護師として活動中に阪神・淡路大震災を経験。実家が全壊したのを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。現在はフリーランスのナースとして国内での講演と防災教育をメインに行い、要請があれば被災地で活動を行っている。
私たちはすでに「防災」している!
旅先での防災を考える前に振り返っておきたいのが、普段の生活。大前提として、日常的に防災について考え、備えていないと、旅行先で正しい判断をすることは難しいからです。では、日頃からどんなことを意識したらよいのでしょうか?
スマホをかしこく活用して情報収集しよう
情報に関することで、事前に確認しておきたいのは、「正しい災害情報を収集する方法を知っておくこと」と「被災した際の連絡手段をどうするか」。
どれも、スマートフォンがあればすぐに確認が可能です。国内旅行であれば、下記をチェックしておきましょう。
チェックリスト
- 旅行先にはどんな災害のリスクがあるか「ハザードマップポータルサイト」で確認する
- 防災・避難誘導アプリ「みたチョ」をダウンロードして、一度使ってみる
- 災害情報が取得できるアプリをダウンロードして、使ってみる
(『特務機関NERV防災』『Yahoo!防災速報』『ウェザーニュース』など使いやすいものでOK) - Xのなかで、官公庁・旅先・自分が住んでいる地域の正しい情報が確認できるアカウントをフォローする
- 災害伝言ダイヤル「171」の使い方を理解する
- 家族や職場との連絡手段を確認する(LINEグループがあれば安心)
海外旅行に行く際は、国内以上にリスクを想定しておこう
日本では、大きな災害が起こると避難所ができ、そこに支援物資が届くような仕組みがある程度整っています。しかし海外には、ハザードマップや避難所がない地域もあります。海外と日本では文化も風習も大きく異なりますが、災害においてもかなり違うということを心得ておきましょう。
- 備えあれば憂いなし!海外旅行の前に知りたい健康情報
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新型コロナウイルス感染症の流行で、一時は海外への渡航が制限されていましたが、徐々に海外旅行に行く方の数が戻りつつあります。海外旅行は異なる文化に触れる機会でもあり、刺激的でとてもワクワクするものです。だからこそ想定しておきたいのが「体調を崩したときのこと」。せっかくの海外旅行を満喫するためには、万が一に備えることも大切です。この記事では、海外旅行前に知っておきたい情報や制度、いざというときのための対処法を紹介します。https://helico.life/monthly/240506tripxhealth-overseas/
持参したいのは「スマホまわりのグッズ」「4種の神器」「防災ポーチ」
ここからは、旅先に持参したいグッズを紹介しますが、どれも普段の外出でも持っておきたいものばかり。万が一のときにあなたを助けてくれるアイテムになるはずです。
スマートフォン関連のアイテムは必ず持参!
たくさんの情報が詰まっているスマートフォンは災害時の命綱。日本では、大きな災害が起こると、被災地で公衆無線LANサービス(公衆Wi-Fi)「00000JAPAN」が解放される仕組みが備わっています(※)。このサービスは、事前登録不要、利用時間や回数の制限なしで誰でも使用可能ですが、スマートフォンの充電がなければ使うことができません。使用頻度に合わせた容量の「モバイルバッテリー」と「充電用のコード」は必ず携帯しておきましょう。
※緊急時の利便性を優先して、通信の暗号化等の対策が講じられていないため、通信内容の盗聴や偽のアクセスポイントによる情報窃取が行われるおそれがあります。個人情報等の入力は避けるのが望ましいです。
つねに身につけておける「4種の神器」
辻さんが、「外出時だけでなく、ちょっとゴミ捨てに行くときやトイレに行くときなど、いつでも持ち歩いています」というのが、いざというときに手元にあると心強い「防災笛」「マルチツール」「ソーラーライト」「コンパス」の「4種の神器」。通信販売や100円ショップなどで手軽に手に入ります。この4つをカラビナ(登山用の金属リング)でまとめるとかさばらないので、つねに持ち歩いておくと安心です。
手元にあると心強い「4種の神器」
- 防災笛
災害時、居場所を知らせるための専用の笛。通常のホイッスルだと警察官などが使用しているものと識別しにくいためNG。小さくて軽く、ほかの笛とは異なる音がする。少ない肺活量でも吹けるのでおすすめ。 - マルチツール(※)
万能に使えるので便利。工具として使うことも可能。 - 蓄電式の「ソーラーライト」
灯りは災害時の必須アイテム。夜に災害が起こっても光らせることで救助の合図になる。 - コンパス
スマートフォンの地図が使えないときなどに、どこに避難すればよいのか把握するために使える。
※ナイフが含まれたマルチツールを所持する際は、銃刀法違反にならないよう注意しましょう。刃渡り6センチ以上の刃物(折りたたみ式の場合、刃渡り8センチ以上)を正当な理由なく携帯することは銃刀法違反に該当します。また、刃渡りの長さに問題がなくても、正当な理由なくポケットなどに隠し持っている場合は軽犯罪法違反に触れる可能性があります。
まずは一晩! 乗り切るための「防災ポーチ」
防災ポーチとは、外出先で被災しても、避難先で一晩程度なら乗り越えられるアイテムを入れたポーチのこと。中身は、「自分にとって必要かどうか」を基準に選びましょう。
辻さんの「防災ポーチ」の中身
□ お薬手帳(紙)
□ 常備薬
□ かゆみ止めの塗り薬
□ レスキューシート
□ 穴をあけたペットボトルのキャップ
□ ウェットティッシュ
□ おりものシート
□ ナプキンやタンポン
□ ハッカスプレー
□ アロマオイル
□ ばんそうこう
□ マスキングテープ
□ 紙せっけん
□ レジ袋
□ ペットシート
□ 災害用簡易トイレ
□ のどアメ
グッズをそろえたら、使ってみることが大事
防災グッズをひととおりそろえると、「よし、これでちゃんと備えられた」と安心してしまう方が大半です。ですが、防災は備えたら終わりではありません。いざというときに使えるために、事前に使ってみておくことが大事。災害時は日常にやっていることの半分もできません。だからこそ、普段から使っておくことが大切です。
もし旅先で被災したら……どうすればいい?
万が一旅先で被災したら優先すべきは自分の身の安全。地震が起きたときは、揺れが収まるまで安全な場所に身を隠し、特に頭を護ることが大切です。近くに頑丈なテーブルなどがあれば下に潜ります。頭を隠せるもの(カバン、座布団、雑誌など)がある場合には、頭から10センチほど浮かせた位置に構え、落下物から身を護りましょう。
防げるものが何もない場合は、「だんごむしのポーズ」で体を護りましょう。だんごむしのように体を縮め、頭を身体のなかにしまいこむイメージで、手のひらを重ねて首のうしろ(延髄)をしっかり覆います。首や手首には太い血管が通っているため、大きなケガにならないよう急所を護るイメージで丸まってください。
避難所は地元の人が優先になることを知っておこう
旅先で被災した場合、ホテルや観光施設で働く人たちも被災者になります。観光客だからといって特別扱いしてもらえることはありません。避難所へ行けたとしても、優先されるのは自宅の家屋や家財が破損してしまった地元住人です。その点について認識しておき、元気な状態であれば、72時間は自分でどうにかする必要があると考えておきましょう。
「慌てない、騒がない、怒らない」を心のなかに
普段は心の平静を保つために働く「正常性バイアス」が、災害時にはマイナスに働きやすいことも認識しておきましょう。正常性バイアスとは、予期せぬ事態が起きたときでも、「大したことではない」と判断しようとする人間心理のこと。これが災害時に過剰に働くと、「まさか自分にかぎって」「ほかの人も逃げていないので大丈夫では?」と危険を認識できず、最悪の場合、逃げ遅れてしまうことがあるのです。
災害時は、普段は冷静な人であっても冷静でいられなくなるものです。だからこそ、心がけてほしいのが「慌てない、騒がない、怒らない」の3つ。慌てても、騒いでも、怒っても事態は収束しないからです。
全国にある「防災センター」を体験するのもおすすめ
「モノ」をそろえるだけでなく、防災体験をする「コト」も防災です。全国にある「防災センター」では、地震や津波を体験することができます。最近では、ゲーム感覚で体験できることから、家族連れで楽しく防災知識を学べる施設も増えてきています。
やみくもに怖がらない。クエスト化して楽しく備えよう
自衛力が高まれば、旅先でも自分の命を護る行動ができるはず。やみくもに怖がるのではなく、どう対処していくか、その都度考えて行動できるようになりたいですね。