三大「飲むな」の真相に迫る
お酒は大人にだけ許された嗜好品ですが、その性質上、大人でも「飲んではいけないとき」「飲むべきでないとき」があるのはご存知のとおり。でも、実際なぜイケナイの?


お酒の作用の基本は「脳を働かなくさせる」こと。高度で素早い判断力や操作力が必要な運転に禁酒が求められるのは当然ですが、飲酒運転はいまだゼロにならず。年間約200人が飲酒運転による事故で亡くなっています。

お酒に強くても弱くても、アルコールの脳への影響は同様に起こります。むしろ強い人のほうが「自分は大丈夫」と過信しがちです。言わずもがなですが、飲酒運転は法律で禁じられたもの。飲酒運転した本人のみならず、運転者に車や酒類を提供した人、飲酒運転に同乗した人にも、厳しい懲役や罰金が課されることもお忘れなく。

安全な運転のためには、1時間当たりのアルコール分解速度=4gと考えて。つまり、500mLの缶ビール2本(純アルコールで約40g)を飲んだ場合には、分解に10時間かかる計算に。「一晩明けたから大丈夫」とは限らないことを、ぜひ知ってください。飲酒運転を避ける仕組みとして、呼気にアルコールを検知するとエンジンがかからなくなる自動車装置なども実用化されています。



「アルコール依存症」と聞くと、中高年の病気……というイメージがあるかもしれませんが、飲み始める年齢が早いほど、危険な大量飲酒やアルコール依存症につながりやすいことが知られています。

アルコール分解能が未発達であるため、急性アルコール中毒のリスクも高いのが未成年。酔って事故や事件に巻き込まれる危険も。また、成長過程でアルコールの影響を受けると、脳の発達が妨げられたり、二次性徴が阻害されて生殖能力に影響が出ることも。このようなことから、未成年の飲酒も法律で禁止されています。

アルコール度数が1%未満の飲料は酒類に含まれず、法的には未成年でも飲用可能です。しかし、お酒に味を似せて作られていることから、「本物のお酒を飲みたい」という欲求につながる懸念が。ノンアルの飲用経験がある未成年者は、ない人よりも飲酒率が約4.5倍高いとするデータもあります。大人が安易に勧めることは厳に慎んで。



妊娠中の母親の飲酒は、お腹の赤ちゃんの顔を中心とした奇形、脳障害、低体重などを引き起こす「胎児性アルコール症候群」という病気の原因に。治療法はなく、妊娠中にお酒を飲まないことが唯一の対処法です。

胎児性アルコール症候群は、赤ちゃんが生まれたときの問題だけではなく、後年のうつ病や注意欠如・多動症などの精神科疾患にも関係していることがわかっています。また、赤ちゃんだけでなく、妊娠中に母親に起こることがある「妊娠高血圧症候群」のリスクも3.45倍となるなど、飲酒は母子双方の健康リスクを高めます。


胎児性アルコール症候群は少量飲酒でも起こることがあり、このくらいなら大丈夫、といった基準はありません。妊娠を考える女性はできれば妊娠前から、妊娠中は全期間、お酒を控えることが対策になります。また、アルコールは母乳中にも移行するため、授乳中も禁酒が勧められますが、もし飲んだときには授乳まで2時間以上、間を空けるようにしましょう。

【監修】吉本 尚 先生
(筑波大学医学医療系地域総合診療医学准教授)
従来精神科で行われてきたアルコール依存症の治療を総合診療医の視点から行う、アルコール関連障害診療のエキスパート。大学病院内などに「アルコール低減外来」を開設している。

ヘルス・グラフィックマガジンvol.42
「飲みすぎ」より転載(2021年12月15日発行)