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「香りの力」を取り入れて暮らしを整える(前編)

フレグランスの香りに昔の恋人を思い出したり、おいしそうな料理のにおいを嗅いだ途端にお腹が空いたり…。というように、私たちのカラダや心は香りになんらかの反応を起こしています。

嗅覚は五感の中で唯一、脳へダイレクトに伝わります。その働きを利用する「アロマテラピー」は、花や樹木、フルーツの香りによってリフレッシュを促します。においが届くメカニズムや香りの活用法を、ハーブやアロマテラピー関連のアイテムを扱う「生活の木」のゼネラルマネジャー・佐々木薫さんに教わりました。前編ではアロマテラピーの概要と精油の効能をお伝えします。

教えてくれるのは・・・
佐々木 薫さん
「生活の木」カルチャー事業本部 ゼネラルマネージャー

香りの持つ力に魅せられ、世界各国の産地を飛び回る。アロマテラピーの黎明期からシーンを見つめ続ける第一人者。著書に『アロマテラピー図鑑』『きほんのアロマテラピー』(ともに主婦の友社)などがある。
生活の木 公式サイト:https://www.treeoflife.co.jp/
Instagram:@treeoflife_ksasaki


INDEX
美と健康に役立つアロマテラピー
なじみのあるにおいにホッとなるのは記憶の引き出しを開けているから!?
アロマの系統を知って、自分の好みを探る
シーンと体調に応じて香りを使い分ける

美と健康に役立つアロマテラピー

― まずは、アロマテラピーとはどういうものなのかを教えていただけますか。

佐々木:植物から抽出した香り成分である精油(エッセンシャルオイル)を使って、心身のトラブルを穏やかに回復し、美と健康をサポートする自然療法です。直訳すると芳香療法になりますね。湯や水に精油を数滴垂らし、香りを拡散させます。植物が持つアロマを嗅いで、心の平穏を取り戻す目的があります。そのため、医療や介護の現場で採用されるケースも増えています。また、“癒し”という観点だけでなく、集中力を上げたい時にも有効。そのため、職場やスポーツの会場などでも活用されることもあります。空間を演出する効果もあるので、最近ではQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上のツール、としても期待が寄せられています。

― アロマテラピーには必要不可欠な精油に定義はあるのでしょうか? よく見かけるアロマオイルとはどう違うのですか?

佐々木:精油=エッセンシャルオイルと名付けられたものです。エッセンシャルは“本質”という意味を持ちます。植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子、樹脂などから抽出した100%天然の素材です。ちなみに、私が自然療法の世界へ足を踏み入れたのは、ハーブがきっかけです。アロマというより葉や花に宿るエネルギーを享受していたんですね。アロマテラピーに関する書籍を読み進めていくうちに、植物の力の大半は香りに宿っていることを知りました。目からウロコが落ちましたね。ヒトに置き換えたらその人の核が体臭にあるなんて、考えられないじゃないですか(笑)

話を伺った生活の木の佐々木薫さん。お名前が「薫」、名前まで香りにまつわるとは、まさにスペシャリスト

一方、アロマオイルは植物に由来する天然香料・精油(エッセンシャルオイル)を人工香料などとブレンドしているものが多いです。よく混同されますけれど、前者とは別物です。芳香浴療法など肌につけない場合はアロマオイルでも問題ないかと思いますが、マッサージや入浴などで使用する時は精油の使用をおすすめしています。植物が持つ特有の香りや特性を発揮させたいのであれば精油の方がいい。また、原料のプロフィールも把握できるので安心です。

なじみのあるにおいにホッとなるのは記憶の引き出しを開けているから!?

― 芳香療法を行うことで、私たちのカラダにはどのような変化が起こるのでしょうか?

佐々木:少し専門的になるのですが、においの分子を嗅覚がキャッチすると、感情や本能をつかさどる大脳辺縁系や、自律神経系をつかさどる視床下部にその情報が伝わります。そうして、体温や睡眠、ホルモンの分泌、免疫機能などのバランスを整えています。ただ、ここに人間が持つ複雑さとおもしろみが表れておりまして、一般的にいいと言われている成分を鼻に通せば、必ず効果が望めるというわけではありません。嗅ぐ人の好みや体調によって求めるものは変わります。また、トリートメントなどによって、精油成分が皮膚からカラダに働きかけることもわかっています。

― みんなが大好きな香りが自分に合っているとは、限らないですもんね。

佐々木:アロマテラピーのジャンルにおいて、もっともポピュラーな香りはラベンダーです。イメージビジュアルにも用いられる機会も多く、発売されているアイテムの種類も豊富です。男性向けのスキンケアやヘアケア製品のフレグランスに採用されることも多い。当社のショップでもラベンダーのエッセンシャルオイルの売り上げは群を抜いています。果実になると誰からも愛されるのはレモン、オレンジ、グレープフルーツが当てはまります。単語を目にするだけでも、みずみずしい気持ちになりませんか? 口にする機会も多いため馴染みがあり、そのデータは脳に刻まれています。ポジティブな記憶が強いと、香りがもたらす作用も得られやすいんですよ。医学の世界ではプラセボ効果と呼ばれる現象がありますけれど、それと、近しい状態ですね。

取材の場となった生活の木のメディカルハーブガーデン「薬香草園」内にもやさしい香りの花々が

― いい香りを見極めるテクニックはありますか?

佐々木:知っている香りには心を預けられる傾向が高いです。目覚めのコーヒーや洗い立てのタオルやシーツなど。私たちの日常はにおいで溢れていますよね。それらを無意識に嗅ぎ分けてもいます。周囲に溢れるにおいに意識を向けるようになると、自分にとって心地いい香りとそうじゃないにおいの区別がつくようになる。過去のデータの蓄積や周囲からの評判に目を向けるのももちろん大事ですが、手にした時の直感で選んでいくと、本当に必要としているアロマに出会える確率が上がっていきます。いろんな香りを感じることで、嗅覚は研ぎ澄まされていきます。心とカラダの声に耳を澄ませることにもつながりますからね。コロナ禍において、嗅覚の機能が正常に働いているかどうかがクローズアップされる機会も増えました。毎日の習慣として、精油でにおいを判別できるか否かをチェックしてみるといいかも。健康のバロメーターにもなるし、脳の活性化にもつながるかもしれませんよ。嗅覚については未だにベールに包まれている部分も多い。謎が解けていくことによって、アロマテラピーがもっと身近な存在になると考えています。

アロマの系統を知って、自分の好みを探る

― 花や果実など、精油の原料は多岐に渡ります。自分にとって“いいアロマ”と巡り合う指針として、香りの分類について詳しく知りたいです。

佐々木:コスメや香水のチャートと重複するのですが、大きく分けて7つのグループがあります。

  • フローラル系(ラベンダー、ジャスミン、ゼラニウム)
  • 柑橘系(オレンジスイート、ベルガモット、レモン)
  • スパイス系(ジンジャー、コリアンダー)
  • オリエンタル系(サンダルウッド、パチュリ)
  • 樹脂系(フランキンセンス、ミルラ)
  • ハーブ系(ペパーミント、ローズマリー)
  • 樹木系(ティートゥリー、ユーカリ)

同じグループやタイプの近いものをブレンドすると香りに奥行きが出ます。チャートはあくまでも参考程度にして、主観で選んでみてください。

― 香りを選ぶ際に気をつける点はありますか?

佐々木:精油は「ローズマリーは認知症予防に効果が期待できる」、「感染症の流行る時期にはティートゥリーを焚きましょう」など、実用重視のシーンで注目を浴びることが多いです。でも、パワーを出すのはそれだけじゃない。ゆらぎや自身の奥深くに働きかける神秘的な要素も持ち合わせています。アロマの持つ底力を感じてほしい。

シーンと体調に応じて香りを使い分ける

― 仕事・家事・育児などで、ハードな毎日を送る30〜40代の女性にこそアロマテラピーを実践していただきたいです。ストレスの緩和におすすめの精油はありますか?

佐々木:疲れが溜まってイライラしている状態であれば、高いリラックス効果を期待できるラベンダーですね。ペパーミント、オレンジ、ローズマリーもそう。攻撃的な気持ちを抑えてくれます。ポジティブな気持ちへと切り替えるベルガモットもおすすめ。ローズのような甘い芳香が楽しめるパルマローザにもヘトヘトの心を癒してエネルギーを与えてくれる働きがあります。ときめく精油を2~3種ほどピックアップしてブレンドするのも、アリです。

― 先ほど挙げていただいたエッセンシャルオイルは、ストレスやプレッシャーによって落ち込んだ状態にも有効なのでしょうか?

佐々木:落ち込みが激しいのであれば、ゼラニウム、ネロリ、ローズ、イランイランといったフローラル系を手にしてみましょう。気持ちを高揚させる効果が狙えます。女性ホルモンのバランスも整えるとも言われています。ざわつきを抑えたい場合はオリエンタル系のアロマを焚くといいですね。フランキンセンス、ベチバー、パチュリが代表的。鎮静効果が高く、地に足がつくような感覚を味わえるそうです。自分とじっくり向き合える環境へと整えてくれるため、ヨガやマインドフルネスを行う時に重宝されているようです。

― ぐっすり眠りたい夜は?

佐々木:またしてもラベンダーの出番です。疲労回復が期待できます。神経系の興奮を冷ますといわれるサンダルウッドとオレンジ、深い呼吸が期待できるフランキンセンスもいいですね。副交感神経を優位にすることを意識しましょう。

― PMSなどの女性ホルモンの乱れを整える香りもあるのでしょうか?

佐々木:ダマスクローズですね。心を癒し、穏やかに元気を取り戻してくれる作用があります。特に拒絶や傷つけられ、自分へ自信がなくなってしまったとき、もう一度受入れる手助けをしてくれます。孤独感や失望感を和らげ、幸福感をもたらしてくれます。“花の女王”という別名にふさわしく、甘くて華やかな香りです。50本の花から抽出できるエッセンシャルオイルの量はたった1滴のため、高価格帯にはなります。ゆらぎに見舞われそうになった時のお守りとして持っておくと安心できるかも。ダマスクローズの精油が配合された美容クリームなどをチョイスしてもいい。スキンケアをしながら芳香浴もできますからね。


私たちはたくさんのにおいに囲まれて生活をしています。五感のなかでも嗅覚は本能と直結していることが分かりました。さらに、アロマテラピーが気持ちのコントロールとヘルシーな体へと導くことも判明。後編では具体的な活用法や注意点などを掘り下げていきます。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 写真:上條伸彦
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