ここ数年、夏はうだるような暑さが続いています。大人でも体調管理が難しい季節ですが、子どもの場合、頭の汗で髪の毛がびっしょり濡れる、毎晩たっぷり寝汗をかく、ということも珍しくありません。夏はあせもなど、汗による肌トラブルも増えます。正しいケアの方法を知っておくと、対策もしやすいでしょう。本記事では、子どもの汗の特徴や汗によって起こりやすいトラブルとその対処法について解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 稲澤 美奈子先生
- 小杉町クリニック院長
金沢大学医学部卒業後、東京医科歯科大学 助教(外来医長)を経て、2020年より小杉町クリニック勤務。日本皮膚科学会 認定皮膚科専門医、医学博士。発汗異常など汗の疾患の治療を専門とし、子どもから高齢者まで幅広い世代の悩みに寄り添う皮膚科医。
[監修者]稲澤 美奈子先生:https://yism.or.jp/kosugicho/about/doctors/
小杉町クリニック:https://yism.or.jp/kosugicho/
大人とは違う!子どもの発汗の特徴
体が小さいため、たくさん汗をかいて見える
少し外遊びをしただけで顔が真っ赤になり、頭が汗でぐっしょり……。子どもは「汗っかき」というイメージがあるのではないでしょうか。じつは、子どもと大人の汗腺(汗を分泌する器官)の数はほとんど変わりません。しかし、子どもは大人に比べて体が小さく汗腺の密度が高いので、汗をたくさんかいているように見えるのです。
体温調整の機能が未熟な状態
また、子どもは体温調節機能が大人と比べて未熟なため、少し外気温が上がっただけでも体温を下げるために汗をかきます。たくさん汗をかくことで、体温を下げようとするわけです。
しかし、かいた汗をそのままにしておくと、体の冷えやあせもなどの肌トラブルにつながります。暑い時期には脱水症にもなりやすいので、環境調整も含めて大人がサポートしてあげることが大切です。
汗をかく能力は3歳までに鍛えられる!?
通常、ヒトは200〜500万個の汗腺を持って生まれてきます。ただし、すべての汗腺に汗を出す能力があるわけではありません。生まれたばかりの赤ちゃんは、汗をかく能力が未熟で汗をかけませんが、2歳半から3歳ぐらいまでに一定の数の汗腺が能動化されて、汗をかけるようになります。
この能動汗腺は、暑い環境に多少さらされたり、体を動かしたり、泣くなどの情動刺激によって能力を獲得していくと考えられています。
しかし、子どもに汗をかく能力を獲得させるために、夏の暑い日に外で長時間遊ばせるのは熱中症などのリスクが伴います。子どもが小さいうちは、気温や室温に気を配りながらも、無理のない程度に暑さに体を慣らしていくことを心がけるとよいでしょう。短い時間でもいいので入浴時には湯船に浸かる習慣を持つのもいいことです。
能動汗腺の数は3歳以降は生涯変わらないのですが、汗をかく能力は年齢とともに変化して、思春期以降に成熟していくとされています。
子どもが特に汗をかきやすい部位はどこ?
一般的に子どもがかきやすいのは、背中、胸です。また大切な脳を守るため、頭、顔(おでこ)も比較的汗の量が多い部位です。子どもは、頭に水をかぶったかのように汗をたくさんかくことがよくありますが、これは全身に占める頭の比率が大きいためです。
汗が溜まりやすいのは、首や背中、ひじの内側、ひざの裏側、お尻、鼠蹊部などです。蒸れてかゆみをはじめとする肌トラブルが起こりやすい部位なので、日ごろから状態をしっかりチェックしてあげましょう。
子どもに多い、汗による肌トラブルとその対処法
子どもは12歳ぐらいまで皮膚のバリア機能が未熟なため、汗による肌トラブルが起きやすくなります。よくある症状や皮膚疾患とその対処法をみていきましょう。
あせも
汗を出すための汗管(かんかん)に汗や汚れが詰まり、汗がうまく皮膚の表面に出なくなることで起こる発疹です。高温多湿の環境で、大量の汗をかくことが原因で起こります。かゆみのある白色や赤色の小さなブツブツが、首まわりや額、脇の下、背中、ひじの内側や、手首のくびれ、おむつが触れる部分、ひざの裏などにできます。
汗をこまめに拭く、汗をかいたら着替える、室温を適温に保つなどのケアで自然に治っていきますが、なかなか改善しない場合や強いかゆみを感じたら、医療機関を受診しましょう。炎症を抑えるステロイド軟膏や保湿剤で治療します。
とびひ
あせもや虫刺されなどをかき過ぎて、傷ついた皮膚に細菌が感染して発症します。夏に多いのは2〜5ミリ程度のやわらかい水ぶくれ(いぼ)ができるタイプ。赤ちゃんや幼児に多く、水ぶくれがつぶれてなかの液体が広がると、症状が出る範囲が広がります。タオルや衣類を介して、またはプールの利用などからもうつることがあります。
自然治癒していくことがほとんどですが、なかなか改善しない場合は医療機関を受診しましょう。抗菌薬の内服や外用薬で治療します。
水いぼ(伝染性軟属腫)
乳幼児から小学校低学年の児童に多く見られる、ウイルスによる感染症です。伝染性軟属腫ウイルスが皮膚の小さな傷や毛穴から入り込んで感染し、1〜5ミリ程度のいぼが多数できます。水が入ったような光沢のある柔らかないぼができ、大きくなると中心部が凹んでくるのが特徴です。
痛みやかゆみはありません。手のひらと足の裏以外のどこにでもできますが、脇や陰部など皮膚が柔らかいところにできやすく、かき過ぎると別の部位に感染し、いぼが広がっていきます。
水いぼがどんどん増えていく場合は、医療機関に早めに相談してください。水いぼをつぶす治療は痛みが伴い、跡が残る場合もあるため、自然治癒を待つことがいいとする考え方がある一方で、症状が広がる前に摘除するケースもあります。集団生活ではタオルなどの共有は避けましょう。ただし、水いぼができている場合でも、通園や登校に法的な制限はありません。
カンジダ皮膚炎/カンジダ性間擦疹(かんさつしん)
体調を崩して免疫力が低下したときなどに、カンジダ菌という常在菌(カビの一種)が増殖して肌の炎症が起こります。カンジダ菌は高温多湿の環境を好むため、皮膚と皮膚が擦れ合う湿気が溜まりやすい部位で増えやすく、赤ちゃんではお尻、陰部、またのシワの間などが赤くなって皮がむけてきます。周囲に赤みや膿を持った丘疹(きゅうしん=皮膚の表面が小さく盛り上がった状態)を伴うこともあります。
医療機関では顕微鏡検査にて真菌を確認したうえで、抗真菌剤の塗り薬で治療を行います。日常生活では、清潔に保つことや、患部をできるだけジメジメさせないようにすることが大切です。
アトピー性皮膚炎の症状は、医師に相談しよう
アトピー性皮膚炎の場合、汗に含まれる塩分が肌に残ると、それが刺激となって強いかゆみが生じたり、皮膚を引っ掻いてしまったりして症状が悪化してしまうことがあります。肌を清潔に保ち、保湿や紫外線対策などでバリア機能を高めるほか、汗をかいた後のケアを十分に行うことが大切です。アトピー性皮膚炎は、一人ひとりに適切な対応があります。症状が悪化しているときは、かかりつけ医に相談しましょう。
汗っかきの子どもの肌ケアポイント
肌トラブルを防ぐためには、皮膚を清潔に保つことが大切です。汗をたくさんかいたときは、シャワーで汗を流しましょう。外出先で汗をかいたら、柔らかいガーゼやハンカチ、または水分を含んだウェットティッシュ(アルコール不使用のもの)で汗をかいた部分を拭き取るようにするといいでしょう。
入浴時は、よく泡立てた石鹸で優しく洗います。あせもなどの肌トラブルがある場合、洗い残しがあると悪化させてしまうので丁寧にすすぎましょう。お風呂上がりはタオルで擦らずに、そっと水分を押さえるように拭き取ります。
子どもは、皮膚のバリア機能が未熟なため、汗を拭き取った後や入浴後はボディ用乳液などで保湿をします。炎天下では紫外線対策として、日焼け止めも塗っておきましょう。
夏の寝汗対策はどうしたらいい?
汗をたくさんかく夏は、子どもの寝汗、寝冷え、脱水症にも注意したいもの。大人が意識したい点を確認していきましょう。
室温や環境を整える
子どもは大人に比べて暑さへの慣れに時間がかかるといわれています。寝汗をたくさんかいているなら、その環境は子どもには暑いということです。エアコンやサーキュレーター、除湿機などを活用して、部屋の温度と湿度を調節しましょう。ジメジメしていると汗が蒸発しにくくなります。以前より猛暑日が増えているいまは、一晩中エアコンで涼しくしておいて寝具をしっかりかけて眠るのも、快適に眠る1つの方法です。
寝具や衣類を見直す
子どもが暑がるようなら、汗を吸収しやすく通気性の良い素材のパジャマに変えましょう。汗をかいたまま寝てしまうと寝冷えにつながるので、着替えを用意しておくのも一案です。寝具も、室温に合わせて薄手のブランケットや冷感シーツなどを取り入れましょう。また、汗をたくさんかく子の場合には、洗える布団を取り入れると、いつも清潔な状態を保てます。
脱水予防に水分補給を
脱水を防ぐために、子どもにも寝る前や起床時に水分補給する習慣を身につけさせましょう。
子どもの汗は大人がしっかりケアしてあげよう!
近年は気候変動の影響で、真夏に限らず暑さ対策が必要な日が増えています。汗をかくこと自体は体温調節に必要な機能なので、1日中冷房の効いた部屋で過ごすのではなく、適度に体を暑さに慣らすことも大切です。汗をかいた後のケアや熱中症対策をしっかりと行いながら、暑い季節を快適に過ごしましょう。