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眠っている間に体や脳はどうなっている?睡眠の役割とは

朝までぐっすり眠れた日は、体が軽いと感じたり仕事がはかどったり。逆に、睡眠時間を十分にとれなかった日は、頭がボーッとしてだるかったり……。私たちは、眠ることの大切さを日々実感しています。

では実際に、睡眠中の体や脳内ではどんなことが起きているのでしょう。本記事では、睡眠の役割や、睡眠がもたらす心身へのうれしい効果について解説。その日の疲れを癒し、活力を得るために取り入れたい入眠準備についても紹介します。

教えてくれるのは…
眞野 まみこ先生
愛知医科大学病院 睡眠科・睡眠医療センター

医学博士。専門は内科、睡眠時無呼吸症候群。代表的な論文に「日本人におけるレム睡眠行動障害の性差」などがある。日本睡眠学会認定総合専門医・指導医、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医。
 
愛知医科大学病院:https://www.aichi-med-u.ac.jp/hospital/

睡眠はなぜ必要?体と脳にうれしい効果とは

睡眠のメカニズムについてはいまだに謎が多いものの、眠っている間、私たちの体は心身を健康に保つために、あらゆるメンテナンスや機能回復を積極的に行っていることがわかっています。

また、脳は眠っている間も活動しており、老廃物を排出してクリーンな状態にしたり、嫌な記憶を消したり、情報の整理や記憶の定着などを行っています。睡眠の代表的な役割を確認していきましょう。

睡眠の役割

  • 疲労回復(細胞の修復を行い、疲労を軽減する)
  • 代謝の調節(血糖値やホルモンのバランスを整える)
  • 免疫システムを強化して、病気や感染症に対する抵抗力をつける
  • 肌のターンオーバーや、脂肪の代謝を促進する
  • 筋肉や骨のメンテナンスと強化をする
  • 脳のメンテナンス(神経細胞の修復、脳の老廃物の排出、新しい情報の整理、不要な情報の削除などを行う)
  • 記憶を整理・定着させる
  • 判断力や集中力を向上させる
  • ストレスや不安を軽減し、心の安定をもたらす

このように睡眠にはたくさんの役割があります。睡眠が十分でないと疲れがとれないばかりか、病気に対する抵抗力が弱くなったり、脳や体の老化が進んだり、気持ちが不安定になったりと、私たちの健康を損なう可能性があります。

睡眠中の体はどうなっている?

私たちの体には、24時間周期の「サーカディアンリズム」という機能があり、睡眠・覚醒のサイクルや、自律神経、ホルモン、体温などを変動させることで、睡眠と覚醒をコントロールしています。夜になると、自律神経が交感神経から副交感神経へと切り替わり、体が活動状態から休息モードになります。

また、眠ろうとするときに、体は深部体温を下げています。筋肉はゆるみ、血圧も心拍数も下がっていきます。脳もクールダウンし、脳と体の休息状態がつくられるのです。このようにエネルギーを節約することで、体は効率よく体を休めています。

サーカディアンリズム(睡眠と覚醒のコントロール)

メラトニンは、眠気を促したり脳温を下げたりする作用を持つホルモン。一方、覚醒作用のある副腎皮質ホルモンの分泌は、睡眠前半には最も低く、朝方になると増える。それに合わせるように脳の温度も上がっていく。

1日6時間以上は眠りたい! 睡眠リズムと良い睡眠の関係

こうした睡眠の役割をしっかりと機能させるためには、睡眠サイクルにも注目してみましょう。睡眠は、『レム睡眠』と『ノンレム睡眠』という2つの状態から構成されます。ヒトの典型的な睡眠パターンを計測すると、入眠後にまずノンレム睡眠からはじまり、その後レム睡眠に切り替わります。6~7時間程度寝る人では、このサイクルが90分~120分単位で4~5回繰り返されます。睡眠サイクルが乱れると、睡眠の役割が十分に発揮できなくなり、疲れが残ったりして日中のパフォーマンスに影響が出てしまいます。

ノンレム睡眠とは

脳や交感神経、体も休息している状態です。睡眠前半で脳を集中的にクールダウンさせ、休養を取らせるという役割を担うことから、「脳を休める睡眠」ともいわれます。眠りの深さによってN1~N3の3段階があり、最も深い『N3睡眠』は、脳波が一段と遅い徐波と呼ばれる状態になることから『徐波睡眠(じょはすいみん)』や『深睡眠』とも呼ばれます。

深睡眠時に成長ホルモンが活発になる

入眠後30〜90分くらい、最初のN3睡眠時には、成長ホルモンの分泌が活発になります。成長ホルモンは、疲労回復や細胞の修復、免疫力の強化など大切な役割を担っています。そのため、質の良い深睡眠をしっかりとることが、睡眠のカギであると言われています。

レム睡眠とは

全身の筋肉がゆるんでいる状態になることから、「体を休める睡眠」ともいわれます。一方で、脳は活発に活動し夢をよく見るほか、血圧や脈拍の変動もあることから、覚醒への準備状態にある睡眠ともいえます。目がピクピクと活発に動くことも特徴的です。睡眠の前半は短く、後半の朝方に近づくにつれ長いレム睡眠になります。

レム睡眠とノンレム睡眠の周期

朝方に近づくにつれノンレム睡眠が浅く少なくなり、レム睡眠が増える。

ノンレム睡眠、レム睡眠どちらも必要

レム睡眠の明確な役割についてはまだよくわかっていません。しかし、マウスを使った実験では、ノンレム睡眠のみをとった状態で起こしてレム睡眠を取らせないようにし続けると、マウスが死んでしまうという結果が報告されています。また、スタンフォード大学の研究によると、ヒトにおいても、レム睡眠が短すぎると寿命が短縮する可能性があることがわかりました。

人間が生きていくためには、ノンレム睡眠もレム睡眠のどちらも必要で、そのためにはまとまった睡眠をしっかりとることが大切です。

しっかり眠ると記憶力が高まる!

記憶の固定も睡眠の重要な働きの1つで、ノンレム睡眠、レム睡眠それぞれが、記憶の固定に関して異なる働きをしています。

睡眠の前半に多くなる深いノンレム睡眠では、脳は嫌な記憶を消去して、記憶の整理や心のメンテナンスをしていると考えられています。

レム睡眠は、短期記憶を長期記憶に変換するプロセスに直結しているといわれていて、新たな記憶を過去の記憶や経験と関連づけるとともに、後ですぐ思い出せるように索引をつけるような作業をしていると考えられています。睡眠の後半の明け方の浅いノンレム睡眠は、体で覚えるスキル(手作業、自転車の乗り方、スポーツ、楽器演奏など)の記憶を定着させる働きがあります。

眞野先生

睡眠が不足すると、仕事や勉強で一生懸命に情報をインプットしても、それらが記憶として定着されず、努力が無駄になってしまう可能性があります。頭だけではなく、体を使った記憶についても同じことがいえるため、トレーニングをしているスポーツ選手や楽器を演奏するアーティストなど、すべての人にとって睡眠は重要です。短時間の睡眠や途切れ途切れの睡眠ではなく、1日6時間以上、できる限りまとまった睡眠を確保できるように心がけましょう。

レム睡眠とノンレム睡眠の働き

自分の眠りは「睡眠休養感」で評価しよう

睡眠は時間、質、リズムどれもが大切ですが、しっかり眠れたかどうかを判断するのは意外と難しいものです。厚生労働省が公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適正な睡眠時間には個人差があるものの、目安として成人は1日6時間以上の睡眠をとることが目標とされています。

しかし、睡眠時間はわかりやすい目標ではあるものの、個人差や環境によって必要な睡眠時間や確保できる睡眠時間は大きく違います。また、実際に眠ることのできる時間は、25歳で約7時間、45歳では約6.5時間、65歳では約6時間と、年齢を重ねるごとに短くなっていくこともわかっています。

そこで、新たな健康睡眠指標として導入されたのが、「睡眠休養感」です。睡眠休養感とは、朝目覚めたときに「どれだけ体が休まったか」を自己評価したものです。ぐっすり眠った感覚や疲労回復を実感できていれば十分で、主観的に満足度の高い睡眠を得ることが、健康リスクの低減につながることもわかっています。昼間に眠気で困らない、その日1日の調子がいいと感じられることなども良い睡眠の指標になります。毎日実感できているかどうか、ぜひ確認してみてください。

睡眠休養感で自分の眠りを評価しよう

朝から始めたい6つの入眠準備

「良い睡眠は、寝るときに始まるのではなく、朝から始まっている」と話す眞野先生に聞いた、6つの入眠準備を紹介します。1日の過ごし方に取り入れてみましょう。

1朝に太陽の光を浴びる

私たちの体内時計の周期は、24時間10分程度と考えられていて、毎日少しずつズレていきます。このズレをリセットしてくれるのが、朝の光です。朝に太陽の光をしっかり浴びると、交感神経が活発になり、脳も体も活動モードになります。

また、朝の光を浴びてから約14~16時間後には、眠りを誘うホルモン「メラトニン」の分泌がスタートします。メラトニンは夜になると増加して覚醒と睡眠を切り替え、成長ホルモンの分泌を促すなど重要な働きをします。

起きたらすぐにカーテンをあけたり、ベランダに出たりするだけでOK。毎朝の「睡眠予約」を忘れずに行いましょう。

2朝一定の時間に起きる

規則正しい生活リズムを維持するには、夜早く寝ようとするよりも、毎朝同じ時間に起きることが効果的です。メラトニン(眠りを誘うホルモン)を減らさないためにも「朝」を調節すると、夜の入眠がスムーズです。朝ごはんをしっかり食べて、活動的に過ごしましょう。ラジオ体操などを取り入れるのもおすすめです。

3夜は暖色系の灯りで過ごす

夜に強い光を浴びると、眠りを誘うメラトニンの分泌量が減ってしまいます。夕方以降は照明の明るさを落としたり、暖色系の優しい灯りや間接照明で過ごしたりするといいでしょう。

4就寝1時間前に深部体温を上げておく

深部体温が下がるときに眠気が起こるので、入浴などで体を温めて深部体温を上げておくと、寝つきがスムーズになります。季節にもよりますが、入浴は睡眠時間の1時間前くらいに済ませるといいでしょう。

就寝1時間前に深部体温を上げておく(入眠準備)

5副交感神経を優位にする工夫を

副交感神経が優位のリラックス状態となるように、お風呂から出たらゆっくりとスキンケアをしたり、寝る前に呼吸法を取り入れたり、睡眠導入BGMを聴いたり、自分なりのリラックス時間を過ごしましょう。夜に交感神経が優位になると、眠気が覚めてしまいます。スマホをベッドに持ち込む場合も、イライラするようなやりとりが発生したり、興奮するようなゲームアプリの使用や動画の視聴は避けたほうがいいでしょう。

6寝室で「今日も眠れない」を繰り返さない

寝室で悶々と眠れない時間を過ごしていると、寝室=眠れない場所という記憶が定着してしまい不眠の原因になることも。どうしても眠れないときには、リビングなどで過ごして眠くなったら寝室に戻りましょう。寝室環境も大事です。室温は夏場は26度前後、冬場は16度以上に保てるといいでしょう。湿度は、通年で、湿度50〜60%を心がけましょう。

眞野先生

仕事や家事、育児に忙しい世代の皆さんはどうしても睡眠時間が削られがちです。「寝る前に〇〇をやっておかないと…」という考えをときにはゆるめて、「翌日にやればいいや」くらいの気持ちで過ごしましょう。どんな作業も、しっかり寝た方がはかどります。睡眠不足でとてもつらい日は、15分~20分ほどの昼寝をして乗り切りましょう。

ぐっすり眠って健康的な毎日を!

人により適切な睡眠時間はさまざま。睡眠リズムも毎日一定とは限りませんが、生活のなかのちょっとした工夫で、睡眠の満足感を高めることができます。今日一日頑張った心身をしっかりと癒し、明日を気持ちよく過ごすために、あらためて睡眠に対する意識を高めていきましょう。

CREDIT
取材・文:及川夕子 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:福田玲子 図版:新藤麻実(linen inc.)
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