中高年になると目立ってくるのが「加齢臭」。男性に多いイメージがあるかもしれませんが、じつは女性にも発生しています。「枕やシャツの襟もとがにおう」「頭皮のニオイが気になる」など、自覚して悩んでいる人もいれば、本人以外が気になっているケースもあるようです。
加齢によりニオイが発生するのはなぜ? どうしたら防げるの? 本記事では、加齢臭の発生原因や、有効な対策・予防法などを解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 関根 嘉香先生
- 東海大学理学部化学科 教授
東京都出身。慶應義塾大学理工学部、同大学院理工学研究科修了。日立化成社勤務を経て、2000年より現職。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科非常勤講師、神奈川県立保健福祉大学講座担当講師を兼務。専門は「環境と健康の化学」、皮膚ガス研究の第一人者。一般社団法人室内環境学会・元理事長。主な著書に「皮膚ガスのはなし‐体臭は心と体のメッセージ」(朝倉書店)、「Human Insecurity in Asia」(United Nations University Press)などがある。
東海大学:https://www.u-tokai.ac.jp/
[監修者] 関根 嘉香先生:https://www.u-tokai.ac.jp/facultyguide/faculty/2612/
気になる加齢臭、その正体とにおう仕組みは?
最近、体臭が変わってきたかも? 年齢を重ねて体臭が気になり出した場合、それは「加齢臭」が原因かもしれません。
体臭は、皮膚の表面から放散される微量の「皮膚ガス」が元になっています。たとえば、お酒を飲みすぎた翌日にお酒のニオイがする。これは、体内でアルコールがアセトアルデヒドに分解され、血液中を流れているときに皮膚から放散された皮膚ガスにより生じるニオイです。ほかにも、疲労やストレスが重なって血液のアンモニア濃度が上昇し、皮膚から放散されるニオイは「疲労臭」と呼ばれます。
皮膚ガスは確認されているだけでも800種類以上あり、発生経路によって①血液由来、②皮膚腺(汗腺・皮脂腺)由来、③皮膚表面反応由来の3つに分類されます。皮膚ガスの成分やニオイは、年齢や性別、皮脂の量や生活習慣などによっても変わってきます。
加齢臭は、この中の「皮脂表面反応由来」の経路で発生します。加齢臭の原因は、皮脂が酸化されてできる「2-ノネナール」という成分。一般的には古本や古い畳、または枯葉に似たニオイにたとえられ、男性では35歳以降、女性では40歳以降に増える傾向があります。中年以降に増えていくニオイ成分であることから「加齢臭」と呼ばれているのです。加齢臭は、皮脂線の多い頭、首(うなじ)、耳の周り、背中や胸、お腹などから発生します。
なぜ加齢臭は年齢とともに増える?
皮脂の分泌量は、若いころの方が多く、年齢とともに減っていくものです。それなのになぜ加齢臭は中年以降に増えていくのでしょう。それは、皮脂を構成する成分が年齢とともに変化していくからです。加えて、皮脂の酸化に関わる活性酸素は加齢とともに増える傾向にあることから、年齢を重ねると加齢臭が発生しやすい条件がそろっていくと考えられます。性別では、皮脂分泌が盛んな男性が顕著ですが、女性からも加齢臭は出ており、誰でも年齢とともに発生しうるニオイです。
30代から気になり始める「中年男性臭(ミドル脂臭)」
「2-ノネナール」のほかにもうひとつ、中年になって発生しやすい皮膚ガス成分があります。不快なニオイ成分「ジアセチル」です。これは、汗に含まれる乳酸を、皮膚の常在菌が分解することで発生する皮膚ガス。ヨーグルトやチーズにも含まれている成分ですが、これと皮脂が混ざり合い、古びた油のようなニオイが発生します。
このニオイ成分は、30代から40代の中年男性に多いことから「中年男性臭」や「ミドル脂臭」と呼ばれています。
女性だけにある「逆加齢臭」とは?
男性と比べると女性は加齢臭の発生量は少ない傾向にありますが、女性の場合は加齢によって「いい香り」が減ってしまうという衝撃の事実がわかっています。
そのいい香りとは桃の香りの主成分で、甘い香りを放つ皮膚ガス成分「γ-ラクトン」。これまでの研究から、γ-ラクトンの放散には女性ホルモンの作用が関与すること、10代から20代の女性ではγ-ラクトンの放散量が高いが加齢とともに減少すること、また男性の場合はもともと放散量が少ないことなどが報告されています。いい香りが減ることからも、体臭変化は起きてくるのです。
不快なニオイに自分で気づくには?
普段からよく嗅いでいるニオイは、鼻が慣れてしまうため、なかなか自分のニオイに気づきにくいことがありますが、加齢臭が出ているかどうか、確かめる方法はあります。
それは、一晩着ていたシャツや下着をビニール袋に数時間入れておき、そのニオイを嗅ぐ方法。ポイントは、いったん外の空気を嗅いで鼻の感覚をリセットしたうえで、袋のなかのニオイを嗅ぐようにすること。これが最も手軽なセルフチェック法です。
そのほかにも、頭部は加齢臭が発生しやすい場所でもあるので、愛用している帽子のニオイを嗅ぐことでもある程度、判断がつくかもしれません。
今日からできる!加齢臭の対策と予防法
加齢臭が気になるときは何をすればいいのでしょうか。加齢臭の対策法と予防法を紹介します。
1皮脂を洗い流す
加齢臭、中年男性臭はともに、原因となる皮膚表面の皮脂を洗い流すことで落とせます。皮脂は時間が経つと分泌されるため、入浴を夜と朝の1日2回に増やして清潔にすれば加齢臭の予防に有効でしょう。
泡立てた石鹸で優しくなで洗いするだけでも、ニオイ成分は十分洗い流せます。気になるからと肌をゴシゴシこすりすぎると必要な皮脂まで奪ってしまい、逆に皮脂分泌量が増えてしまうので注意しましょう。
外出先でニオイが気になるときは、おしぼりやボディシートなど、濡れたもので拭くことでも不快なニオイの発生を抑えられます。原因となるニオイをこまめに洗い流し、リセットすることを心がけましょう。
2紫外線対策で皮脂の酸化を防ぐ
紫外線は皮脂を酸化させる大きな要因。紫外線の強い時期に外出するときは、日傘や帽子を使う、日焼け止めを塗るなどの対策をとりましょう。
また、皮脂の酸化は過度な運動やストレス、喫煙などによっても引き起こされることがわかっています。体の内側からのケアとしては、日ごろからバランスの良い食事、適度な運動習慣、十分な睡眠などの健康的な生活を心がけて、活性酸素が過剰に出るのを防止することも大切です。洗っても落ちないニオイは、動物性脂肪の多い食習慣、飲酒の習慣など偏った食生活が原因になっている可能性もあります。
3抗酸化食品を摂る
活性酸素対策として、抗酸化作用を含んだ食べ物を取り入れるのも有効です。体内で生じた過剰な活性酸素を打ち消してくれる成分としては、ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド類、ポリフェノール類(アントシアニン、カテキンなど)が挙げられます。
イギリスで行われた実験では、抗酸化成分としてアントシアニンを豊富に含む「カシス」を1週間毎日6グラム食べると、加齢臭の原因の2-ノネナールが47%も減少したという報告があります。ほかに、梅干しなど梅の加工品もニオイの低減効果が報告されています。
アントシアニンを含む食べ物
- ブルーベリー
- アサイベリー
- ぶどう
- いちご
- なす
- 紫いも
- 黒豆
- 穀米
- ワイン
- 紫キャベツ
- 梅干し(赤シソの葉に含まれる)
など
4香りでうまく隠す
加齢臭の原因となる2-ノネナールは、シトラス系の香りや森林系の香り(マツなどの針葉樹林の香り)と相性がよく、香水などを上手に取り入れることでカバーすることができます。反対に相性があまり良くないのは、ウッディな香りやポマードのようなパウダリーな香りです。
中年男性臭は、汗腺の機能が低下していると発生しやすくなります。よい汗とはサラサラとした水のような汗です。日ごろから入浴や運動などで、汗をかく習慣を身につけ、汗腺を鍛えておくと予防につながります。
体臭は気にしすぎないことも大切
加齢臭は、「体を清潔に保つ」など身近な方法で予防できることがわかりました。一方で、体臭というのは人それぞれで、食生活やストレスなども影響します。
また、ニオイの感じ方にも個人差があります。子ども時代におじいさんやおばあさんとのいい思い出がある人は加齢臭を不快に思うことは少ないといわれており、加齢臭が気になる人もいれば、さほど気にならない人もいるのです。
関根先生は最後に「加齢臭は誰にでも発生するもので、気にしすぎないことも大切です」とアドバイス。過剰に心配したり不安になったりする必要はありません。できることから、ニオイケアを取り入れてみてください。