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介護が必要でも旅は楽しめる!トラベルヘルパーとは?

高齢の親と一緒に旅行に出かけたい。でも、旅先での体調やバリアフリーなどの環境面が心配……。そんなみなさんに知ってほしいのが、「トラベルヘルパー」という存在です。

トラベルヘルパーとは、介護士と添乗員、両方の知識・技能を持つエキスパートのこと。高齢や障害などの理由から介助が必要な人の旅行を、希望に応じて柔軟にサポートしてくれる民間サービスです。

トラベルヘルパーを上手に利用して、高齢の親との旅行を楽しむポイントとは? 介護旅行を専門に扱うパイオニアとしてこのサービスを立ち上げた(株)SPI あ・える倶楽部 代表の篠塚恭一さんに、お話を伺いました。

教えてくれるのは・・・
篠塚 恭一さん

1961年、千葉県生まれ。NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会会長、株式会社SPI あ・える倶楽部代表取締役。専門学校卒業後、大手旅行会社で添乗員を務め、84年に人材派遣会社に転職、派遣添乗員などの育成に携わる。91年に現在の会社を設立し、バリアフリー旅行・介護旅行を専門に手がける。95年から超高齢者向けサービス人材の育成を本格的に開始し、2006年にNPO法人「日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会」を設立。
日本トラベルヘルパー協会:https://travelhelper.jp/

介護と旅のプロ、トラベルヘルパーとは

―介護が必要な高齢者や障害を持つ人の旅行をサポートしてくれる、トラベルヘルパーについて詳しく教えてください。

篠塚さん

トラベルヘルパーとは、高齢者や障害を持つお客さまの外出をエスコートするプロのサービス提供者です。

トラベルヘルパーの特色は、「介護の技術」と「旅の業務知識」を併せ持っている点です。ホームヘルパーが行うのは主に日常生活における支援介護ですが、トラベルヘルパー養成講座ではそれ以外にも、外出時の介護全般、車椅子での公共交通機関の利用、バリアフリー環境のない入浴施設での介助などの演習を行います。

また、旅行プランの立案や予約手配をはじめ、旅行業の仕組みや関連法規についての知識も習得していますから、高齢の方や介護認定を受けている方、車椅子ユーザーの方、障害を持つ方とそのご家族の外出・旅行をサポートすることが可能です。

現在、トラベルヘルパーの認定資格を持つ人は全国に1018人、養成講座の受講者数は1430人います(2024年4月現在)。普段は介護施設で働かれている介護士の方が、休日にトラベルヘルパーとしても働いている、というケースも多く見受けられます。

―篠塚さんは大手旅行会社で添乗員を務めた後、人材育成を経て日本トラベルヘルパー協会を立ち上げたそうですが、旅行×介護というニーズに気づいたきっかけは?

篠塚さん

私が旅行業界に入った1980年代は、旅行といえば団体旅行がメインでした。客層のほとんどは育児や仕事が落ち着いた50~60代。その方々を国内外のさまざまな場所にお連れしていたのですが、添乗員を長く続けていくと、常連のお客さまたちは当然ながらシニア層になっていく。

そんなとき、あるお客さまが「私は自分のカバンを持ってひとりで行けなくなったら、きっぱりと旅行をやめるつもりだ」とお話しされたんですね。つまり、誰かに迷惑をかけてまで旅行をしたくない、と。潔いといえばそうかもしれませんが、私は「それなら私がカバンを持ちます」と思ったんです。

高齢者や障害者になり、旅行会社が提案するプランに乗れなくなった人たちは、「仕方がない」と諦めるしかないのだろうか。旅行業界に携わるプロの一人として、そうしたあり方のままでいいとは私にはどうしても思えませんでした。

ただ、90年代当時は、高齢者の旅行ニーズに応える制度や仕組みがまったく存在しませんでした。どうすればそうした声に応えられるだろうと考えた結果、1991年にツアーコンダクターを中心としたホスピタリティ人材の派遣会社を起業しました。そして事業も落ち着いてきたころに高齢者専門の旅行でいこうと決めて、1995年からトラベルヘルパーの育成を始め、介護旅行へとつながりました。

高齢の親と「温泉」や「推し活」を楽しもう

―高齢の親と家族旅行に出かけたいけれど、さまざまな不安からためらっている人は少なくありません。トラベルヘルパーはどんな利用法があるのでしょうか。

篠塚さん

近場の温泉旅行、故郷への帰省や実家のお墓参り、スポーツ観戦、人気のテーマパーク、海外旅行、最近ではアイドルのライブのようないわゆる“推し活”も多いですね。健常者と行き先は何も変わりません。

旅行というと遠出をイメージされるかもしれませんが、トラベルヘルパーは外出サービスとしてご利用いただけますから、「車で5分の自宅に付き添ってほしい」といった形でお受けすることも、もちろん可能です。

―これまでトラベルヘルパーを利用されたお客さまで、最高齢の方はおいくつですか?

篠塚さん

過去には、106歳のお客さまが利用されています。そのときは、富山から京都へ、紅葉を見に行きたいとのご希望でしたね。今年は100歳のお祝いとしてご家族で温泉旅行に、というケースが3、4件ほどありました。

気になるトラベルヘルパーの料金は?

―具体的にどうやってサービスを使うのか教えてください。

篠塚さん

トラベルヘルパーサービスには、「アエルズ」と「あ・える倶楽部」の2つのサービスがあります。

アエルズは、利用者とトラベルヘルパーが料金を含めて直接やり取りを行うマッチングサイトで、日々のお出かけやちょっとしたお手伝いをトラベルヘルパーに依頼できるサービスです。1時間単位から利用可能で、スマホやパソコンから手軽に申し込んでいただけます。

あくまでも参考ケースですが、お孫さんの結婚式に出席するために式場にトラベルヘルパーが同行して、写真撮影時の移動や食事のサポートなどを行う6時間のご利用で、2万円前後が目安料金になります。

篠塚さん

あ・える倶楽部は、介護旅行を手厚くサポートするトラベルヘルパーサービスで、1日のご利用基本時間は8時間です。あ・える倶楽部のコーディネータが、丁寧に相談に乗り、リクエストに応じて移動のチケットなどをはじめとするすべての手配を代行します。基本利用料は、見守り1日(8時間)26,400円~、半日(4時間)15,840円~(※いずれも税・手数料込)で、ほかにかかる費用は旅行保険料と送迎地までの交通費など4,000円程度です。また、旅行の全行程にトラベルヘルパーが同行する場合は、宿泊費・交通費・食事代などが含まれますが、これらは別途のご負担となります。

お客さまによっては、生活のなかでの気軽なご利用は「アエルズ」、旅行の場合は「あ・える倶楽部」にすべてお任せと使い分けていただいている方もいらっしゃいます。

計画を立てるだけでも、旅は楽しい

―介護を必要とする人と、その家族が一緒に旅行をすることで、いい影響がもたらされる面はありますか。

篠塚さん

まず、ご家族が普段から介護をされている場合は、旅行の数日間だけでも親御さんが元気だったころのような暮らしに戻ることができます。ご家族も日々の介護疲れや緊張から解放されて、よい気分転換となるでしょう。

また、普段の暮らしで介護が必要とされる方は、家族や介護ヘルパーさんに対して「ありがとう」「すみませんね」などの言葉を口にする機会がとても多いように見受けられます。つまり、日常生活では「相手に負担をかけている」という自覚をつねに持ち続けているということ。ですが、旅行に出かけ、ホテルや観光施設などを訪れると「お客さま」の立場になるため、「ありがとうございます」を言われる側、つまりサービスの受け手側に回れるのです。

このように立場が切り替わることによって、本人の気持ちがリフレッシュされる側面は大いにあると感じています。

それに、家族で一緒に旅行の計画を立て、カレンダーの出発日に丸をして楽しみに待つのも旅の醍醐味のひとつです。「あと1週間で孫の◯◯ちゃんに会えるね」「温泉に行ったらゆっくりしようね」と出発前から会話を交わすだけでも、本人の気持ちにスイッチが入って、日常に張り合いが生まれるはずです。

旅行から帰ってきた後も「楽しかったね」と一緒に思い出を振り返ることで、親御さんの気持ちが上向きになった。おかげで、家族はもちろん、周囲の介護士さんも大いに楽になった。そんな事例をこれまでたくさん見てきました。

体を起こすには、まず気持ちを起こす

―家族が旅行を提案しても、介助される側の本人が乗り気でなかったり、迷惑をかけたくない気持ちから遠慮したりするケースもあると聞きます。その場合は、どうすればよいでしょうか。

篠塚さん

体を起こすには、まず本人の気持ちを起こすことから始めていきましょう。乗り気ではない人を無理やり出かけさせても、出発してすぐに「帰りたい」と言われてしまうだけです。これでは誰も楽しめません。

そうした事態を避けるためには、介護される側の親御さんがどんなことをしたいのか、どんなことに不安を感じているのかを探っていくことが大切です。

旅先で何を楽しみたいのか、何になら心が動くのかは人によって違います。昔の趣味だった釣りを楽しみたい、お孫さんの結婚式に出たい、初恋の相手に会いたい、母校を再訪したいなど、旅の動機は人それぞれ。親御さんの心が何に動くのかを、まずは丁寧に話を聞いてみましょう。

もちろん、すべてが希望どおりに実現できるとは限りません。でも、釣りを楽しむことは難しくても、新鮮なお刺身を食べられる場所に行くことはできます。そんなふうに、本人の希望にできるだけ近いかたちが実現できないかを探ってみてください。

また、「身内以外には車椅子を触ってほしくない」などの介護にまつわる不安がある場合は、どうすればその不安を解消できるのか具体的に考えていきましょう。家族だけでいい案が浮かばないときは、トラベルヘルパーを頼ってください。

―介護される側である親御さんの気持ちに寄り添うことが大切なのですね。

篠塚さん

そのとおりです。過去には、重度の要介護状態だった方が「最後の旅行」と目的を掲げて九州へ里帰りをする旅を、トラベルヘルパーがサポートしたことがありました。その方は故郷で親御さんの墓参りをして、ご兄弟とも会って話すことができた。「これでさっぱりしたから思い残すことはない」とおっしゃっていたのですが、帰りの飛行機で「次は北海道にも行きたいな」と言い出されたんですね(笑)。

久しぶりの旅行が刺激となって、やる気や自信が湧いてきたのでしょう。親御さんの気分が明るく上向きになると、介護している家族もうれしいし、助かりますよね。旅にはそんな素晴らしい効果があると思っています。

詳しい情報はこちら! 
あ・える倶楽部 https://www.aelclub.com/
アエルズ https://www.aelz.jp/

CREDIT
取材・文:阿部花恵 編集:HELiCO編集部+ノオト イラスト:わたなべさちこ
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