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旅がもっと楽しくなる!脳が喜ぶ旅のアクション

旅に出ると、ドキドキやワクワクといった高揚感があふれ出します。じつはこれ、人間の脳が「新しい経験」にとても喜んでいることが関係しているのだとか。日常から一歩飛び出して旅をすると、私たちの脳内では一体どのようなことが起きるのでしょうか。旅と脳の関係を探りながら、旅の前・中・後に取り入れたい、脳が喜ぶおすすめアクションをご紹介します。

教えてくれるのは…
高島 明彦さん
理学博士・学習院大学理学部生命科学科教授

1954年長崎県生まれ。1987年より米国国立衛生研究所客員研究員、1991年より三菱化学生命科学研究所主任研究員、1998年より理化学研究所アルツハイマー病研究チームリーダー、国立長寿医療研究センター分子基盤研究部部長を経て、2016年より現職。認知症予防研究の専門家。近著に『JIN-仁-と学ぶ認知症「超」早期発見と予防法』(集英社)、『脳がどんどん強くなる!すごい地球の歩き方』(地球の歩き方)など。

旅が脳にいいのはなぜ?

初めて目にする景色に感動したり、そこに暮らす人と話したり、旅は刺激的で楽しいもの。さらに、旅で得られる新しい経験や気づきは、脳を活性化させる効果があるとされています。そこには、脳の仕組みと働きが大きく関係しています。

まずは、人間の脳について簡単に説明しましょう。私たちの脳は、大きく分けると「大脳」「小脳」「脳幹」の3つの要素で構成されています。

大脳
脳の約80%を占めており、感情、思考、想像、記憶、言語、感覚などの人間らしさを司る

小脳
体の動きや姿勢、バランスを取るなど筋肉に司令を送る、運動の司令塔

脳幹
呼吸、心拍、体温調整、食欲、性欲などの生命維持に関わる

それぞれの脳の部位は、神経細胞(ニューロン)にあるシナプスを使ってさまざまな情報を伝達しています。情報は電気信号でやり取りされますが、電気信号のままでは情報を伝えられません。そのため、シナプスは電気信号を「神経伝達物質」に変えて情報を伝えます。

この神経伝達物質は、喜びや快感、幸福感など、感情に関わる「ドーパミン」、精神の安定やストレス緩和などに関係する「セロトニン」などの脳内ホルモンで構成されています。旅でドキドキワクワクしたり、知的好奇心を刺激したりすることは、ドーパミンやセロトニンの働きが活発になるため、脳全体の活性化につながるのです。

また、シナプスは刺激を受けることでその数が増え、結合が強化されるという特徴があります。ただ、毎日ルーティンを繰り返しているだけでは活性化しないため、ここでもやはり大切なのが新しい刺激です。新しいことをすると脳のいろいろな場所で神経回路ができ、シナプス自体も増加。旅に出て新しい経験をすることは、脳を喜ばせるためのうってつけのアクションといえます。

脳が喜ぶ旅のアクション

旅は脳にとっていい刺激になるもの。旅に出るだけでも十分とのことですが、脳をより喜ばせるための具体的なアクションを教えてもらいました。

旅前:できるだけ早く計画を立てる!

ノープランの旅が楽しいと感じる方もいると思いますが、じつは旅の計画は早ければ早い方がいいそう。オランダのある研究では、旅の計画を立てることで受けた幸福感は8週間も持続することがわかっています。「現地で何を食べよう?」「何時の電車に乗ろうかな?」「目的地の近くに興味深いものはある?」などと、旅先の情報を調べ、計画を立てることで想像力がかき立てられます。すると、思考・創造・やる気などに関わる大脳の前頭葉が活性化するのです。

旅前〜旅中:「地図アプリ」で予習&復習

地図で目的地をあらかじめ確認し、実際にその場所に足を運ぶというアクションは、空間ナビゲーション機能を司る脳の組織「嗅内野」と「海馬」を鍛えるいいトレーニングになります。嗅内野と海馬への刺激は、脳の活性化につながるほか、認知症予防にも効果が期待できるとされています。

そこでおすすめなのが、「地図アプリ」を徹底的に活用すること。特に初めて訪れる土地であれば、Googleマップのストリートビューのような機能で、現地の風景や目的地までのルートを予習しておくとよいでしょう。

地図を読むのが苦手であれば、ホテル周辺の道を頭に入れるだけでもOK。

旅中:五感をフル活用すべし!

なんといっても旅の醍醐味は、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を刺激すること。じつは五感をフル活用することは、脳にとってもいい効果があるのです。

1視覚

旅先の街並みや自然が作り出した絶景も、脳を刺激します。治安のよいエリアならば、昼と夜に同じ道を歩いて違いを感じてみるのもいいでしょう。また、旅先で美術館や博物館を訪れる予定があるならば、事前に作品や作家の背景を調べておくのがおすすめです。歴史や文化に触れる書籍や漫画などを読むと、前頭葉や海馬、感情を司る扁桃体などあらゆる領域が活性化します。音読をすると前頭葉の最前部にある前頭前野が活性化して、脳全体の動きがよくなることも期待できます。理解を深めたうえで実際の作品を鑑賞することで、思考力が研ぎ澄まされていくでしょう。

2聴覚

旅に出たら、街中に飛び交う音や自然の音に注目してみましょう。耳に音が入るだけでも海馬は刺激されますが、意識的に音を感じとるほうがより神経が活性化することがわかっています。波や樹木などの自然の音から、外国語や道路のクラクションまで、あらゆる音の存在に気づくでしょう。音楽の生演奏を旅先で楽しむのもおすすめです。

3味覚

旅の大きな楽しみである食。その土地ならでは料理や旬のものを味わっておいしさを感じると、脳内ではドーパミンが放出されます。これまで食べたことのないご当地グルメに挑戦することもまた、脳にとっていい刺激になるのでおすすめです。

4嗅覚

心地よいと感じる香りは安らぎをもたらすオキシトシンや、精神を安定させるセトロニンの分泌を促します。また、「◯◯の香りを嗅ぐと、この場所を思い出す」という経験がある人も多いはず。食事の香りのほか、寺院のお香や、植物園の花、海の潮風、街中のショップで香るアロマなど、旅先で感じた香りは思い出とセットで覚えておくと嗅内野がより刺激されることがわかっています。香りを感じたら、だれといて、どんなシチュエーションで、どういった気持ちで過ごしたのかを覚えておくといいでしょう。

5触覚

旅先では普段歩かない道を歩いたり、初めての手触りのものと出合ったりする機会が多いもの。触れる、踏む、なでるなどからわかる質感や肌触りは、嗅内野と海馬を刺激します。意識して、肌から伝わる感覚を観察してみましょう。手だけでなく、足の裏で受け取る感覚も嗅内野や海馬を刺激します。マッサージを受けてリラックスするのもおすすめです。

振り返るまでが、旅の醍醐味

旅後:旅の思い出を情熱的に語る

旅から帰ったあと、その思い出を同行者と語り合うのも楽しみのひとつです。旅先で撮った写真やたどった地図を見返すことで幸福感がよみがえり、脳も活性化。光景をできるだけ詳細に思い出すのがポイントです。旅の出来事を反芻することで記憶は強固となり、長期的な記憶に変わっていきます。

旅のみやげ話を誰かにするのもまた、脳にとってはメリットだらけ。どこをどのように訪れ、どういう情景があったか、そこにはどんな魅力があったのか。こういった説明を事細かにするというアクションは、脳の言語に関わる部位・言語中枢や、行動や感情をコントロールする前頭前野を活性化することができます。

 
このように新しい経験を伴う旅は、脳にとって良い効果がたくさん。計画・準備から日常に戻ってきた後も脳を活性化させつつ、心を動かしながら旅を楽しんでいきましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:森千章(BUILDING)
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