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「依存症」になりやすい人にみられる傾向や特徴とは?

特定のものや行為をやめたくてもやめられない、ほどほどにコントロールできない状態に陥ることを「依存症」と呼びます。

「やめられないのは意志が弱いから」と勘違いをされることがありますが、決して意志や性格の問題ではなく、本人が置かれている環境や脳のしくみといった要因が絡み合っており、誰でもなり得る病気です。また、約30年依存症の診療・研究に携わっている松本俊彦先生は「つらい状況にある人のほうが依存症になりやすい」といいます。

もしかして依存傾向にあるのかな? と感じたとき、依存症のしくみや原因を知っておくことでその人に寄り添えるかもしれません。本記事では、どうして依存症になるのか、どんな病気なのかを松本先生に解説していただきました。

教えてくれるのは…
松本 俊彦先生
国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 薬物依存研究部 部長/薬物依存症センター センター長

1993年に佐賀医科大学を卒業後、横浜市立大学医学部附属病院や国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所などで精神科医として多くの患者の診療を行う。『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』(太田出版)、『身近な薬物のはなし―タバコ・カフェイン・酒・くすり』(岩波書店)など著書多数。

[監修者]松本 俊彦先生:https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/members/
HP:https://www.ncnp.go.jp/

依存症にはどんな種類がある?

依存症とは、デメリットがメリットを上回っているにも関わらず、特定の物質の摂取や行動をやめたり、頻度を減らしたりすることができない状態を指します。日常生活や心身の健康、人間関係などに問題が起こっていても、依存対象の物質や行動をやめ続けることが難しい病気です。

医学的に認められている依存症の対象は、アルコール、薬物、ギャンブル、ゲームの4つです。しかし、依存症とは依存の程度・及ぼす影響の問題でもあるので、どんな物質や行動でも起こり得るものです。

たとえば、必要のないものを頻繁に、もしくは衝動的に購入し、経済的な困窮に陥る買い物への依存や、日常生活に支障をきたすほどの過度な性への依存(セックスや自慰行為、長時間のポルノ視聴)など、多岐にわたります。

セックス依存症(性依存症)とは?原因や症状・チェックリストも紹介
「セックス依存症」と聞いて、どんなイメージが思い浮かびますか?

異性関係が派手な人や、浮気・不倫を繰り返す人などを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、そのイメージには誤解や偏見が混ざっているケースも。またセックス依存症はデリケートな問題でもあるため、気になる症状があっても周囲に相談できない人は少なくありません。

では、「これって依存症かも」と思ったら、どうすればいいのでしょうか。病気やその症状のことを正しく理解し、自分や大切な人の体と心を守りましょう。
https://helico.life/monthly/220708aboutsex-sexual-addiction/

依存は「物質依存」と「非物質依存」の大きく2つに分けられ、物質依存は精神に作用する物質の摂取を、非物質依存は特定の行為や関係にのめり込むことを指します。

  • 物質依存 :アルコール、薬物、ニコチン、カフェインなど
  • 非物質依存:ギャンブル、ゲーム、インターネット、買い物、窃盗、セックス、過食・拒食など
松本先生

依存症について知ってもらう前にぜひ理解していただきたいのは、「依存自体は決して悪ではない」ということ、「程度は違えど、人はそれぞれ何かに依存して生きている」ということ。僕個人としては、「依存」という言葉そのものを過度にネガティブに捉えてほしくない、そう思います。依存によって大事なものの優先順位が入れ替わってしまい、それによって生活に悪影響が生じることに問題があるのです。
 
依存と依存症は異なります。依存することのメリットが大きい場合、それは「健康的な依存」です。たとえば、毎朝のコーヒーで気持ちを切り替えている人や、日々の晩酌を楽しみに仕事を頑張れる人もいますよね。スキマ時間にスマホでちょっとゲームをしたり、筋トレを日課としたりすることもあるでしょう。人はそれぞれいろんな習慣を持っていて、そうやって日常が構造化されることによって各々のライフスタイルができ上がっていきます。
 
ただし、こうした習慣が過度になり心身にダメージが出たり、あるいは人を傷つけたり迷惑をかけたりするような言動をしてしまい、人間関係が壊れるといった場合には「不健康な依存」と捉えられます。メリットよりもデメリットが上回っているのにやめられないのは、適切に依存できていない依存症の状態です。つまり、依存症とは「健康的依存ができない」場合を意味します。

なぜ依存症に陥る?――つらさのなかで得られる快楽にのめり込みやすい

すべての依存は、決して意志が弱いために起こるものではありません。人間は日常生活のなかで欲求が満たされたとき、脳内にドーパミンといわれる物質が分泌されます。

これは特別なことをする必要はなく、食欲や睡眠欲、性欲などの生理的欲求が満たされることでも分泌され、やる気や元気につながります。こうした神経回路のことを「報酬系」といいます。

松本先生

子どものころに勉強や運動で褒められて、その科目・種目を「もっと頑張ろう!」と努力をした経験はないでしょうか。報酬系は人が何かを学習するため、反復させるためにとても重要な役割を果たしているんです。

アルコールや薬物は、体内に摂取するだけで報酬系を刺激する手軽さがあり、くり返し摂取することで、頭ではやめたい・やめたほうがいいと思っていても、それらを欲するようになります。また、ギャンブルやゲームで勝つか負けるかのスリルを感じることなども、報酬系を刺激します。

そして、習慣的な物質の摂取・行動によって刺激に対する耐性がついていき、これまでと同じ刺激では報酬系が反応しなくなります。すると気づかないうちにアルコールや薬物の量、ギャンブルで賭ける金額やゲームの頻度が増えていってしまうのです。

脳の「報酬系」ドーパミンによる活性化の仕組み

依存傾向が強い人とは?

とはいえ、依存性のある物質の摂取や行為によって、全員が依存症になるわけではありません。では、依存症になりやすい人となりにくい人は何が違うのでしょうか。

松本先生

ストレスによって精神的に消耗している、あるいは肉体的な苦痛がある、生きにくさを感じているなど、その人にとってつらい状況にある場合に依存症になりやすいです。単なる快楽であれば繰り返すうちに飽きてしまいますが、依存物質・行為によって自分が置かれている状況に対するつらさや苦痛が緩和されたら、それにすがりたくなってしまいますよね。
 
飽きる・飽きないという次元の話ではなく、依存することでつらい現状から逃れられたり、ストレスを解消できたりすることによって、自分が自分であるために欠かせないものになっていくというケースは多々見られます。「ストレスがたまるとタバコの本数が増える」という方もいますが、それも同じような状況です。

依存傾向が強い人の特徴
松本先生

アルコール依存症の人がお酒をやめたらギャンブルにハマってしまった、ギャンブルをやめたら風俗にハマってしまった、などというケースもあります。こうしたことからも、依存の根本にある問題は共通していて、何にのめり込むかは、その人が置かれている環境や何にアクセスしやすかったのかの違いだけなのではないか、という議論もなされています。結局、依存症を治すには、その人のつらさの根本を改善することが重要なのです。

依存症は、ひとりで抱えないで

依存症になる方は、幼少期に家庭環境に問題があった(家族とのつながりが希薄だった、過干渉だったなど)、いじめを受けていた、あるいは発達障害をもっているということが多いといわれています。また、松本先生は「人に頼れない人が多い」と言います。

松本先生

依存症の方は周囲の人から「意志が弱い、不真面目だ」などと誤解を受けてしまうことがありますが、決してそんなことはありません。むしろこれまで出会ってきた依存症の人たちは責任感が強く、まじめで熱心な方が多かったように感じます。一方で、完璧主義で、自分ひとりで問題を抱えてしまう部分があるのだと思います。
 
また、自分自身を依存症と自覚できない方、認めない方も多くいます。そのため、最初に医療機関を受診する際には、周囲の方のフォローはとても大切です。周囲に依存症では……と感じる人がいた場合には、その人を責めるのではなく「あなたのことを心配しているよ」ということを伝えたうえで、依存症の相談窓口などを教えてあげてみてください。

▼依存症の相談窓口はこちらから検索できます。
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map/

依存症は、ひとりで抱えないで

家族・パートナーの場合には、精神保健福祉センターにある家族相談窓口にぜひ相談をしましょう。依存症のご家族を抱えた方の自助グループなどもあります。相談することで、どのように本人に専門医療機関を受診してもらうかなどのアドバイスももらえます。

松本先生

本人が医療機関を受診しても、すぐに通院をやめてしまうことは多々ありますが、家族が継続的に窓口や医療機関に相談をしていると、本人が治療の場に戻ってくる時間が短くなることが多いんです。まずは「もしかして……」と感じた人が窓口に相談する、ということが対応の基本です。

依存症は、本人も周囲も決してひとりで抱え込まずに、専門知識のある人を頼ることが大切です。まずは依存症という病気を知り、当事者が抱える根本的な問題に向き合いながら、ゆっくりと前に進みましょう。

こちらの記事では、依存症治療の流れなどについて、松本先生に解説いただいています。

依存症の治療、回復とは?本人と周囲が知っておきたいこと
特定の物質の摂取や行動を、ほどほどではやめられなくなる「依存症」。かつての依存症治療は「依存対象を完全に断つ」ということが正しいとされていました。しかし、近年は「状況に応じてコントロールしながら、節度をもった物質・行為への依存とのつき合い方を目指す」ケースも増えてきています。

また、治療にあたっては周囲のサポートもとても大切です。今回は、依存症に長年携わる精神科医・松本俊彦先生に、依存症の治療目標や治療の流れ、周囲に依存症の方がいる場合にできることについて教えていただきました。
https://helico.life/monthly/250506-addiction-treatment/

依存していること自体ではなく、その原因に目を向けよう

「依存は悪いことだ」と捉えるのではなく、なぜそれを求めてしまうのか、根本的な原因は何なのか、どうしたらその原因を改善できるのかを考えることが大切です。まずは専門知識のある人の力を借りながら、依存から脱する一歩を踏み出してみましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:オリハラケイコ
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