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依存症当事者やその家族を支える「自助グループ」とは

依存症の治療は、焦らず時間をかけて自分自身と向き合い、根本にある原因を探っていくことが大切です。一方で、治療の過程において、孤独な状態で課題と向き合うのはとても難しいこと。

そこで選択肢のひとつになり得るのが、「自助グループ」や「依存症家族の会」への参加。これらの場では、依存症の患者やその家族が経験や思いを共有することで、依存症の克服に向けて支え合っています。

本記事では、自助グループや家族の会とはどういったものなのか、どのように探せばよいのかなど、基礎的な部分について解説します。

教えてくれるのは…
前園 真毅さん
久里浜医療センター 社会福祉士・精神保健福祉士

淑徳大学大学院社会福祉学博士前期課程を2001年に修了後、埼玉県立精神医療センターや川口保健所などで勤務し、2009年より現職。さまざまな依存症患者やその家族の相談に日々向き合っている。

久里浜医療センター:https://kurihama.hosp.go.jp/

「自助グループ」や「依存症家族の会」とは?

ある物質や行動にのめり込みコントロールが利かなくなる依存症は、薬を飲めばすぐに治るといった病気ではなく、自分自身と向き合い、依存に陥る根本的な原因を解決・克服していく必要があるため、治療に時間がかかります。

また、依存症は本人やその家族(あるいはパートナーや周囲の方)だけで解決することが難しく、無理に抱え込むと家族の生活や健康にも影響を及ぼしてしまうことがあります。

そこで、依存症の治療において有効とされているのが、「自助グループ」や「依存症家族の会」への参加です。

自助グループ

自助グループは、同じ問題を抱える人が集まり、それぞれの立場や経験を共有しながら助け合ったり希望を分かち合ったりする場所です。

アルコールやギャンブルなど、依存症の種類ごとに自助グループがあり、基本的には依存から脱したいという思いがあれば誰でも参加が可能です。参加者には、依存対象を断ち始めたばかりの人もいれば、長期間断ち続けている人もいます。また、なかには当事者のみならず、家族が参加できる自助グループもあります。

依存症家族の会

依存症家族の会(もしくは家族の自助グループ)は、当事者ではなく、当事者の家族のための会です。

当事者家族同士だからこそ共感し合える悩みを分かち合ったり、互いに連携を図ったりすることで支え合う場です。依存症当事者への接し方を相談したり、どのように医療機関の受診や自助グループへの参加を促したかを聞いたりすることができます。

自助グループや家族の会ではどんなことをするの?

自助グループや家族の会では「ミーティング」が行われます。ミーティングでは、お酒やギャンブルなどへの依存によって、当事者やその家族にどんなことが起きたのか、いまどういった状態であるのかといった経験談を共有し、当時の感情を分かち合います。

グループによって多少の違いはありますが、基本的に自助グループでは、以下のようなルールがあります。

・必ずしも自分の経験を話す必要はなく、ほかの参加者の話を聞くだけでもOK
・ミーティングは「言いっぱなし・聞きっぱなし」で、その経験やいまの状況についての批判や評価をしない
・その場で聞いた話は外で話さない

自助グループや家族の会でのルール

「経験談を話すことが何になるのだろう」と思う方もいるかもしれません。しかし、こうした場で話すことで、依存の根本にどんな原因があったのかなど、自分を見つめ直す手がかりにもなります。

自分は話さずに参加者の話を聞いているだけでも、「自分もこの人と似たような心情だったかもしれない」などと、自身のことを振り返るきっかけになることがあります。

依存症は、何かしらの苦痛を和らげるために依存対象にのめり込んでしまうと考えられており、自己肯定感が低い人がなりやすいともいわれています。こうした場で自分自身の過去やいまを認め、受け入れ、他者からも受け入れられることは、社会での生きづらさを軽減し、依存対象に捕らわれない生き方を模索することにつながります。

またミーティングには、依存対象を断ってから長期間が経過している人が参加していることもあり、「また依存対象に手を出してしまいそうだ」というときや、当事者の家族が「こんなとき、依存症当事者に対してどのような声がけをしたらいいのかわからない」などと悩んでいる場合、実体験に基づく具体的なアドバイスをもらうこともできます。

医療機関が開催する家族の会などでは、依存症という病気への理解や、対応方法に関するレクチャーのような要素を含んだプログラムが行われることもあります。

まずは当事者家族からグループとつながるのが有効

依存症は「否認の病気」とも呼ばれており、当事者自身が依存症であることを認めないケースも多々あります。そのため、周囲がいきなり医療機関や自助グループへの参加を促しても拒否される可能性があります。

そのような場合、まずは家族だけが依存症家族の会に参加することも有効です。依存症患者を近くで支えることはとても大変で、家族自身が精神的に追い詰められてしまうこともあります。

依存症は周囲に相談をしにくいという面もあるからこそ、同じ経験をした人たちが集まるグループを活用することが有用です。「自分で何とかしなくちゃ」と決してひとりで抱え込まずに、同じ経験をした人たちと本音で話し、相談できる場所を見つけるような気持ちで参加してみるとよいでしょう。

依存症治療には、まずは家族だけが依存症家族の会に参加することも有効です。

自助グループはどうやって探せばいいの?

では実際に自助グループに参加してみたいと思った場合は、どのように探せばよいのでしょうか。ここからは具体的な探し方について解説します。

1オンライン上で探す

たとえば、アルコール依存症の自助グループ「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」は、各地区で分かれて活動をしています。こうした各自助グループのウェブサイトで、自身が住んでいるエリアから参加しやすいミーティングを探すことができます。近年はオンラインでミーティングが行われることもあるため、現地での参加が難しい場合にはオンラインでの参加も検討できます。

なお、特定非営利活動法人ASK(アスク)のウェブページでは、アルコールや薬物、ギャンブルだけでなく、ゲームや買い物、窃盗、性依存などの各依存症の自助グループがまとまっています。こちらも参考にしてみてください。

・自助グループ一覧(ASK)

2電話で問い合わせる

依存症専門相談窓口や医療機関に電話などで問い合わせることも可能です。性別ごとのミーティングが開催されていることもあるので、もし希望があれば伝えてみるのもよいでしょう。

・全国の依存症専門相談窓口と医療機関(依存症対策全国センター)

3通院先で紹介してもらう

依存症の治療で通院をしている場合には、主治医やソーシャルワーカーなどに聞いてみるのも一案です。自身で自助グループを探して参加するのはハードルが高いという方は、ぜひ通院先で相談してみましょう。

公開ミーティングも行われている

そうはいっても、いきなり自助グループに参加するのはなかなか勇気がいること。会の雰囲気を知りたい場合、まずは「オープンスピーカーズミーティング」に参加してみるのも、ひとつの方法です。

オープンスピーカーズミーティングは、各自助グループが開催している、依存症の当事者以外でも参加可能な公開ミーティングです。グループのメンバーが、自助グループに参加した経緯や、依存症当時から回復に至るまでの体験談などを語ります。

自助グループはそれぞれ雰囲気が異なります。こうした場も含めていくつかの自助グループ(あるいは異なるエリアの自助グループ)に参加し、自身に合うところを探すのが大切です。

自助グループはそれぞれ雰囲気が異なります

回復後も自助グループがひとつの居場所になる

一定期間自助グループに参加し、ある程度依存症から回復したあとも、定期的に自助グループに参加し続けることは有用だと考えられています。

これは、依存症の回復には時間がかかることが関係しています。依存症は完治しない、慢性疾患ともいわれています。依存症の背景には、たとえば幼少期の体験など、長い時間をかけて蓄積した問題が存在することが多いです。それらと向き合っていくうえで、継続的な支えが力になる場合があるからです。

また、回復が進むにつれて、依存症で苦しんでいた当時の記憶が薄れていくこともあります。そうしたタイミングでつらいことが重なり、依存対象が気軽に手を出せるところにあると、再び依存が始まってしまうケース(再発、スリップ)も少なくありません。

回復後も定期的に自助グループに関わり続けることは、当時の自分を受け入れながら、そのつらさを忘れずにいることにもつながります。いざというときには相談もできるため、「細く長く」でも自助グループに参加するとベストです。

なかには「自分が苦しかったときに自助グループの人に助けられたからこそ、今度は自分が誰かを助けるために体験談を伝えたい」と考え、10年、20年と自助グループに関わり続ける人もいます。そうすることで、自助グループでの活動が自分の生活の糧や居場所(拠り所)になり、依存物質との距離を保ちやすくなることも期待できます。

自助グループを活用して依存の根本にある課題と向き合おう

自助グループに参加するのは最初は勇気がいるかもしれません。しかし、自助グループは自分と同じように依存のことで苦しい思いをした「先輩」や「仲間」がいる場所です。人の話を聞くだけでも大丈夫。頼れる相談者を探すようなつもりで、ぜひ一度参加を検討してみてください。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:oyasmur
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