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「不適切な飲酒」をどう防ぐ?酒類メーカーの取り組み

社会人になると、お酒を飲む機会が増えてきます。しかし、正しい飲み方を知らず酔い潰れたり、急性アルコール中毒になったりすることも……。私たちが健康的にお酒を飲み続けることができるよう、お酒を販売するメーカーが「不適切な飲酒」を防ぐ活動に取り組んでいることをご存知でしょうか?

お酒の飲み方は自己判断に委ねられるため、適正飲酒(※)について理解できていない人が多いのが実情です。今回は、お酒を販売するサッポロビール株式会社が、消費者にどんな情報を発信しているのか、またさまざまな「不適切な飲酒」を防ぐ取り組みについて、経営企画部のお二人に話を伺いました。

※適正飲酒とは、「健康で明るい生活にふさわしい節度ある飲酒」のこと

教えてくれるのは…
高林 充さん
サッポロビール(株)経営企画部 アルコール関連問題担当

1988年入社。営業部署、ブランド部署でのキャリアを重ね、その後ワイン小売業態の関係会社へ出向、2023年度より現行業務の担当となり現在に至る。
■HP:https://www.sapporoholdings.jp/
■「不適切な飲酒」を防ぐ取り組み:https://www.sapporoholdings.jp/sustainability/alcohol/question-04.html

宍戸 篤司さん
サッポロビール(株)経営企画部 サステナビリティグループリーダー

2006年に入社後、エンジニアリング部門を中心にキャリアを重ね、2024年から経営企画部にてサステナビリティ重点課題の一つである責任ある飲酒の推進役を担う。

アルコールに関する問題の対策は、酒類メーカーの使命

―2015年頃から、社員一人ひとりが飲酒の正しい知識を持ち、社会に対する責任を自覚して行動することを目的とした「責任ある飲酒の推進に関する取り組み」を行っていますね。なぜこのような取り組みを始めたのでしょうか?

高林さん

立ち上げの背景としては、2003年にWHOが「たばこ規制枠組み条約」を採択し、タバコに関する規制を強化したところまでさかのぼります。この頃からタバコだけでなく、アルコールによる健康被害についても指摘されるようになり、2010年にWHOにて採択された「有害なアルコール使用を低減するための世界戦略」に、サッポロビールも賛同しました。
 
それに伴い、多量飲酒やアルコール依存症などのアルコール関連問題の対策として、国内の酒類メーカーでは、「正しいお酒の飲み方を伝える取り組み」が強化されるようになりました。

―素晴らしい活動だと思う一方で、これらの取り組みによって減酒や禁酒をする人が増えて、お酒の売り上げが減ってしまうのではないでしょうか。酒類メーカーとしてどのようにお考えですか?

高林さん

アルコールは私たちの生活に潤いを与えてくれる一方で、間違った飲み方によって健康を害してしまうこともあります。酒類メーカーがお酒を販売し、消費者に飲み方を委ねるだけでは無責任。これからは消費者のみなさんが楽しく長くお酒に親しんでいただけるよう、世界中の酒類メーカーが協力し、お酒に関する正しい知識を発信していくことが求められているのです。

「責任ある飲酒」を推進する、サッポロビールの取り組み

―世界的にアルコール関連問題の対策が行われているのですね。具体的に、サッポロビールさんではどんな取り組みを実施されているのでしょうか?

宍戸さん

社内では、定期的なeラーニングの実施、営業車や通勤時に車を運転する人を対象としたアルコールチェックの実施と記録、また名刺サイズの『サッポログループ 飲酒マナー五ヶ条』の配布など、さまざまな取り組みを行っています。アルコール飲料を販売する会社として、まずは私たちから責任ある飲酒を推進していくべきだと考えています。

サッポロビール全社員に配布される「飲酒マナー五ヶ条」。名刺入れや社員証の裏などに入れて、つねに携帯している

高林さん

社外向けの取り組みとしては、社会人向けの適正飲酒に関するセミナーや学生向けのセミナーを実施しています。

―お酒を飲み慣れていない学生向けはなんとなく理解できるのですが、なぜ社会人向けのセミナーが必要なのでしょうか?

高林さん

すでにお酒を飲んでいる大人にこそ、飲酒に関する正しい知識が必要だからです。お酒の飲み方は誰かに教えてもらうものではなく、自分で「ほどほど」を知るという人がほとんどですよね。

―たしかに、ほどほどって自分にしかわからない感覚ですよね。若い頃は、お酒を飲めば飲むほど強くなると思っていました(笑)。

高林さん

じつはそれ、間違いなんです。お酒の強い・弱いは、アルコール代謝能力によって決まっていて、遺伝的な要素が強いと考えられています。日本人の7%はお酒がまったく飲めず、33%はお酒に弱い体質ともいわれているんです。
 
ちなみに、性別や体質により個人差はありますが、体重60〜70kgの人がビール瓶1本(500ml)のアルコールを処理するためにかかる時間は、およそ4時間といわれています。また、飲み始めてから30分を過ぎるとだんだん酔いがまわり始めるんですよ。

宍戸さん

あとお酒のパッケージに、2022年1月からある項目を記載しているのですが、ご存知でしょうか?

―……う〜ん、わかりません!

宍戸さん

「純アルコール量」の項目を追加しています。栄養成分表示の下に記載がありますよ。

サッポロ生ビール黒ラベル350ml缶には「純アルコール量 14g」と書かれている

宍戸さん

純アルコール量は、「酒の量」と「アルコール度数」と「アルコール比重(0.8)」をかけ合わせたもの。自分が飲んだお酒にどれくらいのアルコールが含まれているかを示しています。

高林さん

厚生労働省の「飲酒ガイドライン」では、「生活習慣病のリスクを高める1日当たりの純アルコール摂取量は、男性 40g以上、女性 20g以上」とされています。

―お酒のアルコール度数(何%)は確認しますが、どれくらいの量の純アルコールを飲んでいるかは意識していないかもしれませんね。

高林さん

成人女性の基準値である「純アルコール20g」がどれくらいか、イメージできますか? 中瓶ビールなら1本分、ワインなら4分の1本、アルコール度数5%の缶チューハイなら1.5缶分が、純アルコール20gに相当します。

―思っていたより少ないですね! もっと飲めると思っていました。

高林さん

そうなんです。これは1日当たりの適量の目安ですが、毎日お酒を飲むことは肝臓に負担をかけてしまいます。日頃からお酒を飲むという方も、週に2日、休肝日を設けましょう。
 
純アルコール量を規定値よりも多く摂取することが日常化すると、生活習慣病のリスクを高めるだけでなく、知らず知らずのうちにアルコール依存症の予備軍にもなりかねません。

アルコール依存症は誰にでも起こりうる

―アルコール依存症は、知らず知らずのうちになってしまうものなのでしょうか?

高林さん

セミナーでもよくお話しさせていただくのですが、多くの方が「お酒好きがアルコール依存症になる」というイメージを持たれていると思います。
 
しかし、アルコール依存症は誰でもなる可能性があるものです。日頃のストレスや不安を解消するためにお酒を飲み続けているうちに、自分でもやめられないほどに依存してしまうことも。本当にちょっとしたきっかけで、お酒を飲むすべての人がアルコール依存症になる可能性があると心得ておくとよいでしょう。

「好きなお酒を長く楽しむためにも、適正飲酒を心がけてほしい」と高林さん。

宍戸さん

アルコール依存症を防ぐためには、摂取する純アルコール量を把握することが大切です。アルコール度数が低いからといって、たくさん飲んでいいわけではありません。適正飲酒をするためにも、購入する際にパッケージの裏にある「純アルコール量」を見て、「今日飲める量」を確認してくださいね。

―飲みすぎのストッパーにもなってくれそうですね。先ほど、女性と男性では、安全な飲酒量が倍違うというお話がありました。女性は、男性の半分しか飲めないのか……と、ちょっぴり残念な気持ちになります。

宍戸さん

女性は、男性に比べて体脂肪量が多く、体内の水分量が少ないことが要因です。男性と同じ体重であっても血中アルコール濃度が高くなってしまいます。またアルコール分解能力も男性と比べて4分の3程度。代謝にも時間がかかりますし、肝臓の大きさも男性より小さいといわれています。
 
女性の場合、妊娠することもあります。妊娠・授乳中の期間はご夫婦で禁酒するなど、家族の協力も不可欠です。

親が20歳未満の子どもにしがちな「お酒を飲んでみるか?」の誘い

―先ほどお話に上がった、学生向けのセミナーについても詳しく教えていただけますか?

宍戸さん

私たちは、小学校高学年〜中学生向けに『知っておこうお酒のこと』という冊子を作成し、課外授業として、「酔う」とは何か? など基本的なお酒の知識をお伝えしています。
 
また、子どもたちに正しい知識を伝えるだけでなく、冊子をご自宅に持ち帰り、ご両親にも読んでいただきご家庭内で学んでいただく機会にもできればと考えています。

セミナーで使用する冊子。小・中学生向けの『知っておこうお酒のこと』、大学生・社会人向けの『適正飲酒のススメ』の2種類ある

―親御さんにも、ですか?

高林さん

お子さんが最初にお酒に接する機会というのは、親から勧められることがほとんど。じつに50%以上のお子さんが、20歳未満で親や親戚とお酒を飲んだことがあると答えています。

宍戸さん

お子さんに「ちょっとお酒を飲んでみるか?」と誘ったり、「もう〇歳だから少しくらい大丈夫」といったり、20歳未満の飲酒は禁止されているのに親が誘ってしまっている。いかなる理由があっても、絶対にいけないことです。

「親や親戚などから誘われてしまったら『学校で飲んじゃダメと習ったから』と伝えて、断ることが大切です」と宍戸さん

―大人がしっかりしなければいけないですよね。20歳未満の飲酒にはどんなリスクがあるのでしょうか?

高林さん

さまざまなリスクがあります。脳やホルモン、メンタルにも影響しますし、特に怖いのは急性アルコール中毒で、最悪の場合は死に至ることも。さらに、アルコール依存症になる危険性も高まります。心も体も成長段階にあるお子さんにとって、リスクがある行為だとあらためて認識しておきましょう。

飲酒の「正しい知識」を身につけよう

―コロナ禍以降で、飲み会のあり方やお酒との向き合い方も変化してきたように思います。時代の変化など感じることはありますか?

高林さん

コロナ禍以降、「飲食店でお酒を飲む」習慣がない若者が増えました。社会人として外で飲む機会がなくなり、飲み会での立ち振る舞いやお酒の飲み方がわからないという声を、法人向けのセミナーでお聞きしています。そういう人たちに向けて、適正飲酒セミナーなどで飲酒における正しい知識をもっと広めていきたいと感じています。

―みんなと飲む場がなければ、お酒の飲み方を知る機会もないですからね。最後に、楽しくお酒を飲み続けるためのアドバイスをお願いします。

高林さん

これまでの飲み会では「とりあえずビール」というのが通例でしたが、微アルコールやノンアルコール飲料も充実し、ビールだけでなく最初の一杯を自分の好きなもので楽しめる多様な時代になりました。
 
正しい知識と飲み方ができれば、お酒は生活を潤す存在になってくれると思います。適正飲酒を知り、より豊かな人生を送っていただけたらうれしいです。

宍戸さん

公益社団法人 アルコール健康医学協会では、「適正飲酒の10か条」を掲げています。

適正飲酒の10か条

  1. 談笑し 楽しく飲むのが基本です
  2. 食べながら 適量範囲でゆっくりと
  3. 強い酒 薄めて飲むのがオススメです
  4. つくろうよ 週に二日は休肝日
  5. やめようよ きりなく長い飲み続け
  6. 許さない 他人への無理強い・イッキ飲み
  7. アルコール 薬と一緒は危険です
  8. 飲まないで 妊娠中と授乳期は
  9. 飲酒後の運動・入浴 要注意
  10. 肝臓など 定期検査を忘れずに
宍戸さん

この10か条を、なんとなく心に留めておいていただき、お酒の席でふっと思い出してもらえるとうれしいですね。体験とともに自覚を持つことができれば、ご自身で納得して、行動に変えていけると思います。

経営企画部の高林さん(右)、宍戸さん(左)、ありがとうございました!

CREDIT
取材・文:つるたちかこ 編集:HELiCO編集部+ノオト 写真:藤原葉子 図版:新藤麻実(linen inc.)
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