「最近、うちの子ずっとゲームしている……」老若男女問わず夢中になるゲームは、楽しいだけでなく、時には心と体に影響を与えることもあります。単なる遊びの範疇を超え、日常生活に支障をきたすほどのめり込んでしまう、「ゲーム依存症」が子どもに与える影響について解説します。
- 教えてくれるのは…
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- 今村 明先生
- 長崎大学 生命医科学域 保健学系 作業療法学分野 教授 / 長崎大学 子どもの心の医療・教育センター 副センター長
1992年長崎大学医学部精神神経科学教室に入局。長崎大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部教授を経て、現職。資格として、精神保健指定医、精神保健判定医、精神科専門医、子どものこころ専門医、臨床遺伝専門医、日本医師会認定産業医、公認心理師。専門は、神経発達症(発達障害)、ゲーム行動症、精神症、精神科リハビリテーションなど。
[監修者]今村 明先生:https://www.am.nagasaki-u.ac.jp/occupational/staff.html
長崎大学 子どもの心の医療・教育センター:https://www.cme.nagasaki-u.ac.jp/index.html
ゲームが子どもの脳と心に与える影響
ゲーム依存症は、単にゲームが好きで長時間プレイすることとは異なります。
世界保健機関(WHO)は、ゲームをする頻度や時間をコントロールできない、ゲームを最優先にする、困ったことになってもゲームがやめられずエスカレートするなどの状況が長期間続き、学校や家庭、日常生活に重大な支障が生じている場合、「ゲーム行動症(Gaming Disorder)」、いわゆるゲーム依存症にあてはまると定義しています。ゲーム依存症になると、睡眠不足、学業不振、運動不足、情緒不安定、対人関係(特に親子関係)上のトラブルなど、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。
ゲームによる刺激がもたらす影響
ゲーム依存症を引き起こす要因といわれているのが、「刺激」です。
ステージをクリアしたり、対戦で勝利したりすることで得られる快感は、脳の「報酬系」を刺激し、「快楽物質」とよばれる「ドーパミン」などさまざまな神経伝達物質を分泌します。ドーパミンによって脳は、「同じ気持ちをもう一度味わいたい」と、より強い刺激を求めるようになり、依存へとつながります。
また、現実世界ではなかなか認められないと感じている子どもにとって、ゲームの世界は、自分の存在が認められ、「承認欲求」を満たし、生きがいを感じられる特別な場所となることもあるのです。こちらもドーパミンなどさまざまな神経伝達物質が関係していると言われています。

身近だからこそ注意したい、刺激との距離感
生まれたときからデジタル機器に囲まれている現代の子どもたちにとって、スマホやゲーム機でのオンラインゲームやビデオゲームは、とても身近な存在です。一方で、子どもにとってゲームから得られる刺激は、薬物やアルコールによる刺激に近い場合もあると言われています。
適度にたしなむ分には楽しいのですが、ゲームとの距離が近くなりすぎると、ゲームが生活の中心になってしまうことがあるため、注意が必要なのです。
ゲーム依存症になりやすい子の特徴
同じようにゲームをしていても、依存状態になる子とならない子がいるのはなぜなのでしょうか? そこには、以下のようないくつもの要因が、複雑に絡み合っていると考えられます。
生まれつきの特性
生まれつき脳の報酬系が、刺激に対して反応しやすい特性がある場合、依存を引き起こしやすい傾向があります。たとえば、刺激に対して衝動的に反応しやすいADHD(注意欠如多動症)などの神経発達症の特性を持つ場合は、そうでない場合と比較してゲームに没頭しやすい傾向があることがわかっています。
心理的な傾向
家庭での家族関係や学校での友だち関係がうまくいっていないなど、現実世界で満たされない気持ちを抱えている場合、ゲームの世界に心の拠り所を求めやすく、依存しやすい傾向があります。またゲーム以外で打ち込めるものが見つからない場合、ゲームでしか承認欲求が満たされない場合も、ゲームに依存しやすいと考えられます。
周囲の環境の問題
幼いころからゲーム機などを与えられて、ゲームをはじめる年齢が早く、特にルールを決めずにゲームを続けていると、ゲームに依存しやすくなると言われています。また家族内での会話が少なく、家族のそれぞれが別々にゲームやSNSなどに没頭している状態も、依存症のリスクが高まると言われています。
わが子は大丈夫?ゲーム依存症の見逃せない兆候
親として、子どもがゲーム依存症に陥っていないか、どのように見極めればよいのでしょうか? 一般的にゲーム依存症は、以下の3つの段階を踏んで、進んでいくと考えられています。

ゲーム依存症の3つの段階
1.健常な状態
勉強や睡眠時間に影響がなく、決められた時間になったり注意されたりした場合にはゲームをやめられる。いわゆる、正常の範囲と考えられる状態。
2.危険なゲーム行動
少し心配なグレーゾーン。学校生活は普通に送れているものの、暇なときに勉強よりもゲームを優先する。時間を決めても守れないことがある。周りの人からやめるように言われることがある。
3.ゲーム行動症(ゲーム依存症)
やるべきことがあってもゲームを優先する、依存・病的レベル。時間を守れない。ゲームができないと気分が回復しない。勉強や睡眠時間、人間関係に支障が出たり、遅刻や欠席が増えたりしていても、ゲームがやめられない。
ポイントはズバリ、2段階目「危険なゲーム行動」に入っているかどうかです。もし、この段階の特徴が見られたら、子どもの様子を注意深く見守ってあげてください。特に、睡眠時間を削ってまでゲームをしているような兆候がないか、チェックしておきましょう。
子どものゲーム依存症を防ぐために親ができること
もしも、わが子がゲームにのめり込みすぎていると感じたら、どのような対応をとるのがよいのでしょう。
まず大切なのは、子どもの気持ちを理解することです。なぜ子どもがゲームに惹かれるのか、その背景にある気持ちを理解しようと努めましょう。頭ごなしに禁止するのではなく、子どもの気持ちに寄り添うことが大切です。
そのうえで、子どもと話し合い、以下を試してみることをおすすめします。
ルール作り
ゲームをする時間や内容を子どもと話し合い、ルールを明確にしましょう。「1日◯時間まで」「夜〇時以降はしない」など、具体的なルールを親子で合意したうえで、決めることが大切です。その際、ゲームの危険性やネット利用のリスクも、子どもにわかりやすく説明しておきましょう。
代わりになる活動の提案
ゲーム以外の楽しい活動を積極的に提案しましょう。一緒に料理をしたり、ペットと触れ合ったり、自然の中で遊んだり。親子で一緒に何かができる時間をつくることで、子どもの心を満たしてあげてください。
親も一緒にルールを守る
子どもにルールを守らせるためには、親自身も模範となる行動を心がけましょう。たとえば、「子どもがゲームを我慢しているのに、親はスマホばかり見ている」といった状況は避けるべきです。家族みんなでルールを守る姿勢を示すことが、子どもの理解と協力を得るための第一歩となります。
努力を認め、褒める
親子で決めたゲーム時間を守れたり、少しでもコントロールできたりするようになってきたら、その努力を認め、褒めることも大切です。子どもが自ら行動を変えるようにするには、肯定的な注目、つまり「できたことを褒める」ことがポイントといえます。
もしもゲーム依存症になったら? 回復のために大切なこと
子どもが「ゲーム行動症(ゲーム依存症)」と診断されるような状態になった場合も、しっかりと対応していけば、回復を目指せます。その際に、ポイントとなることを紹介します。

専門家や専門機関への相談
依存症の専門的な知識を持つ人や機関に相談しましょう。身内だけで抱え込まないことも大切です。子どもの場合は小児科、児童精神科、児童相談所、地域の依存症相談窓口などがよいでしょう。最近では、ゲーム依存症やネット依存症、スマホ依存症の専門外来がある医療機関も増えていますが、受診を受け付けていないところも多いので、あらかじめ「ゲームの問題」で受診を希望していることを伝えておいた方がよいでしょう。ギャンブル依存症の支援機関でも、ゲーム依存症に関する相談を受け付けている場合があります。
家族の理解と協力が不可欠
ゲーム依存症からの回復には、家族の理解と協力が不可欠です。ゲームにのめり込んでしまう子どもとともに問題解決に取り組む姿勢が大切です。
回復には時間がかかることを理解する
ゲーム依存症からの回復には、ある程度の時間が必要です。焦らず、根気強く、子どもをサポートしていきましょう。小さな努力も認め、励ますなど、温かく見守ってあげてください。
子どもと一緒に話し合い、できるだけ早めの対応を
ゲームは、子どもにとって努力して成功することの喜びや他者とのコミュニケーションの楽しさを知り、成長の糧となる可能性も秘めています。しかし、過度な依存は、心身の健康や社会生活に悪影響を及ぼす可能性があります。依存症の兆候が見られたら、重症化させないよう、できるだけ早めに対応しましょう。
子どものゲーム習慣について心配なことがあれば、身内だけで悩まずに専門機関に相談することも検討してみてください。家族だけで抱え込まず、頼れる先を持って、じっくりと向き合っていきましょう。