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共依存はなぜ起こる?なりやすい人の特徴と抜け出し方を解説

私たちは日々さまざまな人と関わり、ときに助け合いながら生活しています。他者とのつながりは必要不可欠ともいえる一方、特定の相手に過剰にのめり込み、お互いにコントロールし合う状態を「共依存」と呼びます。共依存は単に依存し合うということでなく、自分らしい生活を見失い、相手の自立を阻害するなど問題が生じます。夫婦や恋愛関係にあるカップル、親子などあらゆる人間関係で起こり得るものです。共依存の代表的なパターンや、共依存からの抜け出し方などを解説します。

教えてくれるのは…
山本 由紀さん
遠藤嗜癖問題相談室 室長/国際医療福祉大学教員 精神保健福祉士・公認心理士

井之頭病院アルコール病棟の精神科ソーシャルワーカーを経て、1992年より民間相談機関である遠藤嗜癖問題相談室にて相談活動を始める。2013年より室長。ここで様々なアディクション(アルコール・薬物・ギャンブル・浪費・買い物等)の問題、医療では扱わない人間関係のアディクション(共依存・異性依存等)のカウンセリングのほか、アダルトチルドレン、アディクションの背景にあるトラウマ、複雑性PTSD、暴力被害等への包括的支援を行っている。

[監修者]山本 由紀さん:https://otawara.iuhw.ac.jp/staff/shm/8678.html
遠藤嗜癖問題相談室HP:https://shiheki.jp/

共依存とは

共依存とは、病名ではなく関係性の問題をいいます。相手に単に依存するというより、自分と相手が「間(ま)の取れない関係」となって支障が出ているにも関わらず、その関係性を変えようとしない、あるいは変えられない人間関係への悪習慣を指します。

共依存は、常に心理的・情緒的な間がなくなるほど相手にのめり込み、自身との境界がなくなってしまうため、相手の個性や人格を認めなくなったり、自立を阻害したりします。また、自分自身も主体的な生き方を失い、人や状況に翻弄される生活になっていきます。

以下は具体例です。

共依存の具体例①

夫婦関係の場合、アルコール依存症の夫の問題を妻がなんとかしようとして夫を刺激したり、起こした問題の後始末をしてしまうことで本人の否認(アルコール依存)が継続され、一見献身的な関係が、じつは夫の回復を妨げていることがあります。

相手が依存症だとわかってもなかなか行動を変えられない場合は、妻自身に夫をコントロールしたい、夫の役に立ちたいという強い欲求がある場合があります。こうして夫は飲み続け、妻がそれを何とかしようとするという関係が続いてしまいます。この場合、夫婦は共依存状態にあるといえます。

共依存の具体例②

恋愛関係にあるカップル間でも共依存は多くみられます。彼氏がギャンブルで借金をし、その借金を彼女が肩代わりするとします。お金を工面してくれる彼女がいることで彼氏はギャンブルの危険を思い知る機会を失い、余計に抜け出せなくなります。彼女はギャンブルをやめてほしいと強く思いつつ「この人には自分がついていなくちゃダメなんだ」と、「支えている自分」に価値を感じるようになっていきます。

そのほか、親子関係でも共依存関係は発生します。もともと親子関係は密な関係にあり、子の成長とともに分離独立を果たしていくものですが、何らかの事情で親と子の心理的境界線が引かれない場合があり、これも共依存関係といえます。ただの過干渉と違い、相手に強く期待し、子は自ら読み取り親のために動く関係です。

共依存の代表的なパターン

共依存にはいくつかの代表的なパターン(特徴)があります。

世話焼き

相互の助け合いではなく、一方通行で世話をする役割が習慣化した関係です。すでに世話をする必要がなくなった子どもや慢性的な病気などを抱える人に必要以上に世話をする習慣が染みつき、「世話をしている自分」に存在意義を見出しているような状態を示します。世話をすることが問題なのでなく、世話をする程度や関係の在り方の問題です。

支配・コントロール

相手を自分の思ったように動かしたいと考え、相手の自我や主体性を尊重せずに意見や行動を押しつける関係です。親子関係においては、子どもが幼いうちは親のコントロールが必要なこともありますが、小学校の高学年以上になっても心理的距離をとらずに過度にコントロールをしようとしている場合は要注意です。

共依存の代表的なパターン(支配・コントロール)

完璧な把握

支配・コントロールに似たものとして、相手にまつわるすべてを完璧に把握したい、あるいは、相手に起きている問題を自分が完璧に解決したい、といった欲求を持ってしまう関係性です。人の状況を完璧に把握・解決はできないものなので、たいていはうまくいかず落ち込みやすくなります。

巻き込まれ

相手に問題が発生して困った状況に置かれた際に、自身の問題であるかのように巻き込まれにいく関係です。少し距離を取り、相手が自分で解決するのを見守ることができずに自分ごととして悩み、結果的に振り回されてしまいます。

役割依存

共依存関係の変形版ですが、対象が一人でなく、さまざまな集団(人間関係)のなかで集団を把握し、コントロールを試みます。何かしらの役割を担っていないと自分の価値がない、あるいは認められないと感じてしまいます。

共依存になりやすい関係性

共依存はあらゆる人間関係で起こり得ますが、特に共依存になりやすい関係性があります。

恋愛関係(夫婦・カップル)

夫婦やカップル関係は心理的な距離が近く、互いにこうあってほしいという思い入れが強くあるため、相手との境界線があいまいになってコントロールがはびこりやすくなります。どんな予定よりもとにかく2人での時間を最優先にしており、相手以外の人に興味がなくなっている場合などは要注意です。また、「相手がいなくなったらどうしよう」という不安から過度に束縛したり、周囲からの意見に一切耳を傾けなくなったりするケースなどもあります。

共依存になりやすい関係性(恋愛関係(夫婦・カップル))

親子関係(家族)

親子関係、家族もカップルや夫婦と同様に心理的な距離が近く、世話焼きや支配・コントロールなどの共依存がたびたび見られます。家族に依存症患者やメンタルヘルスの問題、慢性疾患を抱えた人などがいる場合、家族はその人のケアをすることが社会から求められる点も、共依存が起こりやすくなる原因の1つです。

特に母親は育児の役割を期待されるという社会的背景も重なり、のめり込みやすくなってしまいます。周囲からは良い親・熱心な親に見えてしまうのですが、親子間での共依存は子どもの自立を阻害することにつながります。

共依存になりやすい関係性(親子関係(家族)))

友人関係

友人関係では、一方が常に自分の欲求よりも相手の状況や思いを優先して考え、動きます。友人から嫌われることを恐れて自分の意見が言えなくなるケースがあります。自分の人生における大切な選択を友人に委ねてしまう関係も起こり得ます。

反対に友人の困っている状況では事態を自分ごとのように把握し、問題解決しようとする場合もあります。心理的距離が近いことが習わしになっているため、少しでも距離をとられると嫌われたと感じてしまい、恨みになります。このように相手をコントロールする/されることが継続してしまっている関係は共依存状態といえるでしょう。

共依存になりやすい関係性(友人関係)

共依存になりやすい人の特徴

共依存に陥りやすい人の多くは、低い自己評価に基づき「誰かに必要とされなくてはいけない」という感覚や、境界線のない密着した関係が習わしになっています。それは、家族の事情で子どもに過度に役割があったり、子どもの欲求よりも親の欲求を優先せざるを得なかった経験のなかで育ったために、自分が何かの役になっていて初めて生きていてよいという条件付きの自己肯定になってしまっているためと考えられます。自分のことよりも相手の欲求を汲み取り、相手のために動いていないとやってこれなかった人は、共依存関係に陥りやすい準備ができているといえます。

また、親が共依存気味だった場合も注意が必要です。親が自分の心理的世界に侵入して育っているため、他者との適切な距離感の保ち方、境界線の引き方がわかりにくくなっています。

そのほか、自己犠牲の精神が強い人や、完璧主義者、他者のお世話が好きな人なども、その根底には共依存的な欲求が強くある場合があります。

共依存の背景にあるもの

共依存は何らかの要因で自己価値や自己評価が低くあり、そのまま生きていくことが苦しいため、人に強く必要とされたいという心理が背景にあります。家庭での経験や、学校でのいじめの体験など自分ではどうしようもなく無力だった経験についても同じです。共依存の背景にあるものについて解説します。

被虐待経験や精神的(情緒的)ネグレクト

虐待を受けている子どもは「自分がいい子じゃないからいけないんだ」「いい子にしていない自分には価値がない」などと自分を責める考え方になるケースが多くみられます。また、精神的ネグレクトは衣食住などは揃っているものの、親からの関心や愛情が十分に注がれない状態を指します。自分自身に焦点が当てられないために「自分は価値がない人間だ」などの考え方が染みつき、自己肯定感が低くなります。

トラウマ経験や複雑性PTSD

複雑性PTSDとは長期の人間関係における慢性的なトラウマ体験が原因で発生する心的外傷後ストレス障害(PTSD)のことで、否定的な自己概念を持つことが特徴です。いじめや被暴力など対人関係上のトラウマやそこから複雑性PTSDを発症している場合も、自身の非力感、無価値感のような低い自己認知になり、人の役に立って価値を見出そうとする対人関係を持ちやすくなります。

アダルトチルドレン(AC)

アダルトチルドレンとは依存症など慢性化した精神疾患やメンタルヘルスの問題のある家庭など、なんらかの機能不全家族で育った経験が人格形成に影響を及ぼし、大人になってから生きづらさを感じている人を指します。アダルトチルドレンにはいろいろなタイプがありますが、自分の感情を抑圧してきた、あるいは他の人の面倒を見るのが常態化していた、いい子にすることで存在を認めてもらおうとしていた、といった役割が身についている人は共依存に陥りやすい特徴が備わりがちだといえます。

共依存の抜け出し方や相談先

まずは、共依存の関係による苦しさを認める

共依存の抜け出し方の第一歩は、自分と相手が共依存状態にあると気づくことです。自分自身で気づくこともあれば、相手や周囲から違和感を示されることで、客観的に相手との関係を見直して気づくこともあります。人のことはコントロールできない、事態を思ったようには解決できないことを認めましょう。そして相手と境界線を意識しなおすことから始めます。物理的・心理的・時間的な距離をおいてみるようにします。

カウンセリングや専門の行政への相談を検討しよう

共依存関係の修正のしかたは、まずこの対人関係の習慣がどこから来るのか、自分自身の過去を探索することが必要です。子ども時代に端を発しているのなら、そうやって生きて来ざるを得なかった、あるいは何かメリットがあってやってきたと認め、そのうえで自分自身に対する考え方(価値の感じ方)を変え、行動変容を起こしていくといったものになります。基本的にはカウンセリングなどを通じて、自分自身の価値を再認識し考え方を変えていくことで、共依存から抜け出していきます。共依存かもしれないと思ったら、近くのカウンセリングルームなどを探して、人間関係で困っていることを相談してみるとよいでしょう。

各都道府県に設置されている精神保健福祉センターなどは相談が無料です、同じ問題を自覚している人たちで語り合う自助グループの情報もあるので、アクセスしてみましょう。また、子どもが家庭での悩みや学校などでの人間関係について相談したい場合には、こども家庭庁のウェブページで相談先を探すことができます。

共依存に関するよくあるお悩み

身近な人同士が共依存だったら……

もし身近な存在(自分の親と兄弟など)が共依存ではと感じた場合は、きちんとその関係性に違和感を示し、気づかせることが大切です。ただし「その関係性はおかしい」とストレートに伝えると相手は傷つく可能性もあります。「相手のことを一生懸命考えているんだね。だけど、そこは相手が考えて決める部分じゃないかな」などとまずは相手の考えや行動を労いつつ、2人の関係の近さを穏やかに伝えることが望ましいです。

共依存の相手がいなくなったら……

共依存による苦しさを自覚している場合は、相手がいなくなったら最初はスッキリしたり、ホッとしたりする方も多いです。しかし、徐々に人に密接にかかわっていないと強いさみしさを感じ、人の役に立っていない自分には価値がないように思えて苦しくなり、新たな依存対象を探すようになります。人との適度な距離は、最初は遠い関係に感じられるかもしれません。人の事情に入り込んでしまうことが習慣になっている場合もあり、安全に聞いてくれる誰かに語りながら自分を振り返る作業をするとよいでしょう。適切なカウンセリングなどを受け、「人の役に立っていなくても、自分は本来そのままで価値がある」と考え方を変えていきましょう。

相手に依存されている場合はどうしたらいい?

人を頼り、頼られること自体は悪いことではありません。例えば、恋愛において相手の相談に乗って力になりたいと思うことや、親が子どもを心配して口を出すこと、急病の友人をサポートすることなどは素敵なことです。しかし、あらゆることにおいて全面的に頼られている、相手から依存されていると感じたら、「それは自分で決めるべきことだと思う」、逆に少し悩みを話したとき、自分のことのように解決を仕切る相手にも「ありがとう。参考にするね」などと、きちんと自分と相手の境界を伝えることも大切です。

自分が子どもの世界に侵入してしまっている/コントロールしているかもと思ったら?

気づいて認めたことが素晴らしい1歩です。習慣になっているのですぐには変えられないかもしれませんが、「私と相手は別の人間」ということを認識し、「あなたはこうだ」という言い方をせず「私はこう思う」を使って会話するように心がけましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部+ノオト イラスト:タカヤユリエ
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