忙しい現代人にとって、「活動時間をどう過ごすか」はとても重要です。その一方で、体と脳の休息時間である「睡眠」に目を向けたことがない方もいるのではないでしょうか。睡眠は、私たちが健康に生活するうえで毎日欠かせないもの。そんな睡眠にまつわる素朴な10の疑問を、愛知医科大学病院睡眠科の眞野まみこ先生にお伺いしました。
- 教えてくれるのは…
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- 眞野 まみこ先生
- 愛知医科大学病院 睡眠科・睡眠医療センター
医学博士。専門は内科、睡眠時無呼吸症候群。代表的な論文に「日本人におけるレム睡眠行動障害の性差」などがある。日本睡眠学会認定総合専門医・指導医、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医。
愛知医科大学病院:https://www.aichi-med-u.ac.jp/hospital/
頑張れば誰でもショートスリーパーになれる?
A.なれません
睡眠時間が少なくても活動できる人を、「ショートスリーパー」と呼ぶことがあります。じつはショートスリーパー(短時間睡眠者)は、以下のような医学的な定義があります。
・アラームを使わずに、毎朝自然に短い睡眠時間(6時間未満)で目が覚める
・日中の健康障害(眠気など)や記憶、思考・感情への影響がない
・休日も平日同様に、短い睡眠時間で自然に目覚める
こうした睡眠スタイルが、本人の努力や生活上の必要性、または何らかの病気や薬の副作用によるものではないことも重要です。また、このような習慣が大人になってからではなく、子どものころからみられることも特徴です。
ショートスリーパーは10万人に4人程度しかいないとされており、「自分は睡眠時間が短くても大丈夫!」と思っている人のほとんどは、実際には寝不足であることを自覚できていないだけ……ということが多いそうです。ショートスリーパーは憧れて目指すものではないでしょう。

睡眠時間は長ければ長いほどいい?
A.長すぎてもよくありません
適切な睡眠時間は年齢や労働環境などによっても異なりますが、成人であれば一般的に6~8時間程度が理想とされています。時間が許す範囲で毎日たっぷり眠ることは一見健康的なように感じますが、じつは平均睡眠時間が8~9時間を超えると、糖尿病や狭心症、心筋梗塞、心房細動、脳梗塞、脳出血などのリスクが上がることがわかっています。
そして、適切な睡眠時間と同じくらい重要なのが、「睡眠休養感」ともいわれる「睡眠の質」です。適切な睡眠時間を確保していても、睡眠休養感が低い場合には、高い場合と比較して前述のような病気のリスクが高まってしまいます。
自分自身の睡眠時間や睡眠の質を知りたい場合は、ヘルスウォッチやスマートフォンのアプリなどを利用して睡眠時間や睡眠時間帯を計測したうえで、その翌日の体調、活動量、日中の眠気などを記録してみましょう。
毎晩夢を見る人は眠りが浅いって本当?
A.毎晩夢を見る=眠りが浅いということはありません
じつは私たちは一晩のうちに数回の夢を見ており、夢を覚えているときだけ「夢をみた」と自覚します。睡眠の段階はレム睡眠とノンレム睡眠に分けられ、一晩に2つの睡眠ステージが周期的に訪れます。なかでも、レム睡眠時には、脳が覚醒に近い状態にあるため、ストーリー性があり覚えやすい夢になるといわれています。そのため、睡眠時に夢を見ること自体が睡眠時間全体における眠りの浅さを示しているわけではありません。
朝型・夜型は遺伝子で傾向が決まっている?
A.遺伝子と環境の影響は半々です
人はみな24時間のサイクルで生活をしていますが、早起きが得意な人や、夜更かしが苦ではない人など、いわゆる「朝方」「夜型」のタイプが存在します。ある研究で日本人の朝型・夜型の遺伝子を調べたところ、朝型と夜型が約3割ずつ、中間型が4割程度という結果が出ています。しかし、社会生活を送るうえで、実際には自身の遺伝子のタイプと違う時間帯で生活している人も多くいるでしょう。
朝型の人は午前中の作業効率が、夜型の人は夕方以降の作業効率が良いという側面はあるものの、基本的には後天的な環境である程度は朝型・夜型は調整ができると考えられます。
あくびはなんで出るの?
A.正確にはまだ解明されていません
朝起きた直後や日中眠いときに、あくびが出る人は多いはず。あくびは不随意運動(ふずいいうんどう)といって人の意志と関係なく起こります。あくびが出る原因については、「脳に酸素が足りていないため、あくびによって酸素を体内に取り込んでいる」という説もありますが、正確にはまだ解明されていないのです。
ただし、眠気がないにも関わらずあくびが出る「生あくび」は、貧血や低血糖のときに起こったり、片頭痛や脳梗塞の予兆として起こったりすることがあります。

寝だめってできるの?
A.できません。逆に、社会時差ボケを起こす原因に
日々の睡眠不足を解消するために、休日は思う存分好きなだけ眠っている……いわゆる「寝だめ」に、意味はありません。休日だからといって夜更かし&遅起きをすると、平日と休日の就寝から起床まで時刻の中央値(真ん中の時刻)がズレて「社会的時差ボケ(ソーシャルジェットラグ)」が発生し、頭痛やだるさを感じる場合があります。例えば、平日は24時に就寝して6時に起床、休日は25時に就寝して9時に起床している場合、平日の睡眠中央時刻は3時、休日は5時となり2時間の「ソーシャルジェットラグ時間」が生じます。

社会的時差ボケが2時間を越えてくると、日中の眠気や睡眠の質の低下につながるため、できるだけ平日も休日も就寝時間・起床時間を一定にすることが大切です。しかし、仕事やプライベートの予定などによっては、どうしても睡眠不足になってしまうケースもあると思います。
その場合は、平日と休日で2時間以上のソーシャルジェットラグが起こらない範囲で睡眠時間を延ばし、それでも日中に眠気を感じたら30分以内の昼寝を取り入れて、睡眠不足を解消するようにしましょう。
パジャマは着たほうがいいの?
A.パジャマを着て寝るのがベスト!
寝るときの服としてTシャツやスウェット、ジャージなどを着る方も多いようですが、睡眠の質を上げることを重視するのであれば、「寝るためにつくられた服」であるパジャマを着るのが望ましいでしょう。私たちは睡眠時、深部体温を最適に保つために汗をかくことで温度調節をしたり、体にかかった圧力や体温・湿度を調整するために寝返りをうったりしています。パジャマは吸水・吸湿性や動きやすさなどの観点もしっかりと考慮してつくられているため、「寝るのに最も適した格好」といえます。
加えて、寝る前にパジャマに着替える習慣をつけることで、その行動自体が睡眠に入るためのスイッチとなり、入眠しやすくなるということも期待できます。
カフェインは日中、何時まで摂ってOK?
A.夕方以降はカフェインレスの飲み物がベスト!
コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、覚醒作用があることで知られています。個人差はありますが、摂取から30分~2時間程度で血中濃度がピークになります。その後、体内のカフェイン量が半分程度になるまでの時間は2~8時間程度と人によって差があります。就寝時間にもよりますが、基本的に夕方以降はカフェインを控えるのがベストです。加えて、カフェインの摂取量にも気をつけたいところ。1日に摂取するカフェインは400mg(コーヒーなら700cc程度)を超えないように意識しましょう。
一方、カフェインを摂取してから仮眠をとると、寝過ぎ防止に役立ちます。摂取後30分程度で作用してくることを計算して、上手にカフェインを活用してみてください。

朝起きられないのは、体質のせい?
A.もっとも多い原因は「睡眠不足」
朝型・夜型の遺伝子があることは前述しましたが、過度なストレスなどによって自律神経が乱れると、朝起きるのがつらくなってしまうことがあります。とはいえ、大人が起きられない原因として一番多いのはやはり「睡眠不足」です。睡眠時間が短いと、睡眠サイクルの深い睡眠のタイミングで起きざるを得ないことにあり、「なかなか起きられない」と感じてしまいます。目覚ましを細かくセットして短時間で何度も鳴らすよりは、睡眠サイクルの浅いタイミングを狙って1度鳴らすほうが、スッキリ目覚めることができます。
なかなか夜に寝つけずに睡眠時間が短くなってしまっている場合は、日光を浴びることを意識しましょう。日光を浴びてから約14~16時間後に睡眠に必要なホルモンが分泌されるため、体内時計を整えることができます。「睡眠は朝から始まっている」と考えるのがよいでしょう。
また、思春期の子どもはホルモンバランスの影響で、朝起きられないことがあります。気になる場合は、以下の記事もご覧ください。
- 思春期に起こりやすい体の不調とその理由
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朝起きられないことが増えた。https://helico.life/series/shishunki-02-slump/
口を開けば「だるい」「頭が痛い」。
他人の視線を気にして鏡ばかり見ている。
体型を気にしてごはんを食べない。
思春期の体や心の急激な変化は、ときにこうした不調や困りごとに姿を変えて、私たちの前に現れます。わが子が不調や困りごとを抱えたとき、大人はどうケアするのがよいのでしょうか? 子どもの体と心の不調に寄り添い、日々診療をしている小児科医の呉 宗憲先生に伺いました。
なぜ年を重ねると上手に眠れなくなるの?
A.加齢によって体内時計の周期が短くなったり、深い睡眠に入りにくくなったりします
生理学的に、人間は誰しも加齢にともない60代ごろから睡眠時間が短くなることがわかっています。その原因は大きく3つあります。1つ目は、体内時計の周期が短くなることで、よりよい睡眠に必要なメラトニンというホルモンの分泌量が減ること。2つ目は、加齢によって深い睡眠(熟睡状態)に入りにくくなることが挙げられます。そして3つ目は、日中の活動量が低下することです。活動量が低下することで、体の回復に必要な睡眠時間自体が短くなっていくとされています。
そのような場合、日中の活動に影響がない(眠気などを感じない)のであれば、無理に睡眠時間を長くする必要はありません。ただし、あまりに早い時間に就寝してしまうと、生活・睡眠のリズムが乱れてしまい余計に眠れなくなってしまうこともあるので、そうしたケースでは23時頃まではあえて起きているようにすることも大切です。
昼にうつらうつらとしてしまうようであれば13~15時頃に昼寝を取り入れるのが効果的ですが、30分以上の長い昼寝や頻回な昼寝は、認知機能の低下につながりやすいこともわかっているので、注意しましょう。
毎日の睡眠を大切に!
よりよい睡眠をとるためのヒントや新たな学びはありましたか? 自分にとってベストな睡眠を知るためには、睡眠時間だけみるのではなく、起床時の感覚や自分の体調がどうだったのか、という点にも注目することが大切です。普段の生活に取り入れられそうなことがあれば、ぜひ試してみてください。