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肥満とホルモンの関係 ~ホルモンバランスを整える食事と習慣~

ホルモンは体の機能を調整するだけでなく、食欲や脂肪の燃焼にも関係しています。ホルモンの働きや仕組みを知ることで、自分の体の変化をより深く理解できるかもしれません。

この記事では、ホルモンの作用や仕組み、食欲や脂肪燃焼に関わるホルモンについて、専門家のアドバイスを交えながら解説します。

教えてくれるのは…
佐藤 桂子先生
さとうヘルスクリニック

これまで計3万人以上の肥満治療にかかわってきた肥満外来担当医。1982年東京女子医科大学を卒業、東京逓信病院や東京健生病院などの経験を経て2013年に佐藤桂子ヘルスプロモーション研究所を設立。2017年には、完全予約制自由診療のさとうヘルスクリニックを設立し、現在も直接患者の治療にあたる。著書に『ダイエット外来の寝るだけダイエット 「痩せホルモン」を分泌させる睡眠法』がある。
 
[監修者]さとうヘルスクリニックHP:https://satohealthclinic.com/

ホルモンって何?

ホルモンは、全身の機能を整える分泌物のひとつです。主に血液を通じて内臓や細胞間で情報を伝達し、消化・吸収・循環・代謝などの働きを支えています。

また、ホルモンは体の状態を知らせる役割も担っており、生理周期にも影響を与えるなど、健康維持において重要な役割を担っている物質です。

これまでに発見されているホルモンは100種類以上あるとされ、脳や胃腸、筋肉、脂肪などさまざまな臓器や組織でつくられています。

ホルモンは、分泌量が多すぎても少なすぎても、体の機能を正常に保つことができません。心身の不調を防ぐためには、ホルモンバランスを整えることが大切です。

佐藤先生

全身に流れるホルモンはごく微量ですが、体の機能維持に大きな役割を果たしています。
 
25mプールをイメージしてください。真水のプールの中に小さじ1杯のホルモンを入れると、プールが海水になるようなレベルで、ホルモンは少量でも大きな影響を与えるといわれています。まさにホルモンは、全身にかかわる重要な機能のひとつなのです。

肥満に関連する代表的なホルモン

レプチン

レプチンは、食べすぎを抑えるために脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食事行動を抑える働きがあります。

脂肪が増えるとレプチンの分泌量も増えるため、本来であれば脂肪量が多い人ほど食べすぎを抑えられるはずですが、実際にはそうならない「レプチン抵抗性」という現象も存在します。

佐藤先生

食事をしたときに「もう食べなくて十分」と、食欲を抑えるサインを出すのがレプチンです。
 
古くから人類は飢えと戦ってきたので、近年まではあまり注目されていませんでした。しかし、現代になって肥満が問題視されてきたことで、注目されるようになったホルモンです。

GLP-1

GLP-1は、食事をすると消化管から分泌され、胃の働きをゆるやかにして満腹感を得やすくする働きがあります。

GLP-1は「GLP-1受容体作動薬」という医薬品で、2型糖尿病の治療にも活用されているものの、自由診療で使用できることから、近年ではダイエット目的で若い女性の利用が増加し、社会問題化しつつあります。

佐藤先生

マンジャロをはじめとするGLP-1受容体作動薬は、「ダイエットなどへの安易な使用は避けてほしい」と厚生労働省からも注意喚起されています。
 
また、GLP-1は腸内細菌にも影響を与えるとされています。腸は「第二の脳」といわれ、腸内細菌は体の機能や調子だけでなく、思考や判断にも影響を与えると考えられています。

アディポネクチン

アディポネクチンも脂肪細胞から分泌される、食欲を抑えるホルモンです。

同じく食欲を抑える働きを持つレプチンとは異なり、アディポネクチンは脂肪細胞が肥大化すると分泌量が減少します。また、動脈硬化の予防やや抗炎症作用など、代謝や免疫に関わる重要な役割も果たしています。

グレリン

グレリンは胃から分泌されるホルモンで、食事の前に分泌され、食欲を増進させて、空腹感を引き起こします。また、消化管の運動を促進し、心血管を保護する働きもあることがわかっています。

さらに、近年の研究では、グレリンが運動のモチベーションを高めることも明らかになりました。今後、空腹時に分泌されるグレリンと運動のモチベーションについて、より詳細なメカニズムが解明されていくと予想されています。

インスリン

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、食事で摂取した糖を細胞に取り込み、エネルギーとして利用できるようにします。

血糖値が上昇するとインスリンの分泌が促進され、余分なブドウ糖は中性脂肪として蓄えられます。脂肪を溜め込まないためには、血糖値を過度に上げない食事を心がけることが重要です。

ホルモンの異常によって起こる病

ホルモン異常によって起こるとされる代表的な病気は、糖尿病、バセドウ病、橋本病などが挙げられます。

同じ甲状腺ホルモンの異常であっても、過剰か不足かによって病名や症状、治療方法などが異なります。ホルモンバランスの異常を防ぐためには、規則正しい生活とバランスの取れた食事を継続することが重要です。

佐藤先生

単に過剰や不足の問題ではなく、抵抗性が高いのか、感受性が低いのか、もしくは分泌量が変化したきっかけなど、異常の原因を多角的に考えることが必要です。
 
初期症状もさまざまであるため、体に変化を感じたら早めに受診し、医師の判断を仰いでください。

ホルモンバランスを整えるために気をつけるべき3つのこと

タンパク質と脂質を意識した食事を摂る

タンパク質はホルモンの材料となるため、ビタミンやミネラルとあわせて積極的に摂取することが大切です。

ただし、日本人の場合は肉類から摂取すると脂質過多になりやすいため、豆類をはじめとする植物性タンパク質を中心に取り入れるのがおすすめです。豆類には食物繊維も含まれているため、腸内環境の改善にもつながります。

また、ホルモンや神経伝達の働きには脂質も密接にかかわっており、良質な脂質の摂取は欠かせません。

1日に摂る油の目安としては、約7割をオメガ9系脂肪酸(オリーブオイルなど)、残り3割をオメガ6系脂肪酸(肉類や卵など)とオメガ3系脂肪酸(青魚やくるみなど)でバランスよく摂るのが理想的です。

佐藤先生

近年、日本人のタンパク質摂取量は戦後の水準にまで低下しているとされており、意識して積極的に摂取することが大切です。
 
また、脂質のバランスを完璧に整えるのは難しいですが、トランス脂肪酸をできるだけ摂らないことは意識してください。市販のお惣菜や加工食品に使われる油には、酸化した脂質やトランス脂肪酸が含まれており、注意が必要です。
 
さらに、カップ麺や菓子パンなどの「超加工食品」には多くの添加物が含まれており、知らないうちに過剰に摂取してしまう可能性があります。健康を守るためには、こうした食品はなるべく避け、なるべく自身で調理した食事を取ることが大切です。

午前中に行動する

朝起きて朝日を浴びると、脳内では「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンが分泌されます。セロトニンは約12時間後にメラトニンという睡眠に関するホルモンへと変化するため、質の良い睡眠をとるためにも午前中に起きて朝日を浴びましょう。

また、朝食をとることは、体内時計をリセットするためにも必要な行動です。セロトニンやメラトニンの分泌を促すことが生活リズムの改善につながり、健康維持だけでなく、美容にも役立ちます。

さらに、適度な運動も、分泌されたセロトニンの活性化に有効とされています。

十分な睡眠を取る

睡眠中には成長ホルモンが分泌されるため、十分な睡眠を取ることが重要です。

子どもにとっては、身長の発育など成長において重要な役割を果たし、成人にとっては体の回復を促す「若返りホルモン」として働きます。心身の健康を保つためには、平均で7時間程度の睡眠を確保することが望ましいとされています。

佐藤先生

夜間も体内では代謝が行われているため、十分な睡眠を取る人は痩せやすい傾向があります。実際、35日間の睡眠で消費されるエネルギーは約7,200kcal(脂肪約1kg分)にも達し、これは食事制限や運動だけで補うのが難しいほどの量です。

食事・運動・睡眠からホルモンバランスを整えよう

ホルモンは、分泌量が多すぎても少なすぎても、体の機能を正常に保てません。また、特定の症状が出るとは限らず、知らないうちに心身の不調を引き起こすこともあります。だからこそ、日々の生活の中でホルモンバランスを整えることが大切です。

食事の内容、睡眠、ストレス管理など、毎日の習慣を少し見直すだけでも、ホルモンバランスは整いやすくなります。ホルモンを味方につけて、健康を維持しましょう。

CREDIT
取材・文:HELiCO編集部 イラスト:石山好宏
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